38__フォルモーサの姫達 1
お久しぶりです。
余りにも久しぶりすぎて、前話をお忘れだと思います。
幼少期にラノイが隠れ住んでいた温泉地で 偶然 フォルモーサの姫-2人を見掛けたラノイ達は、翌日 その王女達を捜そうとする……そんな流れです。
全編 ラノイの視点になっております。
では、どうぞ。
___視点:〔獅子王〕- ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___
翌日の朝、僕達は 温泉街の外れへ来ていた。
勿論、買い物の為でも 観光目的でもない。
昨日 見掛けた2人に会う為だ。
つまり、フォルモーサ王国の王女-2人に会う為だ。
「捜せる?」
僕は、リリィの背に声を掛けた。
少し前に竚ってるリリィは、小さく頷いて返した。
《 緊張してるなぁ。》
無理もないけどね。
フォルモーサ王国の滅亡を知ってたリリィとしては、あの2人に会うのは 辣いだけだろう。
あの侵略で 沢山の人が死んだ。
その中には、リリィと親しかった人もいた筈だ。
死を暗示する予見を得たのに、それを防げなかった。
リリィは、それを気にしてる。
たぶん、贖罪の気持ちで一杯なんだと惟う。
僕としては、何も出来ないでいてくれて良かったけど。
だって、リリィが無理して あの未来を変えてたら、きっと リリィとは出会えなかった。
あんな沢山の人の未来を変えてたら、リリィも 無事じゃ済まない。
大国に住まう国民-全員の運命を変えるんだ。
絶対に 無事じゃ済まない。
もう どんな代償が発生したか判らないくらいだ。
もしも、侑けた人数分 リリィの寿命が縮む、とかだったら?
そんなの 幾ら魔法使いが長寿でも、死んじゃうくらいだ。
《 もし、リリィに会えなかったら………。》
冗談じゃない、絶対 厭だ。
リリィと出会わずに、リリィを知らないで生きる。
そんなの、今の僕には 考えられない事だ。 考えたくもない事だ。
この 清らかで不器用な女性を 愛しいと想った時から、もう 人生に缼かせなくなってる。
リリィ-無しの人生なんて、僕には苦痛でしかない。
失う様な事になったら、きっと 気が狂う。
《 稀に見る兇王とか、世界史に残る暴君とかになっちゃうかも。》
割と簡単に そうなる未来が予想出来た。
まず被害を受けるのは、シズとクランツだろうなぁ。
でも、真っ先に実害を受けるのは 大臣・高官達だろうけど。
リリィがいなくなったのを いい事に『妃を娶れ』とか言われたら 惨殺しそうだ。
《 そうさせたくなかったら 協力してね。 特にクランツ。》
こんな感じで 僕の思考が脱線してる間に、リリィは 魔法を使ったみたいだ。
気付いたら、周りには 沢山の蝶がいた。
半透明の羽根に 蒼碧い筋の入った、白い蝶だった。
小さい蝶だ、左右の翅の幅でも 5センチはない。
そんな蝶が、地面を埋め尽くす程 留まってた。
一眼で 魔法生物だって判ったけど、余りの光景に 声が出なかった。
小さな蝶が、花に見えたんだ。
大地を埋め尽くす群れが、小さな花々の群生に。
《 …………凄い。》
ラッケンガルドの大地は、何処も荒れてて 植物は尠い。
それでも、国土の北は 大河から水を引き入れられるから、森もあるし 農作物も育つ。
でも、今は 春先だ。 碌な植物は芽吹いてない。
特に この辺りは、北にある〔荒れ地〕から吹き込む冷気が強い。
春先の今時分は、時々 雪も舞うくらいに冷える。
つまり、この時期のラッケンガルドに花畑なんかある筈がないんだ。
いや、この時期じゃなくても、こんな広さの花畑なんか この国の何処にもないんだけど。
《 –––––––綺麗だ。》
蝶達は 地面に留まった状態で、ゆっくりと翅を開閉してる。
その僅かな動きで、仄かな光りが立ち昇ってる様に視える。
僕は、こんなに綺麗な風景を見た事なんてない。
そもそも、僕は こんなに広範囲に咲き乱れる花々を見た事なんてない。
呼吸を忘れるくらい 幻想的な光景だった。
魅入ってる僕は、リリィの存在すら忘れそうになってた。
「捜して」
小さな蝶は、リリィの一言で 一斉に翔び発った。
沢山の白い花が宙に舞い拡がったみたいな……こんな幻想的な光景は 初めて見た。
足許から風が巻き起こって、白い花々を昊へ飛ばした様な光景だった。
小さな旋風を感じたけど、たぶん 微風も起きてなかったんじゃないかな。
羽音なんか聴こえる筈ないのに、沢山の涼やかな音が耳に残ってるくらいだ。
蝶達は、木々の葉を摩り抜けて 四方へ散ってゆく。
見上げた昊は、一面の白から瓶覗色に変わる。
ほんの数秒の事だったと惟う。 僕には、とても長く感じたけど。
「 –––––––––––––………… 」
僕は、蝶が温泉街に散って 見えなくなっても、動けなかった。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
10分後、僕達は 小さな宿へ来てた。
さっきいた場所から そう遠くない小さな宿だ。
此処は 長期の湯治客の為に解放された古い宿で、宿の庭に 小さな離れが幾つか建ってる。
その1っ1っが 湯治客の宿泊場所になってて、他の客と顔を併せずにいる事が可能になってる。
宿のサービスは 最低限で、頼まなきゃ食事も出ないし 部屋の掃除すら自分達でやる方式だ。
《 隠れ住むには最適だな。》
ラッケンガルドでは安全とは云え、あの2人は 亡国の王女達だ。
身の危険が皆無って訳じゃない。
素性が知れれば、良くない思惑があって近付く者がいるかもしれない。
悪い思惑があって、生命を狙ってくる奴だって いるかもしれない。
満足に動けない第一王女の事もある。
それを考えれば、此処を択んだ選択は正しいと惟う。
冷静に考える一方で、僕は 全く別の事に気が付いた。
それは こんな時に考える事じゃない 小さな事で、でも 僕には重要な発見だった。
《 そっか、こんな場所だったら いいんだ。》
他人の睛が尠くて 長閑な環境で、それなりに街にも近い。
或る程度 便利さを残しながら、暢びり寛げる。
此処って、リリィと暢びりするには 最適じゃないか。
王都から近い街に こんな場所があれば、尚 いいね。
勿論、リリィの魔法を使えば隠れ家にだって すぐ往けるけど、彼処は最終手段にしたい。
シズなら、僕の隠れ住んでた場所くらい 本気になれば数日で見付けるだろう。
だから、今回も 長居は出来ない。
だって、見付かっちゃったら 面白くない。
あの隠れ家は、僕とリリィだけが知ってればいいんだから。
その為にも、もっと他に、シズやクランツに見付からない場所って 必要だよね。
これから先は、特に必要だと惟うんだ。
偶には リリィと2人きりになりたいし、その時間を 誰かに邪魔されたくなんかない。
そう考えると、こう云う場所は 好都合なのかもしれない。
部下にも身内にも邪魔されずに、リリィと2人きり………うん、凄く魅力的だ。
首都の近くに ないかな。
《 帰ったら、こっそり探してみよう。》
僕が そんな事を考えてる間、リリィは少し離れた処に佇んでる。
1っの扉の前に竚ったまま、ずっと動かない。
昨日 リリィから聴いた譚を惟えば、当然だ。
『 フォルモーサ王国の滅亡を知っていて
それを 防ぐ事が出来なかった 』
あの時、リリィは そう呟いたけど、あんなの どうにか出来るモノじゃない。
どんなに高位の魔法使いだって、あんな大規模な予見に手出しなんか出来ない。
代価を要求して、予見の ほんの一部を談す事だって不可能なくらいだ。
だって、ほんの一部だけでも 払い切れる代価じゃない筈なんだ。
フォルモーサ王国を 丸々 貰ったとしても、きっと足りない筈なんだ。
その事は、リリィだって ちゃんと判ってる。
譬え 国王であっても払い切れないと判断したから 談せなかったんだから。
でも、どんなに頭では判ってても 罪悪感は打ち消せないんだろう。
銀髪を隠す様に被ってる外套-越しにも、緲かに震えてるのが判った。
《 久しぶり、無事で良かった………じゃ 駄目なのかな。》
そもそも談してないんだから、予見の事なんか すっぱり忘れてさ。
この際、そう云う対応でいいんじゃない?
僕だったら、そうするんだけどなぁ。
でも………うん、リリィには きっと無理だね。
《 不器用だからなぁ。》
並み居る魔人や魔女を斥け続けた 高位の魔法使いなのに、ちっとも魔法使いらしくない。
嘘も方便も 器用に使い、数多の敵を撥ね除けて生きるのが魔法使いなのに、この先 どんなに時間を縣けても 出来る様になる日はこない。
そんな想像をさせるくらい、リリィは 正直な女性だ。
危なっかしく惟うのに、そう云う攸にも惹かれてる自分がいる。
少し前の僕は、誰かに夢中になる日がくるなんて 惟いもしなかったのに。
今の僕は、リリィがいない日々なんか想像もしたくないくらいだ。
《 本当に 捕っちゃったなぁ。》
苦笑いしたつもりだったけど、たぶん 失敗してる。
こんな時なのに、嬉しくて仕方ないんだ。
リリィの辣い心境だって理解してるけど、こんな時に不謹慎だって判ってるけど。
でも、僕は、どんな場所でも どんな状況でも、リリィに関わっていたいんだ。
譬え 何も出来なくても、この不器用な女性を見守っていたい。
もし 哀しい事や辣い事があったなら、僕に縋って泣いてくれていい。
リリィが そうなった時に、いつでも傍にいてあげたい。
でも………これは、本当に 不謹慎な願いだ。
勿論、笑ってくれてるほうが 嬉しいんだけど。
でもでも、リリィが僕に縋り付いて 無防備に泣いてくれてる瞬間って、何とも云えないんだよねぇ。
《 ああ云う状態の事も『母性本能を擽られる』って云うんだろうか。》
ちょっと莫迦な事を考えてる間に、その扉は敞かれた。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
凄く使い込まれた木の扉が 唐突に敞いて、中から 2人の女が出て来た。
古ぼけ 手入れの悪い蝶番が、ぎい と音を発てた事で、明後日の方角へ飛んでた僕の意識も 眼の前に戻された。
幅の狭い扉から出て来たのは、昨日 見掛けた あの王女達だ。
「 ––––––––––––アチェート様、ハルディナ様」
覚悟を決める前に出会っちゃったのかな。
出て来た2人に声を掛けたリリィの背中が 硬直してる。
対して 亡国の第一王女は、捷く身構えた。
フォルモーサ王国の陥落から 数年が経ってる。
身に負ってる怪我が その時のモノなら もう傷口が敞く様な事はないだろうけど、歩行にも困難する程なのは 昨日 見た時に判ってた。
今も、昨日と同じ杖をつきながら出て来たくらいだ。
軽くはない怪我なんだと惟う。
それでも、第一王女-アチェートは 手にしてた杖を剣に見立てて構えをとった。
勿論、妹のハルディナを その背に祐った状態でだ。
意外と捷い行動に驚かされた。
「だ、誰ですっ?」
誰何したのは、第三王女だった。
そんな 警戒と緊張が色濃く現れた声に対して、リリィは無言で竚ってる。
「 ………… 」
何も言わずに、変幻の倆を使った。
リリィは 一瞬で光りに包まれたけど、1秒後には その光りも消えた。
淡い光りが消えた後に現れたのは、小柄で細身の 見た事もない少女だった。
18歳の美女は、12〜13歳くらいの 小さな少女に変現した。
癖のない白銀は 渋茶色に、腰まであった長さは 肩に届くくらいに、ストレートの髪は ふわふわに癖毛になってた。
身長は、僕の肩まであったのが 腹の辺りまで小さくなってる。
絶世としか表現出来なかった美貌は、平均値より やや可愛いくらいの容姿になってる。
これを見た 第一王女-アチェートが、驚愕を泛かべた。
「なっ⁉︎ 」
知り合いの姿だったのか、アチェートは言葉もない程 驚いてる。
「まあ」
息を飲む程 驚いてるアチェートの隣で、第三王女-ハルディナが 驚きながらも笑顔になったのが印象的だった。
「お前か⁈ フェイリーン!」
即座に 衝撃から復活したアチェートが、呀鳴る様に叫んだ。
同時に、手にしてる杖を 横殴りに振り切った。
その睛が、眉が、恚りに釣り上がってる。
ちょっと……いや だいぶ『王女』って感じじゃない。
確か 姫騎士の称号を持ってた筈だけど、何て云うか こう………イメージが。
《 いや、こんなモンかな。》
小さな頃から剣を把り、王女でありながら 一軍を率いた傑物。
僅か20にも充たない手勢で、国土に現れた猛獣の群れを蹴散らしたのが 14歳の頃だとか。
確か、そんな経歴の持ち主だって聴いた記憶がある。
將に『傑物』だ。
《 ………うん、これは リリィと較べちゃ駄目なんだろうな。》
武芸者の多い あの国では珍しい事じゃないんだろうけど、何で王子に生まれなかったんだ? ってくらい、漢らしい。
怪我してても、長年 身に付いた動きってのがある。
足運び・腕の振り方とかは、特に判り易い部分だ。
そう云う動きに至る綜てが、女性のモノじゃない。
隣にいる第三王女は、王侯貴族-特有の洗練された女性の動きなのに。
《 同じ条件で育っても、個人で違うモンなんだなぁ。》
眼の前の遣り取り-そっちのけで、僕は そんな事を考えてた。
「お久しぶりです」
杖に因る横薙ぎの攻撃を軽く躱したリリィは、そう言って 深々と頭を下げた。
ゆったりとした お辞儀は低頭に近かったのに、睛を簒われる程 優雅だった。
でも、どうやら アチェートの癇には障ったらしい。
「頭を下げるなっ、その姿で!」
怒気を匿しもせずに、アチェートが声を荒らげた。
勿論、杖での攻撃も忘れない。
今度は叩き衝ける様に振り下ろしてる。
「アチェート様におきましては、相変わらず 怒りんぼで……… 」
「っ!」
「 ––––––––––––口よりも、手を出すほうが お得意なのですね」
受け答えをしながら攻撃を避けたリリィに、アチェートの舌打ちが浴びせられた。
盛大な舌打ちだった。
うん、この人とリリィを較べちゃ駄目だな。
僕は、こんな失敬な事を 割と真面目に考えてた。
「〈複写〉か⁈ 」
コピー………そう云えば、師匠が言ってたな。
魔法使いの使用する変幻には 制限があるって。
見ただけのモノ・または 見た事もないモノに変幻する事は出来ないって。
複写する倆を使用しながら 対象に觝れる必要があるって。
そうして変幻するのは、完璧な現し身。
対象の身体特徴を完全に模写し、対象の運動能力を有する……それが 俗に変幻と云われる魔法の真髄だって。
勿論、記憶や 内包する魔力は元の魔法使いのままだけど。
変わって、幻倆は 幻を投影してるだけだ。
まぁ、どっちも 僕の眼には半透明に視えちゃうんだけど。
《 ひょっとして、僕の〈複写〉とかも してるのかな?》
この国にいる間なら、使い勝手はいい………とは 言えないか。
僕の姿で 王宮を歩いてたら、無能な大臣とかに捕って 要らない譚をされるかもしれない。
呼んでもないのに綢わり附いて 変に色目を使ってくる女官達に煩わされるかもしれない。
剰え、シズやクランツに捕って 仕事とかさせられるかもしれない。
《 うん、ないな。》
僕なら、そんな面倒な人物に変幻するのは 絶対に御免だ。
もっと目立たなくて、もっと動き易い人物にする。
小鳥になってたほうが、自由に動き廻れそうだし。
惟えば、内乱を治めてから数年、凄く頑張ってきたよね。
碌に休みもなかった……って云うか、休ませてもらえなかったし。
あの2人を出し抜いて出来る事って云えば、偶に城下へ視察に往くくらいだったし。
《 考えてみれば、僕って自由のない生活してたんだなぁ。》
少し乾いた嗤いを零す僕を余所に、フォルモーサの第一王女-アチェートとリリィの会話は進んでた。
3人から 数歩 離れてる僕の存在なんか構う事なく、アチェートは 杖を振り回してる。
「いつの間に〈複写〉した⁈ 」
「初めて握手をした時です」
「何の為にだ⁉︎ 」
「お勍かったので、姿を詭る時 役に立つかと惟いまして」
そう答えたリリィは、ゆったりと エスファニア式の お辞儀をした。
上体を倒す事なく腰を下げる このお辞儀は、西側諸国の所作だ。
僕には新鮮な このお辞儀も、アチェート達にしたら懐かしいモノなのかもしれない。
事実、この時 アチェートは怒り出さなかった。
「実際、エスファニアでは このお姿を お借りしています」
「何ィ⁈ 」
「とても重宝しております、ありがとうございます」
リリィが、また 深々と お辞儀をした。
今度は ラッケンガルド式の、頭を下げる お辞儀だった。
これを見たアチェートの怒気が、一瞬で 膨れ上がった。
いや、今までも怒ってたんだけど 数段 撥ね上がったんだ。
顔なんか 悪鬼みたいで、まるで誰かみたいになってる。
「っ––––––– わたしの姿で頭を下げるなと言っている‼︎ 」
アチェートは、叫ぶより先に リリィに殴り掛かってた。
でも、僕は、直前に受けたショックで 眼の前の光景が見えてなかった。
余りにも長くなりそうだったので、半分に切りました。
結果、いつもより短くなりましたが ご容赦ください。
後半も頑張って書いております。
何とか 今年中に投稿する事が出来たら、と考えております。
もちょっと待っててくださいね〜。T_T




