36サウスウエイド家に招かれる
オディアス様がまた大きくなったので街で服を買った。さすがにもう、大人サイズの服を。
そのままギルドに終わった事を報告に行って宿に向かおうとした。
「皆さん。御領主様がお見えになっていまして、ご挨拶をしたいと」
ギルドの職員が申し訳なさそうに言った。
さすがに領主の挨拶をスルーする訳にはいかない。
いきなり場を割るように一人の男が前に出た。
「俺はサウスウエイドの領主セバスチャン・サウスウエイドだ。あなたが聖女か?」
淡い金色の髪、貴族には当然のような整った顔立ち。真っ青な瞳からはエネルギッシュな力を感じ醸し出す雰囲気からは人懐こささえ感じられる。
セバスチャンは若い領主だった。父や怪我で亡くなり思いがけずにこんな早く領主になって、何しろ領主としての威厳など全く皆無の男だった。
あまりの馴れ馴れしい態度に思わず父が一歩前に出た。
アリシアは父の制するようにサウスウエイド公爵に膝を折った。
「これは御領主様、わざわざお越しくださり誠にありがとうございます。それでお話しと言うのは?」
「他でもない、せっかくこの地に聖女様が来られたんだ。我が家でもてなしたい。もう、用は済んだのか?」
「はい、私達は各地の聖女様の参拝をしておりまして、先ほど終わらせて参った所でございます」
「そうか、それではちょうど良かった。さあ、遠慮はいらん。聖女様、名はアリシア様と言ったか?」
「はい、アリシアとお呼びください公爵」
サウスウエイド公爵がアリシアに見惚れてだらし無く口元を綻ばせる。
「ああ、そうだな。アリシア、何か好きな物はあるか?何でもいいぞ。遠慮なく言ってくれ」
アリシアは米が欲しかった。『米があればオムライスだってチャーハンだっておにぎりも作れる』
「領主様、私は米が欲しいです。それで厨房を貸して頂けるとすごくうれしいのですが」
「アリシア、領主様なんて堅苦しい。セバスチャンと呼んでくれ。それで、ああ、米か。あんな物をどうする?」
「はい、食べたい物があるんです」
「まあいい、そんな物ならいくらでも手に入る。この辺りは麦も米もたくさん獲れるからな。とにかく我が家に来てくれ。もちろん同行しているお前らも一緒でいいぞ」
「セバスチャン様、私の父ノートンと弟のオディアス。それに護衛にドクと申します。よろしくお願いします」
「そうか、皆ご苦労様であった。今夜はゆっくり休んでくれ」
「「はい、ありがとうございます」」
オディアスだけが気に入らない顔をして黙っていたがノートンに促され後ろを一緒について来た。
サウスウエイド公爵の屋敷は物凄く豪華だった。入り口には大理石の円柱、玄関に入れば高い天井。そに上にはクリスタルのシャンデリア。それに広間の向こうには螺旋階段もあり、壁には美しい絵画が飾られている。
アリシアも聖女の頃王宮に出入りしていたがこれは王宮を凌ぐ豪華さかも知れない。
「すごいです」
「俺が作った訳じゃないからな。代々先祖が買い揃えて来たんだ。サウスウエイドは肥沃な土地で領地は潤っているからな。部屋に案内させる。夕食の前には呼びに行かせるからそれまではゆっくりしてくれ」
「はい、ありがとうございます」
こうしてアリシア達は豪華な客間に案内され入った事もないようなお風呂に入り、メイドが持って来てくれたお茶やお菓子に舌鼓を打った。
やがて夕食に時間だと呼ばれた。使用人からはアリシアの元にセバスチャンからだと既製品だが、シルクの真っ赤なドレスが届いた。
アリシアはドレスなど着た事もなかったが、使用人に手伝ってもらってドレスを着て髪も結ってもらって夕食に席についた。
ノートンやドク、オディアスもそれぞれ上質な生地の上着とズボンが届いたと聞いてセバスチャンがみんなに服を用意した事を知っていた。
「セバスチャン様、こんなドレスに、他のものにまで衣装をご用意いただいてありがとうございます」
「なに、気にする事はない。既製品でしか間に合わなかったから、でも、アリシア、そのドレスとっても似合っているよ」
相変わらず下心のある眼差しでアリシアを見るセバスチャンに吐き気を催しながらもアリシアは長い間聖女として身につけた仮面を付けて答えた。
「そうですか、私ドレスは初めてなんです。似合っているなんてうれしいです」
「君が喜んでくれてうれしいよ。さあ、食事が冷めないうちに。皆さんもどうぞ」
セバスチャンがやっとオディアス達に目を向けた。あ、そこにいたんだみたいな目で。
オディアスは気に入らないとばかりにわざと椅子の音を立てて座るとマナーも無視してすぐに料理を食べ始めた。ナイフやフォークをガチャガチャ音を立てた。口に入れた物をくちゃくちゃ音を立てながら食べ平気で手掴みで肉を頬張る。
セバスチャンが嫌な顔をするがお構いなしに食べ続ける。
「申し訳ありません。弟はマナーの事など知りませんので」
「まあ、仕方がない。平民なんだからな。ああ、いいよそのままで。好きに食べたらいい。どう?うまいだろう?」
セバスチャンが侮蔑のまなざしでオディアスを見る。
「ああ、肉はこうして食べるのが一番うまいからな」
オディアスは睨み返すようにセバスチャンを見て骨付き肉にわざとかぶりつく。
『何だか、威嚇争いみたい。でも、何のための?ああ、そうか。男と男の戦いってやつか』
アリシアは二人を見合わせながらそんな事を思った。
『それにしてもこの料理おいしい!』
料理は仔牛肉のソテー、温野菜のサラダ。ポタージュスープ、魚の蒸し焼き、おまけにチーズたっぷりのリゾットまであった。
「どう?アリシア気に入った?」
「はい、すごく美味しいです」
「そうか、食事が済んだらワインでもどう?」
「ええ、みんなで一緒に」
「俺は君と二人でワインを楽しみたいんだけど、温室で育てている珍しいバラが今見頃なんだ。良かったらぜひ君にも見て欲しくて」
アリシアは父達を見た。どうやら畏まった雰囲気で食事もまともに喉を通ってないみたいだ。これ以上セバスチャンと一緒にワインなんか飲めるわけもない感じだ。
アリシアは父達を解放してあげようとセバスチャンの申し出を受けた。
「それはぜひ、見てみたいです」
「そうか。良かった」
そして食事が終わると案の定父達はげっそり疲れた顔をしている。
「父さん達は部屋に戻ってゆっくりして、私は公爵にもうしばらく付き合ったら部屋に戻るから」
「ああ、でも気を付けろ、あの公爵何だか胡散臭い感じがする」
「分かってる。でも、こういうお屋敷って必ず近くに使用人が控えているものだから。心配ないわ」
アリシアも貴族の屋敷を訪れたことがなん度もあった。その度使用人がいつも側にいた事を知っていた。
アリシアはセバスチャンに誘われるまま温室に案内された。後ろには使用人がワインを持った籠を持ってついて来ている。
ほら、やっぱりとアリシアは思った。
温室には色とりどりの花が咲いていた。
「アリシア、これがそのバラなんだ。色が薄っすらと青いだろう。この国にはない品種で苦労して手に入れたんだ」
セバスチャンがそのバラの蕾の根本をパチンと挟みで切るとアリシアの耳元に蕾を差し込んだ。
「すごく似合う」
「セバスチャン様。こんな大切なバラを!」
「いいだろう。さあ、ワインを」
ワイングラスが差し出され飲まないわけには行かない成り行きになって行く。
「ありがとうございます」
アリシアは慣れないワインをぐっと喉に流し込む。
セバスチャンは落ち着いた様子でワインを飲みながら「いや、乾杯していなかったね。君との出会いに乾杯」
グラスが重なりアリシアはまたワインを飲んだ。
そうやってグラスを片手に温室の中を案内されて行った。
そのうち何だかおかしい気がして来た。
『あれ?何だかすごく眠い気が、ずっと色々あったし疲れが出てもおかしくはない。でも、何でこんなに眠、いん、だ、ろ‥」
「ふぅ、やっと眠ったか」
アリシアを抱き抱えたセバスチャンがニヤリと笑った。




