15えっ?そんなつもりでは
アリシアは何かに誘われるように声のする方に進んでいた。
いきなり木の根に足を取られて躓いた。
「えっ?私、何を‥」
アリシアは一人そう呟いて、女の人の声に釣られて樹海に入っている事に気付いた。
大変、みんな心配してる。すぐに引き換えさなければと思った。
鬱蒼と繁った木々のせいで辺りは薄暗い。
アリシアは来た方角に顔を向けると視界の端に反対側に陽が差し込むのを感じた。
ふっと振り返る。光が差し込んだせいでさっきは見えなかった石碑にようなものが見えた。
その石碑には薄っすらと文字が刻まれている。
「アリ、アここに眠る?」
アリアって500年前のあの聖女の名前じゃ?この国の子供は誰でも知っている。この国を救うため竜王を封印するために犠牲となった聖女アリア。
アリシアは思わずその石碑に触れた。風雨に晒された石碑は触るとポロポロ崩れた。
『この奥の神殿に行って、そして封印を解いて彼を解放して、それが私の最後の望み。彼が解き放たれたら私はやっとこの苦しみから解放される。ずっとこの罪を抱えてここに囚われていたの。だからお願い』
「もしかして、あなたはアリア様ですか?彼って竜王の事ですよね?でも、私には多分そんな事出来ないと思います」
『やっと現れたの。わかるの。あなたはその力を持っている。どうかお願い‥』
「そんなの無理です。私には出来るはず‥アリア様?」
それからしばらく彼女の返事を待ったが一向に返事は返って来なかった。
アリシアは引き返そうと立ち上がった。
すると胸の辺りが熱くなった。見ると胸に下げていたペンダントの宝珠が光っている。
聖女ではなくなったあの日、このペンダントを返せと言われると思った。でも、聖教会の人も誰もペンダントを返せと言わなかった。本当は何も言われなくても返さなくてはいけなかったのかも知れない。でもアリシアはそれをしなかった。それをすれば幼い頃からずっとやって来た事全てが否定されるような気がした。
何度も魔力を使える様に練習をした。聖女になってどんな時も人の為にと頑張って来た。エリオット殿下の婚約者として相応しくなろうとも努力した。
ペンダントはその全ての結晶のようなものだった。
だから手放したくなかった。
アリシアは熱くなった緑色の宝珠を握りしめた。
すると握りしめた手の中から光が溢れ出した。
その光はアリア様の石碑のその先を指し示すように光が樹海の中に差し込む。
「あっ!」
木々が生い茂ったその先に小さな建物が見えた。
アリシアは一目散にその建物目掛けて歩き出す。
一歩進むたび、生い茂った木々がアリシアを導くように道を作り樹海とは思えないほど容易く神殿にたどり着いた。
古びた小さな神殿は、神殿とは言えないほどの小さな建物だった。石造りの建物の壁は半分崩れている。屋根はとうになくなったのか中の柱が剥き出しに見える。厚みのある扉はかろうじて閉じていたがその扉に手をかけて途端扉は朽ちていたのかガタンと音を立てて崩れた。
床の石はあったが足を乗せれば崩れるかも知れない。だけどアリシアの目にはそんな物は入っていなかった。
アリシアは、その奥にある水晶球に引き寄せられる様に進んだ。水晶球はしっかりした石造りの台座にしっかりと固定されている。
その水晶球に宝珠から放たれた光が注ぎ込まれている。
「こ、これは。まさか‥」
おずおずと近づくと水晶球の中に確かに小さな黒い竜がいた。目を凝らして見ると竜は動かずじっとしたままだった。
死んでるの?
もしかしてこれが、あの封印されたと言う竜王?500年もの間こんな所に閉じ込められていたなら死んでいても不思議ではない。
でも、アリア様は封印を解いて解放して欲しいと言った。でも、間に合わなかったのかも知れない。
アリア様には気の毒だが、500年も時が経っている。仕方のない事だとも思った。
アリア様ごめんなさい。竜王様はきっともう‥
アリシアは思わずその水晶球に触れた。
その途端!
ピキッ!ミシッ!
いきなり水晶球にひびが入る。
アリシアが驚いている間に一気に水晶球に亀裂が入り水晶球が弾けた。
バキバキ、パリーン!!
「うそ、どうしよう」
気づけば水晶球の中にいた竜が腕の中に飛び込んでいた。
「グハッ!」
「あ、あなた生きてるの?怪我は?」
小さいがちゃんと竜の形をしている。子供の竜とでも言えばいいのだろうか。小さいながらも黒い鱗に覆われ翼もあって前脚は小さいが爪は鋭そうだ。
その小さな前脚がアリシアの服をぎゅっと握りしめている。
「あなた私の言葉がわかる?」
子竜は大きな金紅色の目でアリシアを見つめたまま頷いた。言葉は理解出来るのかも知れない。
「あの、あなたは竜王で間違いないです?」
瞳と瞳が混じり合う。
ん?
しばしそのまま‥
『私はグリアダ王国の竜王。オディアスと言う。あなたは聖女か?』
その声はアリシアの脳内に直接響いた。どうやら会話は脳内で出来るようだ。
「えっと‥その、あの、ええ、ですが元聖女で‥竜王様、もしかして私が水晶球に触れたからひびが入ったとか?」
『やっと封印から出れたのはあなたのお陰だろう。それなのにあなたのせいだなんてとんでもない。感謝している。それであなたの名は?』
「アリシアと言います。竜王様、これからどうすれば?」
『アリシアか、良い名前だ。悪いが私は封印される前に宝珠を奪われたから全然力が出ない。申し訳ないが助けて貰えるか?』
「助けるってどうすれば?それに封印が解けたんです何か起こったりしないんです?」
『私の封印が解けたからと言って何も起きない。ただ、私の竜力は無くなってるし身体だってこんなだ。しばらくあなたのそばにいるしかない。アリシアお前が封印を解いたんだ。その責任は取って貰いたい。お前もそう思うだろう?』
そう言ったオディアスはアリシアの胸元にしがみついたままだ。
その割には言う事が偉そうではあるが。
狼狽たアリシアは、アリアの言葉を思い出した。
「そうは言っても、私もどうしていいのか。そう言えばアリア様があなたの封印を解いて欲しいってお願いされたんです。アリア様、竜王様出て来られましたよー」
何とかしようと声を上げてみる。
しばらくして声がした。
『ありがとう。これでやっと安心して天に行けるわ。オディアス、あなたも国に帰って幸せになってね。私、空からあなたの幸せを願ってるから、じゃ』
『アリア?私の番!!待ってくれ。君を助ける為に私はこの500年ずっとあの中に閉じ込められていたんだぞー!!お前は俺の唯一の!!!』
竜王とも思えない悲痛な叫び。
しーん‥‥‥
しばらく待つが何の応答もない。
虚しい空気が二人を包む。
アリシアは堪えきれず口を開いた。
「あ、あの、竜王様。アリア様は500年前に亡くなっていて、彼女は人間ですし、もし、生きていたとしてもとっくに寿命が尽きていたはずですので」
『そんなやっと封印が解けたと思ったら番とも別れが待っていたなんて‥アリア、私の番が‥』
見ればオディアスは小さな身体を震わせてかなりショックを受けている様に見える。
「辛いですね。でも、封印から解放されたんです。あなたの故郷にはあなたを待っている人がいるのでは?」
『私には竜力がないんだ。空を飛ぶ事も出来ない。それにこの身体を見ろ。こんな小さな身体の私を誰が竜王だと気付いてくれる?こんな事ならあのくそ水晶球の中にいた方が良かった。アリシアお前が余計な事をするから!!』
オディアスの怒りはおかしな方向に向かい始める。
「そんな、私だってアリア様に頼まれて、ほんのちょっと触っただけなんです!割れるなんて思ってもいなかったんです」
『だったら責任取ってくれるんだろう?私の魔力は枯渇しているんだ。おい、アリシアのその胸にある宝珠は?それは私のものだ。返してもらう!』
オディアスがそう言った途端アリシアの胸のペンダントに嵌め込まれていた緑色の宝珠が光ってすぅっとオディアスの身体に取り込まれた。
しかし、ペンダントの宝珠はそのままだった。
「あれ?竜王様、まだ私のペンダントに宝珠がありますけど?」
『ああ、既に私の体内に一つ目の力、再生力は取り戻した。よくよく考えてみればまあ、お前は私の恩人だからな。今は宝珠まで奪う事はしない。私には大地を司る5つの力があってその内の一つを取り戻したと言う事だ。後の4つの竜力、全てが揃えば私は完全体になれるんだ』
「そんな秘密を明かしていいんですか?」
『アリシア、お前は私を助けた。それに私がその気になればお前などいつでもどうにでも出来る。既に一つ力を得たからな』
「それなのに降りないんですか?」
『当たり前だ!私はこんな身体なんだぞ。それにな、封印が解けた途端時が動き始める。腹が減った。アリシア、お前が私を助けるのは当然の義務だと思え』
アリシアは思った。
最初はすごく慎み深い竜と思ってけど、さすが竜王ともなると遠慮がない。
「分かりました。でも、みんなにバレるとまずい気がするので竜王様は隠れてて下さいよ」
『そうだな。こんな無様な姿は誰にも見せられんからな。その条件を飲もう』
「お願いしますね」
って言うか。これからどうすればいいんだろう!
やっと、竜王、出ました。ほんと一時はどうなるかと‥この先もよろしくお願いしまーす!




