一冊
本が届いた。
先生の名前が書いてある。
表紙をしばらく見た。
いつも画面の向こうにいる人間の名前が、手の中にある。
少し不思議だった。
本を開いた。
文字なのに、声がした。
先生の声で読めた。
ここならこう言う。
この言い回しも、先生らしい。
笑った。
最初は、それが楽しかった。
知らない言葉を見つけた。
付箋を貼った。
知らない名前。
また付箋。
分からない部分。
線を引く。
一度読み終えた。
もう一度、最初から読んだ。
三度目。
その日の午後、先生と会った。
本を見せた。
「読みました」
「早ない?」
「そうですか?」
「ちゃんと読んだ?」
「読みました」
「ほんまに?」
先生が本を見る。
付箋が、何本も飛び出している。
「三回」
少し沈黙があった。
「怖」
先生が笑った。
笑った。
嬉しかった。
なぜか。
「ここ、どういう意味ですか」
聞く。
先生が答える。
もう一つ。
答える。
話が本から外れる。
別の名前が出た。
知らない。
覚える。
別の本。
知らない。
覚える。
先生が話している間に、メモを取った。
その夜。
午前零時。
配信を開いた。
先生は、昼間とは違う話をしていた。
コメントが流れる。
何も書かない。
ただ聞く。
知らない本の名前が出た。
配信が終わる前に、一冊注文した。
届いた。
読む。
知らない人が出てきた。
調べる。
その人を知った。
その人が何を見て、何を考えたのかを知った。
まだ足りなかった。
その人が誰の影響を受けたのかを調べた。
また読む。
知る。
取り込む。
一冊から、その先へ。
先生は、
一冊教えただけだった。




