28アリシア倒れる
アリシア達が薬屋に戻って来ると街は更に騒がしくなっていた。
ノートンとドクも心配そうに表を見る。
聖教会の隣にある治療院には、具合の悪い人の列が出来、重病でない人は治療院ではなく急遽聖教会の礼拝堂に運び込まれて行く。
教会のシスター達も看護に加わり具合に悪い人の世話をしているのだろう。
アリシアも聖教会にいたのでやる事は大体想像がついた。
「オディアス様、私ちょっと行って来ます」
「行くってどこへ?」
「見れば分かるじゃないですか、このまま見過ごすなんて出来ません。あっ、ご心配なく。ホットドッグは後で作りますから」
「お前、さっきも力を使ったばかりだろう。こいつら全部を治す気か?」
「いえ、軽い人は薬草でも大丈夫でしょう。でも子供やお年寄り、具合に悪い人は放ってはおけません!」
「どこまでお人よしなんだ?アリアにしても、他の聖女も‥そうやってお前らが何でも引き受けるから貴族がつけ上がるんだ!大体、王都の結界が崩れるようなばかな事をしてこの街まで被害を出して、だったら国王や貴族が責任を取るべきだ!」
「だからって今すぐに薬草が届く訳でもないし、病人の具合が良くなる訳じゃないでしょう。いいから行って来る」
「だったら勝手にしろ!」
アリシアは一目散に治療院に走って行った。後ろをノートンやドクも後を追って行く。
オディアスは納得がいかなかった。アリシアは王都から追放されたと聞いた。そのせいで王都の結界がおかしくなった。でもアリシアのせいじゃない。むしろ責任はアリシアを追い出した王太子や貴族達にあるはずだ。だったらこの不始末は王都の奴らが負うべき事。
そもそもアリアが番と分かり私はアリアに求婚した。何度か会ううちにアリアも心を開いてくれる様になり私と結婚したいと言ってくれた。だが、アクルート国はアリアを手放す気は最初からなかった。家来達はアリアをグリアダ王国に連れてこようとした。だが、アクルート国からすればやっと現れた聖女を奪われる訳にはいかないと言う考えになった。そこでグリアダの竜人達は無理にでもアクルート国を従わそうとした。それでアクルート国は反発して戦争になりかけて、アリアを人質に取られた。私は何とか事を収めようとしたが番の命を握られてアクルート国の言う事を聞いてしまった。番を失う事は何より耐え難かったからだ。だが、考えてみればアリアは私の為に命を捨てようとはしなかった。
それなのにアリシアは番でもない奴らの為に命懸けで助けようとする。アリシアはどうしてそこまでするんだ?
もし、アリシアが私の番だったなら、私の為に命を掛けてくれるのだろうか?
ばかな事を。私は何を考えているんだ。
全く!
アリシアが何故そこまで必死になるのか理解出来ん!
アリシアは治療院で宿に来た医者のイアンに話をして重病人の治癒をする事になった。
老人や男の人、母親や年若い女性、小さな子供。皆、かなりの高熱と肺に炎症を起こしているようで、アリシアは一人ずつ胸に手を当てて治癒を施して行った。
何十人と言う人を治癒して、重症患者はほぼ治癒し終わるとすでに夕暮れが近かった。
「聖女様、あなたのお陰で助かりました。何とお礼を言ったら良いか」
イアンがアリシアに頭を下げた。
「とんでもありません。私は出来る事をしただけで」
「聖教会に司祭から聞きましたが、王太子はあなたを追放したとか、それでこんな不始末を起こすなんて許せません。あなたが偽の聖女などと王家は一体何を考えているんでしょう。イエラードの者は皆、あなたこそ真の聖女だと知っています。どうか、このままこの地に居てもらえませんか?今日は何とか乗り切れましたがきっとまだ数日は竜呪熱の患者が出るはずです。あなたが居てくだされば皆、心強いはずです。どうか」
イアンが話をしている途中でアリシアが目眩を起こして倒れかけた。
「危ない!」
アリシアの身体を受け止めたのはすぐ近くにいたドクだった。
「先生、アリシアはかなり無理をした。もう、休ませなきゃなりません」
「ええ、私とした事が彼女がかなり無理をしている事はわかっていたはずなのに、申し訳ありません。ここでは休む所もありません。昨日宿泊した宿で休んでもらいましょう。人を出しますので聖女様をお連れ下さいますか?」
ノートンがイアンに話をする。
「人はいい。俺たちで連れて行くから、でも、悪りぃが明日もアリシアの体調が悪ければ無理はさせられない。それに俺たちは急ぎの用があってなぁ、ここに留まるわけにゃいかねぇんだ。後の事は先生達に任せる。アリシアがイエラードの結界を張って街は浄化したって言ってたから、竜毒はもう心配無いはずだ。だから、安心しろ!」
「そんな事まで聖女さまが?ああ、何とありがたい。では、明日はゆっくり休まれて領主様にも報告してお礼をさせて頂くよう準備を致しますので、どうかゆっくり休んで下さい」
「先生、領主に言うのはやめてくれ。アリシアは二度も貴族に見捨てられている。あんた、貴族っていうのはいざとなったら俺らみたいなのはゴミくらいにしかおもやぁしねぇんだ。こいつがやった事に感謝するって言うなら何も言わずに俺たちを行かせてくれ。頼む」
「ですが、すでにこの事は聖教会の司教様もご存知のはず。きっと王都の聖教会にも知らせが届くはずです」
「だったら、尚のこと長居は出来ねぇな」
「ノートン、そんな事より早くアリシアを休ませなきゃ、ノートン、お前はあいつを連れて来てくれ、ずっと薬屋で待たされてイライラしてるはずだぞ」
「分かった。ドク、アリシアは俺が連れて行く。お前はあいつを頼む」
「俺があいつを?」
ノートンは有無を言わせずドクが抱き上げていたアリシアを奪って行く。
「お前も男だからな、可愛い娘を任せるわけにゃぁいかねぇ」
「おい、そりゃないだろう。ったく!分かった分かった。俺があいつを迎えに行きゃいいんだろ!」
ドクはかなわねぇなぁって顔をするとオディアスを迎えに行った。
「わりぃな。待たせちまった」
薬屋に行くとオディアスは椅子に座り粉にした薬草を瓶に詰めていた。
「おい、今、何時だと思っている?気は確かか?私はずっとここでお前らが帰って来るのを待っていたんだぞ。腹は減る。退屈でいつ戻って来るかもわからんから、仕方なく手伝いをさせられていたんだぞ!」
「すみませんでした。アリシアは宿に連れて帰ってるんで一緒に帰りましょう、坊ちゃん」
「アリシアはもう宿に帰ったのか?あいつ、私を放っておいて自分は!!」
「アリシアは倒れたんです。何十人も治療して、全く、自分の事は後回しにして」
「あのばか!自分が倒れるまで?何故人間はそこまでばかなのだ。自分を貶めた奴らがやった事なのに、自分を犠牲にしてまで」
「そりゃそうですが、苦しんでいる人に罪はありませんからねぇ。彼女もそう思ったんですよ、きっと」
「ふん、私には理解できん!」
「竜王だって番のために封印されたじゃないですか」
「番は唯一無二の相手だからだ!竜人は命をかけても惜しく無いに決まっている」
「まあまあ、宿に帰ってご飯にしましょう」
「アリシアに、ホットドッグを作ってもらうと約束した。私はアリシアの作るホットドッグが食べたいんだ」
「でも、今は作れませんよ。無理言わないで下さいよ」
オディアスは驚いた顔をしてさっきの瓶を見た。
「店主、この薬草は貰ってよいか?」
「ええ、坊ちゃん、手伝って貰った駄賃です。それはカモミールやローズヒップと言ったハーブです。疲労回復に効くんですよ。聖女様はすごく疲れてると思います。どうか、お茶にして飲ませてあげて下さい」
「ああ、知っている。匂いでわかったからな。では、世話になった。おい、帰るぞ」
オディアスとドクは宿に帰って来た。
アリシアは部屋で眠っていてそばにノートンが付き添っていた。




