7北辺境伯はいい人だった
アリシアは北辺境伯であるユリウス・ノースライルの執務室に通されると彼から聞き取りを受けた。
「アリシアは元聖女と聞いたがどんな力があるのか知りたい」
「はい、治癒魔法や結界を張る事が出来ます。病人や怪我人の治療や魔物討伐で結界を張った事もあります」
アリシアは自分を売り込もうとは思っていなかったが出来る事は出来ると言いたかった。
「そんなに?だが、そんな力があって王都はどうしてお前を聖女から外した?」
そう聞かれて涙ぐむ方法もあっただろう。でも、自分は悪くないと思うと本当の事が言いたくなった。
「それは王太子がエリーシャと一緒になりたいから仕組んだ罠です。私は聖女としての仕事をきちんとこなしていました。でも、だからと言ってエリーシャが本物だったのならそれでも良いんです。私としては一人で気楽にやる方がいいですし。まあ、私が言う事を信じて貰えるか分かりませんが」
「アリシア、お前やけにものをはっきり言うな。お前は罪人と言うレッテルを貼られたんだぞ。まあ、俺も長い間この地で暮らして来て王都の奴らが自分の都合で真実を捻じ曲げる事は知っているからな。やはりここに書いてある事は嘘なんだな」
アリシアははっきり言ってやけで言ったのだが彼はアリシアの言う事を信じると言った。
「えっ?辺境伯、いいんですか?私が嘘を言ってるかも知れないんですよ」
「嘘を言う奴が信じて貰えるか分かりませんが、などと言うか?もっと必死で訴えるはずだ」
「なるほど、それで私はどのような扱いになるのです?」
「まあ、しばらくはギルドで過ごしたらいいだろう」
「閉じ込めたり、竜神殿に行けとかおっしゃらないんですか?」
「これだから王都の奴らは‥あのな。竜神殿には近づく事すら出来ん。遥か昔はともかく今では樹海の中にあって常に竜毒がある。それに魔物もいつ現れるかも分からんのだぞ。誰もあんな所には近づかん。だから、お前に竜神殿で祈りを上げろなどと言える訳がない。王都の奴らには俺からお前がきちんと働いていると報告しておく。お前は心配せずにその力を使って俺たちを助けてもらいたい」
「命令ではなく、お願いですか?よろしいのですか。私などにそんな扱いをして」
アリシアは考えていた予想を遥かに超えた申し入れに動揺する。
「もちろん、こんな所に治癒や結界の出来る聖女が来てくれたんだ。むしろこっちが頼みたい。お前の力を貸して欲しい。ここは貧しくて危険な所だ。みんなに力を貸して欲しい」
「もちろん、喜んで協力します」
「話はおわりだ。そう言う事ならギルドに行って登録をしてくれ。アリシア、お前が働いた分はきちんと報酬を払う。そして出来ればここでずっと暮らしてくれる事を願う」
「北辺境伯様、だって私は生涯ここにいなきゃならない罪なんですよ。だからどこにも行けるはずないんです」
「そんな事、どうにでもなる。アリシアがある程度ここで働いてくれれば後はどこに行くのも自由だ。その時は俺がお前の身請け保証人でもなってやる。数年は無理だが、その後はお前は自由だ。だからしばらく頑張ってここで暮らしてくれ」
「北辺境伯様、ありがとうございます。私に出来る事は何でもやりますのでどうぞよろしくお願いします」
「ああ、さっきから堅苦しいんだ。俺の事はノースライルとでも呼んでくれ」
「はい、ノースライル様よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。さあ、今日は疲れただろう。父と一緒に帰って休め」
ノースライル様は執務室の扉を開けると父を呼ぶように言った。
*〜*〜*
「アリシア、何か言われたか?」
父が尋ねた。
「いえ、私は偽聖女じゃないと。だから私に出来る仕事をして欲しいと頼まれました。それに報酬も頂けるみたいで。嘘みたいです。私、もっと辛い思いをするのかと思っていましたのに」
「だから言っただろう。ノースライル様はみんなの事を考えてくれる素晴らしい領主様なんだ」
「ええ、それに数年してどこかに行きたくなったら自由にしてもいいとも仰いました。私は死ぬまでここで祈りを捧げろって言われたのに、いいのでしょうか?」
「お前はこれからは自由に生きればいい。散々聖教会の奴らに利用されて来たんだ。何も遠慮なんかしなくたっていいんだ」
「何だか、信じられません」
「まあ、ゆっくり休んでそれからだ。まずはグエンとクレアに会ってくれ。まだかまだかと首を長くして待ってるだろうからな」
「でも、いいのですか?私は一度も会った事もないんですよ」
「それでもお前の爺さんと婆さんだ。遠慮なんかいらない。俺も二人が生きているうちに会って欲しい」
「‥まあ、会いたいですけど、どんな顔をして会えばいいのか困ります」
「もう、何も考えるな。さあ、馬車に乗って、すぐ近くだからすぐに着く」
「えっ?そんなにすぐには」
ノートンは遠慮なしにアリシアを馬車に乗らせると一目散に馬車を走らせた。




