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58__仮初めの妃の役目 4

大変ご無沙汰を致しました。

どうにか年内に投稿する事が出来ました。

もう、前話なぞ誰も覚えていない事でしょう。ワタシもです (ドヤァ


今回は、王宮の衛兵隊-副隊長の視点に始まり 宰相補佐官-エディンの視点で終わります。

時間軸としては、前話の数日後を想定して書いています。


では、どうぞ。


___視点:衛兵隊 - 副隊長___


外宮(がいぐう)の東 - 衛兵隊 詰所にて。

その一報は、穏やかな昼下がりに 唐突に(もたら)された。



  ___ 王妃が 毒蛇に()って危難に晒された ___



当然ながら、(おも)いもしなかった この事態に、衛兵の詰所は騒然となった。

「毒蛇っ⁉︎ 」



  「はいっ」



伝令に駆け込んだ 若い兵に、詰所にいた全員の視線が集まった。

ともすれば、見る者に恐怖すら(いだ)かせそうな顔になっている衛兵達から 怒号の様な問いが飛ぶ。

「それで お妃様は⁈ 」

「誰が そんなっ」

「大体 この王宮の何処(どこ)に毒蛇なんかっ」

「そうだっ、そんなモノ 一体 何処(どこ)からっ⁈ 」

混乱のままに発せられた 幾十の言葉の中で、聴き取れたのは このくらいだったのだろう。

伝令の若い兵は、自分でも信じられないと云った様子で こう言い放った。



  「それが、休憩室へ届けられた お妃様への

   贈り物の箱から出たと」



これに、室内の多くの声が重なった。


「「「莫迦(ばか)な!」」」


王宮に入るには、3っの門を通らなければならない。

まず、王宮の敷地を囲む(ほり)の外にある門で、身分と荷物のチェックが入る。

次に、(ほり)(わた)った場所にある門で、再度 荷物などのチェックをされる。

つまり、外宮(がいぐう)()ばれる 衛兵達の詰所であっても、2度の検査を経る事になる。

そして、外宮(がいぐう)から内宮(ないぐう)へ入る際に 3度目のチェックが(おこな)われる。

此処でのチェック内容は 詳細に記録すると決められており、書面に残す様 徹底されている。

日々の食糧であっても、他国の王族からの貢物であっても、これに変わりはない。

果ては、2っの門では顔パスである 官吏(かんり)・高官・大臣の手荷物であっても、此処では例外なく検査対象となる。

(まつりごと)の中心地へ(はこ)ばれる物なのだから、当然と云えば当然の事だ。

届け先が、内宮(ないぐう)の奥に位置する 王族が住まう場所ともなれば、更なるチェックが 複数の検疫官に()って()(おこな)われるのが慣例だ。

(くだん)の届け先が 内宮(ないぐう)にある王族の休憩室である事を(かんが)みれば、間違いなく 3度のチェックが入っている筈だ。

何が言いたいかと云うと、これ等の検査を、毒蛇などと云う 如何(いか)にもなモノが通り抜けられる筈がないのだ。 なかった筈なのだ。

それだけに、衛兵達の混乱も深かった。

「検疫を通る程の細工が施されていたのか⁈ 」

「誰だ! その贈り主は⁉︎ 」

「検疫官は誰だ⁈ 」

先程よりも混乱を極める情報だった所為(せい)か、聴き取れる声の数が減った。

それでも、比較的 近くにいた 各班の班長達の声は耳に届いたらしい。

伝令の若い兵は、(いか)りを噛み殺したかの(ごと)き顔で 首を振った。



  「それは まだ  っ、(ただ) (はこ)んで来たのは

   若い侍従官だったと」



伝令を命じられなければ、真っ先に飛び出して侍従官(犯人)を締め上げたかったのだろう。

そうと判る顔は、同じ室内にも幾つかあった。

「各班、緊急配備を」

詰所の奥から発せられた 隊長の声に、各班の班長達が 一斉に反応した。

「休憩室の周囲を厳重警護しろ! これ以上の暴挙を(ゆる)すな!」

(すべ)ての門を封鎖! 同時に、各所 一斉封鎖だ!」

「武官・文官・侍従官-全員を その場で待機させろ! 1人の例外もなくだ!」

各班の衛兵達へ 的確にされる指示に、衛兵隊長と副隊長の指示が加わる。

(くだん)の侍従官の炙り出しも同時に(おこな)え」

「検疫官達を洗うのも忘れずに」

声を荒らげる事なく下された指示に、衛兵達が首肯した。

其々(それぞれ)()が 常にはない程の殺気を宿している事を指摘する者はいなかった。


「「「 一刻を争う! 迅速に行動しろ!」」」


班長達の(ゲキ)に、彼等は 一斉に動き出した。

「おう!」

「走れ ! ! 」

「賊を逃すな!」

外宮(がいぐう)の東にある詰所を揺らす勢いで、衛兵達が飛び出して()く。

これを見送った 若い兵は、今にも駆け出しそうな(からだ)を 懸命に(おさ)え付けているのか。

獣の様にギラつく()を 廊下の先へ向けたまま、ドアノブを握り締めていた。

これへ 一瞬だけ(かす)かな笑みを()かべて、副隊長が 口を(ひら)いた。

「それで お妃様は   」

「医者の手配と、陛下への ご報告は どうなっている?」

冷静を(たも)とうと必死なのは、どうやら 隊長も同じらしい。

副隊長の言葉が結ぶのを待てずに、質問を飛ばしている。

これには 微苦笑を唇の端に貼り付かせるが、副隊長は、若い兵へ視線を流し 返答を促した。



  「そちらへは別の者が(むか)いました。

   ………ご無事だと、良いのですが」



若い兵は、まず 隊長の質問に答え、次に 自分は仔細を知らないと示す様に 副隊長へ首を振る。

「判った、報告ご苦労」

「お前は このまま捜索に加われ」



  「はい!」



答えるや否や、若い兵は ()じけた様に駆け出した。

詰所のドアを閉めもせず飛び出した彼の足音が遠ざかる中、隊長は 執務机を離れる。

その手には、愛用の剣があった。

「私は 休憩室へ(むか)う。各所・各班との連絡・連携は任せた」

「はい」

副隊長は、軽く頭を下げ 隊長を見送った。

彼が姿勢を戻した時には、ギリギリ駆け出さない速度で遠去(とおざ)かる 荒い足音だけが聴こえていた。




   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽




___視点:宰相の補佐官 - エディン=オスカリウス___


休憩室での顛末は、政務室へも(しら)された。

休憩室は、宰相(シズ)が、午後のお茶を愉しむ為だけに(あつら)えさせた部屋だ。

彼が改装するまでは資料室だった この部屋は、政務室のある東殿と 執務室のある西殿の中間に位置している。

それだけに、急報を耳にした途端 政務室を飛び出したラノイは、衛兵などよりも早く 休憩室へ駆け込んでいた。



  「リリィ!」



武闘派ではないシズのペースに合わせ 最後尾を走っていたエディンは、先に 休憩室に駆け込んだラノイの (あわ)てふためいた声に 軽く()(みは)った。


《『リリィ』? 》


この緊急事態だ、それが誰の名なのか察する事は出来た。

しかし、常日頃 別の名で()んでいる相手だけに 淡く疑問が巡った。


《 シズ様や クランツ様も…………いや、シズ様は『姫』としか()んでおられないか。》


クランツは『アシュリー姫』と()び、シズは『姫』とだけ()んでいる。

しかし、相手は魔法使いでもあるし ()()など幾つもあるだろう。

もしかしたら、(ラノイ)だけが()べる愛称なのかもしれない。


《 いや待て、そう云えば、自分は名告(なの)られてすらいなかったのでは………。》


出会いは、執務室だった。

見当違いな(おも)い込みで 睨み付けてしまったエディンを叱責する(どころ)か、詫びられてしまった。

訊けば、エスファニア国王の従妹姫で〔森の妖精(イリフィ)〕で、何撰(なによ)り 優しい女性だった。

思慮深く、思いやりがあり、(たお)やかな、理想の王妃だった。

しかし、あの日の事を詳細に思い起こしても 名告(なの)られた覚えはない。

それ(どころ)か 自分も名告(なの)っていないのではないか、と 冷や汗を掻いて青褪(あおざ)めたり。

いやいや 相手は魔法使いだから名告(なの)らないのが作法として正解なのかも、と 持ち直したり。

一瞬で巡った 散漫な考察は、休憩室から聴こえた国王の声に()って 中断させられた。



  「無事⁉︎ 怪我してない⁈ 」

  「はい」



室内から 緊張感のない返答が聴こえる。

声の調子から、いつもの様に ふわりと微笑んでいるのだろうと想像する。

エディンは これで安堵したのだが、他の面子(メンツ)は そうではなかった様だ。

ラノイから遅れる事-数秒で クランツとシズも休憩室へ駆け込み、追って エディンも その戸口に辿り着いた。

「アシュリー姫っ」

入口側の壁際に据えられた 小さなテーブルの前に 普段と変わらない王妃(リーゼロッテ)の姿を認め、エディンは 小さく息を()く。

そして、後ろ手に 休憩室のドアを閉めた。


流石(さすが)は〔森の妖精(イリフィ)〕であらせられる。》


エディンは 普段と変わらないリーゼロッテの微笑に安堵したのだが、他の面々は違ったらしい。


「「 ご無事ですか⁈ 」」


どう見ても 何事もなかった様子なのだが、軽いパニック状態にあると それに気付けないものらしい。

シズとクランツは、正面から がっしりと肩を(つか)んでいるラノイの両脇から、リーゼロッテに詰め寄った。

一方、リーゼロッテは、駆け付けた面々の(あわ)てぶりに ()を丸くしもしたが、改めて笑みを作った。

その(あお)い瞳が 4人の男達を交互に見た事や、()かべた微笑みが 苦笑い気味だった事には、エディンしか気付かなかった様だ。

「はい、ご心配には(およ)びません」

安心させようとして見せた微笑も、大丈夫だと示した言葉も、動転している3人には 大して届いていないらしい。

ラノイは、彼女の両手を()り 怪我がないか(つぶさ)()ている。

クランツと シズは、そんなラノイの両サイドから これまた怪我の有無を確認している様だった。

「この通り、怪我もございません」

リーゼロッテは、されるが(まま)になりつつも 無事であると繰り返す。

「ですが、贈り物の箱に毒蛇がいたとっ!」

動揺が()えない クランツの言葉に、何でもない事であるかの様に リーゼロッテは視線を後方へ流した。

「それでしたら、こちらに」

(いま)だ 両手がラノイに(つか)まれている為だろう。

リーゼロッテは、視線で それ(・・)を示した。

其処にあったのは、壁際のテーブル。

普段ならば、お茶の用意をする際に使用される 小さなテーブル。

その上に、場違いな箱があった。


「「「 っ⁈ 」」」


少々 削りの荒い 木箱だ。

大きさは、縦 50㌢× 横 35㌢× 高さ 30㌢の木箱だ。

極-有り触れた、何の変哲も無い木箱だ。

此処が、厨房や 食糧庫などであれば。

つまり、食材を入れて運搬するのに 良く(もち)いられる木箱だったのだ。

内宮(ないぐう)の、(しか)も 王族が使用する休憩室にあるには、余りにも場違い()ぎた。

しかし、彼等が驚いたのは 場違いな箱のほうではない。

その簡素な蓋の上に、小さな蛇が とぐろを巻いていたのだ。

小さな頭は、成人男性の親指くらいの大きさだろう。

エメラルドグリーンを基調とした つるりとした鱗に、スカイブルーの模様が入っている。

(おそ)らく 体長-1㍍程度の、細くて小さな蛇だった。

爬虫類が好きな者ならば、観賞用(ペット)として飼育していても可妙(おか)しくない 優美ささえある蛇だった。

(もっと)も、如何に優美であったとしても これを(この)んで飼う物好きは存在しない。

主に ラッケンガルドの南西にある 草原地帯に生息している、猛毒を持つ蛇の幼体である為だ。

攻撃性が高く、人が近付けば威嚇し 咬み付く事で知られる蛇だ。

幼体であろうとも猛毒を持つ蛇が、リーゼロッテの(そば)にいたのである。

だが、この時点で、仔蛇には 攻撃の意思が(うかが)えない。

木箱の上で とぐろを巻いてはいるが、牙を剥き出しにするでもなく 鱗を(こす)り合わせるでもなく 尾の先を振るでもない。

至って(おとな)しく 蓋の上にいる。

時折、紫色の舌が ちろりと覗く程度だ。

しかし、初めて見る男達にとっては 脅威の対象だった。

クランツとシズが 息を飲み、エディンが腰の剣に手を伸ばし、ラノイは 仔蛇から(かば)う様に リーゼロッテを抱き寄せた。

この反応にも、銀髪の魔法使いの様子は変わらない。

穏やかな声で『大丈夫です』と声を掛ける。

「毒蛇も 生き物ですから」

この言葉の意味が正確に伝わったのは、ラノイだけだった。

「 ––––––––––––––––––– あ…………そ、か」

一気に警戒を()いたラノイは、腕の中の美女へ笑みを向ける。

「良かったぁぁ」

安堵の息を()きながら『(しら)せを聴いて(あわ)てちゃったよ』などと言いつつ、ラノイは 抱き締める腕を(ゆる)めている。


《 生き物なのは見れば判りますが⁈ 》


『それが大丈夫と どう繋がるんだ⁉︎ 』とか『この毒蛇を放置していい根拠は何だ⁉︎ 』とか、いろいろと巡った考えは、身近な脅威が 動いた事に()って、一旦 停止した。

とぐろを巻いていた小さな毒蛇は、シュルシュルと動き ゆっくりと蓋の上で(からだ)を伸ばしたのだ。

一気に緊張が高まったのは、言うまでもない事だろう。

(もっと)も、毒蛇には 攻撃や威嚇の意思はなく、木箱の蓋の縁を沿う様に くるりと一周し、何事もなかったかの様に 再び とぐろを巻いたのだが。

声もなく硬直したクランツと、最大まで高まった警戒を ゆるゆると下げるエディンが、其々(それぞれ)で細く息を()いたのは 毒蛇が元の姿勢に戻って数秒後の事だった。


《 えぇ、生き物ですよ、動いていますしね。》


背中に じっとりと掻いた汗に不快を感じながら、やや八ッ当たり気味に そんな事を脳内で呟く。

そうして巡らせた視線の先の ラノイは、毒蛇の動向など気にしな様子もなく リーゼロッテ() イチャついている。

「いいの、気にしなくて」

「ですが、わたしが………… 」

「リリィの所為(せい)じゃないでしょ?」

「ですが、わたしが もっと気を付けていれば………… 」

「これは 僕の所為(せい)なんだから」

「いいえ」

「違わないよ。 即位して これだけ経つのに、王宮内ですら掌握出来てないんだから」

「いいえ、ラノイ様は   」

「頑張ってるよ。 だけど、足りてなかったのも事実でしょ?」

「いいえ」

「僕が もっと牽制して威圧して屈伏させてれば、リリィに こんな顔させないで済んだんだから」

騒ぎにする事なく対処出来なかった事を詫びる リーゼロッテの(わず)かに消沈した様子と、そんな彼女を甘やかしつつ(なだ)めている ラノイの嬉しそうな顔を見ては、言葉も出なかった。


《 ––––––––––––仲睦まじい事で。》


樣々(さまざま)(おも)いを ぐっと呑み込んで、それだけを呟く。

脳内の声が苦情めいてしまっても 仕方ない事と理解してほしい、などと(おも)いながら (ひそ)やかに溜息を(こぼ)した。

事実、ラノイとリーゼロッテの仲が 良い方向に進んでくれる事は、この室内にいる臣下の切なる願いでもある。

ここぞとばかりに イチャついて仲を進展させようとしているラノイを咎めて邪魔をする必要などない。

せめて 最低限の説明はしてからにしてほしい、と云うのが本音ではあったが。


《 お妃様が 大丈夫だと仰有(おっしゃ)るのだから、襲っては来ないのでしょうが。》


猛毒を持つと判っている毒蛇を 無造作に(つか)んで箱に押し込めるなど、出来る筈がない。

幼体と(いえど)、出血毒を持つ蛇なのだ。

この出血毒と云う毒は、()わば 強力な消化酵素である。

噛むと同時に注入されると、細胞組織の蛋白質が分解される。

これは、蛇にとって 獲物を消化するのに役立つ毒でもある。

噛まれた際の症状としては、患部に 激痛と腫れが起こり、痛みが 徐々に全身へと広がる。

まず、皮下や内臓・古傷から出血。

()いで、吐き気・血便・血尿などが起こる。

更には、症状が 腎機能障害などに(およ)ぶ事もある。

二次的な被害としては、毒に()って 血管がダメージを受ける事で 急激な低血圧なども発症する。

治療には 血清が必要である為、噛まれたら 一刻も早く治療する必要がある。

性質上、神経を麻痺させる神経毒に(くら)べれば 死亡率-自体は そう高くない。

だが、後遺症に()いては 出血毒のほうが重篤化する事もある。

細胞組織の壊死に()り、手足の切断に至るケースも (すくな)くないのだ。

加えて、特に強毒を持つ種の蛇は、出血毒だけでなく 神経毒も持つと云う。


《 せめて、箱の中に入れて…………いえ、現場保存を優先したのでしょう。 ですが、もう確認しましたから、どうか とっとと箱に入れてくださいませんでしょうか⁈ 》


多少 クランツ化しているエディンの脳内の陳情など届く筈もない。

エディンは、蓋の上で(おとな)しくしている『特に強い毒を持つ種の毒蛇』の様子を ちらちらと(うかが)う。

そんな 2人を余所(よそ)に、早々に緊張を()いたのは シズだった。


《    ?!! 》


ラノイの横へ廻り、木箱の上で とぐろを巻いている毒蛇を 覗き込む様に眺め出したのだ。

シズと毒蛇との距離は、30㌢もない。

これは、根っからの文官であるシズが、咄嗟(とっさ)の事態に反応出来る様な距離ではない。

流石(さすが)に ひやりとしたのだろう。

「シズ様」

エディンは、すぐ(さま) 木箱の前からシズを引き剥がした。

何が()っても(かば)える位置まで、シズの腕を引いて移動させてから、(ようや)く エディンは右手を剣の(つか)から放した。

(もっと)も、シズの腕を(つか)む左手から 力を抜く事はない。


《 何を突飛な行動してくれるのでしょうか⁉︎ 》


不敬だ何だと遠慮していては、シズの行動を止める事は出来ない。

宰相補佐の任に()いて長くはないエディンだが、それだけは 熟知していた。

「大丈夫でしょう、姫が言うのだから」

「だからと云って、余りにも迂闊(うかつ)です」

エディンに(たしな)められても、シズの態度は変わらない。

こうしていても、興味の赴くままに 毒蛇へ視線を向けている。


《 またか! この人は! 本当に‼︎ 》


諌める言葉が 欠片(カケラ)も届いていない様子に、エディンの顳顬(こめかみ)に青筋が走ったとしても、誰も責めはしないだろう。

「大丈夫でしょう、毒を無効化する魔法具(アイテム)もある事ですし」

「だとしても、です」

(なお)も 毒蛇に近付こうとするシズの前に立ちはだかる形で、エディンは 上司を押し(とど)めていた。

そんな 2人を()にしてか、クランツも (ようや)く落ち着いたらしい。

彼は 深く息を()いてから、苦笑いの様な表情を()かべる。

(しら)せを聴いた時は どうなる事かと(おも)いましたよ、アシュリー姫」

「ええ、主に 外交的な意味で」

クランツの安堵に、シズの本音が付け加えられた。

「シズ様………… 」

この 余りにもストレートな物言いに、エディンが言葉を失う。

見遣った上司(シズ)の顔が、場を(なご)ませる冗談などではないと語っていた事も、彼を唖然とさせた要因だろう。


《 本心だったとしても、言葉を(えら)んでください。》


そう長くはない主従関係だが、今のが上司の本心だと判っているだけに 反応に困ってしまったのだ。

(もっと)も、これは エディンだけの反応だった様だ。

「本当に 心配しましたよ。アシュリー姫に『もしも』が()ったら、陛下が(いか)り狂いますから」

国王の側近である クランツも、嘘-(いつわ)りなく、至って真面目に、そう考えていたのだろう。

至って真面目な顔で、そんな言葉を口にしている。

「 …………クランツ様」

シズも クランツも、(たしな)める言葉も出ない様子のエディンを気にする素掉(そぶ)りすら見せない。

勿論、(そば)で聴いているラノイも、言われた当人のリーゼロッテまでもが、(とが)める様子もない。

もしや 自分の感覚が可妙(おか)しいのでは、などと エディンが勘違いをし始める程に。

「ご心配を お掛け致しました」

ひっそりと()を白黒させているエディンについては、一先(ひとま)ず 見なかった事にでもしたのか。

リーゼロッテは、謝罪と共に頭を下げる。


「「 いいえ、ご無事で何撰(なによ)りです 」」


謝罪など不要と示されて、リーゼロッテは ゆっくりと頭を上げた。

「それにしても、これは誰が…………?」

諦める事なく エディン-越しに毒蛇を観察しているシズの呟きに、答えが返った。

「此処へ至るまでに 数人の手を経ている様です。この()も、箱に入れられてからの事は 判らないそうで」


「「「 –––––––––––––………… 」」」


(おも)いもよらぬ言葉を耳にした所為(せい)だろう。

3人は、一斉に リーゼロッテを見遣った。

エディンは、軽く瞠目していた。

クランツは、困惑の表情で ラノイとリーゼロッテとを(かわ)(がわ)る見詰めている。

シズに至っては、興味津々だった毒蛇から視線を返したばかりか、珍しくも 喫驚を()かべてすらいる。

「わたしの力不足で 裏にいる者にまで届かず、申し訳ございません」

そんな 3人の様子は眼端(めはし)にも映らなかったのか、見て見ぬフリを決め込んだのか。

ラノイは、腕の中のリーゼロッテだけを見詰め (とろ)ける様な微笑を()かべた。

「いいよ、無事でいてくれたから」

左手で背を抱き、右手の指先で 頬を撫でる。

(なめ)らかな肌の 少し(つめた)く感じる体温を(たの)しんでいるラノイに、声が掛けられた。

「ちょ、ちょっと待ってください」

「なに? シズ」

邪魔しないでよ、とでも言いたそうな国王(ラノイ)の 不機嫌な声に構う事なく、宰相(シズ)は こう問い掛けた。

「今、何と仰有(おっしゃ)いましたか?」

「『無事でいてくれたから』?」

「陛下の(はなし)じゃありません」

「うわぁ、酷い」

折角の ()い雰囲気を邪魔しといて 更には邪険に扱うとか酷くない? 酷いよね? と聴こえる様に呟くラノイを まるっと無視して、シズは リーゼロッテに向き直った。

「この毒蛇の経緯が お判りになられる、と云う事、ですか?」

「はい、わたしは魔法使いですので」

信じられない と云った(ふう)で問うシズに、リーゼロッテは やや不思議そうに そう答えた。


「「「 そう云うモノなのですかっ?」」」


想定外の返答だったらしい 3人が、揃って 喫驚の声をあげた。

この反応に、どうやら ラノイから伝わっていないのだと理解したのだろう。

「勿論、(すべ)ての魔法使いに共通と云う訳ではございませんが」

そう言い()してから、これに関する魔法使い側の常識を 軽く説明する。

動物と意思疎通が可能である事などは、やはり 吟遊詩人などの(うた)にもないのだろう。

旅行中のラノイと同様、随分 驚かれる事となった。


「「「 出来るのですかっ⁈ 」」」


何等かの魔法で(おとな)しくさせているのだろう と考えていた面々は、意思疎通が可能と云う部分に 盛大に喫驚した。

更に、今し方の(はなし)が 毒蛇-本人(?) からの情報だと知って、驚愕の域に達している。

「凄いよねぇ。リリィは 河伯(かはく)とも(はな)せるんだよ」

何故か 我が事の様に得意気で嬉しそうなラノイに、(いか)りを滲ませたシズとクランツの声が重なった。


「「 聴いてませんでしたが⁈ 」」


額に青筋でも()かべそうな勢いの 2人を前にしても、ラノイの態度は変わらない。

「うん、言ってなかったから」

「陛下!」

「僕も この間の新婚旅行で初めて知った」

「あれから 10日も経ってますが⁈ 情報を共有する時間は充分にありましたよね⁉︎ 何でこんな重要な事を黙ってたんですか⁈ 」

「だって、訊かれなかったし」

「陛下‼︎ 」

「あはは」

「笑い事じゃありませんよっ、情報の共有はしっかりしといてくださいと あれ程 念を押してお願いしましたよね⁈ してましたよね⁉︎ 」

「あははは」

詰責と評しても過言ではない剣幕のクランツに詰め寄られても、やはり ラノイの態度は変わらない。

あっけらかんと『過ぎちゃった事は しょうがないよね』と、笑いながら言って退()ける程だ。

善くも悪くも、叱られ慣れている。

そんな異母弟(ラノイ)の様子に、叱責すら諦めたのか。

シズは、早々に ラノイから視線を()らしていた。

まるで『時間の無駄』とでも言いたげに、リーゼロッテに向き直る。

「それで、一体 どの様な状況だったんですか?」

(なお)も続いている クランツの怒号も無視して、今回の騒動の顛末を問う事にしたらしい。

そんな宰相の意を汲んで、エディンも 横で交わされる不毛とも云うべき やり取りは、気にしない事にした様だ。

これを受けて、リーゼロッテも気持ちを切り替える事にしたのだろう。

暖簾に腕押し状態に 益々(ますます)ヒートアップするクランツを、気遣わし気に見遣っていた視線を 何とか引き剥がすと、状況を説明し始めた。

「わたしが この部屋へ参りました時点で、この箱は この棚にございました。 そして、蓋は あの様な状態で」

()らしてあった、と」

持って来ただろう侍従官の姿はなく、この場にそぐわない木箱だけが置かれていた。

その時点で、既に 木箱の蓋は握り拳-1っ分くらいの隙間が作られていた。

余りにもな状況に 気配を()めば、木箱の中に小さな反応がある。

リーゼロッテとしては、(あか)(さま)な方法に (かえ)って気が抜けたくらいだった。

いっその事 このまま 中で(おとな)しくしていてもらおうか、と考えた程だった。

しかし、共にいた女官は違った。

そう、休憩の時間に出す茶の準備の為 この日も女官が()(したが)っていた。

女官は、持ってきた盆を据える筈だったテーブルに乗る木箱を見て、小首を(かし)げた。

あるのが 厨房などに納品する食材を入れるのに使われる木箱だけに違和感があったのだろう。

持って来た盆を ソファに囲まれる高級テーブルに置くと、(きびす)(かえ)した。

そのまま木箱に近付いたのだ。

当然だが、危険など考えず、(ゆえ)に 何の警戒もなく。

「この()は 箱の中で(おとな)しくしていたのですが」

休憩に合わせ 部屋にやって来たリーゼロッテと その女官の気配に、仔蛇は 箱の中で警戒を強めていた。

其処へ、見慣れぬ箱を不審に(おも)った女官が箱に近付いた事で、仔蛇は 更に警戒する。

鱗を擦り合わせると同時に 尾の先を(こまか)く振って威嚇音を出すまでに至っていた。

それでも近付いて来る気配に『縄張りを荒らされる』と感じた仔蛇は、攻撃に転じた。

蓋の隙間から飛び掛かり、最も近くにいた女官の手に咬み付こうとしたのだ。

咄嗟(とっさ)に手を()いたので、事なきを得ましたが」

驚いた女官の叫びを聴き付けた官吏(かんり)が騒ぎ立て、衛兵が、()いては ラノイ達が知る(ところ)となった。

(ちな)みに、咬まれそうになった女官は、魔法で眠らせ ソファへ(はこ)んである。

そして、休憩室は 人払いがされている状態だ。

室外の(あわただ)しさは伝わるものの、この部屋に それを気にしている者はいない。

「申し訳ございません」

気を抜いてしまったが為に、女官の動きに反応するのが遅れた。

最悪の事態にはならなかったとは云え、騒ぎを広めてしまったのは 悪手だった。

そう詫びるリーゼロッテに、クランツに叱られ続けていたラノイが 真っ先に答えた。

「いいよ、無事でいてくれたから」

「そうですよ、これは 王宮(こちら)の落ち度です」

()いで クランツが、怒気を(ぬぐ)い切れない表情のまま ラノイの発言に賛同する。

「検疫官が グルでしょうか」

此処に至るまでに(おこな)われる 3度もの検疫を、こんな(あか)(さま)な木箱が通り抜けられる筈がない。

一味なのか 買収されたのかの違いはあるだろうが、検疫に関わった者達が 何かを隠せそうな木箱を、その中の毒蛇を、故意に見遁(みのが)したのは 明白だろう。

そんなエディンの呟きに、シズは 更に踏み込んだ見解を告げた。

「最初に騒いだ官吏(かんり)も 聴取すべきですね」

理由を述べずに(こぼ)された言葉だったが、エディンには通じた様だ。

「!––––––––––––確かに、情報が食い違っています」

休憩室に届いたのは、木箱だ。

木箱に宛名が書かれている訳でもない、(ただ)の木箱だ。

(しか)も、持って来ただろう人物の姿を リーゼロッテ達は見ていない。

なのに、ラノイ達への急報では『妃への贈り物の箱』となっていたのだ。

「動転していた、では説明が付きませんね」

「故意に誤情報を流したとすれば、この後にも 何か起きる可能性が考えられます」

シズとエディンの やり取りを余所(よそ)に、ラノイは リーゼロッテへ腕を伸ばした。

細く(しな)やかな(からだ)を そっと抱き寄せて、(なめ)らかな髪を撫でる。

「検疫官のほうは 衛兵達が追うでしょうが、流石(さすが)これ(・・)に気付けはしないでしょう」

「手配して参ります」

言葉-短に告げたエディンは、クランツに目礼を、シズとラノイに 軽い礼を()った。

これに続いて、シズが ラノイに礼を()る。

「陛下、私は 各所の動きを観察…………もとい、監察に(むか)います」

こんな時であっても(たの)しむ気-満々なシズの、本音の漏れ出た言葉に (あき)れた()を向けながら、クランツも礼を()る。

「私は、奥殿のほうを見廻ります」

其々(それぞれ)、衛兵達の手が回らない場所へ(むか)う旨を述べる。

これへ 眼線だけで承諾を伝えると、ラノイは 改めてリーゼロッテを(みおろ)した。

普段 国王として見せている冷徹な()が、一瞬にして 甘く(やわ)らいだモノになったのを横眼に、エディンは 休憩室を(あと)にした。


《 普段、陛下は…………。》


ああなのか、と云う言葉を 脳内ですら嚙み潰しながら。

これは、完全に予定になかった話です。

予定している話ですら時間がかかると云うのに 予定外の話なんか書けば、そりゃ遅くもなるってもんで。

いやぁ、5000文字くらいまでは 割とスムーズだったんですけどね、そっから進まないったらなかったですよ〜 (˃̵ᴗ˂̵)

まだ続くんだぜ〜、もう笑うしかな〜い ٩( ᐛ )و ダレダヨ コンナノ カキハジメタノ


既に 次話が不安で仕方がありません。

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