24二つ目の宝珠
一時間もしないうちに荷馬車はイエラードの繁華街に着いた。
まずはノートンがギルドに顔を出す。
「よう、邪魔するぞ。俺はノースライル北辺境のギルドに職員でノートンと言う。ギルド長から連絡が来ているはずなんだが」
ノートンはギルドで発行している身分証を提示する。
受付カウンターには手慣れた雰囲気の30代の女性がいた。
「はい、連絡は頂いています。お連れ様は?」
「外で待たせている」
「そうですか。朝のうちに連絡が来て聖教会の方の手筈を整えています。今日中に聖教会に入れますよ。後1時間程ですがよろしいですか?ちょうど月に一度の外回りの清掃作業が入っていて朝から作業員が入っているんです。午後から追加要員という事で人を出す様になってるので、この後聖教会で落ち合ってもらうのが1番早いと思うんですが」
「ちなみにグエンは俺たちの事はなんて言って来たんだ」
「はい、聖教会に怪しまれず潜入したいと、でも、教会内ではなく聖女様の墓地に用があると聞いてますが」
「そうか、何分ちょっとしたトラブルでな。あまり表沙汰になるとまずい事なんだ。悪いがその辺の事はうまく他の同行者にも言っておいて貰えるといいんだが」
「もちろんです。ギルドは秘密保守厳守です。お客様の情報は決して漏れる事はございません。特に北辺境のギルドにはいつもお世話になっていますから、ご安心ください。では、今入っている清掃員に連絡を取ってもよろしいですか?」
「ああ、そうだな。1時間後なら急いだほうがいいな」
「はい、連絡はすぐにしておきます。1時間後にこちらの札を持って聖教会の裏門に行って下さい。清掃員は裏門から出入りする様になっていますので」
「ああ、色々すまない。助かった」
「とんでも有りません。これが聖教会の場所です。制服はここで着替えられますか?」
「そうだな、そうしてもらえると助かる」
先に連絡をしていた事もあって思った以上に段取りがうまく行っていた。
受付の女性が裏口の場所を教えてくれてノートンはギルドを出て荷馬車に戻るとさっきのことを伝えた。
「思った以上にうまく行ったぞ」
「さすがグエンさん」
「おい、そこは俺の「まあまあ、いいじゃねぇか、万事上手く行ってよぉ」
ドクさんが間に入りすぐにギルドの裏口から入って清掃員の服に着替えた。
「アリシアお前は来なくても良いんじゃねぇか?俺たちと竜王で行ってくりゃいいことじゃねぇのか?」
「そう言う訳には」
詳しい段取りもまだのまま支度だけが進んで行く。
「でも、見つかったら女はいない方が」
ノートンの心配をよそにアリシアは別の心配をしている様だ。
「父さんそう言う問題じゃないわよ。オディアス様、ギルドから怪しまれないように清掃員で入るのはいいけど、オディアス様、宝珠を取り出すんですよね?昼間から墓掘りは無理なんじゃ?」
「いや、ここの聖女の持っている宝珠はメトリンだ。地脈の力で先に私が宝珠の魔力を吸い上げれば地脈の魔力が使えるようになる。そうすれば地面の中を探る事など造作もない事だ」
「オディアス様その情報どこで手に入れたんです?私は場所は聖女と宝珠が一緒に埋葬されているとは言いましたが場所とか宝珠の種類まで言ってませんよね!」
「元は私の体内にあった物だ。私はそれを感知する能力がある。最初から聖女の居所など分かっていた。それに宝珠がどこにあるかくらいここまで来れば手に取るようにわかる」
「はぁ、やっぱりさすが竜王だな」
「それならそうと最初から言ってくれればいいじゃないですか。何なんです、その知ったかぶり。ほんと、いやらしいわ」
「何がいやらしい。私はお前にそんな感情など持っておらん!」
「いやいや、竜王様、そう意味じゃないんだ。知ってるのに知らんふりをするのがわざとらしいみたいな意味あいで」
「私が嫌な奴だと言うのか?」
「まあまあ、時間がないんだ。急いで着替えて聖教会に行かなきゃならん。さあさあ」
「ったくよぉ」
ドクさんが二人を追い立てる様にして外に出て荷馬車に乗る。
無事に聖教会の裏門でギルドから派遣された清掃員と落ち合うとギルドから受け取った札を見せて四人は聖教会の中に入って行った。
仕事の依頼は聖女の石碑の掃除だ。
「じゃ、俺たちはこっちの掃除なんで」
ノートンが派遣さんに言って四人は聖女が埋葬してある場所に辿り着いた。
400年も前の石碑はかなり傷んでいてあちこちが欠けたり苔がこびり付いていた。
「名前はマリア様だって、この国の為に一生懸命働いて死んでまで国を守る役目をさせられたなんて、何だか‥」
アリシアはその場に座ってマリア様に祈りを捧げる。
アリシアの魔力が合わせた手のひらから広がって石碑を包み込む。
それと同時にオディアスが地面に手を触れて目を閉じる。
石碑と土の境目から琥珀色の光が吸い上げられオディアスの身体に取り込まれた。
「地脈に力を回収した。宝珠も取り出すからもう少し待ってくれ」
「どれ、俺たちの出番だな。そこ、どいてろ。今掘ってやるから」
「その必要はない。下がってろ、邪魔だ!」
オディアスが先ほどより強く地面に手を突っ込んで目を閉じる。
オディアスが手を引き出すとその手には琥珀色の宝珠が握られていた。オディアスはそれを胸に当てると宝珠がすぅっと彼の胸に吸い込まれて消えた。
アリシアはその間も祈りを捧げ続けた。
「よし、宝珠を取り戻した」
そう言ったオディアスの声を聞いたアリシアたちは石碑の掃除を始めた。オディアスは不思議そうにして近くの木の影に座っている。
草を取り苔は完全には取り除く事は出来なかったが、なんとかそれでも何とか見られる様になった。
掃除が終わるとアリシアはマリア様に祈った。
『マリア様お勤めご苦労様でした。宝珠はきちんと持ち主の竜王に返しました。もう安心してお休み下さいね』
すると脳内に声が聞こえた。
『ありがとう。ずっとアリア様が苦しんでいて私も苦しかった。でも、これでゆっくり眠れます。ありがとう』
そう言われた。
やっぱりそうよね。人のものを奪って聖女にそれを使って国を守れと言われてもきっと苦しかったはず。
アリシアはここに来て初めてこれはいい事をしている気持ちになれた。
過ちは正さないときっといつまでも悪い気は断ち切れないんじゃないかと思った。
「どうしたアリシア、何だかうれしそうじゃねぇか」
「うん、マリア様。この聖女様の名前なんだけど、ありがとうって言った気がしたの」
「まあな、それこそ聖女を騙して竜王を封印して奪ったもんだろう。そりゃそんなもんを貰っても聖女様もいい気はしなかっただろうよ。アリシア、これはきっと贖罪にもなる。この国はこれでやっと正しい国になれるかもしれんな」
「父さんったら、たまにはいい事言うじゃない」
アリシアは父さんと呼ぶことに初めて違和感を感じなかった。
ずっと、人前で父さんと呼ぶ時、何だかもやっとした気持ちになっていた。でも、今は素直に呼べた気がした。
石碑を後にする時オディアスの身体が少し大きくなった気がした。
「アリシア、服がきつい。きっと身体が成長した」
「えっ?嘘。どうするのよ。せっかくクレアさんが用意してくれた服が無駄になるじゃない!ドクさん、この辺りで服を売ってる店に寄ってちょうだい。まったく、ほんと、手が掛かるんだから!!」
「あぁぁ、竜王さん、また怒られてるじゃねぇか」
「私のせいではない。これは竜力が増えたせいだ。むしろ喜ぶ所だ!」こ
「とにかくうまく行って良かった。今夜はゆっくり宿で休むぞ」
ノートンがさっさと引き上げだとみんなを聖教会から連れ出した。




