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森の妖精と 戒縛の王  作者: にくきぅ


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30/60

30__仮初めの妃の役目 3

5日目の夜と、6日目の朝になります。

やっと 6日目になります。

そして、漸く ちょこっと進展が⁉︎ な お話です。


では、どうぞ。


___視点:〔獅子王〕- ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___


宿に戻った攸(ところ)で、魔法使い(リーゼロッテ)は 窓や扉へ視線を向けた。

「さて、ご飯にしよっか」

うきうきとした様子で、ラノイが言った。

これに、魔法使い(リーゼロッテ)は 無反応だ。

振り皈(かえ)れば、銀髪の美女は 窓を見ていた。

其処は、2人が 今 入って来たベランダのある窓だ。

「アシュリー?」

声を掛けるが、彼女は答えず 視線も窓へ向いたままだ。

それから、ゆっくりと部屋の あちらこちらへ視線を回してゆく。

その視線は、どう見ても 穏やかなモノではない。

睨みを利かせている訳ではないが、蒼(あお)い瞳の奥に 訒(にぶ)い光りが宿っている。

これを察(み)たラノイは、即座に 状況を把握した。

「誰か 来てたの?」

再度 問い掛けたが、どうやら 聴こえていないらしい。

魔法使い(リーゼロッテ)が思案している事柄を察したのだろう。

ラノイの睛(め)も、僅(わず)かに険しくなった。

尤(もっと)も、これは一瞬の事だった。

瞬(またた)く間に 元の穏やかな笑みを泛(う)かべると、何気ない様子で 魔法使い(リーゼロッテ)に近付く。

「アシュリー?」

「きゃ⁈ 」

彼女が悲鳴をあげたのは、ラノイのせいだ。

若き王は、遠慮なく 魔法使い(リーゼロッテ)を抱き締めたのだ。

ラノイは、2人きりで 室内にいる時は、譬(たと)え後宮であっても觝(ふ)れない様にしてきた。

彼女を やたらと脅(おび)えさせない為に、と。

だが、今日は 違った。

此処へ来るまでの道中で 馬に同乗していた時、また 北の邨(むら)へ翔(と)んだ時など、彼女の近くにいたせいで 箍(たが)が外(はず)れてきている。

ラノイにとっては無意識の行動だが、魔法使い(リーゼロッテ)の反応も 少し変わってきていた。

「誰か来てた?」

「は、はい。その様です」

横から抱き締められ 驚いてはいる様子だが、脅(おび)えてはいないらしい。

その証拠に、硬直して震えるには 至っていない。

ラノイの箍(たが)が外(はず)れかけている様に、魔法使い(リーゼロッテ)の警戒心も 解(と)けかけているのかもしれない。

尤(もっと)も、現在のラノイは この事に気付いた諷(ふう)ではないが。

「入れない様にしといて正解だったね」

柔らかく腕を回し 横から顔を覗き込んで、微笑み掛ける。

これに、魔法使い(リーゼロッテ)は 落ち着いてきた様子で頷いた。

「はい」

留守にしている間に、誰かが この部屋に忍び入ろうとしたのだ。

しかし〈結界〉に因(よ)って この部屋を鎖(とざ)していた為、窓も扉も 敞(ひら)きはしない。

魔法使いであっても破れない〈結界〉を、魔力を持たない一般人が どうこう出来よう筈もない。

だが、そうと知らない来訪者達は 随分 粘った様だ。

廊下やらベランダやらで悪戦苦闘した末、諦めざるを得なかったのだが。

「これで、襲撃は 夜に限定されたかな」

普通のガラス窓が どうやっても敞(ひら)かず、傷すら付けられない。

それを前に 睛(め)を白黒させていただろう樣(さま)を想像して、ラノイの笑みが深まった。

美女ばりの顔に 上機嫌な微笑を貼り付かせている若き王を、魔法使い(リーゼロッテ)が見上げる。

「食事中かもしれませんよ?」

魔法使い(リーゼロッテ)の指摘は、有り得るモノだ。

誰もいない街道で 襲って来なかった者達なのだ。

人数で勝(まさ)ろうとも 慎重な手段を選択し、最も油断する状況下で襲撃しようと考える可能性は高い。

これは、相手が 其処らの雑魚ではないからだろう。

ラノイと魔法使い(リーゼロッテ)の、その姚(うつく)しい容姿に騙される事はなく 用心していると云う事だからだ。

怕(おそ)らく、最も気が綯(ゆる)んでいる状態の隙を突こうとする。

食事中か 就寝中、この どちらかに絞られたと惟(おも)われる。

ラノイにも、それは判っているのだろう。

すぐに、むっとした表情に切り替わった。

「それは、礼儀がなってないなぁ」

気の抜けた声で そう言うと、僅(わず)かに 抱き締める腕に力を込めた。

「食後の運動になると 良いのですが」

いつ襲撃されようと 敗ける要素はないが、食事中となると 余り歓迎出来ない。

これは、ラノイも 同意見だった。

「そう願うよ」

そんな譚(はなし)をしながら、ラノイは 腕を解(と)いた。

「ご飯 喰べに往(い)こう」

娯(たの)しそうに そう言って、魔法使い(リーゼロッテ)の手を把(と)った。

そして、そのまま 部屋を出る。

この宿では 夕食と朝食の提供があるのが一般的だが、チェックインの際 どちらも断っていた。

宿の 1階にはレストラン バーもあり、部屋で食事を摂(と)らない宿泊客も多い様だ。

不思議に惟(おも)われる事なく、彼の申し出は 受け入れられた。

魔法使い(リーゼロッテ)は、反論も異論もあげなかった。

そう、2人は、端(はな)から 襲撃し易い状況を作る事にしていたのだ。

ラノイは、魔法使い(リーゼロッテ)を伴(ともな)って 階段を降りる。

その間も、手は綰(つな)いだままだ。

綰(つな)いだ手から 緲(かす)かに戸惑いの様なモノが伝わってきたが、ラノイは 気付かなかったフリをする。

先を歩きながら、握った手に力が入らない様 細心の注意を払っている。

彼は、途中から気付いたのだ。

怕(おそ)らく、魔法使い(リーゼロッテ)-本人も気付いていないだろう変化に。

故(ゆえ)に、込み上げてくる歓びを噛み締めつつ、表に出さない様 必死に押し殺しているのだ。

彼女が 自分の変化に気付いたら、この距離も 戻ってしまう。

いや、下手(ヘタ)をしたら 撰(よ)り離れてしまう。そんな気がするのだ。

直感でしかないが、ラノイは これに随(したが)い 細心の注意を払うと決めたのである。


《 大好きだよ、アシュリー。》


いつでも こうして歩きたい、と願いながら 細い手を引いて階段を降りた。



   ✳︎   ✳︎   ✳︎   ✳︎   ✳︎



宿の 1階は、酒場(バー)と レストランが混在した様な店になっていた。

陽が暮れたばかりの時間だったが、レストランには 多くの客がいた。

更に奥にある バーのカウンターには、早くも酔客がいた。

その為だろうか、ラノイは 食事が出来る店を探そう、と 言い出した。

他の利用客が多かった事と 既に酔客がいた事が、主な理由だ。

此処に襲撃者達が来る可能性は尠(すくな)いと惟(おも)われたが、万が一と云う事もある。

また 酔客に暴れられるのも、鬱陶しい。

況(ま)してや、魔法使い(リーゼロッテ)の美貌が眼に留まり 搦(から)まれては面倒だ。

いや、正直に云えば そんな可能性を考えるだけで肚(はら)が立つのだ。

それ故(ゆえ)の提案だった。

「はい」

魔法使い(リーゼロッテ)からの異論はなく、2人は 暗くなってゆく街へ出た。

この街には、旅の者や 商人が多く訪れる為、それを充(あ)て込んだ飲食店も多い。

その為、大通りや それに交差する中央通りには、様々な店が集中していた。

当然、どの店も 賑わっている。

この街の者達は 外食文化に馴染んでいるらしく、旅行や 商人達などではないと判る客も多い。

ラノイは、この辺りを避ける事にした。

2人は、喧騒を避ける様に、中央通りから離れた。

脇道の様な広さの路地へ入り、ぽつぽつと点(とも)る灯りを頼りに 奥へ進む。

喧騒から離れた 2人は、何気なく眼線を併(あわ)せ、小さく微笑み合った。

そして、また 前を見る。

「彼処(あそこ)にしよう」

ラノイが見付けたのは、路地の先にあった 小さな飯屋だった。

「はい」

周囲に飲み屋もない、暗い路地に ぽつんとある店だった。

どう見ても、地元客しか来ない店だ。

そして、間違いなく 常連客しか来ない店なのだろう。

それだけに、2人が入店すると 店員と僅(わず)かな客達に どよめきが起こった。

勿論、2人は これを無視して、席を択(えら)ぶ。

「尾(つ)けて来たね」

通りの見える 窓際のテーブル席に着くなり、ラノイが そう言った。

「人様に ご迷惑を縣(か)ける 不躾な方達ではない様で、ほっと致しました」

敢(あ)えて 人通りの尠(すくな)い逵(みち)を通り、人の尠(すくな)い店を択(えら)んだ。

路地に入った時点で襲撃しようと惟(おも)えば、幾らでも チャンスはあった。

それでも、尾(つ)けて来た者達は 襲って来なかった。

今も、店の様子が遉(うかが)える位置から 窓越しの2人を見ている筈だ。

窓の外から 妙な視線を感じつつ、ラノイは 会話とは無関係に 微笑した。

「そうだね」

怕(おそ)らく、宿への帰り逵(みち)で 待ち伏せをする予定なのだろう。

時間が深くなれば、この辺りの人通りは 更に疏(まば)らになる筈だ。

食事を済ませ 気が綯(ゆる)んでいる攸(ところ)を襲う計画だと惟(おも)われる。


《 宿に帰る前に 片(カタ)が付くと いいな。》


そんな事を考えていると、店員の 1人が近付いて来た。

ちらりと見れば、その手に メニュー表を持っている。

「 ………… 」

まだ軀(からだ)が発達し切っていない年齢の店員は、無言で メニューを差し出した。

これを受け取りながら、魔法使い(リーゼロッテ)は 雍(やわら)かい笑みを向けた。

「ありがとうございます」

この直前まで、店員の視線は ラノイへ向いていた。

だが、声を掛けられた事で 声の主(リーゼロッテ)を見た。

穏やかな微笑を泛(う)かべている 姚(うつく)しい異国の女を 間近で、だ。

途端に、店員の顔が上気した。

音が出る程の勢いで 息を飲み、直後は ぷるぷると緻(こまか)く震えている。

店員は 硬い動きで踵(きびす)を皈(かえ)し、出来の悪いカラクリ人形の様な動きで カウンターのほうへ戻って往(い)った。

一言もなく去った若い店員の顔は 真っ赤だった。


《 僕かな? アシュリーかな? 》


どうでも良い事を、どうでも良いと惟(おも)いながら 考える。

眼の前の連れも、店員の反応には無関心らしい。

だからこそ、ラノイも 興味を持たずにいる。

そして、置かれたメニューへ睛(め)を向けた。

最初に感じた通り、この店の利用客は 地元の常連ばかりらしい。

その為か、テーブルにも壁にも メニューはなかった。

店員は、奥に仕舞い込んでいたメニューを出して来た と云った攸(ところ)か。

縒(よ)れてもおらず 涜(よご)れてもいないのに、陽に焼けて黄ばんでいるのが その証拠だろう。

視線を上げたラノイは、改めて 魔法使い(リーゼロッテ)を見詰めた。

テーブルを挟んで 真向かいにいる姚(うつく)しい女は、メニュー表を見ていた。

この辺りの料理は 初めてなのか、興味深そうに 1っ1っに睛(め)を向けている。


《〔森の妖精(イリフィ)〕が、あんなに凄いなんて。》


国境の邨(むら)の水源に、魔法使い(リーゼロッテ)は 光りを容(い)れた。

何処からか出した 見た事もない花を、その手の中で 光りに変えた。

仮初めの妃となった初日に、ラノイ達の為に淹(い)れた毒消しの茶を作るのに使った方法だ。

しかし、あの時とは 花の種類が違う。

そして、圧倒的に 量が違う。

ラノイ達の時は、ほんの 1房だったが、今日は 小さな花束だ。

其処から創った光りを、水源の泉へ封入したのだ。

泉の底で、光りが きらきらと輝いていた。


《 あれは、きっと 恢復(かいふく)の魔法だ。》


心優しい この魔法使いの性格を考えれば、妥当な攸(ところ)だった。

感謝の念を懐(いだ)いていた ラノイの睛(め)に、店内の様子が映る。

ふと 睛(め)にしたのは、離れたカウンター席の客達だ。

この店の常連なのだろう。

観光客や 行商人には見えない彼等は、腰を拈(ひね)る様にして こちらを見ていた。

視線を辿ると、色白の横顔に向いていると判る。


《 綺麗だもんね。》


簡素な造りの店内に、装飾のないテーブルや 椅子。

其処に座っているのが不自然な程の美女を見詰めているのは、ラノイだけではない。

店にいる 老若男女-綜(すべ)てが、彼女に見惚れていた。

黒髪に 黒や茶色の瞳をする者が多い この国で、銀髪で蒼(あお)い瞳をしている彼女は 相当 眼立(めだ)つ。

それに、花の様な貌(かんばせ)や 華奢な軀(からだ)付きや 白い肌が合わされば、人の睛(め)を惹くのも 当然だった。

先程の店員へ向けた微笑を睛(め)にしていれば、当然の事だと惟(おも)える。


《 綺麗だもんねぇ。》


殊更(ことさら) 嬉しそうに、ラノイは微笑んでいた。




   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽




___ 交易の街 - 路地裏 ___


飯屋を出て、2人は 暢(のん)びりと歩いていた。

入った店の料理は 交易の街の家庭料理が主流だったが、中々 美味だった。

特に、初めて喰べる魔法使い(リーゼロッテ)の 緲(かす)かに驚いた様な表情や、料理を口にして零(こぼ)される小さな笑みに、ラノイは 満足していた。

上機嫌に 人通りのない路地を歩く。

来た時と同じ様に 手を綰(つな)いで歩く2人は、旁眼(はため)には 無防備に見えたのだろう。

宿へ戻る逵(みち)すがら、数人の男達に囲まれた。

ラノイとしては やっと来たか、と云った気分だった。

そして、それは 魔法使い(リーゼロッテ)も同じだったらしい。

特に 惶(あわ)てた様子もなく、蒼(あお)い瞳は 自分達を取り囲む物々しい一団を見渡した。

「何か ご用でしょうか?」

とても冷静に、魔法使い(リーゼロッテ)が尋ねた。

「〔獅子王〕の妃 - アシュリーだな?」

襲撃者達は、そう 誰何(すいか)した。

どうやら、顔は知らず 特徴だけ伝えられていたものと惟(おも)われる。

人違いをしない様、何撰(なによ)り 替玉に縣(かか)らない様に、と観察を続けていたのかもしれない。

瞬間的に、ラノイは そう考えた。

「はい」

尋ねた側が驚いてしまう程 素直に、彼女は頷いた。

「 ……… 」

返答は期待していなかったらしく、何人かが 顔を見併(みあわ)せている。

逆に云えば、肯定された事で 彼等の中に疑念が拡がったのだろう。

眼の前にいるのは 本当に〔獅子王〕の妃なのか、と。

ぐるりと囲んだ者達の内 退路を断(た)っている何人かが戸惑っているのが、雰囲気で判った。

尤(もっと)も、ラノイも魔法使い(リーゼロッテ)も 意に介した様子を見せない。

「わたしに、ご用でしょうか?」

何の緊張もなく、彼女は 自分達を囲む者達を見回した。

「 ………恨みはないが、死んでもらう」

正面に竚(た)つ 1人の言葉に、彼女は 緲(かす)かな笑みを泛(う)かべた。

「わたしなど戮(ころ)した攸(ところ)で、一体 何の得がありましょう?」

率直な疑問ともとれる問いに、襲撃者の何人かが 睛(め)を瞬(しばた)かせている。



  自分達は、暗殺者だ。

  そうでなくとも、この状況で 無事である筈がない。

  その事は、余程の莫迦(ばか)でなければ

  何処ぞの箱入り娘であっても感じるだろう。

  しかし、眼の前の美女は 脅(おび)えた様子もない。



この事に違和感を懐(いだ)いてはいたが、彼女が そうで在(あ)れる理由にまでは 考えが及(およ)ばなかった。

「〔獅子王〕の妃を 邪魔に惟(おも)う方達がいる、と云う事だ」

「それで わたしを戮(ころ)せ、と?」

これに、返答はなかった。

男達は 手にしていた剣を抜く。

この国の主流になっている 細身で反りのない剣だ。

同じ形の剣が ラノイの腰にもあるが、まだ 柄(つか)にすら手を掛けていない。

余談だが、魔法使い(リーゼロッテ)は 武器となるモノを携帯していない。

そんな彼女が、臆しもせず 襲撃者達と向かい合っている樣(さま)は、異様だった。

「 ……… 」

虚勢を張っている様子がない事で、退路を塞いでいた者達の反応が変わってきた。

警戒すべき相手として、ラノイを注視し始めたのだ。



  闘えもしない妃が平然としているのは、

  傍(そば)の護衛が勍(つよ)いからだろう。



漸(ようや)く、そう考えられるに至った様だ。

背後にいる男達に、緊張が趁(はし)っているのが伝わってきた。

これに合わせ、ラノイは、魔法使い(リーゼロッテ)と背を併(あわ)せる様に竚(た)ち、背後の敵を警戒している。

尤(もっと)も、2人共 無形(むぎょう)の位で竚(た)っているだけだ。

臨戦態勢には見えなかったのだろう。

警戒しつつも、男達は 油断していた。

そして、気を引き締める暇は 最後まで与えられなかった。






   ▼   ▼   ▼   ▼   ▼






 ___ ラッケンガルド王国-交易の街 - 宿屋の 最上階 ___



___視点:〔獅子王〕- ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___


夜の帳(とばり)が ゆっくりと明け始め、窓の外の様子が 次第に はっきりとしてくる。

景色は、朝靄が漾(ただよ)う他 何も見えない。

「 –––––––––––––………… 」

ベッドから 軽く上体を起こしたまま、ラノイは ぼんやりとしていた。

曲げた肘を ベッドに付けた状態で、色白の横顔と 銀髪を瞰(みおろ)している。

寝暈(ねぼ)けているのか、隣で眠る魔法使い(リーゼロッテ)を見ても 反応がない。


《 もう少し、眠ろう。》


朝と呼ぶには早い時間 と云う事だけは、判ったらしい。

ひんやりと洌(つめた)い空気の中、彼は もぞもぞと布団に潜り込んだ。




   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽




___視点:〔森の妖精(イリフィ)〕- リーゼロッテ=サフィール___


30分後、今度は 魔法使い(リーゼロッテ)が眼を寤(さ)ました。

「ん……… 」

普段 彼女が起きる時間より、少し早い時間だった。

浅くなった眠りの中、寝返りを打とうとして 眼が寤(さ)めたのだ。

「んぅ……?」

惟(おも)う様に動けない、それが 眼寤(めざ)める切っ掛けだった。

睛(め)を開けるも、眼の前には 白っぽいモノしか見えない。


《 ん? 》


ラッケンガルド王国は、緯度としては エスファニア王国よりも南にある。

国-全体が 山岳に囲まれた高地であるエスファニアとは違い、大凡(おおよそ)の街が 標高の低い盆地に在している。

しかし、気象環境は エスファニアよりも厳しい。

夏は 酷暑となり、冬は 極寒だ。

夏は 南の砂漠から吹き付ける乾燥した熱風を浴び、冬は 北の〔荒れ地〕から寄せる寒気に曝(さぼ)される為である。

冬から春に向かう この季節は、昼夜の寒暖差が激しく 朝晩の冷えが強い。

いつの間にか 布団を被(かぶ)って寝ていたのか、と 掛け布団を剥ぐり取ろうとした。


《 ん? 》


動けなかった。

何かに優しく拘束されている感覚に、寝起きの頭が 疑問を懐(いだ)いた。

そうなってから、何となく軀(からだ)が重い事や 軀(からだ)の前面が温かい事に気付く。


《 ん⁈ 》


先程よりも力を入れて、上体を起こす。

ほんの僅(わず)かに 軀(からだ)を起こす事が叶い、自分の状況が見えた。

「っ⁉︎––––––––––––ッッ??! 」

魔法使い(リーゼロッテ)は、ラッケンガルド王に抱き締められる形で 眠っていたらしい。

隣で眠る王の腕は、今も 彼女の軀(からだ)に巻き付いている。

どうして こうなったのか、その記憶が 彼女にはない。

昨夜は この交易の街へ戻り、ラノイと共に 何人かの襲撃者達を撃退した。

その暗殺者達を 街の役人へ引き渡し、王宮へ伝令を走らせるなど 手配をした。

宿に戻ってからは、更なる襲撃に備え 暫(しばら)く起きている事にした。


《 その後、その後は⁈ 》


男の腕の中で眠る事は、これまでも あった。

極度の疲労に因(よ)り 休眠状態に入り、その間 エスファニア王国の男爵 - セレディンに抱き締められていた。

飽く迄(まで)も、竚(た)っていた状態から倒れる様に眠り それを抱き止められた後(のち)の事だ。

更に云えば、12歳の少女に変幻している時の事でもある。

云う迄(まで)もなく、今回と それとは、晣(あき)らかに違う。

異性と同衾するなど、人生で体験がない。


《 どうして⁈ わたし   っ⁉︎ 》


僅(わず)かに上体を起こしたまま、半ば 抱き締められたまま、彼女は硬直していた。

虚空を見据え 微動だにしないが、頭の中は パニックになっていた。

この状況に至るまでの記憶がない と云っても良い。


《 この部屋に戻って、起きていて、それから………それからは⁈ 》


困惑しているせいか、思い出せそうにない。

そうしていると、急に 軀(からだ)が重くなる。

そして、引っ張られる。

「きゃ⁈ 」

強引に布団の中へ引き戻され、ラノイの腕に 抱き締められる。

「な   っ⁉︎ 」

抵抗は 出来なかった。

硬直していたせいと、パニック中だったせいだ。

ラノイの胸許(むなもと)に招き寄せられ、両腕で しっかりと抱き締められている。


《 きゃああぁあっ。》


声にならない悲鳴と共に、全身が 更に硬直する。

「寒い」

撰(よ)り一層 抱き寄せられて、心臓が撥(は)ね始めた。

状況を知った時から 鼓動は早かったが、今は その比ではない。

一気に 体温が上がる。

「あぁ、アシュリーは あったかいなぁ」

火照った全身を しっかりと抱き締めての言葉に、魔法使い(リーゼロッテ)は 息を飲んだ。




   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽




___視点:〔獅子王〕- ラノイ=アシュリオン=ラッケンガルド___


横臥したまま 心地良い軀(からだ)を抱き締めて、ラノイは 魔法使い(リーゼロッテ)を見詰めた。

腕の中の彼女は、硬直の余り 緲(かす)かに震えている。

赧(あか)い顔をした魔法使い(リーゼロッテ)の 蒼(あお)い瞳は、泪(なみだ)に潤んでいる。


《 こんな事されたの 初めてなんだ。》


そう惟(おも)うが、簡単に放せなくもなっていた。

「昨日の事、憶(おぼ)えてる?」

間近から見詰められての問いに、魔法使い(リーゼロッテ)は 半泣きで 緲(かす)かに首を振る。

「この部屋に戻った攸(ところ)は?」

今 擱(お)かれている状況に 声が出ないのか。

彼女は、小さく頷くだけだ。


《 か、可愛い。》


薄い夜着-越しに伝わる火照(ほて)りと 鼓動の早さに、ラノイは 嬉しい気持ちになっていた。


《 こんな諷(ふう)にしたの、僕が初めてなんだ。》


そう惟(おも)うと、軀(からだ)中を 倖せで充(み)たされた様な気分だった。

「襲撃者を待ってたでしょ? 憶(おぼ)えてる?」

其々(それぞれ) シャワーで汗を流し、その後の事だ。

「アシュリーは、自分が見張りをするから 僕に『先に休め』って言って、ずっと 隣の部屋(リビング)にいたんだよ」

ラノイは 寝室のベッドに入り、魔法使い(リーゼロッテ)は 隣室のソファにいた。

「寝ようと惟(おも)ったんだけど」

余りの寒さに、寝付く事が出来なかった。

「だって、布団 洌(つめた)いんだもん」

ラノイは、寒いのが得意ではない。

王宮では、女官や侍従官達が 温石などで布団を温めておいてくれる。

此処では 希(のぞ)むべくもない事だ。

「だから」

ラノイは、魔法使い(リーゼロッテ)を湯たんぽにする事にしたのだ。

ソファに座る魔法使い(リーゼロッテ)に 背後から忍び寄り、魔法と 戒縛の仂(ちから)を揮(ふる)った。

この譚(はなし)に、魔法使い(リーゼロッテ)が瞠目した。

「そう、ちょっとだけ 魔法が使えるんだ」

ラノイは、曾(かつ)て 魔法と云うモノを幾つか習得していた。

生来 具(そな)えていた戒縛の仂(ちから)は、その魔法を助長させる。

双方が併(あわ)せられて〔森の妖精(イリフィ)〕の意識を簒(うば)う、と云う 荒業が可能になった。

「それでね、こうして……… 」

態(わざ)と、ぎゅっと抱き締める。

びくっと震えたのを感じながらも、ラノイは 腕を弛(ゆる)めない。

「お陰で 良く眠れたよ、ありがとう」

普段の激務から離れて 良い休養になった、と礼を言うと 魔法使い(リーゼロッテ)は 赤面しつつ俯いた。

進展の仕方が 急すぎる気もしますが、その辺りは『ラノイの 鋼鉄の自制心にも、我慢の限度があるのだろう』とか思ってもらえると 嬉しいです(笑)

でも、まだまだ ラノイの『鋼鉄の自制心』は発揮されるでしょう。


いや、これからのほうが 我慢が必要かも(笑)


こう云うのを『じれじれ』と呼んで良いものか……?

イマイチ ワカリマセン。

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