57__仮初めの妃の 小さな後悔
またもや ご無沙汰を致しました。
書き上がってから 暫く放置 ではなく、手直しを しようかと、そのつもりでおりました。
結局、大した手直しもなく 今日 投稿に至った訳ですが………。
まぁ、お暇でしたら目を通してください。
今回は、リーゼロッテの視点に始まり ラノイの視点で終わります。
一応、前話の続きになっております。
では、どうぞ。
___視点:〔森の妖精〕- リーゼロッテ=サフィール___
リーゼロッテは、普段と変わらず 雍かく微笑んでいた。
この幼い魔法使いが、綜ての可能性に備えんとして配置したモノが、隣国の愚かなる手を 完璧に斥け、エスファニアの平和を陰から支え 人知れず護ってきた。
誰に気付かれる事なく、それでも、自身が背負う〔盾にして劔なる者〕の称に これ以上なく相応しく。
〔森の妖精〕として、己れと 己れが護ると宣言したモノを害する者には 一片の容赦もなく。
そうして、何年も、彼女は 敵を斥け続けてきたのだ。
「ナルシェルとの国境は、抜かりなく固めております。 どの様な策を弄しても 超える事は不可能だと、理解している筈なのですが」
雍かく微笑んでいるリーゼロッテの瞳に、淡く悲哀の色が泛いた。
今でも 度々 進軍があるらしい。
そうと判る呟きと 表情だった。
余りの事実に 言葉を失っているクランツ達に代わって、シズが 大仰な溜息を零す。
「惘れ果てる程の 厚顔無恥っぷりですね」
救いようがない と零してから、シズは 緲かに眉を寄せた。
「それが事実だとして、どうしたら『王侯貴族に囲まれる』なんて事態になるんです?」
何故その事態になったのか判らない、と言いたそうな表情だ。
エスファニア王国にとって、ナルシェル王国は 国交がない攸か 敵国と表しても良い国だ。
そんな国だけに、儀礼的に使者の往来があった訳ではないだろう。
一体どの様な経緯が、と疑問に惟うのも 無理はない。
この問いに、リーゼロッテは 苦味を益した笑みで答えた。
「こちらへ参る 一月前に、あちらから、招待が ございまして………… 」
言い難そうに告げられた事実に、全員が睛を剥いた。
「「「 往ったんですか⁈ 」」」
シズとクランツ・エディンの驚きの声が 見事に重なった。
ラノイは 声にこそしなかったが、表情を見るに 同じ心境だったらしい。
「招待状が 陛下…………フェイトゥーダ様-宛てに出されたモノでした、ので」
「だからって往く必要はない筈です。 断れるでしょう? 自国を侵略しようとする敵国ですよ⁈ 」
「ですが、その証拠はございません」
「「 あ"……… 」」
リーゼロッテが零した 一言に、クランツとエディンは 揃って蛙が潰れた様な声を出した。
2人共、奥歯で 苦虫を噛んだかの如き表情になっている。
「成程、証拠………………確かに、それは………… 」
シズは そう独りごち、苦々しげな顔で 喑黙った。
ナルシェル王国から 度重なる侵略があった、それは 事実だ。
しかし、この綜てが 宣戦布告すらない侵略である。
故に、エスファニア王国には 知られてもいない。
而も、その殆どは 国境すら踏み越えられていない。
〔森の妖精〕が 何もかもを把握していたとしても、侵略の痕跡もないのでは 断る理由に缼けるのが現実だ。
綜てを 完璧にして未然に斥けてきたが故に起こった、苦々しい現実だった。
「わたしが フェイトゥーダ様の許にいると 近隣国に知れ渡った為に、その様な策を使った事は 明白でしたが………… 」
〔森の妖精〕宛てに出されていれば別だったが、宛名は エスファニア国王-夫妻だ。
つまり、エスファニア王国として この誘いを断るには 大義名分が必要になる。
だが、これにも 不都合は付き纏う。
仮令、体調不良を理由に 国王夫婦の往訪を断れたとしても、その報せの為に 誰かを派遣しなければならない。
目的が〔森の妖精〕だと判っていても、断るには 正式に使者を送るしかないのだ。
そして、ナルシェル王から エスファニア王への正式な招待であるが故に、使者も それなりの者に任せざるを得ない。
これには、フェイトゥーダ達も頭を悩ませていた。
リーゼロッテにしても、ナルシェル王国へ 若き国王夫妻だけを邀わせる事など出来ない。
かと云って、他の貴族の誰かを代理に立てるのであっても 状況は変わらない。
断る為に 単身 ナルシェルへ赴く事を決意するも、全員から反対されてしまう。
王侯貴族ばかりか 王城で働く侍従・侍女にまで全力で異を唱えられては、流石に 実行に移せなかった。
おまけに、どう云う訳か奮起した国王に『受けて立とう』と言われてしまう。
断る為に リーゼロッテ - 1人を敵国へ迓わせる事になるくらいなら ––––––そう言われてしまった。
こうなれば、リーゼロッテには どうする事も出来ない。
罠が待ち構えていると判っていても 赴く他なかった。
「大丈夫だったんですか?」
気遣わしげなクランツに、彼女は、小さく笑んで 肯いた。
「滞在中は、数々の いやがらせと思しき行為と、幾つもの 難題らしき要求をされた程度です」
リーゼロッテを いびり倒す為に呼んだ事は、晣らかだった。
「例えば、どの様な?」
怕らく、肚の立つ要求をされたのだろうと惟いながらも 興味は尽きないらしい。
シズの問いに、リーゼロッテは 緲かに苦笑う。
「西の沼地に群生している毒草だけを 綜て枯らして来い、とか。 乾季の王都で 王城だけに雨を降らせてみろ、とか。 或る山に巣食う魔獣を 魔法を使わずに殲滅して来い、とか」
何でもない事の様に談しているが、その内容に シズが瞠目し、ラノイは 瞳に淡く殺気を纏わせた。
「なっ?! 」
「魔獣を 魔法なしでっ?」
「はい」
クランツとエディンの喫驚にも、リーゼロッテの微笑は坍れない。
その 余りにも平素の様子に、撰り驚愕が深まった様だ。
「「 出来るのですか!? 」」
図らずも揃った 質問の声にも、リーゼロッテの微笑は坍れない。
「魔人や 魔女と闘うより、遙かに簡単です」
「 ––––––––––––………… 」
心配させまいとして気を囘した訳でもなく、また 虚勢を張ったのでもなく、純然たる事実として。
彼女にとって それは、本当に訳もない事だったのだろう。
それが伝わって、エディンとクランツは絶句した。
月の光りを惟わせる 美しい銀髪に
宝石の様な 蒼い瞳。
形の良い眉に、小ぶりでありながら
柔らかそうな 桜色の唇。
すらりと長い手脚に、折れてしまいそうに細く
それでいて 女らしい曲線を畫く肢体。
物腰は 常に輭らかで、穏やかな性格の
誰にでも優しい 魔法使い。
それが、彼等がリーゼロッテに懐く 共通の印象だ。
譬え、侑けを求めてきた〔海の妖精〕に対し 冷たい言葉を言い放っていたとしても、敵国の無辜の民が困窮していると知って尚 放置していようとも、それは変わらない。
〔森の妖精〕が、数多くの魔法使いの中でも 上から數えたほうが早い程の強者であると教えられていたとしても、それは変わらないのだ。
しかし、嫋やかな容姿の この魔法使いは、間違いなく 階層制の上位に坐る者なのだ。
幼い身でありながら、多くの魔法使いを殪してきた強者だった。
絶え間なく襲い来る魔人や魔女に対抗する為、魔法を使わない闘いにも秀でた 異色の魔法使いでもある。
故に、魔法を使うな と言われようとも、困る事はなかった。
尤も、ラノイ-以外には伝わらなかったが。
「曾て 其処を支配区域にしていた魔人は 既に亡く、放置されて 1000年は経っております。主人を喪った所為で 魔獣達の統率力は下がっていましたし、数も ほんの数10匹でしたので」
特に問題もなく殲滅出来たのだと説明したが、シズの 眉間の皺も、クランツの 喫驚で停まった呼吸も、エディンの 固く結ばれた唇も、緩む事はなかった。
《 あぁ、本当に…………。》
リーゼロッテは 振るべき話題を間違えたと、内心 落ち込んでいた。
今更 どうにも出来ないと判っていても、考えてしまうのだ。
せめて、上手く嘘を誥いて 何でもなかったかの様に振る舞えたなら、4人に こんな顔をさせずに済んだのに、と。
《 何故 わたしは、いつも こう…………。》
密やかに気落ちしている事に気付かれない様に、リーゼロッテは 穏やかな表情を貼り付けていた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:ラッケンガルド国王 - ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___
1ヶ月前の出来事を聴いた 僕は、何とも云えない気分になってた。
確かに、証拠は残ってないよ。
侵略も まぁ、されてないに斉しいよ。
国王-宛てに出された招待状を断るのは難しいって、判るよ。
だけど、だからって 態々 往く必要なんてないし!
往かなきゃいけなくなったとしても、そんな無茶振りに応える必要なんか 何処にもないし!
《 なのに、何で そんな莫迦げた事に付き合ったの⁉︎ 》
きっと リリィの事だから、ちゃんとした理由があったんだろうって惟うよ?
一緒に往った エスファニア国王達の身の安全だなんて事じゃなくて、何か もっと別の理由があるんだろうって。
だけど、絶対 そうだと惟ってるのに、僕の中で どうにもならない感情が渦巻いてるんだ。
僕の知らない処で、僕の知らない内に、僕の許可なく リリィにちょっかい掛けた奴がいるって知っただけで、もう駄目なんだ。
《 知り合う前なんだから 何を言っても無駄だって判ってるのに〜〜っ!》
こんな事 考えて、みっともなく嫉妬してるのなんか知られたくないのに。
縦しんば シズにはバレたとしても、リリィにだけは知られたくない!
そんな ちっぽけな自尊心が働いて、僕は 恚りを肚の底に押し込めてた。
クランツに変化がないくらいだから、たぶん 上手く匿せてると惟う。
「そうだろうが………… 」
何とか口を敞いたのに、出た言葉は 短くなった。
いろいろ呑み込んだ所為で 妙に重々しい呟きになってる。
そんな僕へ、凄く雍かい微笑を向けた リリィが、こう答えた。
「勿論、無償には 致しませんでしたよ?」
ふわりとした笑みは、放たれた言葉の内容とそぐわないって感じるモノだった。
霽れやかと評してもいいくらいの笑顔だった。
その所為か、ちょっと恚りが熄えた。
意表を突かれた、とも云う。
「え?」
惟わず零れた驚きの声は 僕のモノだったのか、それとも 他の3人の誰かのモノだったのか。
兎に角、全員が リリィの発言に度肝を抜かれてた。
まぁ、僕は 復活が早かったほうだと惟うけどね。
《 あ、そうか。 取引したかったんだ。》
だから、従順なフリして要求を呑んでたんだ。
何も言わずに順って、相応の代価を要求したんだ。
だとすると、何だろうな。
エスファニアを諦めろ? それとも〔森の妖精〕のほう? 寧ろ両方?
気持ちとしては どっちも要求していいと惟うけど、それが代価として適正かは 僕には判らない。
こう云う時は、訊いたほうが早いよね。
「何を代価にした?」
僕の質問に、リリィは にこりと微笑む。
あぁ、可愛いなぁ。
「あの国に仕えている魔人を 国外へ排斥するか、国王の座を退くか、二度と エスファニア王国に関らないか。この 三者択一を迫りました」
何それ、甜くない?
もっと決定的な条件とか付ければ良かったのに。
でも、こんな綯い条件でも渋ったんだろうな。
「聆き入れましたか? 愚王の極みの様な莫迦が」
僕と同じ事を考えてたらしく、シズは ナルシェル王を扱き下ろしてる。
普段から洌い睛が 蛞蝓でも見る様な感じになってる攸を見るに、結構 怒ってるな。
件の王が 眼の前にいたら、心を叩き折るくらいの勢いで 罵るくらいしたろうなぁ。
そんな時でさえ 丁寧な言葉を坍す事なく にこやかに、それが どんな相手でも 冷静沈着で慇懃無礼に、怒っていれば怒っている程 的確に、相手の心を砕きにいく。
再起不能になるまで手を緩めないから 悚いんだよね。
《 僕が云うのも何だけど、シズって、結婚 出来るのかなぁ。》
こんな性格に付き合える女いないよね。
外形は結構いいと惟うんだけど、性格がね〜ぇ。
宰相なんてしてて シズが怒らないなんてないし、そうなれば隠し通すなんて 土台 無理だし、リリィみたいにシズを悚がらない女 他にいないだろうし。
容姿やら権力やらに寄ってくる女ならいるだろうけど、そもそも そんなの嫌ってるから近付けないし。
政略結婚だって、シズは する必要ないんだし。
《 う〜ん、考えれば考える程 大丈夫じゃないなぁ。》
僕が 明後日の方角へ思考を飛ばしている間に、クランツやエディンが シズに同意する言葉や リリィを気遣う言葉を掛けてる。
うん、そうだよね。 1番 面倒な目に遭って、1番 迷惑をかけられたのはリリィなんだ。
雨にしろ 毒草にしろ 魔獣にしろ、そんなの リリィには全く関係ない事だったんだから。
乾いてようが 蔓延ってようが のさばってようが、これっぽっちも困らないんだから。
それを 態々 聆いてやってまでしたかった取引なんだから、絶対に受け入れさせなきゃ 割に合わないなんてもんじゃないし。
でもまぁ、聴く限りの性格じゃ『そんな代価 知らん』の一言で終わらせられそうだけど。
《 僕が一緒だったら ぶった斬ってたな。》
物理的に 一刀両断して終了、これが 1番 早いし。
何撰り、リリィに手出しする男なんて この世から消えればいいし。
《 今後は 近寄らせない様に、ちゃんと見張ってなきゃ!》
そんな決意を固めてる僕の耳に、リリィの雍かい声が届く。
「勿論、受け入れなければ 王城を壊滅させる、と しっかり嚇した上の事でございます」
優しくて穏やかな印象のリリィが にこやかな微笑を泛かべて、何でもない事の様に そう言った。
「ははっ、それはいい!」
シズが 愉しげに嗤い、クランツは 安堵して、エディンは 真面目な顔で何度も頷いてる。
シズを含め クランツ・エディンに驚いた様子はなかった。
勿論、ちょっとは驚いただろうけど、それでも 意外そうな顔をしたりはしなかった。
出会った頃だったら、もっと凄く驚いて『信じられない』って顔したと惟う。
リリィの 普段の様子を知れば識る程『そう云う事をしそうにない』って感じちゃうくらい、優しい女性だからね。
《 それだけ リリィが此処に馴染んだって事かな。》
そう惟うと、何か凄く嬉しいな。
他の3人と違う意味で笑顔になったけど、そんな僕に気付く人なんかいない。 いなくて良かった。 特に、リリィ。
僕は、何とか表情を取り繕って、頭の中だけで によによする事にした。
「何を択んだんです?」
「魔人の排斥でした」
シズの 止まない好奇心に、リリィは 穏やかに答えてる。
でも、何だろ。 ちょっと いつもと違う。
何か こう、してやったり? みたいな 笑顔に見える。
「そなたの狙いも それだな?」
「はい」
カマをかけた僕の問いにも にっこりと笑んで、リリィは そう答えた。
「もう、あの魔人に泣き付かれるのは うんざりでしたので」
成程、最初から これだけを狙ってたんだね。
何かあると 手駒の魔人を通して文句を言ってくる様な国王だって言ってたし。
リリィ、相当 厭だったんだね。
一見、それが 最も価値の低い切札に惟わせて。
《 譚を聴いて 愚王だって感じたけど、本当に 啻の莫迦なんだ。》
ちゃんと考えれば、他の 2っと同条件じゃない事が判っただろうに。
自分が王じゃなくなるのは厭だ とか、エスファニアを諦めるのは駄目だ とか、その程度しか考えなかったんだろうな。
せめて 側近達に賢いのがいれば防げたんだろうけど、まぁ 愚王だからね。
そう云う 自分の意見と合わない連中は要らない、とか したんだろうな。
僕に クランツがいて、シズに エディンがいるみたいに、身分やらを無視して全力で立ち塞がってくる有能な人は 手放しちゃ駄目なのに、ね。
《 リリィにも見放されたし、ナルシェル王国は 終わりかな。》
この先 エスファニアを侵略しなくなっても 食糧問題で潰れるだけだし、侵略しようとすれば その度に大幅な戦力ダウンと人口減少とで 急速に先細るだけだし。
でも、クランツは そう考えなかったらしい。
「ですが、それならば、ナルシェル王は エスファニア王国を諦めていないのでは」
「はい」
「大丈夫なのですか?」
「こちらは 対策を講じてございますので、ご心配には及びません。 何10万の兵を率いようとも、エスファニアの地を侵す事は 不可能でございます」
クランツの問いに対して、リリィは 少し強い言葉を使った。
リリィが 断定的な事を言うのって 誰かが不安になってる時だって、最近 気付いた。
この時だって、クランツやエディンが心配そうにしてたから こんな言い方をしたんだろうな。
「 …………一体、何を?」
何が遭っても国境を超える事すら出来ないらしい って察したみたいだけど、その方法は見当も付かない。
まぁ、僕も そうなんだけど。
「隣接する草原には 何1,000頭もの魔獣が巣食っておりますし、その南にある森には 記憶操作を得意とする小人達が住んでおります。 どちらも、侵入する者は 分け隔てなく」
容赦なく襲われる、と云う言葉は発しなくとも 伝わった。
「それは 慄しいな」
すっかり上機嫌になった僕は、差し出されたままだった湯呑を 漸く手に把った。
「その魔人は、どうした?」
リリィに 其処までしてもらった魔人か。
何かちょっと気分的に引っ掛かるモノはあるけど、でも いちいち不満を言い出して ウザがられちゃうのも困るし。
此処は、スルーすべきだよね、大人として。
「フォルモーサの南の 小さな場所を、当面の住まいとして差し上げました」
この言葉に、エディンが 眉を寄せた。
「それは、一体どう云った場所なのですか?」
リリィの支配区域は、フォルモーサの北までだ。
遠くに放す訳でもなく 手の中に引き入れるでもなく、守護を明言してるだけの土地の端を 新天地として与えた事に違和感があったらしい。
知らなかったら、僕も 同じに疑問を懐いたんだろうな。
でも、僕には 予備知識がある。
「〔黒の魔女〕がいた場所だな」
昔、師匠から聴いた噺に『愚かなる魔女』ってのがあった。
吟遊詩人が語る御伽噺に 同じ噺はなかったし、その魔女の名も 称も教えられなかったけど、旅行中に リリィから聴いた譚でピンときた。
強者から遠くない場所に住み 何1,000って魔人や魔女が素通りした『襲う価値もない存在』である事を、自分は『襲われない程 勍いんだ』って勘違いした愚者––––––それが〔黒の魔女〕なんだって。
確か、拠点は フォルモーサ王国の南西にある 小さな森の一郭だったっけ。
其処にいても大丈夫な魔人って事なのかな。
「あの辺りにいても、彼は 誰からも襲われないでしょうから」
僕が言葉にしなかった部分にまで答えたみたいな返答だった。
………………タイミングが良かっただけだよね?
僕が小さな疑問を飛ばしている間に、クランツが『判らない』って顔をして 口を敞いた。
「それは、どう云う事です? アシュリー姫の…………〔森の妖精〕の支配区域の中なら安全だって譚は判りましたが、確か フォルモーサ王国は違いますよね?」
あれ? 教えとくの忘れてた?
談してなかった、な…………うん、談してないや。
あ〜、これは また『〈情報共有〉は徹底してくださいって言いましたよね? 言っておきましたよね?』って怒られるな。
あはっ、黙ってよう。
僕が言わなくても、きっと シズが正しい憶測を立てて、リリィが答えるから 大丈夫。
こう云うのは バレなきゃいいんだよね。
「成程、闘う仂もない 弱い魔人だと云う事ですか」
「シズ様?」
「そうでもなければ、自力で ナルシェル王から逃げていたでしょう」
シズの指摘に、エディンもクランツも得心顔になる。
次いで、3人は リリィを見た。
答え合わせを待つ子供みたいに見えたのは、僕の気の所為じゃないと惟う。
「はい」
一言で 全部を肯定したリリィは、霽れやかに微笑んだ。
あぁ、可愛い。ぎゅってしたい。
「これで、少しは 静かになるでしょう」
たぶん、毒草を全滅させる事も 魔獣を殲滅する事も、その魔人には不可能だった。
だから、かの王は リリィへの厭がらせに使ったんだろう。
己れの手の中にいる魔人に不可能であるならば、譬え〔森の妖精〕と雖も 楽には熟せないだろうと践んで。
見当違いもいいとこだった訳だけど、まぁ 愚王だから仕方ないね。
「流石に 等価とは参りませんでしたが、これで 直接コンタクトを取ってこないと惟えば」
安いモノだった、って事だね。
大変だったんだね、リリィ。
僕なら、邪魔にしかならない相手の事なんか とっとと見捨てる攸だけど、リリィだからね。
利用されてる魔人を見放せなかったんだろうな。
「本当に うんざりする程の相手だったんですね」
僕と似た様な事でも考えたのか、クランツが 何とも云えない複雑な表情になってる。
うん、判るよ、心配なんだよね。
リリィって優しいから、誰かに利用されたり 騙されたりしないかって考えると、そう云う顔になっちゃうんだよね。
本当に よ〜ぉく見ててあげなきゃ。
って云うか、早く捕まえておこう。 うん、頑張ろう。
頭の半分くらいで決意を新たにしてた僕だけど、もう半分では 全く違う事を考えてた
エスファニアには、見た事もない魔法生物がいるんだ。
それも、2種類も。
「 …………魔獣に、小人か」
見てみたいな、特に 魔獣のほう。
ラッケンガルドの国内には 魔獣みたいな脅威になる超生命体はいなくて、そう云うのとは闘った事ないんだよね。
偶に〔荒れ地〕から流れてくる猛獣なら狩った事あるけど、それだって そう多くはないし。
どんな見た目なんだろう、どれだけ大きいんだろう。
爪って どんなだろう、牙って どんなだろう。
見るからに凶暴そうなのかな。毒があるって云うくらいだから、見るからに毒々しいのかな。
リリィに頼んだら 連れてってくれないかな。
《 勿論、クランツには内緒で。》
そんな事 考えてたら、リリィが 僕に微笑を向けた。
何か 苦笑いみたいな微笑だった。
「エスファニアの地に、魔獣の群れなど 残したくはなかったのですが、あの国が態度を改めてくださらない限りは 減らしてしまう事も出来なくて」
困ったみたいな表情も可愛い っじゃなくて!
ちょっと待って? 声に出してた?
何処から 何処まで声に出てた⁈ 全部じゃないよね⁉︎
いや落ち着け僕 全部じゃないよ たぶん。
魔獣の詳しい姿形とか言わなかったし 最初の一言くらいだった、筈!
全部 口に出してたらクランツから怒号くらい啖ってる筈だもん大丈夫だよたぶん!
僕が内心で動揺してるなんて 誰も気付かなかったらしく、シズの視線も クランツの激怒も エディンの諫言も、僕には向けられなかった。
尤も、僕は それ攸じゃないくらい動揺してたから、そんな簡単な事にも すぐには気が付かなかったんだけど。
「エスファニア王は、その事について 何と?」
「お談ししてはおりません。あの国へ往った事で お気付きになられた様ですが、何も仰有らないので」
魔獣の群れについても、小人の存在についても、説明は必要ないって判断されたらしい。
誰からも訊かれないから、リリィからも 何も談さないまま今日に至る、と。
尋ねられてもない事を 態々 談す必要ないもんね。
「信頼されているのですね」
エディンの呟きに、リリィが 小さく微笑んだ。
リリィにとって、エスファニア国王のフェイトゥーダは 従兄だ。
相手が 従妹としてリリィの存在を認識してなくても、間違いなく 血の繋がった身内なんだ。
その相手が 自分を信頼してくれてるって云う状況は、彼女にとって嬉しくない筈がない。
でも、この時の僕は まだ混乱が残ってて。
リリィの心情に副うなんて事は、一切 出来てなくて。
《 含羞んだリリィも可愛い。》
現実逃避みたいに、そんな事だけ考えてた。
書き上がってから『こいつ等お茶してなかったっけ?』と思いましたが、付け加えると 啻でさえ悪いテンポが 更に悪くなるので手直しを断念しました。
彼等が楽しみにしている筈の お茶の時間なのに誰も飲んでねーよ状態です。
もう諦めましたワタシの力不足ですよ判ってますよ現実を受け止めますよ泣いてなんかいませんよちくしょー。
次話は、もう少し早く投稿出来たら、と思っています。
ええ、思っていますよ、まだ何となく構想しているだけで全くの手付かずですが。
リーゼロッテが仮初めの妃らしい事をする予定です。
ええ、これも いつもの『予定は未定』ってヤツです。




