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偽聖女と言われて婚約破棄されてうっかり竜王の封印を解いたら子竜になった竜王に懐かれました  作者: はるくうきなこ


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2取り引き


 アリシアは王宮の地下牢に連れて行かれた。

 夜が更けて牢にエリオットとエリーシャが現れた。

 エリーシャはエリオット殿下の腕に自分の腕を絡ませたまま言った。

 「まあ、お姉様ったらなんて惨めなの。こんなに暗くてジメジメした所に入れられて、ふふ」

 彼女はアリシアを見下ろし侮蔑の笑みを浮かべた。

 「何しに来たのよ。嘘までついて殿下の婚約者になりたかったの?そんな事しなくても言ってくれればいつでも代わってあげたのに」

 ずっと養女だからとロックフールの家の人間には遠慮して来た。たまに聖教会に顔を見せると取引先の相手の治癒を言いつけられたり、さも自分がアリシアを擁護している様な口ぶりや横暴な義理父の態度。養女と言っても一緒に暮らした事すらない。アリシアはいつも聖教会で暮らしていた。エリーシャと顔を合わせたのも数回だった。階段から突き落とした?そんな距離に近づいた事さえないと言うのに。

 まあ、それももう今更だろう。

 「まあ、お姉様ったら負け惜しみなんかなんか」

 「エリーシャ、こんな奴に構うな。それよりアリシアお前にいい話しがある」

 鉄格子の向こうからエリオット殿下がそう言ってエリーシャを止めた。

 「今更何のお話でしょう。それもいい話しなどと気持ちが悪い」

 アリシアは改めて背筋を伸ばすとエリオット殿下をジロリと見た。

 「アリシア、いいかよく聞け。お前は偽物だが、今までみんなを騙してこれたのは僅かでもお前にも魔力があったからだと思っている。だから今度はエリーシャの補助係としてエリーシャを助けると言うなら考え直してもいい。どうだ?」

 「それはどう言う?」

 「お前は追放した事にしてこっそりエリーシャを影から助けるんだ。エリーシャは確かに聖女の力を持っているが、何しろ結界をずっと維持すると言うのはかなりの重労働だ。お前が少し手助けしてくれれば彼女も安心だと思う。その代わりお前には衣食住の保証はしてやる。追放となればそれこそ住む所や食べ物にも困るだろう?」

 「ですが私は偽物だとはっきり仰ったじゃないですか。そんな偽物に手伝いをしろと?」

 「アリシアはオーバーだな。あれは言葉の綾で全く力がないと言うわけではない。私だってそれくらいの事はわかっているつもりだ。それにお前だって行く所もないんだしいい話しだと思わないか?まあ、もちろんそのままの姿では困るから‥名前や髪型。髪色なんかを変えればなんとかなるだろう。なぁエリーシャ?」

 エリオット殿下は悪びれもせずに自信たっぷりにそう言ってエリーシャの方を向いた。

 「ええ、殿下。お姉様にはシスターになってもらえばいいと思います。頭巾を被っているし聖教会の祈りの儀式にいても不思議じゃありませんから」

 「ああ、そうだな。シスターなら完璧だな。アリシアもそれがいいと思うだろう?」

 二人は勝手に盛り上がっている。


 アリシアは竜聖力の印を持って生まれたから聖女として認められエリオット殿下の婚約者になったはずだった。それに私を祀りあげたのは聖教会だ。私が殿下の婚約者になりたかった訳ではない

 殿下にして見れば竜聖力の印を持って生まれた聖女だからと言っても所詮平民の女。貴族に生まれた令嬢であるエリーシャに好意を寄せただけの事だろう。

 元々この大陸を作ったのは竜神とされている。長い間大陸は竜神の力を持つと言う竜人に支配されて来たが我がアクルート国は500年前、当時の竜王を古代の竜神殿に封印する事に成功して竜人の支配から独立した国だと言われている。

 もちろんドラゴビナ国とはもちろん今でも国交が断絶しているし、竜王を封印した時に怒り狂った竜人が放った竜力にせいで国境の森には魔物が出るようにもなった。

 そしてその魔物達が増えるに連れて瘴気も増えて行き今ではその魔物から国を守る為の結界が必要不可欠であり時折出て来る魔物被害も深刻になっているし、瘴気のせいで竜呪熱と言う病気も恐れられている。

 皮肉な事に竜人から逃れる為に竜王を封印したはずが今も魔物被害や病気に怯えなくてはならない。

 だからこそ竜聖力を持って生まれる聖女は非常に稀有な存在でもあった。

 だからこの国では魔力を少しでも持っている女性は聖女補助役と呼ばれ聖教会に入り国の為に働く事が義務付けられている。

 だが、聖女と呼ばれるのは国にただ一人と決まっている。今までこの国には100年に一度位の割合で竜聖印を持った聖女が誕生して来た。でも、エリーシャにも竜聖印がありエリーシャを聖女とすればアリシアは聖女というわけにはいかなくなるのだろう。

 「私は王都追放で構いません。どうせ平民ですしこの王都を追われればどこででも生きて行けますので」

 「お姉様、そんな強がりはやめて。殿下に言う通りにしたらいいんです。だってお姉様は教会から出たこともないんですよ。そんな人が国を追われて生きて行けるはずがないです」

 「あら、エリーシャ。あなただって元婚約者があなたの近くにいたら嫌ではないの?」

 「アリシア、エリーシャはそんな心の狭い女ではない。むしろお前が助けてくれるなら喜んでお前を受け入れるつもりだ。なぁエリーシャ」

 「はい、殿下。あのような事を言いましたが、いくら血の繋がりはないとは私は何とかお姉様の暮らしを助けたいのです」

 「エリーシャ‥お前は優しいな」

 殿下とエリーシャが見つめ合う。

 うえっ!やめて欲しい。


 「確かに養女にされました。でも、私はいつだって公爵家の人間ではありませんでした。それを今更そのように言われても‥もう、私の事は放っておいて下さい。殿下。殿下が王都追放と決められたんです。どうか最後までご自分が決断された事を実行して下さい!」

 「アリシア、またそうやって意地を張るつもりか?いい加減にしろ!」

 エリオット殿下が声を荒げる。

 「はっ、そうやって言えるのも今のうちですよ。本物がどちらかいずれわかる事ですから」

 アリシアは口元に笑みを浮かべエリオットを小馬鹿にしたように言った。

 「お姉様、そんな事。殿下に今すぐ謝って下さい。殿下、お姉様はまだショックでおかしくなっているんですわ」

 エリーシャは焦ったようにアリシアを庇う。

 「まあ、おかしい。あなたが私を偽物だと断罪したくせに、まあ、エリーシャは私がいなくなると困るもの。ねぇ」

 「な、何を言うの!私はお姉様の行く末を心配しているのに!それに、ほら、私にも竜聖印があるんだから。だから殿下は私を信じたのよ!ほら、見てご覧なさい!」

 エリーシャが左の袖を少し捲ってアリシアに向けた。

 「まあ、星の‥だったら見せてご覧なさい。エリーシャあなたの力を」

 確かに歪だが五角形の星に見えなくもない痣のようなものがあった。確かに。

 「でも、それにしては形が歪なのでは?」

 「そこまで言うなら」

 エリーシャが牢の前で手を通路に向けた。

 薄暗い牢の周りが薄っすらと淡い光に包まれた。

 「エリーシャもういい。アリシアこれで分かっただろう」

 「その程度で聖女を名乗るつもりですか?」

 「な!し、失礼な!」

 エリーシャがほんの少し身体を震わせた。エリオットがそれに気づきエリーシャの腰にそっと腕を回した。

 そしてアリシアを睨みつけた。

 「何だその態度は。もういい!お前のような奴に二度と温情はかけん!そうだ!王都追放など生ぬるい。アリシア、お前は北の辺境にある古の竜神殿で一生その身を捧げて祈れ。そうすれば少しは魔物の被害が減るかもしれんからな。いいか、明日の朝、王都から追放をして北辺境に送ってやる。お前は二度と王都に立ち入れると思うな!わかったな!」

 殿下はそれだけ言うと振り返りもせずに牢を後にした。

 「殿下、待って下さい。お姉様今なら間に合います」

 「どうせ困るのはあなただわ、エリーシャ!」

 「もう、お姉様どうなっても知りませんから!」

 エリーシャは殿下を追うように行ってしまった。

 困るのはどっちだろう。エリーシャには確かに魔力はあるのだろう。でも、それはほんの僅かな魔力でしかない。



 その翌朝、アリシアは着ていた聖衣を剥ぎ取られ平民が纏う粗末な布地の服を着せられて持っていたわずかな私物を持たされ聖教会を後にした。表には罪人が乗る馬車が待っていた。

 王宮からの見送りもなく長い間働いて来た聖教会からの見送りもなかった。ただ公爵家からはほんの少しの路銀と着替え、そして思いもよらないものを渡された。

 アリシアは聖女を騙った罪人として北辺境に送られる事となった。その罪は竜神に生涯の奉仕すると言う名目となった。












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