39待ち伏せ
みんなでギルドに行って宿を紹介してもらった。その宿は少し変わっていて街外れの少し開けた場所にあって、前世でいえばコテージみたいに人家族が宿泊出来て野宿のように外で食事の用意も出来ると言う施設だった。
「これなら、自分の好きなものが作れるって事よね?」
「ああ、アリシア、食堂で作りたいものがあるって言ってたじゃねぇか。それによぉ聖教会の奴らが宿を調べてやって来るかも知れないしな。まあ、ギルドにはここを教えないように頼んでおいたからな。大丈夫とは思うけどな」
「うん、ありがとう、ドクさんも本当にありがとう」
「何言ってるんだい。おりゃ、アリシアに助けられなかったら今頃どうなってたか知れねぇんだ。そんな礼なんて」
「じゃあ、早速米を洗って来るから」
「おお、気をつけてな」
「もう、すぐそこの水場に行くだけなんだから心配ないって」
アリシアは機嫌良く米を入れ物を持って水場に下りて行った。
すぐ近くに小川が流れていてそこで水を使ったり汲んでいく事になっている。
『何を作ろう。何だかキャンプみたいだ。そうだ、キャンプといえばやっぱりカレーよね。スパイスたくさん常備して合ったし、食堂に見たケジャリにはターメリックが入ってたみたいだったし!』
アリシアは何だかすごく楽しい気分で米を洗っていた。
「アリシア探したぞ!」
「もう、オディアス?ここに来るって言ってなかったじゃない」
アリシアはオディアスが来たのかと思って振り返った。
「エリオット、で、ん、か?」
「ああ、そうだ。探したぞ」
エリオット殿下は騎士団の服を着ていた。顔は髭面で頬がこけてげっそりしていた。
小川は少し斜面で足元がふらついた。
「大丈夫か」
エリオット殿下が思わず手を差し出して私の手首を掴んだ。
「何するんです。放して!」
アリシアは思いっきり腕を振って殿下の手を振りほどいた。
「すまない」
「えっ?」
まず、この男が誤った事に驚いた。知り合ってから一度だって謝られた事はなかった。それにアリシアと呼ばれたのは二度目だった。
「へぇ、殿下でも謝るんですね。それに私の名前を読んだ。いきなり何のつもりです?それにこんな所まで追いかけて来て随分と王都騎士団は暇なんですね」
殿下の後ろに控える騎士が10人ほどいたので、その人達も睨み付けた。
騎士は気まずいのだろう目を逸らした。
「アリシア、お前の言う事は尤もだ。俺はお前を偽物だと言って王都から追放した。エリーシャの言うことを信じて、お前がいなくなって結界は崩壊し始めた。エリーシャの竜力では何の足しにもならなかった。治癒魔法も小さな切り傷程度しか治せなかった。あんな女の言うことを信じてお前を偽物だと言って決めつけた」
「私はエリーシャに何もしておりません。殿下は私の言うことなど聞こうともしなかった。それまで私がどれほど力を尽くして来たかも分かってはいませんでしたよね」
「ああ、その通りだ。すまない。俺がばかだった」
「ええ、ばかですね」
「分かっている。でも、心を入れ替えた。アリシア、君を二度と疑ったりしない。大切にすると誓う。だから俺ともう一度やり直してもらえないか?」
「あら、随分と勝手な言い分ですね。それじゃ、私があなたの元に戻ったとしましょう。でも、私の思っていた事と違っていたと言ってあなたとの婚約は破棄すると言いましょうか?その時は殿下。あなたはそれを受け入れるんですよね?」
「何をばかな。一度交わした約束をそんな勝手な事で覆せるとでも‥あっ」
「あなたの言っている事と同じですが。恐れ多くも一国の王太子が一度口に出した事を簡単に覆せると思われたのですか?私は二度と貴方の元に帰る事はありません。聖教会にもです。聖女には二度となりません」
「だったらどうしてあちこちの領地を救っているんだ?」
「別に聖女でなくても私にはそれが出来るからです」
「だったら王都も助けてくれ。同じだろう?王都の民も苦しんでいる」
「いいえ、王都には聖教会の人もいます。竜力を持った貴族もいます。救おうと思えば出来るはずです。それをしないのは貴族の怠慢としか思えません」
「これほど言っても?」
「無理です」
「そうか、こいつを拘束しろ!王都に連れて行く」
「無理やり連れて行ったって私は何もしません!その前にここで」
アリシアはいざという時の為にとノートンからナイフを持たされていた。もちろん相手を攻撃する為の物だ。
でも、この時のアリシアは完全に頭に血が昇っていたし、何よりエリオットの好きにされる事が腹立たしかった。
「こんな事許さない!」
アリシアは身体を捩って拘束された手を振り解くと腰にあったナイフで自分の胸を突いた。
グサッ!
目の前にオディアスがいて、ナイフはオディアスの手のひらに突き立っていた。
「ちょ、オディアス!ばか、いきなりなんで?!」
「さっきからごちゃごちゃうるさいと思って来てみれば、このハエ達か?お前を煩わせていたのは」
「もう、それどころじゃ、オディアス、その手、ああ、もうすぐ手当しなきゃ」
「こんなのすぐ治る。それよりこいつらどうする?」
オディアスの手のひらの傷が見る見るうちに塞がって行った。アリシアはそれを見て一息吸うと言った。
「二度と近づけないようにして」
「分かった」
オディアスはエリオットと騎士を睨みつけた。彼らは彫像の様にそのままの状態で固まった。
『何これ?えっ?オディアスって?ほら。蛇頭の何とかって言った。あっ、メドゥー○とか言う』
脳内で前世の記憶が混乱している間に。
「行くぞ!」
「行くぞってどこに?」
「国王の前だ。500年前の決着をつける」
『ひぇ、もしかして国中を焼き払うとか?』
アリシアはビクついて尋ねる。
『するかっ!私を何だと思っている』
「それって何する気?」
「民を傷つけたりしない」
「絶対?」
「ああ、絶対」
『もう、なぜかオディアスの言う事は素直に信じれる。竜王で封印され番まで殺された。恨まれても仕方のないこの国なのに、もう、貴方がいい人だって分かってるからしないって言われたら信じてしまうじゃない』
『私は信じれる男かアリシア?』
『えっ?いつの間に。もう、勝手に人の脳内に入ってこないでよ。まあ、貴方のことは信じているのは確かだけど』
『そうか。いいか捕まっていろ!』
『そう言うことは言葉にしてくれなきゃ!』
「分かった。しっかり捕まっていろ!」
ボン!!
一瞬の出来事だった。




