選ばれる
男と仕事の話をすることが増えた。
最初は偶然だった。
困っていたことを、
男が少し知っていた。
「それでしたら、こちらから聞いた方が早いと思いますよ」
言われた通りにした。
上手くいった。
次も。
その次も。
男へ話すようになった。
相談。
そう呼べばいいのかもしれない。
でも、男の答えだけを聞いているわけではなかった。
言葉の中に、名前が混ざる。
その名前の向こうを見る。
男は時々、
「あ、それなら詳しい方を知っていますよ」
と言った。
胸の奥が震えた。
それが、人の名前を聞いたからなのか。
男が、こちらのために思い出してくれたからなのか。
分からなかった。
ある日。
知らない人から声を掛けられた。
「話、聞いてるよ」
首を傾げた。
「何をですか?」
「あなたのこと」
男の名前が出た。
一瞬、言葉が出なかった。
頼んでいない。
紹介してほしいとも言っていない。
男が勝手に、名前を外へ出した。
その夜。
男からメッセージが来た。
――今日、お話しされました?
画面を見た。
――話しました。ありがとうございます。
送る。
すぐに既読。
少しして、返事が来た。
――よかったです。あなたなら大丈夫だと思っていましたから。
読んだ。
もう一度。
あなたなら大丈夫だと思った。
指で文字をなぞった。
必要はなかった。
でも、なぞった。
胸の奥が熱い。
欲しかった人と繋がれたから。
そう思った。
男の向こうへ行けたから。
それだけ。
午後十一時四十二分。
本を開く。
一行読む。
スマートフォンを見る。
何もない。
続きを読む。
同じ一行だった。
午後十一時四十四分。
本を閉じた。
あなたなら大丈夫だと思った。
また思い出す。
どうして、人の名前より、
そちらが残っているのだろう。




