罠
男は、 罠を張る。
嘘はつかない。
必要もない。
本当のことを、 相手が別の意味に取れる場所へ置く。
「彼女には、最近いろいろ動いてもらってます」
それだけでいい。
聞いた人間は、 女が男に使われていると思う。
間違いではない。
女は動く。
男のために動くこともある。
ただ。
男も、 女のために動いている。
その部分を、 言わないだけ。
男は、 自分の糸がどこまで届くか知っている。
誰に何を言えば、 どこへ届く。
どこで止まる。
どこから、 別の形になって伝わる。
それくらいは、 分かる。
そして、
女の糸も、 見始めていた。
最初は、 傷だった。
こめかみ。
女は、 隠してはいない。
でも、 自分から話そうともしない。
調べた。
事故。
その先に、 一人の男がいた。
配信者。
少し、 面白かった。
女と配信者には、 何もない。
少なくとも、 見えるところには。
コメントもない。
やり取りもない。
配信者は、 女を知らない。
なら。
切れている、、そう思った。
でも。
女を見ていると、 時々そこが震える。
細い。
男が女へ伸ばしているものより、 ずっと細い。
それでも。
切れていない。
面白くない。
だから。
少し、 触ってみることにした。
「人って、不思議ですよね」
ある日、 女に言った。
「何がですか」
「もう必要のない相手でも、なかなか離れないことがある」
女が、 顔を上げる。
反応した。
「必要がないなら、離れるんじゃないですか」
「普通は」
笑う。
「でも、役割が終わっても残る関係ってあるでしょう」
「……そうですかね」
「ありますよ」
女が、 少し黙った。
何を考えたのかは、 分からない。
でも。
糸は、 震えた。
男は、 別の話を始めた。
追わない。
もう一度触れば、 警戒する。
罠は、 獲物の前で動かさない。
待てばいい。
女は、 自分から動く。




