第3話
Summon WORLD。もともとはFantasy WORLDの追加要素とされており、途中で別世界として新しくできたこの世界はFantasy WORLDと類似する所が多い。街の名前や地名も一部流用されており、Fantasy WORLDをしている者にしたらオマージュしているとも思わせてしまうほどだ。
「さて、だいたいの施設については説明したけど何か気になる所はあったか? なければ早速冒険にいくけど」
「気になる場所はあるんだけどね」
「私達まだ所持金がないので、まずはお金と経験値を稼がないといけませんから」
各世界の金銭は全て独立されている。最初の頃は所持金が同じであったが、それだとゲームバランスが崩れる要因になってしまったからである。ユーザーによってはそれでもいいと思う者達もいたが、それだと最初に冒険する面白味がかけてしまうからと運営は判断して、一月後に独立する方針を取ったのであった。
「少しぐらいなら出すが?」
「え、本当!?」
「ダメよ、クレア。騎士さんは既に多額のお金を使っているんだから」
既に自分達の我が儘で多額の金銭を使用させている。これ以上の負担はさせまいと止めるリースの意図を察したクレアは「そうだね」と頷いた。
「ありがとね、騎士さん。気持ちだけ受け取っておくよ」
「そうか? なら、早速行くか」
同意する二人を連れて始まりの街から出る。そよ風の草原と名付けられた地に入るとそこら辺りに野生のモンスターが確認できた。
「ここはそよ風の草原。見ての通り、最初のフィールドだ。ここには比較的に大人し目な野生達がいる」
「野生。異界の門を通ってこの世界に迷って来た野生の召喚獣ですね」
「そうだ。そう言う世界設定となっている。よく調べたな」
「お姉ちゃん、旅行とかは前もって調べるタイプだからね」
「クレアが行き当たりばったりなだけよ」
「……ま。俺も似たようなものだしな」
・ 確かにw
・ ちゃんと計画を立てた方がいいぞ
・ 多少は調べるかな
賛否両論だった。その辺りは人それぞれと言ったところであろう。
「じゃ、まずは俺がお手本を見せるな」
近場にいる野生の召喚獣に向けてコリーを召喚する。喚ばれたコリーはルークの指示に従い、近くにいた子ブタに向かって突進した。
「コリー! そのまま噛みつけ!」
指示に従い子ブタの胴体に噛みつく。ダメージを受けた子ブタはコリーから逃れるように走り始め、コリーを振り落とした。
「コリー! [石火]だ」
コリーに固有スキル[石火]を使うように命じると先程より素早く子ブタに近づいて体当たりを与える。衝撃により小さく撥ね飛ばされた子ブタに向かってコリーは追撃を図る。
子ブタはそうはさせないと鼻息を鳴らした。子ブタ、ピーブックの固有スキルは[鼻息]。鼻息を受けたコリーは後ろに跳ばされてしまうが、上手く体制を整えて着地を見せた。
「いいぞ、もう一度[石火]だ」
再び[石火]で突撃をするとピーブックは力尽きたのか倒れ付してしまう。
「これで戦闘は終わり。コリー、最初の戦闘にしては見事だったぞ」
主に褒められ、尻尾をブンブン振って来るコリーにさの頭を撫でたルークは後ろで観戦していた二人に向けて話しを続ける。
「野生の召喚獣を捕まえるには、この後直ぐに契約の魔法陣を生成して、捕まえる必要がある。俺は契約するつもりはないので、やらないけどな」
「なるほど。あの有名なモンスターゲームに酷似してますね」
「そうだな。それで裁判沙汰にまで発展したみたいだが、どうにかサービスを続ける許可を得たらしいぞ」
・ あれは大事件だったな
・ まあ設定なんて必ずどこか似てしまうからなぁ
・ それを利用してコラボまで持ち込んだのはやり手だったと思うぜ
「あー。わかるわかる。ほんと、よく運営は打診して、あちらの会社も許可を出したと思うぜ」
「えっと、何の話し?」
「クレア。ニュースぐらい見なさいよ。一時は超話題になったことだよ」
・ ポケット戦争をしらないとな!?
・ かなり有名なんだがな
「ま、興味ない人にとってはたいしたものではなかったんだろう。んじゃ、どちらから行く?」
話しが脱線したので戻しにかかる。
最初はクレアが「やる!」と元気一杯に返事して、相棒の[カー]を召喚した。
「近くには……。アイツがいいかな。あの鳩の野生なら大丈夫だろう」
「うん! カーちゃん、行って!」
大きく飛翔したカーは地面を啄む鳩、カナリーに向けて襲いかかる。しかし、すんでの所でカナリーは翼を羽ばたかせてそれをさけ、お返しと言わんばかりに[豆鉄砲]を放った。
一発、二発と受けたカーは怯んだが直ぐに力強く翼を羽ばたかせて逆襲を図る。
「カーちゃん! [フレアフェザー]」
クレアカーの固有スキル[フレアフェザー]を指示。翼を大きく広げたカーの翼から炎の羽が矢のように飛来してカナリーにダメージを与え、力尽きてしまった。
「……あれ? もう終わり?」
「フレアバードは攻撃力が高いからなぁ」
あっと言う間に戦いが終わって少子抜けてしまうクレアに向けて「捕まえるか?」と問うと彼女は「ううん」と首を横に振って否定した。
「今はカーちゃんだけで充分かな」
「そうか。次はそちらな番だな」
「はい!」
クレアに続き、リースも[アズ]を召喚する。狙いは猪、ボア。
「[アズ]ちゃん! [子守り声]」
アズの固有スキル[子守り声]が発動。甲高い声を挙げてボアの周辺を飛び回る。
「子守り声? 初めて聞くスキルだな」
「……あ。寝ちゃった」
クレアの言う通り、アズの子守り声によって気持ち良さそうに眠りについてしまう。その隙にアズはボアに向かって猛攻をかける。単純な体当たりと啄む攻撃であるがいまだにボアが起きる様子はなく気がついたらボアは瀕死状態に陥っていた。
「えっと……。捕まえるには、こうか」
リースは魔法陣を作り、ボアに向かって放った。
ボアの地面に魔法陣が描かれ、ゆっくりと沈んでいく。その後、魔法陣から淡い光が放たれ、リースの腕輪に吸収されていった。
「おめでとう。ボアと契約できたな」
「おめでとう、お姉ちゃん!」
・ 初ゲットおめでとう! ¥500
・ おめ ¥650
・ おめでとう!
「あ、ありがとうごさいます! アズちゃんもありがとね」
肩に止まるアズを労いつつ、リースは新しく仲間にしたボアを呼び出す。ボアは自分のご主人、リースの足にじゃれつくように身体を擦りつけて来た。
「ふふ、かわいー。タマ子さんが夢中になるのもわかるかな」
「ボアは成長するとバサルボアにクラスアップする」
「クラスアップですか?」
「某ゲーム風に言うと進化だな。それから成長具合によって、ジャイアントボアやボアゼノンにすることも可能だ」
召喚獣は進化、クラスアップすることで新たなる姿となって、新しい力を得ることができる。成長過程でスキルも得ることができ、最大で三体を連れて行くことが可能だ。
ただし、チームアップしている時は同行させることはできても、一度に出せる召喚獣は一体という制限がある。
「へぇ。じゃあ、私のカーちゃんもクラスアップすることができるのかな?」
「できるが……。フレアバードをクラスアップさせるには条件があって、召喚に使用した鉱石を複数使用しなくてはならなかったはずだ」
「え。でもそれだと……」
「あぁ。その鉱石で新たに召喚することはできなくなる。新しい召喚獣を得るかクラスアップに使用するかはおまえ次第だな」
「うーん。悩みどころだね」
レアの召喚獣は普通に戦わせてクラスアップさせることはほとんどない。その代わりに基本スペックが高い。この辺りは普通の召喚獣の差別化を図っており、色んな召喚獣を使って欲しいと言う運営の意図が感じ取れる。
「ちなみに、鉱石はどうやって集めるのですか?」
「基本はダンジョンに行って発掘する必要があるな。たまに野生が持っていることがあるから、倒すか仲間にすることでコインと一緒に手にすることが可能だ」
ダンジョンには鉱石が生成されているメタルフィールドとなるものが存在する。そこに行けば鉱石を手に入れる事が可能であるが鉱石は召喚獣にとっても好物であり、フィールドには多くの野生とボスがいる。野生やボスを無視して採掘することもできるがリスクも伴うのであった。
「なるほど。色々とやることがあるんですね」
「ちなみにボスも捕まえる事ができる。……まあ、確率は極めて低いがな」
・ 護衛騎士のアレイオーンとかな
・ 黒馬なんてよく捕まえられたな
「……よく知っているな、お前ら」
アレイオーンを召喚、またはSummon WORLDで録った時にはほとんど呼び出した事がない。にも関わらずリスナー達が知っていることに驚きを隠せなかった。
「え、護衛騎士さんの事ならウィキに乗っているけど?」
「え、マジ?」
初耳だ。たかが一般プレイヤーの自分が有名な百科事典サイトに乗っているなんて誰が予想できようか。
そんなルークのことなどお構い無く、クレアは[カー]を使ってレベリングを始めた。
「カーちゃん、強いね。もう少し強い相手じゃないと物足りないかも」
「……そうだね。アズちゃんももう少しやれそうだし」
二人の召喚獣はスペックが高いのであろう。そよ風の草原にいる野生では相手にならなかった。
「……じゃあ、先を進もうか」
二人の召喚獣のレベルを考慮して、ルーク達は更に奥へと進むのであった。
※
「だいぶ慣れて来たんじゃないか?」
そよ風の草原から移動して輝く森でレベリングを開始してから早一時間。二人の召喚獣は順調に野生を倒し、みるみるうちに成長していった。
「……コリー。大丈夫か?」
わん、と小さく吠え返す。輝く森に来てからカーやアズと違ってコリーは少々苦戦を強いられている。
・ コリードックのスペックじゃあな
・ むしろ、よく善戦しているほうだ
二人の召喚獣と違ってコリーは圧倒的な火力が不足している。火力という意味ではリースのアズも似たようなものであるが、アズには状態異常「眠る」を施せる子守り歌がある。火力が不足していてもスキルで補うスペックがあるから、そこまで苦戦は強いられていなかった。
「……少し休憩にするか。いいか?」
「オッケー」
「はい、わかりました」
相棒が心配で休憩を提案すると快く承諾してくれた。二人にお礼を言って、ルークは簡易的なテントや食事の用意を始める。
「召喚獣用の食べ物も用意するから、呼んでおいてくれ」
召喚獣は基本的に飲み食いしなくても生きてはいけるが、召喚獣用の食べ物も当然は存在する。テキパキ用意を終えたルークはコリーを膝の上にのせてあやすように食事を与えた。
「コリーちゃん、大丈夫なの?」
「大丈夫さ。少し疲れているだけだ。だからお前もそんなに気を落とすなよ」
カーとアズの活躍に対して自分はご主人に心配されている。それが悔しかったのか少し落ち込み気味であった。クレアに苦手意識を持っているはずなのに、頭を撫でられても全く気にしていないのがその証拠である。
「コリーくん。大丈夫! キミは弱くなんかないからね」
そうだそうだ、とリースの言葉に相討ちを打つかのようにアズもコリーの事を励ましてくる。
何だかんだと三人と三体で休憩と言うなの飯が終わる。途中、クレアがルークに対して色々と質問してきたが全てお茶を濁してやり過ごすことになる。
「ぶーぶー。騎士さん、ガード固すぎ?さ。少しくらい答えてくれてもいいじゃん」
案の定、クレアは不満だといいたげに口を尖らす。
・ 察してやりなよ
・ しょっぱな、彼女はいるかはマズイだろ
・ 既婚者かもしれんしな
「えー。でも気になるよね。護衛騎士のリアル事情」
・ それは……
・ まぁ。ならないと言えば
・ うそになるな
「クレア! ゲームでリアルの事を問いただすのはマナー違反だよ」
「えー。お姉ちゃんだって気になる癖に」
「そ、それは……」
気にならないと言えばウソだ。自分達は父親を除けば男性とこうして会話をする機会はなかなかない。自分だって恋愛総選挙ことなどに関しては興味がないなんて言えないので、いいあぐねているとクレアが更にルークへいい放つ。
「なら! 騎士さんのこと、別の呼び名で呼んでいいかな?」
「別の呼び名?」
「うん! 紬希ちゃんは騎士さんで、愛ちゃんは騎士様。タマ子ちゃんがナイトでしょ。私は騎士さんのこと、リー君って呼んじゃだめ?」
「ちなみに、それは何の省略なんだ?」
「リッター。ドイツ語だったかな? 騎士をリッターって訳せたはずだよ」
まあ、そのくらいならば、と渋々承諾する。
「やったー」
「じゃあ、私はエーさんかなぁ」
「何故にエー?」
「古代ローマの騎士はエクイテスって言うらしいの。だから、エー君」
リー君にエー君。中々のネーミングセンスであるが既にクレアの案を採用しているので、リースだけ断る事が出来ず、ルークは〔リー君〕と〔エー君〕の称号を得るのであった。
・ リー君w
・ エー君w
・ 騎士の呼び名が増える一方だなw
「ほっとけ……。ん? どうした、コリー」
リスナーのからかいの言葉を一蹴するルークの膝元で丸くなって寛いでいるコリーの耳がびくつき、とある方角に顔を向ける。
その方角に視線を走らせると一人の男性プレイヤーの姿があった。
「やぁ。クレアにリース。こんな所で会うなんて奇遇だね」
その者は絵に描いたようなイケメンの少年の姿をしていた。金髪碧眼の少年を見た恋空姉妹はあからさまに表情を歪ませるのであった。




