届かない席
男から連絡が来た。
――今度はいかがですか?
以前とは違う集まりだった。
人数も少ない。
名前を聞いた。
断る理由はなかった。
「行きます」
男が笑った。
「今回はご一緒できてよかったです」
少し胸が痛んだ。
会食は、最初は順調だった。
仕事の話。
会社。
人。
数字。
話せた。
質問される。
答える。
「よく考えてるね」
褒められた。
男も少し嬉しそうだった。
食事が進んだ。
話題が変わった。
最近行った場所の話。
昔の建物の話。
ある本の話。
その土地の話。
料理の由来。
知らない。
分からない。
会話が一つ進むたびに、少しずつ外へ出された。
誰も意地悪ではない。
だから、余計に分かった。
仕事なら話せる。
会社なら。
数字なら。
改善なら。
でも、それを外した自分には、何があるのだろう。
男は普通に話していた。
特別詳しいわけではない。
それでも。
聞ける。
話題を繋げられる。
知らないことが出れば、楽しそうに聞ける。
会話の中に、残っている。
笑った。
相槌を打つ。
時々、質問する。
でも、次へ繋がらない。
帰り際。
名刺を交換した。
「また機会があれば」
言われた。
機会。
便利な言葉だと思った。
帰宅した。
午後十一時三十六分。
先生の配信は、零時からだった。
本を開く。
一ページ。
何も入ってこない。
あの席を思い出す。
笑い声。
知らない話。
声を出す回数が、だんだん少なくなっていったこと。
午後十一時三十九分。
スマートフォンを見る。
男から連絡はない。
本を開く。
同じところを読む。
先生の配信ページを開く。
まだ暗い。
閉じる。
午後十一時四十二分。
男からメッセージ。
――今日は少しお疲れでしたか?
開く。
返事を打つ。
消す。
もう一度。
消す。
画面を伏せる。
午後十一時四十五分。
立ち上がる。
水を飲む。
戻る。
椅子に座る。
先生なら、どう思うだろう。
そう考えた自分に気づいた。
午後十一時四十八分。
本を閉じた。
強い糸を渡された、、、結べなかった。
弱かったのは、糸ではない。
自分だった。
その事実が、、、、、一番、許せなかった。
誰にも追い出されていない。
誰も笑っていない。
誰も馬鹿にしていない。
だから、逃げ道がなかった。
知らなかった。
話せなかった。
残れなかった。
ただ、足りなかったのは、自分だった。
悔しい。
声に出すと、思ったより小さかった。
もう一度。
「悔しい」
それでも、何も変わらない。
スマートフォンを取った。
さっき出た本の名前を検索した。
土地を調べた。
料理を調べた。
建物を調べた。
眠るより先に、埋めたかった。




