23イエラードに向かう
アクルート国は小さな国だ。北辺境領でも王都から一日。そう言う事で北辺境から東にある街イラエードまでも半日ほどで着く。
荷馬車は順調に走り追手もおらず、途中で父さんが作ってくれたと言う朝食と昼食を兼ねたホットドッグを食べた。
「これ、アリシアが考えたんだろう?いつ食ってもうまいな」
ノートンが褒めちぎる。
「ああ、ほんとにどっちもうまいな。アリシアさん天才じゃないか」
ドクさんまで。
「もう、そんな。まさか父さんがホットドッグを真似して作ってくれてるなんて驚きました」
アリシアは父をチラリと見た。
ノートンは嬉しそうにアリシアを見ただけで。またパンをほうばった。
オディアスは幼児の姿のままパンを握っている。
「オディアス様食べないんですか?」
「この、赤いのはトマトだろう?」
「えっ?喋れるんですか?」
「ああ、言語は理解していたからそれを言葉に出来るのに時間がかかっただけだ。それよりこれは食えん!」
「もったいねぇ、竜王さんよ。これ、すげぇ美味いんですよ。まあ、一度食ってみたらいいのに」
ドクさんがそう言った。
「美味い?これが?」
「ああ、最初に考えたのはアリシアなんだ。嘘じゃねぇ、一度食ってみろ」
ぶっきらぼうにノートンが言う。
「こんな物‥」
「食べないんですか?嫌ならいいんです。代わりの物はありませんよ」
アリシアははっきり言った。
オディアスが嫌そうな顔でパンを口に入れた。
「こ、これは、美味い!」
「だろ!だから食ってみろって言っただろ」
ノートンの口調は竜王に対する物ではない。
「ああ、トマトが酸っぱくない。いや、逆にトマトの酸味がアクセントになって旨味がさらに増している気がする」
とても5歳児程度の子供とは思えない感想をオディアスが言った。
「ぶぶっ!お前、こんなちいせぇガキが一丁前に講釈を言やぁがって。ハハハ」
「父さん、言葉が過ぎます。こちらは竜王様なんですから」
「すまんすまん。だってよぉ、ガハハ」
ノートンはツボにはまったのか笑いが止まらない。
「全く、ほんの少し感想言っただけで‥」
「オディアス様、良ければ卵もいかがです?」
「ああ、アリシア。ミルクはあるか?」
「ああ、あいにくミルクはありません。でも、クレアさんが紅茶にミルクをたっぷり入れた飲み物を用意してくれてるのでこれで良ければ」
「そうか、ではいい」
「竜王さんはミルクをご所望なのか?グハハハ。やっぱり中身も子供じゃねぇか。やっぱり竜王って言うのは嘘じゃねぇのか」
「おい、言葉が過ぎるぞ」
「そうよ。父さん、失礼よ。さあ、オディアス様、そう言わずいかがです?」
オディアスが嫌そうな顔でミルクティーを口に入れた。
「うまいな」
「でしょう?オディアス様、何でも食べてから判断すればいいのに」
「竜人は食べ物にあまりこだわらんからな、つい、同じ物を食べるんだ」
「この国にいる間はそんなわがままは許しませんから」
「おい、俺は‥「はいはい、竜王様」
オディアスはもう何も言わずミルクティーを黙って飲んだ。
荷馬車はイエラードの少し手前の街道を少し外れた大きな木の下に停めて木の下でみんなで食事をしていた。
アリシアはクレアに言われたように男物の上着を着て帽子に中に髪を入れて男の格好をしている。
そこに破落戸が数人やって来た。
どうやらワイワイして楽しそうに見えたらしい。
「お前ら、見ない顔だな。どこへ行く?」そう言いながら破落戸が取り囲む。
ドクさんが立ち上がり「私達はイエラードの親戚に行く途中なんだ。朝早く出たので今頃食事をしていた所だ。それよりお前達何の用だ?悪いがそろそろ行かなくてはならんので」
ドクさんが言うようにアリシアはゆっくり水筒を閉めカップを片付け始めた。
「何だよ。せっかくだ。ゆっくりして行け。まだ、日は高い。俺たちと少しばかり話をしたっていいじゃねぇか」
別の破落戸がニタニタ笑って言う。
「いや、悪いが失礼する。ほら、荷物をしまって」
今度はノートンが立ち上がりアリシアを庇うように荷馬車への道を作る。
「おい、何してんだ。女。こっちに来いよ!俺たちとほんの少し話でもしようぜ」
「おいおい、ここに女はいないぞ。悪いが他を当たってくれ」
ドクさんがそう言ってアリシアを隠すように前に立った。
「何でそんな格好してるのか知らないが、あんた女だろう?隠しても無駄だ!」
破落戸はくるりと回り込んでアリシアの帽子をひったくった。
アリシアの長い髪が流れ落ちる。
「ひゃぁ!女が帽子を被ってはいけませんか?急いでいます。通して下さい」
今度は最初に声をかけたリーダーらしい男がアリシアに近づいて手を伸ばして来る。
「いいだろう。ほんとはうれしいくせに、男数人と遊べるチャンスだぞ。いいからこっちに来い!」
手首をn強く握られたその瞬間、前世の記憶が蘇った。あの男に何度もこうやって手首を掴まれた。逃げようとしても逃げられず顔を殴られる腹を蹴られ脚で踏みつけられた。
アリシアの身体がぎゅっと強張った。
「どうした?さっきの威勢はどうした?」
手首を引き寄せられ男がアリシアの顔を覗き込む。
「や、やめ、て‥」
ひどく掠れた声でやっとそれだけを言った。
「大人しろ。こっちに来い!」
男がアリシアの手を引いた。
突然オディアスが間に入ってアリシアの掴んでいた男に手を払う。思わぬ事で男がアリシアの手首を離した。
「こいつ!」
「おい、お前らしつこいぞ。しつこい男は嫌われるって知ってるか?」
そう言ったのはオディアスだった。身体は小さいが彼らを見る瞳はランランと輝き威圧の魔力がメラメラ燃え上がりそうだ。
「はっ?このチビが喋ったのか?ハハハ。やるってぇのか!」
男がオディアスに手を上げようとした。
「オディアスやめて!」
一瞬の出来事だったが、オディアスは魔力を押し込め別の方法を使った。
グハ!
いきなりオディアスが大人の身体になりその男をぶん殴った。
破落戸は殴られた拍子にオディアスの顔を見て顔面蒼白になった。
多分威圧の魔力も少し漏れ出たのだろう。
「こ、こいつバケモンだ!やばい。逃げろ殺されるぞ」
破落戸は蜘蛛の子を蹴散らすように逃げて行った。
「大丈夫かアリシア!」
アリシアは強張った記憶から解放されてて目の前の現実が目に入った。
出た言葉は‥
「オディアス様、もう驚きましたよ。あぁ、もうその服どうするんですか。着替え一枚しかないんですよ」
そう言いながらもオディアスが助けてくれた事ははっきり理解出来た。
「アリシア、私は今助けたんだぞ!お礼くらい言ったらどうなんだ?」
「あんな破落戸。一人でもやっつけれましたよ。まったく、もう、余計な事をしてその服私が繕うんですよ。早く着替えて下さい」
オディアスはブスッとして幼児体型に戻ると荷馬車に乗りに着替えをし始めた。
アリシアは心の中では感謝していた。
「ぶっ!竜王もアリシアにかかちゃかたなしだな」
「何だかいいカップルにも見えるぞ」
「おい、ドク。それは有り得ん!」
「いいから、二人ともさっさと出発しますよ」
二人が話をしているとアリシアが声をかけた。
「ああ、このままイエラードのギルドに行こう」
「父さん、私、イエラードについたら聖教会に用があるの」
「ああ、だが今日は無理かもしれねぇぞ」
「でも、追ってが来るかも知れない急がなきゃ」
「ああ、グエンが連絡を取ってるんだ。イエラードのギルドがちゃんと段取りをしてくれている筈だ」
「うん、そうだね」
「それに何があってもお前は絶対に守る、心配すんな」
アリシアは何だか父が頼もしく思えた。
ノートンはオディアスがすごい力を秘めている事を改めて認識して逆に心配になっていた。
荷馬車にはアリシアと竜王を乗せてドクを一緒に御者台に乗り込む。
「ドク、あいつは油断ならねぇ」
「ああ、アリシアと二人きりにさせるんじゃねぇぞ」
「ああ、気をつけねぇとな。あの、アリシアの顔を見たか。何だかうれしそうな顔をしてたぞ」
「ああ、だが、相手は竜だ。そう言う心配はねぇだろう」
「だといいが‥」
「あんな偉そうな奴、誰が好くもんか。心配いらねぇって」
「まあな」
ノートンとドクの会話のことなど知ることもなく荷馬車の中ではオディアスの着替えが終わるとアリシアは散々オディアスに文句をいう言うと疲れたのかオディアスを抱き抱える様に眠ってしまった。
いつものオディアスなら人と触れ合うのは嫌いだが、いつもと違うアリシアの様子に何だか胸がざわつきそばを離れられなかった。
荷馬車はイエラードの中心街に向かって出発した。




