32川が汚染されている
翌朝、まだ日が昇るには早い時間だった。
パン屋のパンの仕込みを終え、市場に運び込まれる荷馬車の軋んだ音が通りに響く。
いきなり人の叫び声がした。
「大変だ~。川の魚が死んでる。それも大量にだ。生水を飲むんじゃねぇぞ!おい、みんな聞こえるか!!水が汚染されてるぞ~!!」
アリシアはその声で飛び起きた。
そう言えば昨日馬車の中で行商人が話していた。
まさか、イエラードと同じように王都から?
アリシアは急いで起きて支度をした。
「おい、もう起きるのか?まだ、日も明けてないぞ」
「オディアス様は休んでいて下さい」
「お前はどこに行く?」
「川が汚染されているかもしれないんです。ちょっと様子を観てこようかと」
「こんな朝早く、一人でか?」
「まあ、そのつもりですが」
「若い娘がまだ、暗いうちから…ったく。父親に言ってみろ。声を荒げるぞ」
「だから、内緒で行くんですよ。いいから、すぐに戻ります」
アリシアは構っていられないと、宿を後にした。
階下に降りると宿の女中だろう、籠には魚が入っていた。
「おかみさん、さっきの話しじゃかこの魚も食べたらダメってことですよね?どうします今朝の食事?」
「仕方がないだろう。客に何かあったら、こっちの責任になっちまう。今朝は卵とポテトで何とかするさ。でも、困ったねぇ、ずっと魚が食べれないんじゃやっていけないじゃないか」
アリシアはそんな会話を聞きながら表に出た。
サウスイードには王都から川が流れ込んでいる。アクルート国の地形は北の高い山がありその裾野はなだらかな大地になっている。王都の辺りに小高い丘があり、南に向かって下がっている。その為王都のマノド川の他にもいくつもの支流がサウスイードに流れ込み大きな川になっているのだ。
アリシアは宿に近くの川辺に来ていた。まだ、薄暗い中多くの人がいて騒いでいる。「あれを見ろ。一面死んだ魚が浮いてるぞ!」
「ああ、こりゃ大変な事になったぞ、魚だけじゃねぇ、水もヤバいってことだろ。井戸の水はどうなんだ?って言うか、どうやったら水が安全かわかるんだ?」
「おい、誰かわかるものがいんか?」
「すぐに騎士団を呼べ!」
「そうだな、しかし、これも王都のせいなのか?だとしたら、あいつらとんでもねぇ奴らじゃねぇか!」
アリシアはそんな会話を聞いても、ちっとも胸はすかなかった。寧ろあれだけ大見えをきっておきながら、エリオットとエリーシャは何をしているのだと怒りが沸いてきた。こんなに沢山の人が困っていると言うのに!
だか、今はそんな事はどうでもいい。とにかく何とかしなくては。
もし、マノド川が汚染されているなら、他の支流は大丈夫なのでは?
だったらマノド川の浄化をすれば川は安全になるかもしれない。
でも、水の浄化なんて出来るのだろうか?
人間に効く浄化、そう言えばオディアスは土地から植物そして空気を浄化をしていた。
アリシアは急いで宿に戻るとオディアスを起こした。
「オディアス様、水の浄化は出来ますか?」
いきなり起こされ彼はまだ、寝ぼけ眼だ。大きなあくびをしながら「水がどうした?って、いきなり起こすな!」
「川が汚染されてるみたいなんです。このままでは街の人が困ります。水を飲んで病気になる人もでるはずです」
「それは、アリシアの仕事ではない。騎士団や領主の仕事だ」
「ても、川の水をきれいにするのは並大抵ではありません。その間に子供やお年寄りが具合を悪くしたらどうするんです」
「それも領主の仕事だろう」
「オディアス様だって、竜王だったんでしょ、国の民が困っていたら助けるはずです!」
「ああ、だが、私を封印したのはこの国の奴らだ。そもそもどうして私がこの国の人間を助けなきゃならん?私は犠牲者だ」
「でも、イラエードでは助けてくれたじゃないですか」
オディアスは言葉に詰まった。
「いいか、アリシア。私は早く宝珠を回収したい。すぐに次の場所に移動したいんだ。それなのにお前はいつも何だかんだと長居をして」
「わかりました。だったらオディアス様は一人で転移でも何でもして宝珠を回収すればいいじゃないですか。どうせ、どこにあるかもわかっているんですね?後二つ。宝珠はすぐに手に入ります。そしたらグリアダ王国に大手を降って帰れますから。じゃ、お元気で」
アリシアのあまりの剣幕に竜王であるオディアスは押された。
アリシアの言う事は、尤もでその方が効率がいいくらいだ、
でも、最初に出会った時からアリシアには、何かを感じて。
そんなはずはない。自分の番はアリアで、彼女はすでに死んでいる。
竜人が女に心を動かされるのは番だからで、自分の中にあるこの気持ちが一体何なのかと思った。
でも、一つだけ言えるのはアリシアのそばいいたいと思った事だった。
「アリシア、水の浄化は出来る。私は今回水の竜力を取り戻した。だから場所さえ特定出来れば問題ない」
「オディアス、さま。ほんとに?ホントに出来るんです?」
アリシアは目を輝かせながら満面の笑みを浮かべた。
オディアスはその顔を見て胸が温かくなるのを感じ思わす自分の顔が綻んでしまった。
「オディアス様、今笑いましたよね?」
「わ、笑ってなどおらん!」
「絶対笑いましたよ。やっぱりオディアス様は優しい竜人ですね。大好きです」
「お、お前!!」
オディアスの顔が赤くなった。




