22出発の朝
「ノースライル様、アリシアがいません!」
アリシアがオディアスに助けられて牢を脱出してから数時間後、夕食を持って行った騎士から慌てて報告が来た。
「あの娘、思っていた以上にお転婆らしいな。どうやって牢から出た?まさか誰かが手引きをしたのか?レオンを呼べ!」
すぐに副隊長のレオンが呼ばれた。
「アリシアが逃げた。お前、アリシアを牢に入れる事に反対したな。まさかお前がアリシアを?」
「そんな事をするはずがありません!俺だって心苦しい。ですがこの北辺境の安全を守りたい気持ちはあなたと同じです!」
「そうか、それなら誰が?」
「ドクかも知れません。あいつはアリシアに治らない怪我を治して貰った恩があります」
「そうか、ドクを呼べ!」
「はい、すぐに」
ドクはその頃グエンに呼び出されてグエンの家にいた。
ノートン達から事情を聞いてアリシアに同行すると二つ返事をした所だった。
「グエンさん、レオンがこっちにやって来ます。何でもドクを探しているらしい。アリシがいなくなって逃したんじゃないかって思ってるようで」
ギルドの仲間がいち早く知らせて来た。
「おい、ノートン、すぐにアリシアを連れてここを出ろ。ギルドに匿え!ノースライルも辛い選択を迫られての事だろうが、だからと言って可愛い孫娘をむざむざ差し出す訳にはいかねぇ。みんなも分かってるだろうが、くれぐれもアリシアの事は内緒にしてくれよ」
グエンがギルドの仲間に頭を下げれば誰もそれに逆らう者はいなかった。
グエンはレオンにしらを切り通してレオンは諦めて帰って行き取り敢えず時間を稼いた。
その夜のうちにグエンはアリシア達を逃す算段をした。
アリシアと竜王が一緒だと言う事も、宝珠を探している事も全て秘密にされてその翌朝早くにアリシア達は北辺境領を出発する事になった。
*〜*〜*
まだ夜が開け切らない空が赤紫色に染まりかけた頃、ドクが目立たない荷馬車をギルドの玄関先に横付けにするとアリシアと幼いオディアス、それにノートンが一緒に荷馬車に乗り込んだ。
翌朝出発すると聞いていたオディアスはまだ熟睡していていきなりノートンに抱かれて驚きノートンを弾き飛ばした。
アリシアが説明してオディアスは渋々荷馬車に乗った。
アリシアも急いでシャツとズボンに着替えて簡単な旅支度で荷馬車に乗り込んだ。
グエンさんはノートンやアリシアにこれからどうすればいいかと説明した。クレアさんはすぐ後ろで食べ物の入った籠を荷馬車に積み込んでいる。
「いいか、今は急いで東の街、イラエードに向かえ。着いたらすぐにギルドに行って隠れ家を用意してもらえ、連絡はこちらからしておくから安心しろ。だが、ノースライルは追手を出すかも知れん。すぐにはどこに行ったかは知らんから大丈夫だとは思うがくれぐれも気をつけてな。アリシア、お前は男に化けろ。この帽子を被り上着を着ればすぐには気づかれる事もないだろう。ノートン。いいか、聖教会に入るには準備がいる。ギルドから出入るしている商会や人もいるから、手筈を整えて動くんだぞ!なにかあったらすぐに知らせろよ。連絡は伝書鳩を使え、どのギルドにも連絡用の伝書鳩がいるからな。アリシア、気をつけてな」
「アリシア、危ないと思ったらノートンやドクに任せるんだよ。お前は安全な所に隠れてりゃいいからね。こんな事になっちまうなんて‥籠に食い物を入れてある。父さんが朝早くから作ったんだよ。水筒にはお茶も入ってる。無理するんじゃないよ。ノートン、ドク!分かってるだろうね。絶対にアリシアを守っておくれよ」
クレアさんが泣きながらアリシアに手を握る。
「グエンさん、クレアさん、必ず戻って来ます。心配ありませんから」
「もちろんだよ。さあ、見つからないうちに早く!」
クレアさんが握った手を離すとさっと荷馬車から離れた。
「ドク、気をつけてな」
「分かってますって、絶対アリシアさんを連れて帰ります。安心して待ってて下さい」
「ああ、ノートン頼んだぞ。でも、無理はするな。いいな!」
「分かってますって。今度こそ挽回のチャンスです。アリシアを必ず連れて帰ります!」
こうして薄暗い明け方。荷馬車はイエラードに向かって走り始めた。
*〜*〜*
オディアスは、自分に力になさを痛感していた。
人型になるのに成人だと維持出来ず幼児の姿のままでしかいられない事にショックを受けた。
宝珠はすぐに集められると鷹を括っていたが、こんな調子ではとても無理だと思い始めていた。
アリシアには大口を叩いてはいたが実際、アリシアがいないとまずい気がしていた。
アリシアの言うように一緒に宝珠を探しに行くのが懸命だろうと思った。
そして昨晩、生まれて初めてハンバーグという料理を食べた。ついでにオムレツと可愛く飾り切りされた人参やウサギ型のりんごまでも食べた。
アリシアの祖母だというクレアは料理上手だと思った。それにアリシアがウサギ型にリンゴを切ったと聞いた時は驚いた。あのクソまずいサンドイッチを作ったやつかとアリシをを二度見した。
こんな料理が食べれるならしばらくここでゆっくりするのもいいかと思ってもいたがこんな事態になるとは。
オディアスは荷馬車に乗る頃には起きていた。
竜が実際にぐっすり眠る事などあり得ない事だが、今のオディアスはそうではなかったらしい。
竜人はこの世の誰よりも力も魔力もある。寿命は1000年は当たり前睡眠時間などほんの数分で体力は回復する。はずだった。
だが、今の私ときたら、何だ?この有様は。
自分でも情けないほど力は弱く、竜化だってできるのは小さな竜だ。転移すればアリシア一人で精一杯。竜力切れまで起こした。
夜になると幼児並みに眠くなり知らぬ間に寝ていた。おまけにアリシアの父に抱き抱えられて荷馬車に乗せられるまで気付かなかったとは‥でも、後で気づかないままノートンを弾き飛ばしたと聞いた時はちょっとうれしかった。
私はグエンとか言う男の声で完全に目を覚ました。それから彼の話を聞き、これから一人目の聖女が葬られている所に行くと理解した。
力もない事だし、このまま眠ったふりをしてその街まで行く事にした。




