増殖
本が増えた。
最初は、先生に教えてもらった一冊だった。
知らない言葉があった。
調べた。
その言葉の向こうに、人がいた。
その人を知った。
その人が見ていたものを知った。
喰らった。
まだ足りなかった、なぜそう考えたのか。
誰に影響されたのか、何を嫌ったのか、何を守ろうとしたのか。
そこまで知らないと、食べた気がしなかった。
もう一冊。
読む。
知る。
喰らう。
まだ。
その向こう。
また知る。
また喰らう。
最初は、知識が増えることが嬉しかった。
次は、前なら分からなかった話が分かることが嬉しかった。
その次は、相手が何を話そうとしているのか、先に分かることが嬉しくなった。
先生が一つ教える。
持ち帰る。
言葉だけではない。
何を面白がったのか。
何に首を傾げたのか。
誰の名前を出したのか。
どこで話を止めたのか。
配信では、先生が大勢へ落とす言葉を拾う。
会えば、こちらへ向けられた言葉を拾う。
先生は、その二つが、同じ場所へ入っていることを知らない。
持ち帰る。
開く。
中を見る。
その中から出てきたものを、また開く。
一つが十になる。
十の中から、また何かが見える。
まだ満たされない。
本棚が埋まった。
いつ増えたのか、よく覚えていない。
一か月。
三か月。
半年。
時間だけなら、ずいぶん経っていた。
夜。
知らない名前を見つけた。
午前一時十二分。
調べる。
その人の文章を読む。
別の名前が出る。
検索する。
午前一時十六分。
本がある、注文する。
その人が影響を受けたものを知る。
辿る。
午前一時十九分。
読む。
知る。
喰らう。
まだ。
また、その先。
午前一時二十二分。
先生に、
「最近、何してんの」
と聞かれた。
「本読んでます」
「まだ?」
「はい」
「どんだけ読むねん」
笑った。
答えなかった。
数は分かっていた。
言えば、少し引かれる気がした。
先生が一つ話す、十調べる。
次に聞く頃には、先生が言わなかったところまで知っている。
「それ知ってんの?」
「少しだけ」
少し。
便利な言葉だと思った。
先生の本を探した。
すぐには見つからなかった。
何冊もの本の間に、挟まっていた。
取り出す。
付箋。
線。
書き込み。
最初に読んだ時、分からなかったところ。
今は分かる。
そこから伸びていたものも分かる。
その先も。
ページを閉じた。
少しだけ、物足りなかった。
そのことに気づいて、手が止まった。
あれほど何度も読んだのに。
もう。
これだけでは、
足りない。




