男
男は四十代半ば。
少し年上。
話し方は穏やかで、 崩れない。
人の名前をたくさん知っているのではない。
人が、 男の名前を覚えている。
会えば寄ってくる。 頼まなくても話が集まる。
男が一言、 「一度会ってみたらどうですか」 と言えば、 席ができる。
それまで集めた糸とは違う。
太い。
一本から、 何本も伸びている。
最初の頃、それが欲しかった。
男も、 気づいていた。
「その方に会ってみたいです」
男はすぐには動かなかった。
「どうしてですか」
答える。
男は聞く。
少し考える。
「今は、まだいいんじゃないですか」
断られた。
しばらくして。
その名前を出さなくなった頃。
男の方から言った。
「来週、お時間ありますか」
「あります」
「以前おっしゃっていた方と会います。ご一緒しますか」
男を見た。
男は笑った。
「今なら、面白いと思いますよ」
試されている。
そう気づいたのは、 もっと後だった。
男は、 欲しがると引く。
追わなくなると、 置く。
全部は渡さない。
少しだけ。
どうするかを見る。
一人紹介された。
調べた。
会った。
話した。
その人から、 別の人へ繋がった。
次に男へ会った時、 報告した。
「もうそこまで行かれたんですか」
少しだけ、 男の目が変わった。
「はい」
「早いですね」
嬉しそうだった。
それから男は、 少し難しいものを置くようになった。
人。 本。 場所。 話題。
答えを聞けば、
「そこは私に聞かない方がいいですよ」
「どうしてですか」
「ご自分で辿った方が、たぶん面白い」
笑う。
持ち帰る。
調べる。
辿る。
次に会う。
男がまた笑う。
「やっぱり、そこまで行きましたか」
その顔が、 少し気に入らなかった。
男は、 育てているつもりなのだ。
でも。
役に立つ。
男の餌だけを見なくなった。
男そのものを見る。
誰に近づく。
誰には近づかない。
誰を誰へ繋ぐ。
どこまで話す。
どこで黙る。
欲しがる相手には、 なぜ渡さない。
離れた相手には、 なぜ自分から近づく。
男は、 人を動かす。
それを覚えた。




