1偽聖女
「アリシア・ロックフール、貴様との婚約は今を持って破棄する」
眩いほどの王宮の大広間の壇上からこの国の王太子であるエリオット殿下が声が響いた。
アリシアは驚いてびくりと身体を震わせながらも思わず尋ねた。
「エ、エリオット殿下それはいかなる事情でございますか?」
見上げた先には殿下に寄り添う義理の妹のエリーシャ•ロックフールがいる。いや、実際には自分が養女なので正式には彼女が本物のロックフール公爵令嬢になるのだが。だからと言って王命で決まった婚約を勝手に破棄する事を素直にはいそうですかと受ける事も出来ないはずだ。
「この期に及んでとぼける気か?私がお前との婚約を破棄するのは。お前が偽の聖女だからだ。よくも王族や、アクルート国の民を騙してくれたな。真の聖女はここにいるエリーシャ・ロックフール公爵令嬢だ。わかったらお前のような生まれの卑しい偽物にもう用はない!」
わかったらと言われても。
アリシアの頭は一瞬真っ白になった。偽物?いや、そんなはずはない。私にはちゃんと竜聖印と言う聖女の証がある。アリシアは思わず自分の右の掌を広げた。その真ん中には生まれた時からある変わらない星の形をした痣があった。
13歳で竜聖力が開花してからと言う者、朝、夜が明ける前から聖教会で祈りを捧げこの国の結界に綻びがないかを慎重に探った。もし異変があればその場所を騎士団に知らせ必要とあらば出向いて結界の補強にも協力する事もあった。
異変がなければ午前中でそれを終わらせ昼間は病気の人々の治癒にあたる。主に貴族だが、そして夜にはまた祈った。それこそ寝る間も惜しんでアルセナート大陸の神である竜神の力を受け継ぐ者としての使命を果たして来た。
だから声を上げた。いや、上げずにはいられなかった。
「そんな、私はこれまで聖女としての努めを果たしてきました。それを偽物だったなんて、どこにそのような証拠があるのです?」
煌びやかなシャンデリアの光が降り注ぐこの王宮夜会の場でアリシアは檀上に立つエリオット殿下を見上げた。いや、睨みつけたと言った方がいいかもしれない。
先ほどまでアリシアの婚約者だったエリオット殿下は、アリシアに暴言を吐き唾毛が飛ぶことも気にせず噛みつき、いい終えると既に視線は彼の腕にしなだれかかるエリーシャに向いていた。
それでもアリシアが声を上げた事で、嫌々ながら汚い汚物でも見るような目でアリシアの方に目を置いた。
「証拠ならある。エリーシャが真の聖女だった。お前が自分の手柄だと吹聴していたことは殆どエリーシャがやっていた事だった。可哀想にエリーシャはお前に脅されて今まで本当の事が言えなかったと涙ながらに私に話してくれたんだ。エリーシャより先にお前の僅かな竜聖力が聖教会の目についたと言うだけのこと。この世界にも神の悪戯で平民であるお前の様な者にでも僅かな竜聖力があっただけの事。ここにいるエリーシャが涙ながらに話してくれた。ふん!全く忌々しい。お前は聖教会を騙し私の婚約者に収まった。私はそうとは知らずにお前に騙されていた。おまけにそれがばれそうになるとエリーシャを階段から突き落とそうとしたそうだな。今まで私や聖教会を騙して来た罪は重い。アリシア。お前を王都追放とする!衛兵。今すぐアリシアをこの会場からつまみ出せ!今、直ぐにだ!」
「そんな!私は無実です。殿下話を聞いて下さい!」
「ええい!これ以上お前の言うことを聞かれるか!さっさと連れて行け!」
アリシアは何の弁明も与えられなかった。それでも聖女となって聖教会から貰った星形のペンダントはほんのり光を纏っていた。
聖女の証だと聖教会から授かったペンダントにはアリシアの竜聖力でもある緑色の宝珠が嵌め込まれてる。
何でもこれは封印された竜王の宝珠で聖女の力をさらに増幅させる事が出来るらしい。宝珠は一度渡されるともう別の人には使えないとも聞いた。
歴代に聖女にはそれぞれ違う竜聖力があったらしい。アリシアは治癒や結界も出来るが他にも植物に力を与えることが出来る力もあった。
アリシアはペンダントをそっと握りしめた。これまでずっと自分を犠牲にして生きてたが今となってはそんな事はどうでも良かった。
アリシアは聖女でないならこれからは自由に生きて行けばいいと思っていた。




