40オディアスぶち切れる
一瞬の出来事だった。
「ここはどこ?」
「アクルート国の王宮だ。目の前に国王がいるだろう?」
国王だった。だが、かなり衰弱して見る影も無いほどで。
よく見れば国王の執務室らしい。
国王は執務机の椅子に座っていた。目の下にはどす黒い隈が出来ていてかなり疲労困憊しているとわかった。
国王は驚いて私達を見て口をポカンと開いたままで固まっていた。髪は乱れ着ている服は何日も着替えていないらしく皺くちゃだった。おまけにエリオット殿下と騎士はまだ彫像の様に固まったまま。床に転がっている。
「おい、国王!」
オディアスが国王に声を掛けると国王は眼を見張った。
「お、お前は誰だ?」
「オディアスだ。500年前ジェロシア王によって封印された竜王だ」
「まさか、北辺境伯から知らせが来ていたが本当に封印が解けたのか?」
「ああ、ここにいる聖女とアリアが導いたんだ。お前らはアリアを騙し俺を騙した。俺の封印したばかりかアリアの命まで奪い宝珠も死んだ聖女に守らせて私が取り戻せない様にした」
「待て、それは500年も前の王のした事。私は関係ない。それに封印が解けたなら良かったではないか。あなたを閉じ込めたことは深く詫びる。どうかグリアダ王国に帰って残りの余生を過ごしてくれ、ついでに我が国に放った魔物をどうにかするように現国王に話をつけて貰えると助かるアクルートは竜王を返す。だから魔物や竜毒をこの国から排除してくれ。そうすればお互いもう関わる必要もない。そうであろう?」
さすがは国王。一瞬の内にどうすれば良いか判断したらしい。
「ふん、勝手な事を。これまでも今でも聖女を良いように利用して散々酷使しておいて勝手な事を言うな。責任は国王や貴族が取ればいいだろう。それにこの国にはもう聖女は生ませない。歴代の聖女を皆苦しませたんだ。それに魔物もここに転移で連れてくる。お前らは魔物の餌食になればいい。それにアリシアがいなくなればまた竜毒も蔓延する。この国は終わりだ。お前らは最後までこの国の最後を見届ける責任がある。ここから動けないよう私がしっかりと固定して置いてやろう」
「そんな、命だけは助けてくれ、私だけではない。領民がいる。年寄りや子供達もいるんだ」
「そんな事知るか!アリアがどんな気持ちだったか。アリアは人間だから私ほど強い気持ちはなかったかも知れない。でも、彼女が利用されて私が封印される事をどれほど苦しんだか。おまけに殺された。お前らは生きている価値もない。そうやって今も聖女を利用し甘い汁を啜る薄汚い蛆虫ではないか!」
オディアスの怒りは留まる事がなかった。
突然、国王の部屋に黒いマントを羽織った騎士が傾れ込んできた。このマントを身に付けているのは王都騎士団魔術騎士だったはず。騎士達は大きな魔道具をオディアスの前に向ける。
「やれ!」
さっきまで項垂れていた国王が自信あり気にさっと手を上げた。
アリシアは何をする気かわからず魔道具を見た。
『大きな扇風機?いや、この魔道具、吸い込んでいる。一体何をするつもり?』
魔道具がオディアスに向かって軋むような嫌な音を立て始める。
キーン。キィーン。キィーン。
機械の出力を無理やり上げているせいなのか耳を塞ぎたくなるほどの音が部屋中に響く。
グハッ!
突然オディアスが苦しみ始めた。喉を掻きむしるようにして床に転がる。
「オディアス!」
「また、私を封印する気か?」
オディアスは魔道具が何をする機械か分かったらしい。オディアスの身体から黒いモヤが魔道具に吸い込まれていく。
「国王、また彼を封印する気なんですか?」
「これ以上竜王の好きにはさせてはおけん!聖女は彼に操られてこのような真似をした。アリシアあなたに罪はない。約束する。竜王を封印してまたこの国の聖女となってくれ!」
「そんな事を出来ません!今すぐ機械を止めて!オディアスを解放して!お願い」
その間もオディアスは苦しみもがく。
『くそ、こんな仕打ち、もう許さん。この国を滅ぼしてやる。お前達を生かしてはおかん!!』
彼は痛みと憎しみで完全に我を忘れている。
『オディアス!オディアス。お願い、私の声が聞こえる?』
『‥‥‥な、何だ?』
『オディアス聞いて、あなたの気持ちはよく分かる。でも、こんな事アリア様は望んでない。あなたにはもっともっと幸せになってほしいって言ってた。だから、もうやめて』
『アリアは殺された』
『ええ、でも、彼が殺したんじゃない』
『でも、血を受け継いだ者だ』
『だったら、私も父さんだってドクさんだって。血を受け継いでいるかも知れない。あなたが国王を殺すならこの国の人間全てを殺さなきゃなくなるって事よ。アリア様はそんな事願ってないと思う』
『いや、もう許さない!!』
オディアスの心は憎しみに満たされている。瞳が怒りの炎が燃え上がるように真っ赤に染まっている。
『そんな事!オディアス、あなたはそんな人じゃない!お願いオディアス!』
アリシアは苦しむオディアスの身体に抱きつく。
胸のペンダントの宝珠が熱くなり緑色の光が二人を包み込む。
『絶対あなたを封印させたりしない。だから怒りをおさめてお願いオディアス』
アリシアは心からそう願いオディアスと身体を密着させる。
オディアスの暴走が止まった。
魔道具は最大限の出力で竜力を吸い上げていたせいか、いきなり吸い込む竜力が無くなったせいかそれとも限界がきたのか、大きな音を立て始めた。
ゴゴゴゴォォォ!
ドゴォーン!!!
魔道具が大きな音を立てて爆発した。
「「「うわぁ!」」」
魔術騎士達はその反動でぶっ飛び、アリシアとオディアスも壁に激突した。
ううっ!
「‥う、んん‥」
オディアスはやっと意識を取り戻すとアリシアが離れた壁際で意識を失っていた。
「アリシア!しっかりしろ」
オディアスは起き上がろうとした。だが、さっきまで竜力を吸い上げられていたせいか思うように身体が言う事をきかない。
「クソッ!アリシア」
その間にエリオットと騎士達が元に戻った。
意識を取り戻したエリオットが一瞬何が起きたのかと思ったらしいが倒れているが意識のあった国王が叫んだ。
「エリオット。アリシアを捕えろ!」
エリオットは国王の声で立ち上がるとアリシアのそばに駆け寄った。すぐに騎士達もアリシアを取り囲む。
魔術騎士達も意識を取り戻しずらりと並ぶ。
「竜王、もう封印は出来なくなった。我が国は貴様の罪は問わん。素直にグリアダ王国に帰るならもう手出しはしない。悪い話ではないはずだ」
「彼女をどうするつもりだ?私に帰れと言う前にアリシアを解放しろ。そうすればチャンスをやろう」
さっきまで石像になっていたエリオットがいきなり勢いずく。エリオットは倒れたアリシアを引きずり上げ身体を盾にしてオディアスに迫る。
「おい、アリシアがどうなっても良いのか?お前はアリシアが大切なんだろう?この女の命が惜しければ言う事を聞いてとっとと出ていけ!」
エリオットの腕がアリシアの華奢な首にかかる。
オディアスの全身がこいつは信用できないとビリビリ伝えてくる。オディアスはエリオットの見据える。威圧で吹き飛ばす事も出来る。だが、アリシアが被害を被ったらと思うとそれも出来ない。
「私が出て行ってその後アリシアをどうする気だ?」
オディアスはようやくそう尋ねた。
オディアスの記憶が蘇る。アリアを人質にされた時に似た感情が押し寄せる。アリシアを助けるためなら何でもする。アリシアを絶対に失いたくない!その為なら私が犠牲になってもいい。
500年前とよく似た状況だった。
アリシアを大切にすると言うなら私がこの国を出ていけば済むことかも知れない。そんな気持ちが湧き上がった。
「そんなの決まっている。俺の妻にする。もちろん聖女としても国の為に働いてもらう。アリシアは俺が大切にしてやる。心配するな!」
『そんな言葉が信じれると思うのか?』
500年前だったなら無条件でアリアを助けれるならと宝珠を差し出した。だが、今はそこまでばかではない。
オディアスの怒りが沸点を超えた。
アリシアが他の男の物になる?アリシアは聖女には戻りたくないと言った。エリオットの婚約者は嫌だと言った。こいつの大切はアリシアをこき使う事に決まっている。
アリシアが抱きついた時オディアスは彼女の持っていた宝珠も自分のの中に取り込んでいた。だから今は完全体になっている。竜力の消失も既に回復して身体中に力が漲っている。
オディアスが動こうとするとエリオットはナイフを取り出しアリシアの首元にそれをあてた。
「アリシアがどうなってもいいのか?」
今度こそオディアスの理性がぶっ飛んだ。
ウオォォォォォ〜!!!
ベキベキベキベキベキ!!
国王の執務室の壁がメキメキと崩れ落ちる。
オディアスは竜体に変化した。一瞬でアリシアを取り返すとアリシアを前脚で抱えて窓から飛び出した。
王宮の外で人間の姿に戻ってノートンの所に転移してアリシアを託す。
「アリシアを頼む」
「竜王さん、心配しとった。アリシアを助けてくれたのか。いつもすまない。それであんたどうする気や?」
「片付ける事がある。すぐに。ここで待っていてくれ」
「分かった。でも、無茶するなよ」
「それは無理だ。多分。いや、こっちの事だ。気にしなくて良い。アリシアを頼む」
「ああ、任せろ!」
オディアスはアリシアをノートンに預けるとまた竜化した。
今のオディアスには大地を操る力があった。オディアスはウエンドの火山に近づく。一気に竜力を火口に注ぐと地底で沸々と煮えたぎったマグマが火口の口を押し上げた。
オディアスはマグマを誘導するように王都に向かわせる。目指すは王宮。火山を駆け下り王宮に真っ直ぐマグマが流れていく。その速度は時速100キロに近いかも知れない。
溶岩はオディアスに操られる様に流れて行く。
人間が逃げ惑うがオディアスは竜力で溶岩に速度を操り人が逃げる間は溶岩の勢いを弱めた。
そうやって王宮に溶岩が達した。王宮はあっという間に炎に包まれて行く。騎士団は全く歯が立たない。
そのまま溶岩は王都を舐める様に進み北辺境を目指した。溶岩が目指すのは樹海の森だった。
樹海の森に到達した溶岩は樹海に棲む魔物達を焼き尽くしそこでやっと溶岩は止まった。
空は溶岩の熱で発生した空気に覆われ一気に雨雲が広がった。雨は溶岩の上に容赦なく降り注ぎさらに水蒸気が大量に発生してまた雨を降らせた。
そうやって三日三晩雨が大地を冷やした。




