21宝珠を手に入れるために
アリシの部屋に戻るといきなりオディアスが苦しみ出した。
「ぐはっ!」
オディアスの身体が一気に5歳くらいの元の姿に戻った。
『クソッ、まだ長い時間は無理みたいだ』
「オディアス様、それってどう言う事です?」
『人間の成人の姿を保てるのがほんの少ししか出来ないと言う事だ!見れば分かるだろう。1つの宝珠だけでは竜力も限界があると言う事だ。全く面白くない』
「でも、良かったじゃないですか。あのまま転移して別の場所に行っていたら大変な事になっていたって事でしょう?」
『それより一気に宝珠を集めた方が効率が良いかもしれん』
「でも、その宝珠がどこにあるかわからないんですよね。私、宝珠がどこにあるか知ってます」
『それなら話は早い。すぐに出発するぞ』
「そんなの無茶ですよ。力も安定していない状態で、私、巻き込まれるのはごめんですよ。それに一応グエンさんとかにも話をして留守にする事を話しておかないとみんなが心配しますしとにかく準備ができるまで待ってください」
いきなり表が騒がしくなった。
「クレア、アリシアはいるか?ドクがアリシアが牢に入れられたって言ってるんだ」
父が大声で騒いでいる。
「アリシアならレオン副隊長とドクと一緒に騎士団に行ったはずだよ。何を馬鹿な事を言ってるんだい。アリシアがどうして牢に?」
「何言ってるんだ。ドクが教えてくれたんだ。竜神殿の封印が解けたらしい。それでノースライル様が聖女のアリシアを生贄にするって大騒ぎになっているんだ」
「封印が解けただって?それで何か変わった事は?」
「今のところはなさそうだ」
「当然だ。この北辺境は騎士団が守ってるんだ。結界だってアリシアが居なくてもやって来たじゃないか。それをうちの可愛い孫娘に難癖をつけるような事を言うなんて!」
「ああ、そうだな。それよりアリシアを牢から出すようにノースライル様に頼まないと」
「ああ、うちの人からも口添えをしてもらおう。ギルドもアリシアの味方だからね」
アリシアには大きな声で喋る父とクレアの会話が全部聞こえていた。
父さん。クレアさん。ありがとう。でも、封印の解けた竜王を匿っているのは私だから。
ああ、もう何だか責任感じる。
アリシアは居た堪れない気持ちになって階下に降りて行った。
「クレアさん、父さん。私は大丈夫」
「アリシア無事か?」
「ええ、牢に入れられたけど、竜王が助けに来てくれたの」
「じゃ、封印が解けたって言うのは‥それでアリシア、お前は竜王に何かされなかったか?」
「ええ、何もされたない。それにね、実はここに竜王がいるの」
「竜王がここにぃ!?」
「ええ、私、樹海もそばで声が聞こえてそれで樹海に入ってしまったの。聞こえた声はアリア様の声で竜王の封印を解ける力が私にあるって言われて、あっ、でもまさか水晶球が割れるなんて思っていなかったの。いきなり水晶球が割れて小さな竜が私の服にしがみついてて、それでついここに連れて帰ってしまったの。ごめんなさい。でも、竜王は怖くない。それに力も弱くて人間を襲うなんてあり得ないと思う。だから‥」
「アリシア、その話は本当か?」
「うん、本当。それなのに北辺境伯は古い話を信じてて私を生贄にするって無理やり牢に。さっきも言ったけど牢に入れられた私を助けてくれたのは竜王なの。さっき、牢から転移して部屋に戻してくれたの」
「アリシアを助けたのか?」
「うん、だから悪い人。ううん、竜じゃないはず」
「だったらその竜王に会わせてくれ。それから直接ノースライル様に事情を話した方がいい。そしたらきっと」
「そんなの信じられない。私、王都で頑張ったよ。でも、偽物だって王都から追放された。北辺境伯は最初は優しい人だって思った。でも、違った。あの人だってあいつらと同じだった。何かが起これば一番最初に切られるのは弱い人間。所詮あの人は平民の私たちとは住む世界が違うと思っている。だから竜王の事を話せばきっとまた封印しようとする。あの人たちは自分の利益になる事しか考えていないんだから」
「そうか。アリシアの言い分はもっともだ。じゃ、俺に竜王と話をさせてくれ、竜王がどうするのが一番良いか。確かに人間は勝手な事をした。竜王が怒っても無理はない。でも、人を殺すなら黙って見過ごす訳にはいかない。お互い折り合いの付く所でところで何とか収まりをつけねぇとな」
そうこうしているとグエンさんも帰って来た。
グエンさん、クレアさん、父がオディアスと話をする事になった。
もちろんアリシアも一緒に。
アリシアはオディアスに話をした。
「オディアス、私の家族を紹介してもいい?それと宝珠を探しに行く事も話がしたいって」
『そんな必要はない!人間と関わる気はない。アリシアが説明して‥いや、場所は分かっているんだ。今すぐ転移してさっさと宝珠を取り返せば私の竜力は元に戻る』
「元に戻ったらどうするつもり?」
『‥どうするって、決めていない。今更国に帰ってもすでに新しい竜王がいるはず。人間に騙されて封印された竜人など相手にされん』
小さな子供がしょんぼりする姿はなぜか胸にグサッと来てしまう。アリシアは思わずオディアスの手を取ってその小さな背中をさすりながら言う。
「だったら、そんなに急がなくても良いんじゃ?」
はっとオディアスが顔を上げてアリシアを見つめる。金色と紅色が混じる瞳がゆらゆらと揺れて彼が戸惑っている事が分かる。
不意にアリシアは幼い時母がしてくれたおまじないを思い出す。
(大丈夫、大丈夫、何にも怖くないからね〜)そう言って額にキスをしてくれた。
アリシアは思わず幼い姿のオディアスの額にキスをした。
「大丈夫」
『なっ!お前何をする。離れろ。おい、クッソ!そんな事を従属者にされる筋合いはない!今だって私が言う事を聞かそうと思えばお前などどうにでも出来るんだぞ!』
顔を赤くしてオディアスが狼狽えた。
子供扱いされた事でオディアスが怒ったと思ったアリシアだったがつい言い返した。
「だったら好きにすれば良いわ。でも、私だって黙って言いなりになるつもりはないから!」
そこに父が入って来た。
「全く、いつまで待っても呼ばねぇから来てみりゃ、何だこいつは?」
父がズカズカと部屋の中に入ってくる。
『お前は誰だ!』
途端にオディアスが嫌な魔力を纏った気配がした。
「オディアス、私の父よ。父さん、いきなり入るなんて。まあ、紹介するわ。こちらが竜王オディアス様よ」
「こんな子供が竜王?馬鹿なアリシアいい加減にしろよ」
オディアスがいきなり大人の姿に変身した。
ああ、また身体が大きくなるのはいいとして、その服‥
「ブハッ、お前何だその格好!」
父は恐るどころかその姿を見て噴き出した。
『なっ、なぜ気付かん?私は竜王オディアスだぞ!』
「オディアス、人間より竜の姿の方が分かりやすいかも」
『ああ、そうか。わかった』
ボン!
オディアスは子竜に変身した。子竜はシャツの中で溺れるようにわしゃわしゃとシャツを掻き分けると父に向かって背筋を伸ばしてくいっと顔を上げた。
「ちっせぇな、こいつがほんとに竜王か?」
父がオディアスの前にしゃがみ込んで子竜を眺める。
アリシアはオディアスの怒りのオーラを感じて急いでオディアスを抱き上げる。
「父さん、封印から出たばかりで竜王はまだ本来の力を取り戻せてないの。そんな言い方失礼だよ」
「そうか。いや、すまん。それに500年も封印されて本当に申し訳なかった。人間、いや、この国の者としてあやまる。申し訳なかった。それでだ。一つ聞きたいんだが、封印が解けたら何か、その、アクルート国に災いが起きるとか結界に影響があるとか、竜毒が蔓延してどうにかなるとか。あるのか?」
『それは関係ないだろう。私が封印された後の事は他の竜人がやった事。500年の間に起きた事以上の事は起きんだろう』
脳内会話なのでアリシアがオディアスが伝えた事を父に話した。
「そうか、今まで通りって事か。まあ、それなら仕方ない事だな。だとすればだが、あんたこのままグリアダ王国にかえちゃぁくれねぇか。お互い水に流して今まで同様互いの国には干渉しないって事にすりゃぁ、事は丸く収まるってもんじゃねぇか」
父の言いたい事はわかる。わかるが相手は竜王なんだよ!
アリシアは父の言葉にヒヤヒヤしながら胸に抱いたオディアスを見る。
『アリシア、こいつぶっ飛ばしてもいいか?幾ら何でも失礼ではないか?私はこれでも竜王と言われた男だぞ』
オディアスの覇気がビリビリ伝わる気がする。
『オディアス様お気持ちは重々分かりますが、父は平民と言って身分が低く貴族の様な言葉が話せないんです。どうかお許しを。あっ、それに宝珠を取り戻しに行くのは私も一緒に行きますから』
『色々支度がいるのではなかったのか?』
『いえ、支度は急いでします。明日出発するのでお許し頂けませんか?』
『アリシアが一緒なら、も、文句はないが』
『良かった。では、私父と話をつけて来ますから、ここでお待ちを』
『分かった。腹が減ったな。何か食べる物を用意しろ!』
『はい、すぐにお持ちします』
アリシアはオディアスをそっとソファの上に下ろすと父の手を引っ張って部屋から連れ出した。
「もう、なにかんがえてるのよ!あんな言葉遣いなんかして、竜王は怒りのせいで攻撃する所だったのよ」
「そんなにヤバかったのか。すまん。それでどうするって?」
「竜王は宝珠を取り戻すって言ってるわ。だから私が一緒に行く事になった。きっと私が宝珠の場所を知ってるからだと思うわ」
「そんな事をどこで知った?」
「北辺境伯が言ってたからよ。それに彼は私が逃げたと知ったら追ってくるかも知れない。それに王都にも知らせるかも知れない。あまり時間がない思うわ。だから明朝出発するから」
「おい、アリシア、あんな奴と二人きりで旅に行かせる訳にはいかん!俺も行くからな。あんな男と二人きりにさせられる訳がねぇだろう!」
「いい、父さん聞いて、竜王はきっと宝珠を取り戻せば安心して国に帰ると思うの。だから私は竜王について行く事にしたのよ。封印を解いたのは私だけのせいじゃ無いとしてもやっぱり責任は感じるのよ」
「さすがは俺の娘だ。だったら尚更一緒に行くからな」
アリシアはチラリと考えた。流石にオディアスと二人きりなのは嫌だ。父と一緒と言うのも乗り気はしないがこうなったら仕方がないが。
「そうね‥父さんが来てくれるなら安心だわ。でも、もう一人誰かいるともっといいかも」
「だったら、ドクに頼もう。あいつなら剣も使えるし役に立つだろう」
「ええ、それがいいわ。父さんから頼んでみてくれる?」
「ああ、嫌とは言わせない。安心しろ!」
こうして明朝オディアス、アリシア、ノートン、ドクの四人で最初の街、東のイエラードと言う聖教会を目指す事になった。
歴代の聖女はそれぞれの聖教会に葬られているのだ。アリシアはその事は聖女になった時に知った。
東のイエラード聖教会。南東のサウスイード聖教会。南西のサウスエイド聖教会。そして西のウエンド聖教会に聖女は葬られている。




