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V-TUBER戦記  作者: 柊柳
恋空姉妹
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13/17

第1話

 恋空リースは常に強者を求めていた。幼い頃から格闘術を学んでおり、父親の影響かプロレスを見ることが一番の至福であった。自分もあんな風にやりたいと両親に言ったことがあるが、両親からは認めて貰うことはできなかった。

 だから、彼女はD-WORLDのBattle WORLDにのめり込んだ。女だからと言って手加減することなく戦ってくれる強者達。勝利を掴もうと必死になって戦う強者達と競い会う環境は彼女にとって最高の舞台であった。

 けれど、少しばかり有名になってから状況が変わる。V-TUBERとして有名になってから男のプレイヤーから「勝ったら付き合って欲しい」とせがまれるようになった。興味があるものの神聖なる戦場でそんな俗物な事を持ち込みたくない彼女はそれを断り続けた。するとどうだろうか。大半の男のプレイヤーから対戦を拒否されるようになっていた。戦いの場を失った彼女はどうすればいいのやらと迷い、妹のクレアに質問したが彼女は「別に負けなければいいんじゃないの?」と軽くあしらわれる。なるほど。それも一つの手段だと思ったが、恋愛に関して妹ほど楽観視出来なかった。

 迷い続けるリース。女性プレイヤーは少なくともいるがBattle WORLDのユーザーは大半が男。限られた対戦相手だけでは満足がいかなかった彼女は仕方がないかな、と男性プレイヤー達の要求通り承諾しようとしたとき、思わぬ出会いを得る。


「はじめまして、ルークさん。本日は対戦のお誘いありがとうございます」

「噂の舞姫と戦って見たいと思っていた。こちらこそ応じていただき礼を言う」


 対峙する相手はなんと最近バックアップの仲間達が話題にする護衛騎士であった。本人はそれを断り否定していたがプレイヤー名は紬希から聞いている。


「前もってお聞きしますが、いつもの要求はないと言うことでよろしいでしょうか?」

「いつもの? すまない。何のことだかわかりかねるのだが。俺はこの世界のランカーと戦って見たいと思っただけだ」


 誤魔化している様子はなかった。本当に知らないのであろう。噂の護衛騎士の実力はFantasy WORLDではお墨付き。そんな歴戦の騎士と戦えると思うと胸が熱くなる。


「そうですか。すみません、つまらない事をお聞きしました」

「そうか? なら、失速始めようか」

「はい。設定に関してはご存知ですね?」

「コマンドの設定やらのことだな。ちゃんと調べてきたさ」

「ふふ。野暮な事を聞きましたね。なら、早速始めましょう」


 二人は対戦フィールドに転送される。場所は一般的なコロシアム。リースは愛用の鉄扇を、ルークは槍と盾を構えて戦いの開始を待った。


 〔Are you Ready Start〕


 戦いが始まる。先手はリース。鉄扇を広げてルークに向けて挑みかかる。彼女のバトルスタイルはスピード重視。手数を多く放って隙を見て大技を放つつもりであったが、それを丁寧に盾を使って受け止められてしまう。防御しても多少はダメージが通るが、その代わり必殺技のゲージも貯められてしまう。ルークの必殺技はきっとお馴染みのあれであろう。それを食らったら敗北は濃厚だ。だから、リースはFantasy WORLDでは馴染みのない下段蹴りで足払いを行った。

 しかし、それをバックステップで躱されてしまう。躱したルークはその隙を突いて槍による刺突を放った。


「っ」


 躱わそうとするが回避行動が間に合わず仰け反るリースにルークは問答無用で攻め始める。槍のリーチを利用して刺突の連打。数発ほど受けてしまうが直ぐに体勢を整えてルークの槍を掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばす。


「っ!?」


 受け身をとって直ぐに立ち上がるルークであったが、その好機をリースは見逃さない。設定された技の一つ《流水蓮華》をここで使い、追撃を行う。

 Battle WORLDは使用できる技は4つ。自分でモーションを決めて技として登録することもでき、他のWORLDのスキルのモーションを流用することも可能。そのぶん、必殺のゲージを消費してしまうが、リースはお構い無く必殺ゲージを消費してオリジナル技の《流水蓮華》を使った。

 自身を回転させて鉄扇と足蹴を混ぜた回転連打を受けてダメージを負うルーク。盾を使って防御しようとするもリースの蹴りによって腕を強打されて落としてしまう。


「ちっ!」


 盾を失ったルークはこのままではライフゲージを悪戯に失ってしまうと判断し、技スキル《カウンター》を発動。Fantasy WORLDの盾スキル《カウンター》を流用したルークとリースの間に障壁が展開され、触れたリースは後方に突き飛ばされてしまった。


「っ。やりますね」

「そちらもな」


 楽しい。久々に頭を空っぽにして全力で戦えるリースは高揚する。相手は容赦なく自分をひれ伏せようと望んで来ている。それが何よりも嬉しい。兜で顔が見えなくても相手が自分を真っ直ぐ見据えることが何よりも嬉しかった。


「もう少しギアをあげますね」

「望むところだ」


 ロンダート、バク転と言ったトリッキーな動きで距離を詰めるリースにルークは槍を突き出して突進する。しかし、リースは大きく跳躍したバク宙で躱し、そのままルークの首に足を絡め、腰を捻らせて地面に叩きつけた。そのままマウントを取ったリースは追い討ちと言わんばかりに乱打を放とうとするが、割り込んで来た馬の蹴りによって突き飛ばされてしまう。


「っ。オプション攻撃ですか」

「あぁ。助かった、アレイオーン」


 オプション攻撃。三度だけ許された相棒による乱入攻撃。ルークはSummon WORLDの愛馬であったアレイオーンを設定して攻撃してもらったのである。


「ふふ。なら、私も使わせてもらいましょう」


 目には目を。オプションにはオプションを。やられた攻撃をやり返したリースが呼んだのはリースと瓜二つな少女であった。

 呼ばれた少女は両手に爆発物を持っており、それをルークに向けて投げ込む。


「マジか!?」


 回避行動を行うが爆発による衝撃までは避けきれず、ルークのライフゲージはみるみるうちに削られていった。


「止めです!」


 オプション攻撃によって必殺のゲージが貯まったリースは必要技《月下演舞》を発動。全身にオーラを纏った彼女は両天秤に持つ鉄扇を投げてダメージを与えると瞬間的に後ろに回り混んでそれを掴みとり、連打に続く連打を放ち続ける。

 衝撃でまともに動けなかったルークはそれを受け止めることができず、最後にはリースに抱き締められ、プロレス技のスープレックスを受けてしまった。


 〔KO〕


 戦いの終わりが告げられる。勝負はリースの勝利であった。


「っ。見事だ、リースさん。俺の完敗だよ」

「いえ。こちらも危ないところでした。次も負けません」

「いや。次のラウンドは俺がもらい受ける」


 それから二人は思う存分戦い続けた。

 戦績は10戦中、7勝3敗でリースが勝ち越した。


 ※


「ありがとうございます、ルークさん。本日は楽しい戦いでした」

「あぁ。こちらこそ応じてくれてありがとうございます。練習しますので、また挑ませてください」

「もちろんです。もっとも勝利を譲るつもりはありませんからね」

「そうでなくては面白くありません」


 ※


「……お姉ちゃん。なんだかご機嫌だね」


 姉のリースが珍しく上機嫌であった。ここ最近は不満だとぼやいてばかりで、Fantasy WORLDで素材を乱獲していたのだが、今日は珍しく自分の拠点――Craft WORLDのクレア邸――で寛いでいる。


「そ、そうかしら?」

「そうだよ。何か良いことでもあった?」

「ふふん。そんなに聞きたい?」

「なになに? お姉ちゃんがそんな事を言うなんて珍しいよね」

「実は噂の騎士さんと勝負したのよ」

「へ? 騎士さんってあの護衛騎士さんのこと?」

「そうなの。最初はお付き合い云々のお誘いと思ったんだけど、純粋に勝負をしたいって言ってくれたの。遠慮なくかつ全力で勝負してくれてお姉ちゃん、大満足なのよ」


 本当に楽しかった。また再戦の約束もしたし、その時が来るのが非常に楽しみであった。まだ、彼の必殺技を受けていないから、今度はそれを見てみたいとも思っている。


「へー。いいな、いいなー。お姉ちゃん、フレンド登録はしたの?」

「……あ」


 失念していた。フレンド登録をしていればこちらからも対戦のお誘いができる。なんでそんなことに気づかなかったのだろうか。


「その様子を見る限り忘れちゃったんだね」

「う、うん」

「もう! 私も噂の騎士さんに会いたかったのに」

「ごめんなさい。失念していたわ」

「どうせ楽しすぎて忘れていたんでしょ。騎士さんとお楽しみで舞い上がったんでしょ」

「そ、そうね。騎士さんあの手この手と使って挑んで来たから、私も全力でお返ししちゃったわ。録画したから見る?」

「見る見る!」


 配信者の癖かリースは今回の対戦もきっちり撮っていた。それを鑑賞した二人は二人の激闘に盛り上がる。


「すごいすごい! お姉ちゃんとここまで戦える人って珍しいよね!?」

「うん。やはりあの《カウンター》がやっかいね。それ以外はほとんど技を使っていなかったから、必殺ゲージの管理が上手くなればもっと厄介になりそう」

「お、お姉ちゃん?」

「ルークさんの必殺技はきっと《ドリル・バンカー》だから、槍の間合いについてもう少し研究した方がいいかも」

「お姉ちゃん!」

「はっ!? ご、ごめんなさい」

「もう! お姉ちゃんは戦いになったら直ぐに夢中になるんだから」

「そ、そうね。気を付けるわ」

「もう。それにオプション攻撃のあれ、どうにかして欲しいんだけど。あれ、私でしょ? 私は爆発物なんて使わないよ」

「で、でも他に宛がないし。他の人だって似たような事をしてるじゃない」

「私がいやなの! 騎士さん見たいにSummon WORLDとかで召喚獣を捕まえて来なよ。タマ子ちゃんのキャットシリーズとか可愛いじゃない」

「んー。けど、Summon WORLDはやったことないし。タマ子さんにお願いしようかしら」


 同じ企業V-TUBERの猫屋敷タマ子なら快く手伝ってくれるだろう。何よりもコラボ企画としては面白いかもしれない。

 しかし、クレアはチッチッチと指を振って別の提案をする。


「お姉さん。それなら騎士さんに頼めばいいじゃない」

「き、騎士さんにですか?」

「そうよ! 騎士さんが出した黒い馬はレア召喚獣、アレイオーンだよ! タマ子ちゃんも上級者かもしれないけど、一緒に配信できる口実ができて一石二鳥じゃん」

「……本音は?」

「私も噂の騎士さんに会いたい!」

「はぁ。そんなことだろうと思ったわ。紬希さんと会社に許可を貰う必要があるわね」

「それは私に任せてよ! てか、もう連絡しちゃった」


 画面を見せられる。既に紬希に向けて護衛騎士の貸し出し依頼を出していた。


「あなた、こう言うのは早いわね」

「えへへ。あ、返信が来たよ」

「はやっ!」


 紬希もD-WORLDにログインしていたのか、直ぐに返信が帰って来た。その内容は騎士と何をするのかと記されている。


「えっと、お姉ちゃんがSummon WORLDをするので、騎士さんに助言をもらいたい、と」

「クレア? あなたも会うとは書かないの?」

「書くと許可してくれないんだもん。紬希ちゃん、私がいくら打診してもダメとしか返事してくれないし」

「えー。もしかして、黙って会うつもりなの!?」

「もちろん」


 頭が痛くなる。ここ最近は落ち着いて来たけど、妹のクレアは炎上したばかりだ。会社からも視聴者と会うのは厳禁とされている。その中にはきっと護衛騎士も含まれることであろう。


「クレア。あなたが色んな人と会いたいのはわかるけど、私達がV-TUBERであることを自覚してちょうだい」

「またそれ? お姉ちゃんも他のみんなもどうして遊んじゃいけないって言うの? ここゲームなんだよ。自由なんだよ」

「そうだけど、あなたの場合、男の人を勘違いさせちゃうでしょ。もう少し慎みを持って欲しいわね」


 クレアは俗に言う出会い厨とリスナーから呼ばれてある。だからアンチからはビッチなんて呼ばれていたりする。本当は人懐こくただただ色んな人と遊んだり交流したちだけなのだが、彼女の言動は勘違いさせてしまうことが多い。


「えー。私は単に少年漫画見たいに喜びを分かち合ったり、友情を深めたいだけなんだけどなぁ」

「男女で友情なんてありえないわ。貴女は少年漫画を読みすぎよ」

「そんなことないもん! 男女にだって友情はあるはずだよ」

「いいえ、ないわ。大抵の漫画はなんだかんだ恋愛に発展するじゃないの」

「それはお姉ちゃんが恋に恋する傾向が強いだけじゃない! 知ってるんだよ。参考書の後ろに恋愛漫画を隠してるのを」

「なっ!? なんでそれを!?」

「双子なんだから、考えることなんてお見通しなんだからね」

「そう言う貴女だって、参考書のカバーにエッチな漫画をしているじゃない!」

「なな!? み、見たの!?」

「双子なんだから、隠せるわけないでしょ」

「ぐぬぬ」

「なによ」


 両者の間に火花が散る。互いに隠し通せていたと思っていた秘密を暴露されて気が立っていた。そんな二人に一つのメールが届く。


「んげ」

「またこの人か」


 差出人は少し前に交流したことがある男性プレイヤーのものであった。何度もブロックしているにも関わらず何度もメールが届く。


『好きだ。付き合って欲しい』


 内容は愛の告白であった。

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