51__仮初めの妃と 隣国の商人 2
お久しぶりです。
引越しの合間に、何とか書き上げました。
今回は、リーゼロッテ → シズ → リーゼロッテとなります。
では、どうぞ。
___視点:〔森の妖精〕- リーゼロッテ=サフィール___
リーゼロッテは、ラノイの仕事が片付くまで とソファに腰掛けた。
その場所が ラノイの専用ソファである事など、この時の彼女の頭の中にはない。
大半は、先程の商人と手の中のブローチについて。
残りの狭い部分で、ラノイや シズ・クランツの事を考えている。
いや、寧ろ 積極的に、そちらに意識を持っていこうとしていた。
《 王宮にいる時は、こんなに真面目に お仕事をしていらっしゃるのに。》
ファイセル王国やフェイアル王国の我儘国王達と較べても、ラノイは 良く働く王だ。
リーゼロッテは、シズとクランツの事を思い出していた。
主に、クランツの、ラノイに対する態度を。
王と臣下には とても見えない やり取りのあれやこれやを。
《 どうして、あれ程までに気に疚んでおられるのかしら。》
国王の側近は、常々『陛下が働いてくれない』と 愚痴を零している。
宰相も、常々『陛下が職務から逃走しようとする』と ボヤいていた。
しかし、王宮でのラノイは、内心は どうあれ、国王としての責務を きちんと果たしている。
《 小さな国とは惟えない程の内務が 毎日 山と積まれて、それでも 綜て熟していらっしゃるのに。》
官吏達の間に不正が横行していたり、能力のない者達が要職に就いていたりと、樣々な理由があって、今は 政務の殆どを国王が仕切っている。
その為、慢性的な人員不足の皺寄せを 国王と 少数の有能な者達が担っているのだ。
勿論、ラノイは、不正官吏や 横領大臣などを切り捨てる形で 国政を正しい形式に戻そうと努力し続けている。
しかし、国政を放り出し享楽に溺れていた 前国王の時代に いろいろな螺子が弛んでしまった者達は、慄しく多い。
ラノイは、眩暈がする様な作業を熟しながら、臣下達の手綱捌きを〔獅子王〕の苛烈さを以て做しているのだ。
「 ……………… 」
リーゼロッテは、執務室の一郭にあるラノイの専用ソファを 何気なく択んで座ったまま、何気なくブローチを眺めて ぼんやりと考える。
本当に ぼんやりと、他意もなく『もしも』と惟う。
《 本物の妃だったら、もっと 頼ってくださるのかしら。》
贋物である自分には出来ない事を、と 漠然と考えていた。
仮初めではなく本物の妃であれば、こう云う時に もっとラノイの力になれるのではないか、と。
仮初めの立場では叶わない、もっと踏み込んだ役目を担えるのではないか、と。
左手の指先で、ブローチを ぞんざいに弄りながら、そんな事を考えていた。
その間に、仕事は 一段落したらしい。
「あれ?」
いつの間にか、ラノイが隣に来ていた。
「リリィ、それ どうしたの? 誰かの落し物?」
「ぇ?」
物推いに耽っていた所為で、声を掛けられるまで ラノイの接近に気付かなかった。
そして、掛けられた言葉の意味に気付くのに 少し遅れた。
「ぁ」
見上げた声の主は、肩が觝れる程 近くにいた。
そして、その視線は リーゼロッテの顔よりも 下へ向いている。
辿ると、手の中のブローチに行き当たった。
《 あぁ、そうだったわ。》
商人の事で相談に来た事を思い出し、指先で玩んでいたブローチを 両の掌に乗せた。
そうして、ラノイに見え易くと 捧げる様に差し出した。
「いいえ、これは………今、この間の商人の方がいらしていて、こちらは オマケでくださったのですが」
欲しくもないのに押し付けられた、などは語らずに なるべく端的に談す事を心懸ける。
しかし、この言葉に ラノイの睛が変わった。
「あの方については、少し 引っ掛かる事もあって、前以て ラノイ様にお談ししておこうかと………… 」
「私からの贈り物は?」
「ぇ?」
ラノイの様子が変わった事に気付かずにいたリーゼロッテは、またしても反応が遅れた。
彼女としては、王宮に出入りを赦されている商人が怪しい事を説明する為の物的証拠として ブローチを持って来たに佚ぎない。
だが、其処まで理解していないラノイからすれば、このブローチの存在は 別の意味を持つ。
啻でさえ 独占欲の強いラノイだ。
躬ら択び贈ったアクセサリーは 何処ぞへ仕舞われたままだと云うのに、商人からのオマケは こうして手にしている。
渡した商人に苛立ち、受け取ったリーゼロッテに 仄暗い感情まで懐いていた。
大切そうに 両手に乗せている樣も、気に食わなかった。
たかが商人の分際で………そう惟ったのか、彼の眼許が拮くなってゆく。
「その、あれは………とても 高価な物なので…………やはり、然るべき時に 身に付けるべきかと」
何故 今あの贈り物について言及されるのだろう、と惟いながら そう答える。
しどろもどろになったのは、あの高価な品々を身に付ける事に 強い抵抗があるからだ。
大事に仕舞ってあります、と答えただけでは 身に付けろと言われる。
必要な時に為に、と付け加えて 少しでも身に付ける確率を下げたかった。
___ 無料の贈り物は存在しない ___
必ず、代価を求められる –––––––それが 魔法使いの世界で、常識だ。
そんな中で生きてきたリーゼロッテにとって、あの高価なアクセサリーは 最早 恐怖の対象でしかないのだ。
仮初めの妃でいる間のレンタル品だと言われていても、手許にあると云うだけで 震える程だ。
しかし、ラノイにとって、あれは 純粋な贈り物だった。
リーゼロッテが『一時でも使用すれば、後から どの様な要求をされるのか』と、恐々としている事など 知る由もない。
その為、ラノイには『身に付ける事を拒まれた』と云う事実だけが伝わり、彼は 撰り不機嫌になる。
「 …………………あの商人は、随分と 軽率な事をしてくれる」
「はい?」
低い声に 拮い眼差し、盈れ出る 剣呑な雰囲気。
それ等で ラノイの機嫌が悪い事を察しはしても、理由までは判らなかったのか。
リーゼロッテは、蒼い睛を 緲かに眇めた。
《 オマケとは云え 仮にも妃の立場にある者へ この様な安物を渡すなど可妙しい、と惟われるなら 兎も角…………どうして?》
商人の行動は、軽率と云えば 軽率なモノだろう。
他国の王宮へ出入り出来る立場になったと云うのに、安物を高値で売り付けているのだ。
発覚すれば、摘み出されるでは済まない。
その相手が女官達であっても、商売には 信用と云うモノが付いて回るのだ。
安易な発想で それを失うなど、浅慮で軽率な行動と断じられても仕方がない。
だが、ラノイの睛を見たリーゼロッテは、其処に違和感を覚えた。
どうにも見解の相違がある様に感じて、少し躇ってから〈魔法使いの眼〉を発動させてみる。
《 ぅ………相変わらず、複雑。》
視えたのは 誰もいない巨大なロビー、聴こえたのは 様々な事を語る沢山の声。
豪奢でありながら がらんと広いだけのロビーに、反響しながら響く喧騒や囁き。
視覚と聴覚を惑わされる様な感覚に、惟わず 眉が寄る。
以前と同様 複雑すぎて思考の波を読み切る事が出来なかったが、ラノイの不機嫌の理由は それとは異なる………そう感じたのだ。
故に、リーゼロッテは 判らなくなっていた。
《 何故、急に…………?》
仕事の邪魔になると判っていながら執務室を訪ねた時には あれ程 優しかったラノイが、今は 誰の睛にも不機嫌だ。
やはり 邪魔をした所為だろうか、などと考えていると ラノイの手がブローチを掴んでいた。
ブローチを ぞんざいに把り上げたラノイは、それを一瞥し 鼻先で嗤う。
「オマケ、ね」
冷ややかな言葉と共に向けられた 洌い睛に、リーゼロッテは瞠目した。
僕が贈った物より これがいいの?
こんなモノのほうが?
それとも、あんな男のほう?
リリィは、ああ云う奴が好きなの?
だから、こんな物を受け取ったの?
ラノイと睛を併せると同時に、発動したままの〈魔法使いの眼〉に 強い感情の波が入ってきたのだ。
リーゼロッテが視たのは、その耳に聴こえたのは、小さな子供の 恨み言の様な呟き。
將しく、拗ねた子供の様な嫉妬だった。
判り易くも、いじけてているラノイの心だった。
しかし、これを視たのは リーゼロッテだ。
《 そう云う考え⁉︎ 》
ブローチ 1っで買収されてきた、とでも惟われた………リーゼロッテの印象は そうだった。
やや、だいぶ、かなり………いや、もう相当に、彼女は訒かった。
「失礼です!」
「 ⁉︎ 」
唐突に声を荒げ 竚ち上がったリーゼロッテに、ラノイは度肝を抜かれていた。
惟わず 息を飲み、身を反らす様にしてしまったのも 無理からぬ事だろう。
そのくらい驚いたのだ。
「この様な物を不用意に受け把った事は謝りましょう。ですが、それが気に入らないからと云って その様な疑いをかけるなど あんまりです!」
「え⁈ はっ⁉︎ 」
普段 柔和で穏やかなリーゼロッテの急変に、ラノイの思考が付いていけなかった。
それもその筈で、2人の思考には 些細ではない差異があるのだから。
ラノイは『贈り物を身に付けてもらえない』と、拗ねていただけで。
リーゼロッテは『ブローチで買収された』と ラノイに勘違いされている、と解釈したからで。
勿論、問題があるのは リーゼロッテの理解力のほうで。
『贈り物を身に付けてくれないなぁ』と悩んでいたラノイに、追い討ちをかける存在を持ち込んだのは 彼女のほうだったのだが、訒い彼女は ラノイの悩みにも嫉妬にも気付く筈がなく。
災難に近い形で、ラノイは 一方的に叱られたのだった。
呆気にとられるのも、無理はなかった。
その間に リーゼロッテは窓に邀い、窓を開ける。
「リリィ、これ………… 」
もっと他に掛けるべき言葉があった筈だが、余りの出来事に 流石のラノイも反応し切れなかった様だ。
惟わず、手の中のブローチを引き合いに出していた。
勿論、そんなモノが リーゼロッテを引き止める小道具になる筈もない。
「要りません!」
言い捨てて、リーゼロッテは 窓から身を躍らせた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:宰相 - シズ=ラトウィッジ___
執務室へ戻ると、何やら不穏な雰囲気になっていた。
どうやら、痴話喧嘩らしい。
異母弟は、大変 執着心の強い腹黒野郎だ。
目下 1人の姫に執着しまくっている。
時々 空回りをしているが、今回のは いつもより酷かった。
《 子供みたいな嫉妬で怒らせて どうする。》
莫迦だな、後悔するだけなのに。
姫の反応が予想外だったのか、リオは ソファの横に棒立ちになったまま 誰もいなくなった窓を見詰めている。
本当に莫迦だ。
関わるのも面倒だが、そろそろ異母弟が呆けているのを傍観するのも飽きた。
仕方がない、声くらい掛けてやるか。
「陛下」
「 ………………いたのか、シズ」
執務室に入りながら声を掛けると、リオは 私の名前を低く呟いた。
「怒らせて どうするんですか?」
異母兄としてではなく 宰相として訊けば、無言だけが返る。
不機嫌が淆じった複雑な気分なのは判るが、それを こちらに向けるのは罷めていただきたい。
だが、此処で放置すると不貞腐れる。
更に放置すれば、とばっちりを食う。
なので、今の内に 敲いておく。
そうしないと、後が面倒だから。
「出入りの商人に嫉妬するなんて 子供みたいな事をして、姫を困らせたいんですか? これで逃げられたら どうしてくれるんです? エスファニアまで帰ってしまったら、今の貴方に連れ戻せるんですか? 二度と会えなくなるって判っているでしょう? 貴方が莫迦をやって一生後悔するのは勝手ですが、姫のお茶が飲めなくなったら 困るんですよ、私が」
一気に 文句を論う。
当然、綜て本音だ。
もっと いろいろあるのだが、その中でも重要なモノだけ優先した。
勿論、最も重要なのは 最後の部分だ。
「 …………シズ」
私の科白に、リオが 肩の力を落とした。
自分でも反省すべきと理解している様で 何撰りだ。
出来れば、莫迦な事を喋る前に 考え付いてほしかったが。
第一、どうして あんな短絡的な結論に至ったのか。
「それに、怕らく、姫は それの相談をしたかったんだと惟いますよ?」
ブローチを指差して言えば、リオの睛が鋭くなる。
嫉妬か、子供か、莫迦なのか。
落ち着いて考えれば判る事だろうに 気付いてもいなかったなど、本当に全く。
「陛下、そのブローチ、可妙しいって ちゃんと気付いてます?」
気付いていないんだろうな、なんて惟いながら そう付け加えた。
案の定だった。
リオは、眉をひそめてブローチを眺め、次に そのまま私を見て、再び ブローチへ視線を戻す。
表を見て 裏へ返して、再度 表にしている。
本気で判らないとか、莫迦なのか。
頭はいいのに、どうして 時々 こうして莫迦になるのか。
《 リオの相手をしなければならないなんて 本当にお可哀相だ、姫が。》
遂には、ブローチを振り始めた異母弟。
振って どうする。
一体、何が起こると惟っているんだ?
その行動の意味を ちょっと説明してみろ。
《 お可哀相に。》
これも嫉妬の所為なのか、それとも こう云う奴なのか。
恋が絡むと 世の男と云う生き物は、須く こうなるのか。
孰れにせよ 大変だな、姫が。
「?」
振っても何も出ないぞ、と云うか いい加減に気付け。
そう惟ったら、溜息が零れた。
「これだから、独占欲ばかり強くて了見の狭い嫉妬の塊な腹黒野郎は………… 」
「シズ、何か いろいろ駄々漏れてる」
「姫が お可哀相だ、本当に。 これが相手とか 或る意味 拷問だな、酷い罰ゲームだ」
「僕ってそんなに駄目⁈ 」
「嫉妬深くて独占欲強くて譚を聴かなくて勘違いで八ッ当たりして怒られた事に驚いて謝罪も出来ず茫然と見送るしか出来なかった莫迦で愚かでどうしようもない………… 」
「つらつらと論わないでよ! 流石に凹むよ!」
泣きそうな声で 私の言葉を遮っているが、異母弟が この程度で泣く筈もない。
第一、泣きたくなる様な手酷い仕打ちを受けたのは こちらのほうだ。
姫がいないだけで あれだけ人に当たり散らしておいて、泣き言とは片腹痛い。
この際、徹底的にいたぶっておくべきだろうか。
《 武力では敵わないが、姫を引き合いに出せる今なら………。》
そんな事を、ほんの刹那 悩む。
思考を邪魔したのは、急かす様な リオの声だった。
「厭味はいいから、教えてよ。ブローチの何処が変なの?」
ぶんぶんと ブローチを振りながらの問いに、惟わず 溜息が漏れる。
《 優秀なクセに、どうして こう…………。》
残念すぎる異母弟と ぞんざいに振られるブローチを交互に眺めて、私は 改めて溜息を零した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:〔森の妖精〕- リーゼロッテ=サフィール___
執務室の窓から逃走すると云う方法で 西の回廊へ戻ったリーゼロッテは、未だ消えない恚りに 脳内を荒ぶらせていた。
《 お談ししておきたかったのにっ、ラノイ様のばか!》
有らぬ疑いを掛けられたと誤解しているリーゼロッテは、憤懣やるかたないまま 回廊を歩いていた。
ラノイへの文句ばかりを聯ねながら、独り 後宮へ向けて趾を進めていた彼女は、西の庭園に近付いた途端 その歩みを停めた。
その表情は、一変していた。
淡くも恚りを滲ませた無表情から、驚きと 緲かな疑念を泛かべたものへと。
趾を停めたのは、西の庭園へ降りられる 回廊の分岐点。
丁度、あの商人に声を掛けられた場所だった。
《 そう、だわ………此処にいた事から 可妙しかったのに…………。》
漸く、違和感の 1っに惟い当たったらしい。
リーゼロッテは、周囲を見回しながら 王宮の内部構造を思い出す。
商人に用意された部屋は、外宮の中でも最も南に近い場所にある。
出入りを赦されたとは云え、他国の、而も たかが商人の身分だ。
王宮の入口にあたる外宮の 極浅い場所にしか出入り出来なくて当然である。
だが、彼に声を掛けられたのは 内宮だ。
詳しく言えば、王族の住まう宮殿の西端。 後宮にも近い廊下だった。
啻の商人を 内宮まで通す衛兵はいない。
啻の商人が 内宮まで入り込める程、王宮の睛は尠くない。
《 –––––––––––––––––あぁ、そう云う事…………。》
違和感を 確信へ、不信感を 確定へ、そうすると 綜てが腑に落ちた。
同時に、その裏に潛む悪意や害意と、それを懐く者達を絞り込む。
各方面へ指示・牽制を利かせて 商人が此処へ来るまでの道を作ったであろう者達。
《 怕らく、あの3人…………それと、あの女官。》
仮初めの妃であると知らず 明確な害意を持っている者達の中から、4人まで絞り込んだ。
池の滸の四阿で、小柄な女官に詰め寄っていた女官の顔が 脳裏を過る。
直後、こちらへ近付いて来る気配に気付いた。
リーゼロッテの表情が 一瞬で無に変わる。
「お妃様」
竚ち停まったまま 西の庭園を眺めていたリーゼロッテへ声を掛けてきたのは、見憶えのある女官だった。
西の庭園に水を湛える その滸で、気弱そうな女官を詰っていた 気の強い女官。
黒い髪を高く結い上げ 勝気な瞳の奥を爛々と燃えさせながら、それ等を笑みで匿そうとしている女官。
曾ては ラノイの側付きの1人、今は 衛兵宿舎担当の女官。
今し方 リーゼロッテが惟い泛かべた女官 - ベロニカだった。
「失礼致します。 お手紙を預かって参りました」
悪意と害意と敵愾心を 嫉妬と邪心とで煮詰め 怨念にまで昇華させた様な どろどろとしたモノが、ベロニカの背後に渦巻いていた。
尤も、そんなモノが視えなくとも、衛兵の宿舎担当の女官が 後宮の近くへ来ている時点で、怪しい。
それが、リーゼロッテへの手紙を届ける為だなど、とても怪しい。
普通ならば、敬遠すべき攸だ。
だが、リーゼロッテは 敢えて受け入れた。
「 –––––––––––––––––––ありがとうございます」
愛想笑いすら泛かべずに、リーゼロッテは ベロニカの手から手紙を受け取った。
小さく一礼して踵を皈したベロニカが、口の端を引き上げた。
それを睛の端に捉えながら、リーゼロッテは 何食わぬ顔で手紙を敞いた。
「 –––––––––––––………… 」
文字に睛を走らせて、撰り無表情になった。
しかし、その蒼い睛には 恚りにも似た色が滲んでいた。
《 ラノイ様に…………。》
伝えなければ、と 考えた直後、先程の事が思い出された。
同時に、先程の恚りが込み上げてくる。
結果、恚りが倍増しただけだった。
惟わず、手紙を燃やし尽くしたくなっただけだった。
勿論、手紙も大切な証拠の 1っと躬らに言い聆かせ、衝動的な八ッ当たりを回避した。
《 ………………もう いいわ。》
ぎゅっと握り潰したくなるのを怺えながら、リーゼロッテは 外宮へ向けて踵を皈した。
2話構成で終わりませんでした。
次こそは! 終わる筈! たぶん。
来週は ついに引越しです。
もう倒れそうだけど これからが『大詰め』です。
そんな訳で、またお待たせします。 ゴメンナサイ。




