46__エスファニア王国の魔法使い 5
またまた お久しぶりでございます。
いつも通り、とも言います。
今回は リーゼロッテの視点で始まり、シノンの視点で終わります。
では、どうぞ。
エスファニア王国 / 16時
___視点:〔森の妖精〕- リーゼロッテ=サフィール___
招かれざる来訪者達との 形ばかりの謁見を終え、フェイトゥーダを肇めとする王侯貴族が 遅い昼食で気分を向上させたのが、14時。
この昼食に係る時間が 1時間程。
予め 下準備の済んでいたフルコースの料理を順に提供しつつ、デザートを仕上げる。
その段になると シェフと厨房スタッフに後を任せ、厨房を離れる。
其処からの時間、リーゼロッテは 東の翼棟に軟禁したファイセル王国とフェイアル王国の者達の相手をしていた。
勿論、この数には 両国の王達も含まれている。
当然、接待していた訳ではない。
2国の王達には 礼儀と心構えについて、その従者達には 王に施す日々の教育について、譚を訊いていた。
彼女が帰国してからの数年間 一体 何をしていたのか、詳しく説明させていたのだ。
その後、リーゼロッテから 今後の対応の提案をする。
つまり、軽くはない嚇しを掛けたのだ。
この一言には、彼等にとって相当な威力があった。
元々 寒冷地である 北の2国は、リーゼロッテに見放されれば いろいろと成り立たなくなる。
何せ〔森の妖精〕は、数々の恵みを与える存在だ。
存在するだけで その土地の富を約束する様な存在の強い魔法使いなのである。
この影響を最も受けるのは、当然 エスファニア王国だ。
かなりの高地でありながら気候が温暖で 実りが豊かであるのも、彼女がエスファニアと云う国を愛している為だ。
同じ結界の中に在るファイセル王国とフェイアル王国は、この余波を受けて 今 豊かになっている。
エスファニアと同じ結界の中で 護られているお陰で、安全だ。
曾ての様に、魔人や魔女が入り込み 国内で暴れる事は莫い。
エスファニアと同じ結界の中で 護られているお陰で、毎年 豊作だ。
曾ての様に、冷夏や厳冬に因る 凶作や餓えに喘ぐ事は莫い。
気候は温暖になっており、作物の収穫量は 大国の国民を養って剰りある状態だ。
〔森の妖精〕の恩恵に与って、かれこれ 5年になる。
王を肇め 国民の端々に至るまで、この状態に慣れきっているだろう。
そんな結界を 唐突に外されたら どうなるか。
ほんの数年前の状況を思い出した王達は、惶てふためいた。
この数年間の状況を惟い泛かべた従者達は、国家存亡の危機に直面していると自覚した。
そして、陳謝していた間の疲労よりも濃い焦燥と 身の内から襲う恐怖に駆られて、口々に新たな誓約を立て 慈悲を乞うた。
因みに、リーゼロッテは『加護を外す』と言ったのではない。
そう云うニュアンスの言葉を使っただけだ。
しかし、効果は抜群だった。
___ 次はない。___
これも、そう匂わせる言葉を使っただけ。
そして、今回の事を赦すとは口にしない。
決して赦す気などないのだから 当然である。
宣言の通り 食事は出さずに、リーゼロッテは 東の翼棟を迹にした。
室内に残された者達が 顔面蒼白となっていたのは、云う迄もない事だろう。
《 弊れる。》
外階段に邀いながら、大きく溜息を零した。
もう、ラッケンガルド王国へ戻ってしまいたかった。
《 でも、このまま立ち去る訳には…………。》
いかないだろう、と脳内で続ける前に 視界の下方に人影を捉えた。
次いで、張り巡らせた感官に グレンの気配を捉えた。
リーゼロッテは、反射的に螺旋階段の手摺から身を乗り出して 15メートル下を見遣った。
其処には 惟った通りの人物が、想像した通りの表情で自分を見上げていた。
《 一番 厄介な人が………。》
睛が合った瞬間 厭な予感がしたのは 気のせいではなかった、と リーゼロッテが悟るのは 僅か 1分後だった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
ラッケンガルド王国 / 17時半
___視点:〔森の妖精〕- リーゼロッテ=サフィール___
《 弊れた。》
ラッケンガルド王宮の北に位置する 王妃の囿、その一郭で リーゼロッテは大きく息を咐いていた。
エスファニア城を辞したのは、ほんの12分前だった。
エスファニアの伯爵 - ロデュウ=グレン=アルハザードに捕ってから 1時間余り。
リーゼロッテは、彼の質問攻めに 随分と疲弊していた。
訊かれて困る事ではないとは云え、あの興味津々な態度には 困惑させられた。
ロデュウは、元より 魔法に興味があったのだろう。
しかし、エスファニア王国は 魔法使いと縁の薄い国だった。
曾て この地に君臨していた魔女が、非常に仂の勍い人物だった事が影響している。
魔女は 広い支配区域を持ち、他の侵略を赦さないだけの勍さを具えていた。
彼女は、現在のエスファニア王国-そのままの支配区域を維持し続けた。
そして、彼女の死後も消えない程 強力な結界に、エスファニア-全土は 護られてきた為だ。
リーゼロッテが産まれてからは、月に属する妖精 -〔死の妖精〕と〔闇の妖精〕が その役目を担った。
勿論、現在は リーゼロッテの結界も加わり、魔法属に対して非常に強力なモノとなっている。
そのせいで、エスファニア王国では リーゼロッテ以外の魔法使いに会う事が困難だ。
そう、決して いない訳ではない。
国土の端の 極めて狭い土地に、リーゼロッテのモノではない支配区域がある。
南東に 1人、東に 1人、北東に1人。
其々 魔人が居を構えているが、一般人が彼等に会う事は 不可能に近い。
支配区域に放たれた魔法製生物が、侵入者を 即時 排除する為だ。
古くから存在する危険区域として認識されていた事もあり、エスファニアの人々は 其処に立ち入らない。
魔人達の支配区域だとは知らずに、長きに亘り 隣人として生きてきた。
知らずにいるからこそ、エスファニア人が 初めて身近に感じた魔法使いは、リーゼロッテだ。
好奇心の強いロデュウは、興味の向いた事柄の綜てを リーゼロッテに尋ねる事になる。
結果、彼と会う度に、リーゼロッテは 精神的に疲弊してしまうのだ。
《 続きは明日、とか………。》
別れ際に言われた科白に、更に げんなりしつつ、身形をラッケンガルド式に整えるべく クロゼットへ邀った。
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エスファニアを含む 大河の西側の国々は、基本的に ドレスだ。
肌着の代わりとなる薄手の衣服の上に、ワンピース状に仕上がっているドレスを紱う。
高地に位置するエスファニアは 肌の露出を抑えた、Aラインドレスが主流だ。
フリルやレースは 控えめだが、繊細な刺繍が ふんだんにあしらわれている事が特徴になっている。
一方、サマリア王国では、フリルやレースなどを凝らした ドレスが一般的だ。
各国で ラインの違いはあれど、概ね そう云った仕様になっている。
そして、ラッケンガルドの衣装は、エスファニア王国と同じ Aラインではあっても、仕立てが異なる。
云うなれば、重ね着ドレス。
最も下に身に付けるのは、ナイトドレスとでも言ってやりたくなる様な 薄手のドレス。
前併せに作られており、肌触りの良い生地が贅沢に使われたモノだ。
細い飾り紐で編み上げる仕様になっている。
色は 淡い系統が主で、裾に向けて緩やかに拡がっている。
次に紱うのは、後ろ併せのドレス。
胸許と ウエストから裾にかけての部分に、何段ものフリルやレースがあしらわれているのが特徴だ。
そして、背中側に小さな釦が幾つも列んでおり、それで留める様に出来ている。
独りでは 着るにも脱ぐにも苦労する仕様だ。
更に、前併せのドレスを身に付ける。
胸許が大きく敞き、中に着たドレスのフリルやレース部分を強調する仕立てになっている。
この3枚が 1セットとなっているのが、ラッケンガルドの王宮で女達が着用する衣服だ。
生地や仕立てなどの違いはあるが、侍女官であれ王妃であれ 基本は同じである。
気候に合わせて この上に長衣と聘ばれる上着を羽織るくらいだ。
リーゼロッテは、クロゼットの中から 王妃に相応しい それ等を択び出す。
彼女が手に把ったのは、淡いラベンダー色のドレスと ヒヤシンスブルーの長衣だ。
改めて、極上の生地に 丁寧な縫製で仕立てられたドレスを見て、小さく溜息を咐いた。
《 ほんの数日の事なのに………。》
旅行者を妝っていられた この数日間で、すっかり気が綯んだのか。
王宮での衣裳に 聊か気が滅入っていた。
元々 煌びやかなモノを憙まない彼女は、他人が羨む様な状況にも心を撼かされない。
寧ろ 億劫だと感じている程だ。
《 これもお仕事これもお仕事これもお仕事。》
己れに言い聆かせる様に繰り皈しながら、それまで身に付けていた旅装を解く。
ラノイと王宮を離れていた間 着ていたのは、一般的な平民の衣服だ。
これは 生地も仕立ても質素で簡素ながら、リーゼロッテ自身には とても馴染むモノだった。
丈夫で地味で、何撰り 動き易く着脱がし易い。
それを、名残りを惜しむ様に たっぷりと時間を掛けて着替えをしていると、離れた場所に人の気配を感じた。
方角と距離からして、王宮から後宮の区域に入った辺りだろう。
比較的 ゆっくりと歩いて来る気配には、憶えがあった。
少し急ぎながら着替え、脱いだ旅装を 魔法で片付ける。
王妃として身支度を整えたリーゼロッテの許へ、2人の女官がやって来た。
今にも溜息を零しそうな程 打ち湮んだ表情をしていた女官達は、部屋に入った途端 顔色を変えた。
正確には、リビングの中央に佇んでいる リーゼロッテの姿を睛にした途端、息を飲んで硬直した。
注意がリーゼロッテに向いたせいだろう。
手にしていた盆と その上に乗っていた清潔なタオルやシーツが、彼女達の意識から離れた。
「っ⁉︎ 」
「おおおおおおきさきさまあ⁈ 」
2人の驚愕の元は、どうやら リーゼロッテらしい。
余りの大声に 面啗いはしたが、同時に その理由に得心もした様だ。
《 あぁ、そうだったわ。》
何も告げず 何日も留守にしていたのだ。
而も『北の邨を見舞いたい』と言い出していると、王宮中に噂が拡がる様 仕向けていたのだ。
宰相 - シズが 情報を操作して『王妃は後宮で臥せっていて、王は その看病をしている』などと伝えていたとしても、後宮付きの女官である彼女達は そうではない事実を知っている。
後宮には 王も王妃もいない、そうと判っていただけに 不在だった王妃と鉢合わせた驚きは深かった。
《 そうね、あの状態では いろいろ無理だった筈だわ。》
エスファニア王国へ出向く前に 執務室で再会したクランツは、精神的にも肉体的にも消耗の激しい状態だった。
数日とは云え、負った負荷は大きかったのだろう。
これまで 3人で苦心して回してきた執務を、シズとクランツの 2人だけで熟さなければならなかったのだ。
宰相も 王の側近も、疲労は極限に達していた。
ラノイと共にリーゼロッテも戻った事を、後宮付きの女官達に伝え損ねていたとしても 責められはしない。
《 お茶を一服 振舞ってから、出掛けるべきだったかも。》
改めて後悔している間に、2人の女官達は喫驚に因る硬直から解かれたらしい。
「大変! 早くアイシアとシノンに報せてあげなきゃ!」
「ええ!」
2人の女官達は、あっと云う間に駆け去ってしまった。
後には、床に隕ちた盆と 散らばったタオルやシーツ。
そして、呆気に取られて見送ってしまったリーゼロッテが残された。
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暫く後、先程の女官達が アイシアとシノンを連れて戻って来た。
いや、正確には『アイシアとシノンの渺か後から来た』と云うべきか。
2人は、息を切らせ 這々の体で戻って来る事になる。
一方、リーゼロッテが戻ったと聴かされたアイシアとシノンは、王宮を爆走し 一足先に後宮へやって来た。
「良かった! 本当に ご無事で」
先に到着したシノンは、駆けて来た そのままの勢いでリーゼロッテに詰め寄った。
「お妃様ぁああっ」
追ってやって来たアイシアは、直前で留まる事をせず リーゼロッテに抱き付いている。
王妃が姿を見せない理由を『後宮で臥せっている』としていても、それが真っ赤な嘘である事を 彼女達は知っていた訳だ。
何の為に 何処へ往っているのかを知っているだけに、この数日間の気の揉み様は酷かっただろうとも惟う。
だから、この反応も 或る意味 仕方がないと判っている。
だが、まるで 最前線に送られていた家族の帰還を喜ぶが如き勢いに、やや押されてもいた。
《 出掛ける前に、こちらへのフォローをしておくべきだったわ。》
次からは しっかり説明し 安心させてから出掛けよう、と心に決めながら 女官達が落ち着くのを待つ事になった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
ラッケンガルド王国 / 18時半
___視点:後宮付き女官 - シノン=クリーガー___
お妃様が後宮からいなくなって 5日目になる。
北の邨を見舞うと云う目的で こっそりお出掛けになられて、5日。
そう、5日だ。
翌日には戻る予定で お出掛けになったのに、もう5日。
まだ、お妃様は お戻りになられない。
北の邨への逵は瓦礫で封鎖されているそうだから、そのせいで お帰りが遅れているのだろうか。
それとも、もう到着されていて、北の邨の復興の為にと ご自身でも何か爲さっているのだろうか。
いや、幾ら異国の方とは云え、北の邨の者達だって お妃様に復興の手伝いなんてさせられないか。
それとも、何か 緊急の用でも出来たのだろうか。
よもや、王宮の外へ出られて そのまま故郷へ帰ってしまった、なんて事はないだろうか。
王宮には、お妃様を良く惟われない連中も多い。
お妃様に聴こえる様に厭味を言う女官達もいれば、面と向かって言う大臣もいる。
王宮での生活に厭気が差したとしても不思議じゃない。
戻る事を躇われたとしても、責められない。
だが、それなら まだいい。
悚いのは…………本当に惧れているのは、それ以外の場合だ。
もし、何処かで具合を悪くされていたりしたら。
何処かで お怪我をしていたら。
道中で、善くない者達の襲撃に遭っていたら。
次々と、悪いイメージが頭の中を駆け巡る。
どんなに強く頭を振っても 消えてくれない。
《 いや、そんな事はない。》
お妃様は ご無事だ。 絶対 ご無事だ。
だって、あの時 陛下はお妃様を追って出られた。
剣も持っていた様に惟うし、何撰り あの日から 陛下のお姿を拝見していない。
王宮じゃ『お妃様は臥せっていて 陛下は付き添っておられる』事になっているが、勿論 どちらも後宮にいない。
つまり、陛下は、変装でもして お妃様を追われた事になる。
内乱の時は『戦場の鬼神』とまで聘ばれた陛下だ。
道中の善からぬ者共の毒手など、お妃様に近寄らせもしないだろう。
きっと 完璧に護っているに違いない。
《 だから、大丈夫だ。 大丈夫に決まっている。》
何度も自分に云い聆かせるが、不安は霽れない。
此処-数日は 何をしていても落ち着かず、気も漫ろだ。
その所為か、ミスも多い。
これは私だけでなく、お妃様に仕える女官-全員に云える事だった。
《 駄目だな、これじゃ。》
そう惟うも、溜息は止まらない。
私が何度目かの溜息を咐こうとした時、背後から 派手な破壊音が鳴った。
「っ⁉︎ 」
ぼーっとしていた所為か、跳び上がってしまった。
驚いてから、今の音が 陶器を割った音だと惟い當たり、次いで 背後のアイシアが手を辷らせたと気付く。
「大丈夫?」
「え、え…………ごめんなさい」
アイシアは、名家の子女だ。
私なんかと違い、きちんと教育されてきた人だ。
そんなアイシアが こう云った失敗をするのは、初めてだった。
《 少し休ませたほうがいいのかな。》
そう惟ったのは、私だけじゃなかったらしい。
「ちっと休んだら どうだ?」
「そうよ、顔色が悪いわ」
厨房の隅で だいぶ遅い昼食を摂らせもらい その片付けをしていた最中の事だけに、厨房の方達が心配して声を掛けてくれた。
これに、アイシアは 微妙な笑みを泛かべて 首を振っている。
「お妃様が心配なのは判るが、あんたが倒れたら 元も子もないよ」
割った陶器の皿を片付けようとしたアイシアを牽制しながら、配膳係が言う。
その間に、料理人の 1人が掃除用具を取り出し、料理長が アイシアの傍に丸椅子を用意している。
「兎に角、座れ」
熊の様に大きな料理長が それに見合った大きな手でアイシアを座らせた。
強制的に座らせた割に、優しい手付きだった。
此処の人達は、本当に優しい。
王族専用の厨房なのに、この国で最も高貴な方々にお出しする料理を任された 特別な人達なのに、私達-後宮付きの女官にも 優しく接してくれる。
気遣いが伝わったのか、アイシアも竚ち上がろうとはしない。
ほんの少し、ほっとした。
《 これで、お妃様が無事に帰って来てくだされば…………。》
何も言う事はない、と惟った時だ。
ドタドタと走る音が近付いて来る。
全員の視線が 厨房の出入口へ向いたタイミングで、2人の女官が現れた。
私とアイシアの同僚で、同じ後宮付きに配属されている女官達だ。
「はや…………おき、お、おきさ………… 」
彼女達は、右手で扉に掴まり フラフラな軀を支えながら、左手では 懸命に何処かを指し示そうとしている。
大半の者達には 彼女達の意図する攸が判らなかった様だが、私とアイシアは違った。
まず アイシアが座ったばかりの椅子から竚ち上がるなり駆け出し、私は その背を追う様に厨房を出た。
「ま、て…………は や、い」
後方から そんな声が聴こえた気がしたが、停まる事も振り皈る事も出来なかった。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
お妃様の ご無事なお姿を睛にして、すっかり取り殽してしまった私達を しっかり落ち着かせてくださってから、お妃様は 後宮を迹にされた。
付き添いを申し出た私達-4人と共に、まずは 王族専用の厨房に立ち寄った。
お妃様は、何撰りも先に、厨房の面々へ お礼を伝えた。
数日間の不在の間 臥せっている事になっていた為、お妃様の食事は 特別なモノが用意されていた。
勿論、お妃様が それを睛にする事はなかったが、心遣いに感謝を述べられていた。
料理長を肇めとする厨房の者達は 恐縮-頻りだったが。
それから、お妃様は茶を 4っ用意された。
「では、お願い致します」
「「「 はい、お妃様 」」」
アイシア達-3人は、其々が盆を手に 厨房を出て往った。
皆、お妃様が お戻りになるまでとは打って変わって 霽れやかな笑顔を見せている。
ご無事を祈り続ける事しか出来なかったけど、お怪我もなく お帰りになられて ほっとした。
こうして お傍でご用を申し付けていただける事が嬉しくて仕方がない。
きっと、アイシア達も同じだろうと惟う。
私が 手にしている盆を見詰めながら ニヤけている間に、お妃様は 厨房の者達に向き直っていた。
「急な申し出に応じてくださり ありがとうございます。厨房を お貸しいただけて、援かりました」
お妃様は、浅くだが、ゆったりと お辞儀をされた。
こんな些細な事でも 相手への感謝を示される、お妃様は 本当に素敵な お方だ。
だが、これに惶てたのは 厨房の者達だ。
「あっ、いやっっ 頓でもな ぃ、っ ご ごござい、ませ ん」
料理長は、大柄な軀を跼め 厳つい顔を真っ赤にしている。
緊張やら焦りやらからか、普段より悚さが益しているが、それを指摘出来る者はいないだろう。
他の 4人も、初めて間近で見た お妃様の姚しさに魅入り、妃である お方から礼を言われた事に驚き、剰え 頭を下げられて 惶てふためいている。
さっきと変わらない反応だ。
たぶん、他人に気を配る余裕なんかないだろうな。
私達も、最初は そうだったし。
丁寧な言葉遣いも、雍かい笑顔も、こう云った 細やかな心遣いも、仕える側に向けてくださる。
本当に分け隔てなく、下々の者にまで、惜しげもなく。
《 なんて勿体莫い事だろう。》
お妃様は、こんなにお姚しくて こんなにお優しくていらっしゃる。
このお方なら もっと大国の、もっと凄い相手にだって嫁げるだろうに。
故郷でもない、こんな吹けば飛ぶ様な小国の 恐怖の象徴の様な陛下に嫁ぐなんて凄い。
だけど、1番 凄いのは陛下だ。
こんな お方を捜し出して、妃に択ぶなんて。
そして、こんな条件の悪い国に お妃様を繋ぎ留めておけるなんて、本当に凄い。
きっと 陛下にしか出来ないだろう。
逆に、あの陛下の お傍にいるのも、お妃様にしか出来ない事だろうし。
《 あんなに悚いのに。》
陛下は 老若男女が見惚れる美貌の男性だ。
お妃様とは違ったタイプの美形でいらっしゃる。
お妃様-相手に微笑まれている時は そうでもないが、お妃様が お傍にいらっしゃらない時など 近寄れもしない程だ。
戦場の鬼神にして、冷酷無比な 血の通わぬ王。
そう囁かれるくらい 悚いお方だ。
実際に 闘っている陛下を睛にした事はないのに、納得してしまうくらいだ。
まぁ、そんな陛下の許へ これから邀うんだが。
《 お妃様と ご一緒だし。》
悚い目には遭わないだろう。
そんな事を考えながら、一揃えの茶器を載せた盆を手に 厨房を出た。
ゆっくりと進む お妃様の背を追う様に、執務室へ邀う。
5階建の建物の階段を陟り切り 執務室へ入ると、其処には陛下がおられた。
陛下しかいらっしゃらなかった、と云うべきか。
いつも共におられる 側近様も宰相様も補佐官様も 姿が見えない。
《 凄い、お妃様の仰有った通りだ。》
厨房で、お妃様は 茶を4っ用意された。
そして、その内の3っを シズ様達の許へ届ける様 申し付けられた。
アイシア達が別行動なのは その為だ。
恐れながら、私は 陛下の担当となった。
シズ様の許へ単独で邀うなど無理だし、クランツ様達の部屋の場所は 日の浅い私では判らない。
消去法で こうなった次第だ。
《 役得だ。》
そんな事を考えていた時間が、私にもあった。
往き先に 陛下がいる事は判っていたが、その陛下に 顔と名前を憶えられている事など知らなかった所為だ。
視線を向けられ 名前を聘んでいただけて、跳び上がる程 恐縮する未来など、この時の私には知る由もなかった所為だ。
つまり、何が言いたいかと云うと…………。
一瞬で、寿命が 10年くらい縮む体験が待っていた。
ラノイを登場させる予定だったのですが、無理でした。
次回は ちゃんと仕事をしている王様を書きたく思います。
勿論、予定は未定ですが。
繁忙期ニ 負ケツツ 頑張リマス。




