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細い糸

男は女の顔を見る時、


時々、こめかみで視線を止めた。


ほんの一瞬。


傷。


ある日。


男は敢えて聞く。


「そこ、痛むことはありますか」


男は初めて、傷に触れた。


女が、傷に指を添えた。


「もう大丈夫です」


「そうですか」


それだけ。


男は、それ以上聞かなかった。


事故だったのか。

誰がつけたのか。

いつなのか。


女は、何も足さなかった。


なら、聞く必要はない。


男は、調べる人間だった。


傷そのものに、興味があったわけではない。

女が、そこを話さなかったことの方が、少し面白かった。


数日後。


男は、本を一冊置いた。


「これ、読んだことあります?」


男は試した。


女が前に話していた分野だった。


「ないです」


「たぶん好きですよ」


それ以上は、言わなかった。


女は、必ず読む。


そう思っていた。


一冊で終わるとも、思っていない。


そこから、何かを見つける。

辿る。

増やす。


そして。


次に会う頃には、置いた場所を超えてくる。


それを、見てみたかった。


しばらくして。


女と会った。


「この前の本、どうでした?」


「面白かったです」


「そうですか」


男は笑った。


女は、それ以上言わない。


けれど。


話しているうちに、分かった。


一冊ではない。


もう、その先まで行っている。


やっぱり。

少し、嬉しかった。


男は、もう一つだけ別の話題を置いた。


女が反応する。


拾った。


そう思った。


ただ。


一つだけ、分からないことがあった。


女が知識を増やす速度は、以前より速い。

男が置いたものだけではない。


別の場所からも、何かを拾っている。


誰かがいる。


そう考えれば、辻褄は合う。


仕事か。

本か。

人か。


まだ、分からない。


ただ。


男の知らないところから、女へ伸びている糸がある。


細い。


まだ、見えない。


それでも。


何かが、繋がっている。


男はそれが少し、


面白くなかった。


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