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森の妖精と 戒縛の王  作者: にくきぅ


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44/60

44__エスファニア王国の魔法使い 4

大変、たいっへん お久しぶりでございます。

半年近くぶりの投稿でございます。

もう 誰も展開を憶えていないでしょうが、ラノイと離れてエスファニア王国へ戻ったリーゼロッテの前に 北の隣国の王達が現れる………と云う展開から始まります。

全編 エスファニアが舞台になっております。


では、どうぞ。


  エスファニア王国 / 13時半


___視点:ファイセル王国-従者 & フェイアル王国-従者___


遠く離れたラッケンガルドの王宮で、ラノイが フォーク片手に溜息を咐(つ)いている頃。

エスファニア王城の応接室に、北の国々からの使者が闖入した。

使者と云っているが、早い譚(はなし)が ファイセル王国とフェイアル王国-其々(それぞれ)の王達である。



  「「 迎えに来たぞ、アシュリー!」」



2っの国の王達は、入るなり 声高に そう言った。

彼等は、廊下を先導していた侍従官達をも置き去りにする速度で、此処までやって来た。

更に、応接室の前にいた侍従官達が 応接室のドアを開けるのを待たずに、躬(みずか)らドアを敞(ひら)いている。

当然、国境近くまで迎え出た 伯爵と男爵に因(よ)る制止も無視しての事だ。

彼等は 大国の王ではあるが、同時に『招かれざる客』でもある。

通常なら 案内を伴(ともな)い、扉の前で入室の許可を待たなければならない立場である。

侍従官が 2国の王達の到着を 応接室で待つ自国の王(フェイトゥーダ)に報(しら)せる間も与えないなど 有り得ない。

充分 乱入と評するに値する行為だった。

これに、エスファニア王-フェイトゥーダと その王妃(つま)-フローリェンは、驚きの余り 睛(め)を丸くしている。

フローリェンの逆サイドに竚(た)っているミネルヴァと、部屋の入口近くにいた秘書官は 表情を無にしていた。

これに気付いたのは、視線の先の来訪側の王達ではなく この2人に付き添って来た従者達だった。

其々(それぞれ)の王を追って駆けて来た彼等は、室内に漂う冽々なる空気に中(あ)てられ 硬直した。

北の国々の王達に引き連れられてエスファニア王国へ入ってしまった彼等は、啻(ただ)でさえ恐縮し 恐々としていたのだ。

それは、アルハザード伯爵とハーシュフェルダー男爵が迎え出た事で 更に益(ま)していた。



  __ エスファニアは〔森の妖精(イリフィ)〕の故郷である __



これが どう云う事か判らない愚者はいない。

あ、いや、訂正しよう。

そう云う愚か者は従者には(・・・・)いない。

その為、彼等は 其々(それぞれ)の王に執拗(しつこ)く進言していた。

礼節を缼(か)く者を あの妖精(ディナ・シー)は憙(この)まない、と。

せめて、謁見の場では 相手へ敬意を以(もっ)て何撰(なによ)りも まずは謝罪をしてほしい、と。

此処に至る道中で、繰り皈(かえ)し 繰り皈(かえ)し、ウザがられる程に進言していた。

全く功を奏さなかったが、出来得る努力をしてきたのだ。

その結果が これである。

最早(もはや) 綜(すべ)てが手遅れであると察するに剰(あま)りある状況である。



《《《 こンの莫迦(ばか)王がーーーーっ!!! 》》》



顔面蒼白になりながらも 声にならない絶叫をあげ、応接室の手前で硬直している。

従者達の表情には、絶望が泛(う)いていた。

最早(もはや)、表情を取り繕うとか感情を隠すと云った事が出来ない状態なのだろう。



  〔森の妖精(イリフィ)〕の不興をかえば

   国など簡単に滅ぶ。



脅しではない言葉を用(もち)いてした道中の苦言は、全く功を奏さなかった様だ。

この現実を前にした従者達は、応接室に面した廊下に膝から垉(くず)れ隕(お)ちた。




   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽




  同国 / 同刻


___視点:エスファニア王国 公爵夫人 - ミネルヴァ=レイセル=ランサマン___


柔らかい絨毯の上に膝から垉折(くずお)れ脱力をしている従者達の心情など知ろうともせずに、2国の王達は 眉を寄せ 応接室の中を見回した。

「アシュリー!」

「アシュリー?」

2人の王は、啻(ただ)-只管(ひたすら)に 1人だけを捜している。

一途と云えば聴こえは良いが、突然の訪問についての謝罪やら 容認してもらった事への感謝やらと云ったモノの莫(な)い、横柄な態度だ。

おまけに、挨拶の一言すらない。

形式的な物だとしても、述べるべき口上と云うモノがあって然(しか)るべき攸(ところ)なのに、だ。

其処には、王侯貴族を前にしていると云う気遣い(・・・)がないのだ。

これを眼にした 少女姿のリーゼロッテは、半眼になっていた。



   ✳︎   ✳︎   ✳︎   ✳︎   ✳︎



〔幼き妖精(ファニーナ)〕の姿になっている彼女は、入口-近く 扉の脇に控える秘書官の隣に竚(た)っていた。

この場に於(お)いて 非常に眼立(めだ)つ筈の 10代前半の少女にも、2人の王達は気付かない。

「アシュリーが此処にいると聴いて、態々(わざわざ) 迎えに来たのだが」

2人の良く似た王達は、乱入した応接室に揃う面々の中に目的の人物がいない事を確かめ 晳(あか)ら樣(さま)に顔を顰(しか)めた。

この無礼千万な隣国の王達に、ミネルヴァの表情は 撰(よ)り無に近いモノとなった。

内面の感情を扼(おさ)えようとして やり佚(す)ぎたのではない。

この無礼な客人(まろうど)達には 愛想笑いすら泛(う)かべる必要なし、と判断しての事だった。

そうした対応を決めると同時に、ミネルヴァは 幼い姿の魔法使いの言動に納得していた。


《 あぁ、そう………そうだったのね。》


久しぶりのティータイムでの会話が脳裏に蘇る。

あの時は らしくない(・・・・・)と惟(おも)った言葉さえ、今は 納得させられていた。

辛辣な評価も 過激かと惟(おも)われた決意にも、今は賛同している自分がいるのだ。

『やっぱりファニーナは正しい』のだと再認識すると共に、1ッ 認識違いをしていた事にも気付いていた。


《 だから、昼食はファニーナが作ってくれるのね。》


ミネルヴァは、ひっそりと息を咐(つ)いた。

本日の昼食は〔森の妖精(イリフィ)〕の手作りが振舞われる予定である。

これは、本人が提案した事だった。

躬(みずか)ら昼食を作る事・それに伴(ともな)って 昼食の時間が遅くなる事は、提案と同時に報(しら)されていた。

当初、昼頃に到着する来訪者達を迎えて 会食でもするのかと惟(おも)っていた。

北の2っの国とは 先王を通じて縁があると聴いたせいでもある。

現王達は 中々 難のある人物達だとも耳にしたが、それでも 形式的な会食くらいはするのだろう、と。

そして『こちらは充分に もてなした』と云う既成事実の元、来訪者達を追い帰す(・・・・)のだろう、と。

しかし、2人の王達を前に 解釈が間違っていたと悟った。



  最高にストレスの縣(かか)る来訪者達の

  相手をした後だからこそ、

  最高に美味しい食事を提供する。



これが、魔法使いの気遣いと優しさだったのだと察したのだ。



   ✳︎   ✳︎   ✳︎   ✳︎   ✳︎



当初は、どう云った経緯だったとしても 自国へ訪問された以上 もてなそうと惟(おも)っていた。

国交など莫(な)いに斉(ひと)しく、この先に於(お)いても 特に国交を必要としていなかったとしても。

細々と商人の出入りがある程度の 関わりの薄い国だったとしても。

其々(それぞれ)の王達に 譽(ほま)れとは云えない噂が立っていたとしても。

この国へ来訪したのならば それなりの礼を尽くそう、と。

これは ミネルヴァだけでなく、この王城にいた者達の総意だっただろう。

勿論、リーゼロッテを除(のぞ)くが。



  ___ 身勝手-気侭(きまま)で傍若無人 ___



荒事を憙(この)まない 穏やかな性質の魔法使いに そう言わしめた人物達を前にしては、啻々(ただただ) 納得するばかりだ。

あの時は『少々(かなり) 過激』だと惟(おも)っていたが、今は違う。

自国の王が こう云った人物ではなかった事に 深く安堵する反面、気分は 既に底辺まで下がっていた。


《 確かに これは『魔法を使ってでも追い帰す』に値(あたい)するわ。》


ミネルヴァが 数10分前のリーゼロッテの発言に同意している間に、応接室の入口に 2人の青年が現れた。

1人は ロデュウ=グレン=アルハザード伯爵。

エスファニアの東北に領土を構え、その地を立派に治(おさ)めている青年だ。

もう1人は、セレディン=ラグロス=ハーシュフェルダー男爵。

エスファニア王国の 南東に領土を構え、同時に エスファニア城の侍従長の地位にある青年だ。

度々(たびたび) リーゼロッテの譚(はなし)にあがった、戒縛の仂(ちから)を持つ もう1人の人物である。

尤(もっと)も、本人(セレディン)は その仂(ちから)の存在を知らないし 保持している自覚もないが。

この2人は、若き国王-フェイトゥーダの幼馴染みであり、今尚 信の深い友人でもある。

今回の出迎えに択(えら)ばれたのは、領地の位置も然(さ)る事ながら 不測の事態への対処を含めた意味合いがあった。

そんな2人が、勝手に王城へ踏み込んだ他国の王達よりも 渺(はる)かに遅く登場した。

立派な体格と それに似つかわしい精悍な顔立ちをしているロデュウとセレディンは、敞(ひら)かれたままの扉から中へ入りはしたものの 入口から動かない。

帰還の挨拶も、其々(それぞれ)へ目礼を送る程度に留(とど)めている。

それへ 同じに目礼で返しながら、ミネルヴァは深く同情していた。


《 …………大変だったのね。》


現れた2人の青年達は 無表情だった。

厭倦も嫌悪も顕(あら)わさない代わりに、愛想笑いの欠片(カケラ)も泛(う)かべない。

共にした道中で いろいろと惟(おも)う攸(ところ)があったのだろう事が察(み)て取れる。

然(さ)もありなんと惟(おも)いながら、ミネルヴァは 再びリーゼロッテへ視線を移した。

13歳の小柄で細身な少女の姿をした魔法使いは、扉の傍(そば)に竚(た)ち 微動だにしない。

平凡でありながらも愛らしい顔立ちは 僅(わず)かに不快を滲ませ、冷え切った睛(め)は 2人の王達へと固定されたままだ。

しかし、その灰色の瞳の奥には 匿(かく)す気のない恚(いか)りが点(とも)っている。

これを睛(め)にしたミネルヴァは、不意に 笑みを泛(う)かべた。

静かに渦巻く恚(いか)りに賛同したのでもなく、この後の展開を惟(おも)って 愉快になったのでもない。

リーゼロッテが『歓迎しない』以上 自分達が取り繕う必要もなし、と見切りを付けたのだ。

ミネルヴァは 姚(うつく)しい面(おもて)に 酷薄とも云うべき微笑を貼り付けてから、改めて 不躾な乱入者達を睥睨した。


《 もう、この瞬間に追い帰してもいいのではないかしら。》


早く帰ってくれれば、何の気兼ねもなく 美味しい食事に舌鼓を打てる。

野盗でも見る様な睛(め)を 隣国の王達へ向けながら、そんな事を考えてさえいた。




   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽




  同国 / 同刻


___視点:〔森の妖精(イリフィ)〕- リーゼロッテ=サフィール___


リーゼロッテの視線の温度は、一気に氷点下まで下がっている。

それもこれも、眼の前に現れた 招かれざる客達のせいだ。

「何処(どこ)にいる?」

憮然とした様子で、ファイセル王が問い掛けた。

自国であれば通用した態度も、他国では、特に その国の王の前では 啻(ただ)の無礼だ。

相手が 20歳の実に若い王で、自分達より一回り以上 歳下だとしても、だ。

打ち捨てられても文句の言えないモノだ。


《 今-この瞬間に追い還(かえ)しても、皆様は 快く赦してくださるかも。》


図らずも ミネルヴァと同じ事を考えた直後、フェイアル王が暴言を哇(は)いた。

「隠し立てすると為にならんぞ」

言うに事欠いて これである。

この態度に、遂に リーゼロッテが動いた。

無言で扉の前を離れ 躇(ためら)う事なく、乱入者達の背後に近寄った。

はっきりと恚(いか)りを見せた表情とは裡肚(うらはら)に、その所作は 品のあるモノだった。

すい と2人の王達の背後に寄ると、その腕を掴(つか)んだ。

左右の手で 其々(それぞれ)の王の腕を把(と)り、後ろへ拈(ひね)り上げる。

大した力も入っていない、何の造作もない その動作だけで、2人の王達は 体勢を坍(くず)した。

幾らか 後ろへ引かれたのか、上体を反らした。

その直後、床に打ち付ける形で 両膝から垉折(くずお)れる。

そうなって尚、掴(つか)まれた腕は觧(ほど)かれない。

拈(ひね)り上げられた腕の痛みを逃す様に 前傾姿勢になれば『まるで押さえ付けられた罪人』の出来上がりだ。

この場合、まるで(・・・)ではなく そのもの(・・・・)なのだろうが。

一瞬で 床に抑え込まれた2人の王達は 喫驚に息を飲んだ。

それでも、拘束から遁(のが)れようと 抵抗をみせる。

「っ⁈––––––––––––何をする⁉︎ 」

「無礼なっ」

ファイセル王とフェイアル王は、呀鳴(がな)る様に言いながら振り皈(かえ)る。

両膝を付き 前屈みになった2人を、たった一本の腕で抑えている人物の姿を 恚(いか)れる瞳で振り仰いだ。

直後、2人の睛(め)に驚愕が泛(う)かんだ。

自分達を抑え 洌(つめた)く睥睨している、10代-前半の少女を 言葉もなく見上げている。

そんな視線を受けても、魔法使い(リーゼロッテ)の態度に変化はない。

眉一ッ 動かさず、小さく唇を動かした。

「『無礼』?  どちらが、です?」

底冷えのする声に、2人の王達は 惟(おも)わず身震いをした。

だが、同時に 何かに気付いた様だ。



「「 ! 」」



瞠目していた状態から 更に眼を見敞(みひら)き、大きく声を飲んでいる。

強い困惑を俔(うかが)わせる反応にも、リーゼロッテの態度は変わらない。

拈(ひね)り上げている腕も そのままに、言葉を続けた。

「事前に使者を立てる事なく 勝手にやって来ておいて……………何ですか? その態度は」

「え?   ええ⁈ 」

「まずは 名告(なの)ってから エスファニア王に挨拶をし、この度(たび)の樣々(さまざま)な無礼の謝罪をした後(のち)、きちんと訪問の口上を述べなさい」

小柄で細身の少女は、飽く迄(まで)も 毅然とした態度を垉(くず)さない。

それを見て、惟(おも)う攸(ところ)があったのか。

廊下で硬直していた ファイセル王国とフェイアル王国の従者達が、一斉に土下座をした。

端(はな)から 床に両手と両膝を付け打ち拉(ひし)がれていただけに、捷(すばや)い土下座だった。

もう 床に額を擦り付ける程の屈服を示している。

これに、上座にいた エスファニア王-フェイトゥーダと その王妃(つま)-フローリェンが睛(め)を丸くし、公爵夫人のミネルヴァと 秘書官が 口許(くちもと)に密(ひそ)やかな笑みを泛(う)かべた。

扉を護る様に 部屋の入口に竚(た)っていた 伯爵-ロデュウと 男爵-セレディンは、無言で 互いの拳を併(あわ)せている。

廊下にいて 応接室の入口を護っていたエスファニア王国の侍従官達は、小さくガッツポーズをしていた。

其々(それぞれ)、普段ならば 決してしない行動である。

だが、この場で 彼等の態度を謫(とが)める者はいない。

皆(みな)、この闖入者達に惟(おも)う攸(ところ)があったのだ。

然(さ)もありなん、それだけの無礼の数々だったのだ。

寧(むし)ろ、問答無用で斬り捨てられなかった事を感謝してほしいくらいである。

尤(もっと)も、制(おさ)え付けられている2人の王達は、周囲の様子に気付くだけの余裕などなかった。

拈(ひね)られている腕の痛みも忘れて、冷徹に睥睨する少女を見詰めていた。

「 –––––––––––––––………… 」

「ア、ア、ア、ア、アシュリー?」

ぱくぱくと動くだけだった口が やっと言葉を紡いだのだが、この問い掛けは 華麗に無視された。

「それが出来ない様な無作法者だと云うのなら、お国へ還(かえ)らせますよ? 今すぐにでも」

ブレない態度と 軽くない嚇(おど)しに因(よ)って、確信に至ったのだろう。



「「 なーーーーっ⁈ 」」



2人の王達は 大音響で声をあげると同時に、起き上がろうとした。

それは、拘束を解こうとしたのではなく、惟(おも)わずの行動であった。

しかし、魔法使い(リーゼロッテ)には 2人の腕を解放する気はなく、必然的に 痛みで踠(もが)く事となった。

自業自得である。 同情の余地もない。

これは 室内外の者達も同意見らしく、誰からも制止の声はあがらなかった。

其処に、エスファニア・ファイセル・フェイアルの違いはない様だ。

尤(もっと)も、リーゼロッテの関心からは外(はず)れていたらしい。

彼女は、床に制(おさ)え付けられたまま呻いている 2人の駄目人間達から廊下へと視線を向けた。

「あと、貴方達は、一体 何を爲(な)さっていたのです?」

問いを掛けられたのは、ファイセル王国・フェイアル王国-其々(それぞれ)の従者達だ。

絶賛 土下座中で 床に額を付けた状態だったが、糾弾が自分達に向いた事を悟ったのだろう。



  「「「「「「 っ!」」」」」」



6人の従者達は 揃って息を飲んだ。

或(あ)る者は 磨き上げられた床を至近距離で見ながら、或(あ)る者は 固く睛(め)を閇(と)じたまま、声もなく 肩を震わせている。

誰も顔を上げようとしない。

そんな2国の従者達に、更なる質問が掛けられた。

「あれから 随分と経ちますが…………わたしが離れた後、どう云った教育を施していたのでしょう」

穏やかな声が ゆったりとした調子で疑問を零(こぼ)す。

たった それだけの事で、問われた従者達は恐れ悸(おのの)いた。

これ以上ない程に下げていた頭を、撰(よ)り一層 床に擦り付ける者までいる。

勿論、己(おの)れの仕える主人(フェイトゥーダ)への無礼を リーゼロッテが赦す訳もない。

「後(のち)程、詳しく お譚(はなし)をお聴きしたく惟(おも)います。是非 お時間を割いてくださいますよう、くれぐれも お願い申し上げます」

一片(ひとひら)の容赦も与えられないのだと感じ取ったのだろう。

土下座中の従者達は、力なく床に沈んだ。




   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽




  エスファニア王国 / 14時


___視点:エスファニア王国-王侯貴族 5名___


陽当たりの良い談話室(サルーン)に、品の良い笑い声が重なった。

口約通り、リーゼロッテ手作りの料理が陳(なら)ぶ食卓を囲んでの 遅い昼食会だ。

列席するのは、若き国王夫妻と 侯爵夫人・伯爵・男爵の5人。

当たり前の様に、ファイセル王国・フェイアル王国の面々はいない。

通常ならば有り得ない待遇だが、双方に意見を述べる機会を与えずに、リーゼロッテが 彼等を締め出したのだ。

その際の様子を思い出したのだろう。

千切(ちぎ)ったパンを口に入れながら、フェイトゥーダが笑う。

「ファニーナは 大変だね」

「笑い事じゃないぞ、フェイン」

「ええ、そうですわよ? 陛下」

即座に反論したのは、ハーシュフェルダー男爵であるセレディンだ。

彼は、精悍な眉を険しく顰めて、幼馴染を諌めている。

これに同意したのは、ランサマン侯爵夫人のミネルヴァだ。

彼女のほうは、美味しい食事に すっかり気分を解(ほぐ)された様子で、穏やかに微笑んでいる。

あの場で頬に張り付いていた冷笑は、今では その影もない。

「でも、面白い光景でしたね」

そう呟いたのは、サマリア王国から嫁いできた王妃-フローリェン。

供された料理を品良く喰べ進めながら、にこにことしている。

こちらも、応接室での不愉快-極まりない体験の事を引き擦(ず)っている様子はない。

「ああ、笑いを怺(こら)えるのが苦痛だったよ。おかげで、詫びの言葉の一ッも耳に入ってこなかった」

含み笑いで賛同したのは、アルハザード伯爵の ロデュウだ。

彼に至っては、完全に 数10分前の展開を愉しんでいたクチだろう。





応接室で 招かれざる客達と対面して 数分後、北隣の2大国の王達と その従者達の真剣な土下座を見ると云う 珍事件があった。

2人の王達は、やっと解放された腕を祐(かば)いつつも フェイトゥーダ達に数々の無礼を詫びている。

その際 土下座になってしまったのは、直前まで 彼等を制(おさ)え付けていた人物からの無言の威圧を受けた為だろう。

謝意を受けた エスファニア側の面々も『竚(た)ってくれ』とも『顔を上げてくれ』とも言えなかった。

誰もが神妙な顔をしてはいたが、それは偏(ひとえ)に笑いを怺(こら)えていたからにすぎない。

小柄で細身の少女に脅(おび)え 顔色を窺(うかが)う大の大人など、滑稽な構図でしかないのだ。

それが 大国の王達ともなれば、尚更だ。

加えて、多少 訥(ども)りながら詫びの言葉を陳(なら)べた攸(ところ)で、早々に退室を促(うなが)されている。

リーゼロッテは 来訪者達に食事を与えるつもりなどなく、けんもほろろに 東の翼棟へ押し込めた。



  滞在中くらい 水だけでも生きられるでしょう?



そう言った時の リーゼロッテの微笑は実に霽(は)れやかで、来訪者達への対応は 清々(すがすが)しいくらい容赦のないモノだった。

そして、絶望の声をあげかけたファイセル・フェイアル両国の者達を、素気無(すげな)く 東の翼棟へ追いやったのだ。

この東の翼棟が 来賓用であった事は、彼女のせめてもの情けだったのだろうが。




改めて 一連の出来事を思い出して、4人は 再び笑い合う。

そうして 咊(なご)やかに、搬(はこ)ばれて来る食事を愉しむのだった。

ファイセル・フェイアルの王達を どう懲らしめようか、と 随分 悩みました。

いっそ 魔法で打ち据えてやろうか、とか。

結果 肉体言語に訴える事にしましたが、まぁ いいかな、と。

相手は 大国の王様達なんだけど、まぁ 妥当かな、と。

決して、大雪にイラついて 腹いせに書いた展開ではありません。

えぇ、違いますとも。


次回は ラノイを出してあげたいです。

勿論『予定は未定』ですが。

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