急変
side リーシャ
クラウスが復帰してから、3年の月日が流れました。温泉街の開発も、かなり進んできています。街道の整備も順調に進んでおり、賑わいを見せております。人の入りも良好で、我が領での稼ぎ頭になりつつある様です。
このプロジェクトも私達の手をすでに離れており、私は都に戻りこき使われる日々が続いております。クラウスは順調に出世して、部屋持ちに昇格しました。この前会った時は、かなり忙しい日々だと言っていました。
領主様一筋だった彼も、とうとう結婚する事になりました。お相手は看護婦のステラさん。彼が毒にやられていた時に、献身的に看護していた女性です。まぁありがちと言えばそこまでなのですが、ようやっと彼にも春が来たのは良かったと思います。
良くないと言えば、週末にリシャール領に皇太子殿下の行幸があるらしいのです。立太子して初めての行幸となると普通は自分の腹心の部下とか、味方に付けたい貴族とかを選ぶものです。最近勢力を増してきた侯爵閣下を味方に付けたいとの意図があるにせよ、慎重を期すのが普通です。
いくら勢力を増してきたにせよ、本来リシャールに来る前に行かなくてはならない所があったはずです。その順番をすっとばしてまでリシャール領にやって来るのには、どんな思惑があるのでしょうか?
私の直感が、良くない事が起きると訴えかけて来ます・・・・・・
side アイーシャ
なかば覚悟していた事態が発生してしまいました。古参の者は知っている事ですが、皇太子殿下と我が腹心の部下であるハルトはアカデミーで同期でした。二人で良く理想の政について語り合ったそうです。
当時継承権の低かった殿下がもし政治に関わる立場になった時、かならず支えると約束したらしいのです。私が彼を登用した時も、それで良ければと条件を出してきたほどでした。
その殿下が、皇太子となられ我が領にやって来るそうです。明らかに私に対して筋を通すのと、ハルトに対する箔付を行う事が目的でしょう。こうなってはハルトの辞職は避けられませんが、後任を誰にするのかが問題になってきます。
その問題で悩んでいると、バローンが私を訪ねて来ました。ハルトの後任人事について推薦状を持って来たそうですが、あまりに手回しが良すぎます。おそらくハルトも一枚噛んでいると思われますが、驚くべき事に我が領地を支える12翼(各部署を担当する部屋持ち)全員の署名があり、ある人物を推薦すると言うものでした。
side リーシャ
良くない予感ほど良く当たると言うけれど、今回ほど当たって欲しくはないと思った事はありませんでした。閣下に呼ばれ執務室に行くと、閣下とハルトさんが居ました。
閣下の話によるとハルトさんが辞職する事になり、後任に私を任命するとの事でした。その場に居たハルトさんも、貴女なら任せられますと言って強く推薦したとの事です。
そんな厄介なポジに付きたくない私は、若輩者である事、その役職に相応しい先輩が沢山いる事、12翼が納得しないだろう事を理由に挙げ、抵抗してみました。
閣下はそんな私を見て微笑みながら、ある書類を私に見せました。そこにはなんと12翼全員が、私を推薦している事を示す書類でした。
止めはハルトさんの『貴女が私の所に研修に来た時に、こうなる事が決まっていたのかもしれませんね』と言うセリフでした。
こうして私は、侯爵閣下の懐刀としての苦難の日々が始まったのです。
第一部が無事、終了しました。
皆様に読んで頂いた事に、感謝です。
このタイトルでの連載は一旦終了させようと思っています。
次回、違うタイトルで第二部を再開出来ればと考えています。
有難う御座いました。