31サウスイードに到着
しばらくして御者が馬車が直ったと知らせに来てその日の夕方サウスイードの到着した。
「何だか騒がしいな」
薬草を運んだ荷運び人が辺りを見て様子が変だと気づく。
「どうした?」
話をしていた商売人が尋ねる。
「いや、やけに人がいきりたってるって言うか」
通りを歩き人の声が聞こえた。
「おい、王都から流れ込んでいるマノド川が汚染されてるって本当なのか?」
「まだ、はっきりした事はわかってねぇらしい。だが、川の水を使った奴らが具合が悪くなってるって話だ。万が一竜毒なら生水は飲めねぇ、みんなが水を飲まねぇようにしなきゃなぁ」
「ああ、領主様が触れを出すって話だ」
「王都の結界がおかしいって話だろう?確かイラエードは竜毒が流れ込んだって聞いたぞ。こりゃ、サウスイードも危険なんじゃねぇか?」
「聖教会は何やってんだ?聖女は何してんだよ!」
「ああ、全くだ。それにしても王太子が余計な事をしたって話だろう?新しい聖女が役にたたねぇって事だろう?」
そんな会話が耳に入って来た。
「アリシア、何だかここもきな臭いな。急いでギルドに行こう」
「ええ、でも、また竜毒かも知れない。街の人が‥」
「いいから、お前は昨日もそう言って倒れたんだ。さあ、行くぞ」
ノートンはアリシア達と厄介事に巻き込まれないうちにとギルドに向かった。
「俺は北辺境のギルドから来たノートンと言うもんだ。グエンから連絡が来てるはずなんだが‥」
「はい、グエンさんから来られると伺っております。聖教会に御用があるとか」
「ああ、今からじゃ無理か?」
「そうですね、時間が時間ですので、あっ、でも今夜聖教会で祭りがあって屋台の人手要員ならありますけど」
「屋台?それってギルドで準備するんです?」
「いえ、屋台や材料の準備は聖教会の方でされるのでお手伝いに行くんです」
「そりゃ無理だろう」
「でも、父さん、屋台に二人いればその間に石碑に行ってくればいいんじゃない?」
「ばか、そんな危険な事させられるか!」
「私がいる。危険はない」
「あんたが一番危険だろ?」
「父さん、オディアス様はお子ちゃまだよ。心配なんか」
父の目はマジだった。
「でも、イラエードに騎士団が来てたし、急いだ方がいいと思うけど」
「ああ、私もアリシアはに賛成だ。今夜中に宝珠を手に入れレベル明日の朝には出発出来る」
「竜王さんよぉ、聞くけど、何でそんなに急ぐんだ?」
「アリシアが狙われているからに決まっている」
「確かに王都がヤバい事になってるみたいだし、アリシアを偽物だって追い出したが都合が悪くなったって。そんなふざけた話があるか!よし、その屋台の仕事引き受けてやろう。段取りは聖教会に着いて考えよう。特に道具もいらねぇみたいだったしな」
四人でこそこそと話をして屋台の手伝いに行くことに決める。
「屋台の仕事、引き受ける」
「分かりました。ではこちらに書類を見て時間までに聖教会に行って下さい。この紙を担当者に渡せばわかりますので」
「悪いが今夜の宿を取っておいてくれねぇか。それと仕事が終わったら明日の朝出発するから、乗り合い馬車の方も頼む」
「はい、お任せ下さい。全て手続きをしておきます。宿はふた部屋でよろしいですか?食事は遅くなるので無理かと思いますので夕食は済ませておいて下さい。朝食は出ますのでご安心を。では、気をつけて行ってらっしゃいませ」
ギルドの上着を借りてそれを着ると時間に間に合うように聖教会に行った。
聖教会に着くと祭りの支度が忙しそうだった。人があちこちで屋台を組み立てたり、灯りを取り付けたり礼拝堂にも飾りが付けられている。
「ギルドから来ました」
若い司祭が担当者のようで紙を渡すと他にもギルドから来た者がいて持ち場を決めるように言われた。
どうやらギルドから派遣された要員は皆、屋台の経験がある奴らだった。
「話が違うだろう?屋台や材料を用意するって言うからてっきり裏方の手伝いかと思ったじゃねぇか。こりゃ、串焼きやポップコーンなんかを作らなきゃならんぞ。どうする?」
「私達、唐揚げやります!」
「アリシア、お前勝手に決めるんじゃねぇ」
「大丈夫よ。私、揚げ物得意だし、ホットドッグもやります!」
「じゃ、よろしくお願いします。材料はすぐに持っていきます」
教会の人が大きな声で返事をした。
「おいおい、出来るのか?」
「今回はパンに挟むのは唐揚げにするから、父さん達は肉の下準備お願いね」
「お前どこに行くんだ?」
「あそこ、見えるでしょう?聖女の石碑が」
「いくら何でも人が見るんじゃねぇか。今は無理だろう?」
「以外と忙しい時の方が人目につかないわよ。オディアス様行きましょう」
「アリシア、お前何だか度胸がついたみたいだが、大丈夫か?」
「守ってくれるんでしょ?」
「ああ、まあ」
「いいから、早く済ませましょう」
アリシアは最初の聖女の石碑からオディアスが宝珠を取り出すのにあまり時間が掛からないと知った。それなら今のうちにと思ったのだ。
いつもは暗いだろう聖女の石碑の辺りは祭りの灯りでほんのり明るかった。
『エレノア様、宝珠を竜王に返しますね。長い間ありがとうございました』
アリシアは石碑に手を合わせる。
オディアスが地面に手をついて宝珠の竜力を体内に取り込む。そして次に宝珠を取り出す。青色の宝珠は土の中から吸い出されるように現れるとあっという間にオディアスの体内に取り込まれた。
「宝珠はアジスト。水の竜力だ」
オディアスがそう言うとさっきより身体一回り大きくなった。
「あっ、また!やっぱり大きいサイズにしてて良かったぁ」
「他に言う事はないのか?」
「アジストの力は何なんです?」
「水の力だ。相手を攻撃したり、干上がった大地を潤したり、逆に洪水を起こす事も出来る。水の中で息も出来るぞ」
「干ばつの時は役立ちそうですが、他はあまり実用的ではありませんね。じゃあ、行きましょうか」
去り際にもう一度手を合わせると『宝珠がきちんと返せて安心しました。ありがとう』
ほっとしたような声がした。
『エレノア様、安らかに眠って下さい』
アリシアは心の中でそう言った。
「どうだった?」
「上手く行ったわ」
「そう言えば竜王さんまた大きくなったな」
「そうよ。それより準備は?」
「ああ、言われたように一口に切ってタレに漬け込んだ」
「ええ、バッチリ。後はあげるだけね。さあ、急いで作るわよ!」
アリシアは張り切って唐揚げを作り続けた。
紙の容器に入れた唐揚げと丸いパンに挟んでゆで卵があると言われてたくさん貰って来てマヨネーズも作った。ホットドッグならぬタルタルチキン風ハンバーガーは行列が出来るほど売れた。
祭りが終わり片付けを済ませるとやっと宿に辿り着くと残してあったタルタルチキンハンバーガーをみんなで食べた。
「これはまたうまい!アリシア、お前は何を作らせてもうまいものを作る奴だな」
「でも、これはホットドッグじゃありませんよ。細長いパンがホットドッグでこっちはハンバーガーですけど、それは褒め言葉と受け取っても?」
「ああ、パンに形は関係ないだろう。うまければいい」
「それはどうも」
アリシアは素っ気ない返事をしたがガツガツと食いつくオディアスに頬を緩ませた。
それにしてもアリシアはもうクタクタだった。
部屋に入るとすぐにベッドに倒れ込んだ。
「お前働きすぎだ。額を出せ!」
「オディアス何するのよ」
「いいから」
オディアスは宿の部屋に入ると無理に額をつけた。彼の竜力がアリシアの中に流れ込んでくる。昨日は意識が殆どなくてこんなに意識がはっきりした状態でオディアスと間近で顔を突き合わせるのは初めてだった。
姿は子供とは言え、すでにかなり成長して中学生くらいの身体つきになっている。
顔は相変わらず整っていて子供の顔から青年の顔になっている。
アリシアは気恥ずかしくなって我慢できなくなった。
「もう、何するのよ!放してよ」
「お前の体力を回復してるだけだ」
「もういいから」
アリシアはおかしな気持ちになりそうでオディアスから離れた。
「入るぞ!」
いきなり父が部屋に入って来た。
「どうしたに父さん?」
「どうしたもこうしたも、竜王さんはかなりデカくなった。もう、年頃の娘と一緒に部屋と言うわけにゃいかねぇだろう。と言う事で今夜からアリシアは俺と寝る」
「おい、今の話だと私がアリシアに良からぬ気持ちを持っているように聞こえたが?」
「そうなちゃぁいけねぇから別々に寝ろって言ってるんだ。さあ、竜王さんは隣のドクがいる部屋に行ってくれ!」
「父さん、待ってよ。私、父さんと一緒に寝るのは嫌よ。だって、今までずっと離れてて、それに年頃に娘を寝る父親なんていないから。だったら私一人で寝るから二人とも出て行って」
「おい、アリシアそれはないだろう。私はお前に何の感情など抱いてなどいないし、疲れているんだ。もう休めせてくれ」
オディアスはさっさとベッドに入ってしまった。
「父さん、もう良いじゃない。明日からは私は一人部屋にして三人が一緒の部屋にすれば良いわ。私も疲れたの。もう寝るから」
「そうか。まあ、きょうはこのままでいくか。竜王さん、明日からは俺たちと一緒に寝てくれよ。じゃあ、おやすみ。ゆっくり休めアリシア」
ノートンはそれだけ言うと部屋を出て行った。
アリシアはオディアスを見た。彼は既にぐっすり眠っていた。
それにしてもオディアス様大きくなって、これじゃ父さんが心配するのも無理はない。
アリシアはそんな事を思いながら自分も眠りについた。




