効いた
再び、男から誘われた。
以前と似た席だった。
今度は、怖くなかった。
相手の一人が、生まれた土地の話をした。
知っていた。
調べたことがある。
でも、全部は言わない。
「そこって、昔○○が盛んだったところですよね」
それだけ。
相手の顔が変わった。
「よく知ってるね」
「少しだけ」
話し始める。
聞く。
知っていることも、
知らないように聞いた。
相手が嬉しそうに話す。
時々、一つだけ置く。
「それって、○○と関係あるんですか?」
声が少し大きくなる。
「そうそう」
また話す。
聞く。
途中で、気づいた。
男と同じだった。
聞きすぎれば、閉じる。
こちらが全部話せば、終わる。
少し残せば、相手が埋めてくれる。
人は、話したい。
教えたい。
分かってほしい。
認められたい。
先生も、そうなのだろうか。
ふと思った。
先生は、質問すると答えてくれる。
知らないと言えば、教えてくれる。
読んだと言えば、少し嬉しそうにする。
その考えが浮かんだ瞬間、嫌な感じがした。
目の前の人へ笑った。
食事の終わり。
以前、
「頑張ってるね」
と言った人が、
今回は言った。
「あなた、面白いね」
胸が熱くなる。
嬉しい。
本当に。
その人が続けた。
「今度、○○さんにも会わせたいな」
心臓が跳ねた。
「ぜひ」
帰り道。
男が言った。
「今日は、よく理解してましたね」
「本当ですか?」
「ええ。深くなりましたね」
嬉しかった。
男に認められた。
先生から得たものが、ちゃんと残っていた。
新しい人へも繋がった。
全部。
嬉しかった。
その直後。
頭の中に、別の言葉が浮かんだ。
効いた。
足を止めた。
男も足を止め、 振り返った。
「どうかしましたか?」
「いえ」
「そうですか」
男は、 それ以上聞かなかった。
また、 歩き出す。
効いた。
何が。
本が。
先生が。
自分が。
分からない。
でも。
使える。
そう思った自分が、
少し怖かった。




