30__仮初めの妃の役目 3
5日目の夜と、6日目の朝になります。
やっと 6日目になります。
そして、漸く ちょこっと進展が⁉︎ な お話です。
では、どうぞ。
___視点:〔獅子王〕- ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___
宿に戻った攸で、魔法使いは 窓や扉へ視線を向けた。
「さて、ご飯にしよっか」
うきうきとした様子で、ラノイが言った。
これに、魔法使いは 無反応だ。
振り皈れば、銀髪の美女は 窓を見ていた。
其処は、2人が 今 入って来たベランダのある窓だ。
「アシュリー?」
声を掛けるが、彼女は答えず 視線も窓へ向いたままだ。
それから、ゆっくりと部屋の あちらこちらへ視線を回してゆく。
その視線は、どう見ても 穏やかなモノではない。
睨みを利かせている訳ではないが、蒼い瞳の奥に 訒い光りが宿っている。
これを察たラノイは、即座に 状況を把握した。
「誰か 来てたの?」
再度 問い掛けたが、どうやら 聴こえていないらしい。
魔法使いが思案している事柄を察したのだろう。
ラノイの睛も、僅かに険しくなった。
尤も、これは一瞬の事だった。
瞬く間に 元の穏やかな笑みを泛かべると、何気ない様子で 魔法使いに近付く。
「アシュリー?」
「きゃ⁈ 」
彼女が悲鳴をあげたのは、ラノイのせいだ。
若き王は、遠慮なく 魔法使いを抱き締めたのだ。
ラノイは、2人きりで 室内にいる時は、譬え後宮であっても觝れない様にしてきた。
彼女を やたらと脅えさせない為に、と。
だが、今日は 違った。
此処へ来るまでの道中で 馬に同乗していた時、また 北の邨へ翔んだ時など、彼女の近くにいたせいで 箍が外れてきている。
ラノイにとっては無意識の行動だが、魔法使いの反応も 少し変わってきていた。
「誰か来てた?」
「は、はい。その様です」
横から抱き締められ 驚いてはいる様子だが、脅えてはいないらしい。
その証拠に、硬直して震えるには 至っていない。
ラノイの箍が外れかけている様に、魔法使いの警戒心も 解けかけているのかもしれない。
尤も、現在のラノイは この事に気付いた諷ではないが。
「入れない様にしといて正解だったね」
柔らかく腕を回し 横から顔を覗き込んで、微笑み掛ける。
これに、魔法使いは 落ち着いてきた様子で頷いた。
「はい」
留守にしている間に、誰かが この部屋に忍び入ろうとしたのだ。
しかし〈結界〉に因って この部屋を鎖していた為、窓も扉も 敞きはしない。
魔法使いであっても破れない〈結界〉を、魔力を持たない一般人が どうこう出来よう筈もない。
だが、そうと知らない来訪者達は 随分 粘った様だ。
廊下やらベランダやらで悪戦苦闘した末、諦めざるを得なかったのだが。
「これで、襲撃は 夜に限定されたかな」
普通のガラス窓が どうやっても敞かず、傷すら付けられない。
それを前に 睛を白黒させていただろう樣を想像して、ラノイの笑みが深まった。
美女ばりの顔に 上機嫌な微笑を貼り付かせている若き王を、魔法使いが見上げる。
「食事中かもしれませんよ?」
魔法使いの指摘は、有り得るモノだ。
誰もいない街道で 襲って来なかった者達なのだ。
人数で勝ろうとも 慎重な手段を選択し、最も油断する状況下で襲撃しようと考える可能性は高い。
これは、相手が 其処らの雑魚ではないからだろう。
ラノイと魔法使いの、その姚しい容姿に騙される事はなく 用心していると云う事だからだ。
怕らく、最も気が綯んでいる状態の隙を突こうとする。
食事中か 就寝中、この どちらかに絞られたと惟われる。
ラノイにも、それは判っているのだろう。
すぐに、むっとした表情に切り替わった。
「それは、礼儀がなってないなぁ」
気の抜けた声で そう言うと、僅かに 抱き締める腕に力を込めた。
「食後の運動になると 良いのですが」
いつ襲撃されようと 敗ける要素はないが、食事中となると 余り歓迎出来ない。
これは、ラノイも 同意見だった。
「そう願うよ」
そんな譚をしながら、ラノイは 腕を解いた。
「ご飯 喰べに往こう」
娯しそうに そう言って、魔法使いの手を把った。
そして、そのまま 部屋を出る。
この宿では 夕食と朝食の提供があるのが一般的だが、チェックインの際 どちらも断っていた。
宿の 1階にはレストラン バーもあり、部屋で食事を摂らない宿泊客も多い様だ。
不思議に惟われる事なく、彼の申し出は 受け入れられた。
魔法使いは、反論も異論もあげなかった。
そう、2人は、端から 襲撃し易い状況を作る事にしていたのだ。
ラノイは、魔法使いを伴って 階段を降りる。
その間も、手は綰いだままだ。
綰いだ手から 緲かに戸惑いの様なモノが伝わってきたが、ラノイは 気付かなかったフリをする。
先を歩きながら、握った手に力が入らない様 細心の注意を払っている。
彼は、途中から気付いたのだ。
怕らく、魔法使い-本人も気付いていないだろう変化に。
故に、込み上げてくる歓びを噛み締めつつ、表に出さない様 必死に押し殺しているのだ。
彼女が 自分の変化に気付いたら、この距離も 戻ってしまう。
いや、下手をしたら 撰り離れてしまう。そんな気がするのだ。
直感でしかないが、ラノイは これに随い 細心の注意を払うと決めたのである。
《 大好きだよ、アシュリー。》
いつでも こうして歩きたい、と願いながら 細い手を引いて階段を降りた。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
宿の 1階は、酒場と レストランが混在した様な店になっていた。
陽が暮れたばかりの時間だったが、レストランには 多くの客がいた。
更に奥にある バーのカウンターには、早くも酔客がいた。
その為だろうか、ラノイは 食事が出来る店を探そう、と 言い出した。
他の利用客が多かった事と 既に酔客がいた事が、主な理由だ。
此処に襲撃者達が来る可能性は尠いと惟われたが、万が一と云う事もある。
また 酔客に暴れられるのも、鬱陶しい。
況してや、魔法使いの美貌が眼に留まり 搦まれては面倒だ。
いや、正直に云えば そんな可能性を考えるだけで肚が立つのだ。
それ故の提案だった。
「はい」
魔法使いからの異論はなく、2人は 暗くなってゆく街へ出た。
この街には、旅の者や 商人が多く訪れる為、それを充て込んだ飲食店も多い。
その為、大通りや それに交差する中央通りには、様々な店が集中していた。
当然、どの店も 賑わっている。
この街の者達は 外食文化に馴染んでいるらしく、旅行や 商人達などではないと判る客も多い。
ラノイは、この辺りを避ける事にした。
2人は、喧騒を避ける様に、中央通りから離れた。
脇道の様な広さの路地へ入り、ぽつぽつと点る灯りを頼りに 奥へ進む。
喧騒から離れた 2人は、何気なく眼線を併せ、小さく微笑み合った。
そして、また 前を見る。
「彼処にしよう」
ラノイが見付けたのは、路地の先にあった 小さな飯屋だった。
「はい」
周囲に飲み屋もない、暗い路地に ぽつんとある店だった。
どう見ても、地元客しか来ない店だ。
そして、間違いなく 常連客しか来ない店なのだろう。
それだけに、2人が入店すると 店員と僅かな客達に どよめきが起こった。
勿論、2人は これを無視して、席を択ぶ。
「尾けて来たね」
通りの見える 窓際のテーブル席に着くなり、ラノイが そう言った。
「人様に ご迷惑を縣ける 不躾な方達ではない様で、ほっと致しました」
敢えて 人通りの尠い逵を通り、人の尠い店を択んだ。
路地に入った時点で襲撃しようと惟えば、幾らでも チャンスはあった。
それでも、尾けて来た者達は 襲って来なかった。
今も、店の様子が遉える位置から 窓越しの2人を見ている筈だ。
窓の外から 妙な視線を感じつつ、ラノイは 会話とは無関係に 微笑した。
「そうだね」
怕らく、宿への帰り逵で 待ち伏せをする予定なのだろう。
時間が深くなれば、この辺りの人通りは 更に疏らになる筈だ。
食事を済ませ 気が綯んでいる攸を襲う計画だと惟われる。
《 宿に帰る前に 片が付くと いいな。》
そんな事を考えていると、店員の 1人が近付いて来た。
ちらりと見れば、その手に メニュー表を持っている。
「 ………… 」
まだ軀が発達し切っていない年齢の店員は、無言で メニューを差し出した。
これを受け取りながら、魔法使いは 雍かい笑みを向けた。
「ありがとうございます」
この直前まで、店員の視線は ラノイへ向いていた。
だが、声を掛けられた事で 声の主を見た。
穏やかな微笑を泛かべている 姚しい異国の女を 間近で、だ。
途端に、店員の顔が上気した。
音が出る程の勢いで 息を飲み、直後は ぷるぷると緻く震えている。
店員は 硬い動きで踵を皈し、出来の悪いカラクリ人形の様な動きで カウンターのほうへ戻って往った。
一言もなく去った若い店員の顔は 真っ赤だった。
《 僕かな? アシュリーかな? 》
どうでも良い事を、どうでも良いと惟いながら 考える。
眼の前の連れも、店員の反応には無関心らしい。
だからこそ、ラノイも 興味を持たずにいる。
そして、置かれたメニューへ睛を向けた。
最初に感じた通り、この店の利用客は 地元の常連ばかりらしい。
その為か、テーブルにも壁にも メニューはなかった。
店員は、奥に仕舞い込んでいたメニューを出して来た と云った攸か。
縒れてもおらず 涜れてもいないのに、陽に焼けて黄ばんでいるのが その証拠だろう。
視線を上げたラノイは、改めて 魔法使いを見詰めた。
テーブルを挟んで 真向かいにいる姚しい女は、メニュー表を見ていた。
この辺りの料理は 初めてなのか、興味深そうに 1っ1っに睛を向けている。
《〔森の妖精〕が、あんなに凄いなんて。》
国境の邨の水源に、魔法使いは 光りを容れた。
何処からか出した 見た事もない花を、その手の中で 光りに変えた。
仮初めの妃となった初日に、ラノイ達の為に淹れた毒消しの茶を作るのに使った方法だ。
しかし、あの時とは 花の種類が違う。
そして、圧倒的に 量が違う。
ラノイ達の時は、ほんの 1房だったが、今日は 小さな花束だ。
其処から創った光りを、水源の泉へ封入したのだ。
泉の底で、光りが きらきらと輝いていた。
《 あれは、きっと 恢復の魔法だ。》
心優しい この魔法使いの性格を考えれば、妥当な攸だった。
感謝の念を懐いていた ラノイの睛に、店内の様子が映る。
ふと 睛にしたのは、離れたカウンター席の客達だ。
この店の常連なのだろう。
観光客や 行商人には見えない彼等は、腰を拈る様にして こちらを見ていた。
視線を辿ると、色白の横顔に向いていると判る。
《 綺麗だもんね。》
簡素な造りの店内に、装飾のないテーブルや 椅子。
其処に座っているのが不自然な程の美女を見詰めているのは、ラノイだけではない。
店にいる 老若男女-綜てが、彼女に見惚れていた。
黒髪に 黒や茶色の瞳をする者が多い この国で、銀髪で蒼い瞳をしている彼女は 相当 眼立つ。
それに、花の様な貌や 華奢な軀付きや 白い肌が合わされば、人の睛を惹くのも 当然だった。
先程の店員へ向けた微笑を睛にしていれば、当然の事だと惟える。
《 綺麗だもんねぇ。》
殊更 嬉しそうに、ラノイは微笑んでいた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___ 交易の街 - 路地裏 ___
飯屋を出て、2人は 暢びりと歩いていた。
入った店の料理は 交易の街の家庭料理が主流だったが、中々 美味だった。
特に、初めて喰べる魔法使いの 緲かに驚いた様な表情や、料理を口にして零される小さな笑みに、ラノイは 満足していた。
上機嫌に 人通りのない路地を歩く。
来た時と同じ様に 手を綰いで歩く2人は、旁眼には 無防備に見えたのだろう。
宿へ戻る逵すがら、数人の男達に囲まれた。
ラノイとしては やっと来たか、と云った気分だった。
そして、それは 魔法使いも同じだったらしい。
特に 惶てた様子もなく、蒼い瞳は 自分達を取り囲む物々しい一団を見渡した。
「何か ご用でしょうか?」
とても冷静に、魔法使いが尋ねた。
「〔獅子王〕の妃 - アシュリーだな?」
襲撃者達は、そう 誰何した。
どうやら、顔は知らず 特徴だけ伝えられていたものと惟われる。
人違いをしない様、何撰り 替玉に縣らない様に、と観察を続けていたのかもしれない。
瞬間的に、ラノイは そう考えた。
「はい」
尋ねた側が驚いてしまう程 素直に、彼女は頷いた。
「 ……… 」
返答は期待していなかったらしく、何人かが 顔を見併せている。
逆に云えば、肯定された事で 彼等の中に疑念が拡がったのだろう。
眼の前にいるのは 本当に〔獅子王〕の妃なのか、と。
ぐるりと囲んだ者達の内 退路を断っている何人かが戸惑っているのが、雰囲気で判った。
尤も、ラノイも魔法使いも 意に介した様子を見せない。
「わたしに、ご用でしょうか?」
何の緊張もなく、彼女は 自分達を囲む者達を見回した。
「 ………恨みはないが、死んでもらう」
正面に竚つ 1人の言葉に、彼女は 緲かな笑みを泛かべた。
「わたしなど戮した攸で、一体 何の得がありましょう?」
率直な疑問ともとれる問いに、襲撃者の何人かが 睛を瞬かせている。
自分達は、暗殺者だ。
そうでなくとも、この状況で 無事である筈がない。
その事は、余程の莫迦でなければ
何処ぞの箱入り娘であっても感じるだろう。
しかし、眼の前の美女は 脅えた様子もない。
この事に違和感を懐いてはいたが、彼女が そうで在れる理由にまでは 考えが及ばなかった。
「〔獅子王〕の妃を 邪魔に惟う方達がいる、と云う事だ」
「それで わたしを戮せ、と?」
これに、返答はなかった。
男達は 手にしていた剣を抜く。
この国の主流になっている 細身で反りのない剣だ。
同じ形の剣が ラノイの腰にもあるが、まだ 柄にすら手を掛けていない。
余談だが、魔法使いは 武器となるモノを携帯していない。
そんな彼女が、臆しもせず 襲撃者達と向かい合っている樣は、異様だった。
「 ……… 」
虚勢を張っている様子がない事で、退路を塞いでいた者達の反応が変わってきた。
警戒すべき相手として、ラノイを注視し始めたのだ。
闘えもしない妃が平然としているのは、
傍の護衛が勍いからだろう。
漸く、そう考えられるに至った様だ。
背後にいる男達に、緊張が趁っているのが伝わってきた。
これに合わせ、ラノイは、魔法使いと背を併せる様に竚ち、背後の敵を警戒している。
尤も、2人共 無形の位で竚っているだけだ。
臨戦態勢には見えなかったのだろう。
警戒しつつも、男達は 油断していた。
そして、気を引き締める暇は 最後まで与えられなかった。
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
___ ラッケンガルド王国-交易の街 - 宿屋の 最上階 ___
___視点:〔獅子王〕- ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___
夜の帳が ゆっくりと明け始め、窓の外の様子が 次第に はっきりとしてくる。
景色は、朝靄が漾う他 何も見えない。
「 –––––––––––––………… 」
ベッドから 軽く上体を起こしたまま、ラノイは ぼんやりとしていた。
曲げた肘を ベッドに付けた状態で、色白の横顔と 銀髪を瞰している。
寝暈けているのか、隣で眠る魔法使いを見ても 反応がない。
《 もう少し、眠ろう。》
朝と呼ぶには早い時間 と云う事だけは、判ったらしい。
ひんやりと洌い空気の中、彼は もぞもぞと布団に潜り込んだ。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:〔森の妖精〕- リーゼロッテ=サフィール___
30分後、今度は 魔法使いが眼を寤ました。
「ん……… 」
普段 彼女が起きる時間より、少し早い時間だった。
浅くなった眠りの中、寝返りを打とうとして 眼が寤めたのだ。
「んぅ……?」
惟う様に動けない、それが 眼寤める切っ掛けだった。
睛を開けるも、眼の前には 白っぽいモノしか見えない。
《 ん? 》
ラッケンガルド王国は、緯度としては エスファニア王国よりも南にある。
国-全体が 山岳に囲まれた高地であるエスファニアとは違い、大凡の街が 標高の低い盆地に在している。
しかし、気象環境は エスファニアよりも厳しい。
夏は 酷暑となり、冬は 極寒だ。
夏は 南の砂漠から吹き付ける乾燥した熱風を浴び、冬は 北の〔荒れ地〕から寄せる寒気に曝される為である。
冬から春に向かう この季節は、昼夜の寒暖差が激しく 朝晩の冷えが強い。
いつの間にか 布団を被って寝ていたのか、と 掛け布団を剥ぐり取ろうとした。
《 ん? 》
動けなかった。
何かに優しく拘束されている感覚に、寝起きの頭が 疑問を懐いた。
そうなってから、何となく軀が重い事や 軀の前面が温かい事に気付く。
《 ん⁈ 》
先程よりも力を入れて、上体を起こす。
ほんの僅かに 軀を起こす事が叶い、自分の状況が見えた。
「っ⁉︎––––––––––––ッッ??! 」
魔法使いは、ラッケンガルド王に抱き締められる形で 眠っていたらしい。
隣で眠る王の腕は、今も 彼女の軀に巻き付いている。
どうして こうなったのか、その記憶が 彼女にはない。
昨夜は この交易の街へ戻り、ラノイと共に 何人かの襲撃者達を撃退した。
その暗殺者達を 街の役人へ引き渡し、王宮へ伝令を走らせるなど 手配をした。
宿に戻ってからは、更なる襲撃に備え 暫く起きている事にした。
《 その後、その後は⁈ 》
男の腕の中で眠る事は、これまでも あった。
極度の疲労に因り 休眠状態に入り、その間 エスファニア王国の男爵 - セレディンに抱き締められていた。
飽く迄も、竚っていた状態から倒れる様に眠り それを抱き止められた後の事だ。
更に云えば、12歳の少女に変幻している時の事でもある。
云う迄もなく、今回と それとは、晣らかに違う。
異性と同衾するなど、人生で体験がない。
《 どうして⁈ わたし っ⁉︎ 》
僅かに上体を起こしたまま、半ば 抱き締められたまま、彼女は硬直していた。
虚空を見据え 微動だにしないが、頭の中は パニックになっていた。
この状況に至るまでの記憶がない と云っても良い。
《 この部屋に戻って、起きていて、それから………それからは⁈ 》
困惑しているせいか、思い出せそうにない。
そうしていると、急に 軀が重くなる。
そして、引っ張られる。
「きゃ⁈ 」
強引に布団の中へ引き戻され、ラノイの腕に 抱き締められる。
「な っ⁉︎ 」
抵抗は 出来なかった。
硬直していたせいと、パニック中だったせいだ。
ラノイの胸許に招き寄せられ、両腕で しっかりと抱き締められている。
《 きゃああぁあっ。》
声にならない悲鳴と共に、全身が 更に硬直する。
「寒い」
撰り一層 抱き寄せられて、心臓が撥ね始めた。
状況を知った時から 鼓動は早かったが、今は その比ではない。
一気に 体温が上がる。
「あぁ、アシュリーは あったかいなぁ」
火照った全身を しっかりと抱き締めての言葉に、魔法使いは 息を飲んだ。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:〔獅子王〕- ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___
横臥したまま 心地良い軀を抱き締めて、ラノイは 魔法使いを見詰めた。
腕の中の彼女は、硬直の余り 緲かに震えている。
赧い顔をした魔法使いの 蒼い瞳は、泪に潤んでいる。
《 こんな事されたの 初めてなんだ。》
そう惟うが、簡単に放せなくもなっていた。
「昨日の事、憶えてる?」
間近から見詰められての問いに、魔法使いは 半泣きで 緲かに首を振る。
「この部屋に戻った攸は?」
今 擱かれている状況に 声が出ないのか。
彼女は、小さく頷くだけだ。
《 か、可愛い。》
薄い夜着-越しに伝わる火照りと 鼓動の早さに、ラノイは 嬉しい気持ちになっていた。
《 こんな諷にしたの、僕が初めてなんだ。》
そう惟うと、軀中を 倖せで充たされた様な気分だった。
「襲撃者を待ってたでしょ? 憶えてる?」
其々 シャワーで汗を流し、その後の事だ。
「アシュリーは、自分が見張りをするから 僕に『先に休め』って言って、ずっと 隣の部屋にいたんだよ」
ラノイは 寝室のベッドに入り、魔法使いは 隣室のソファにいた。
「寝ようと惟ったんだけど」
余りの寒さに、寝付く事が出来なかった。
「だって、布団 洌いんだもん」
ラノイは、寒いのが得意ではない。
王宮では、女官や侍従官達が 温石などで布団を温めておいてくれる。
此処では 希むべくもない事だ。
「だから」
ラノイは、魔法使いを湯たんぽにする事にしたのだ。
ソファに座る魔法使いに 背後から忍び寄り、魔法と 戒縛の仂を揮った。
この譚に、魔法使いが瞠目した。
「そう、ちょっとだけ 魔法が使えるんだ」
ラノイは、曾て 魔法と云うモノを幾つか習得していた。
生来 具えていた戒縛の仂は、その魔法を助長させる。
双方が併せられて〔森の妖精〕の意識を簒う、と云う 荒業が可能になった。
「それでね、こうして……… 」
態と、ぎゅっと抱き締める。
びくっと震えたのを感じながらも、ラノイは 腕を弛めない。
「お陰で 良く眠れたよ、ありがとう」
普段の激務から離れて 良い休養になった、と礼を言うと 魔法使いは 赤面しつつ俯いた。
進展の仕方が 急すぎる気もしますが、その辺りは『ラノイの 鋼鉄の自制心にも、我慢の限度があるのだろう』とか思ってもらえると 嬉しいです(笑)
でも、まだまだ ラノイの『鋼鉄の自制心』は発揮されるでしょう。
いや、これからのほうが 我慢が必要かも(笑)
こう云うのを『じれじれ』と呼んで良いものか……?
イマイチ ワカリマセン。




