14一緒に行かせて下さい
騎士団の近くまで行くとすでに騎士達が表に集結し始めていた。
ドクとアリシアは急いでその中に入る。
「俺も行く!」
騎士の一人がドクに驚いて「お前怪我はどうした?」
「この人に治して貰った。ほら、見てみろ」
ドクは剣を肩まで掲げて腕を上下させた。
「お前すげぇじゃねぇか。あんなに痛がってたのに」
「とにかく急ごう。結界が崩れれば一気に魔物がここを襲うぞ」
「ああわかってる」
中に入ると騎士が纏った鎧が訝しげな光を放っていた。踏みしめられた土から上がってくる独特の匂いや冷たい金属の匂いも混じり誰もが緊張と不安を気づかれまいとと装備の点検に集中しているのかアリシア達に気付きもしない。
「何を騒いでる?今から出動するんだぞ。気を引き締めろ!」
いきなり低いがよく通る声が騎士達を一括する。
ノースライル北辺境はは急いで支度をしたのだろう。黒髪は乱れている。緊張感漂う鋭い琥珀色の瞳がこちらを向く。彼の片手は腰に佩いた剣の柄をぎゅっと握っていて彼もまた緊張状態にある事を感じさせた。
アリシアは急いで前に出た。
「恐れながら申し上げます。ノースライル様、私も一緒に連れて行ってもらえないでしょうか?」
「これは誰かと思えばアリシアか。今はそんな悠長な事を言っている場合ではないんだ。君は非難しろ」
「ノースライル様、こんな時だからこそ彼女の助けが必要かも知れません」
そう言ったのはドクだった。
「お前はドクじゃないか?怪我をしたと聞いたがどうした」
「ここにいるアリシアに治してもらいました。痛くてどうにもならなかった腕がほら、こんなに」
「おっ。これは、だが、実戦の場でそんな悠長な手当が出来るとは思えん。確かに後方での救助なら出来るかもしれんが」
「その後方支援をさせて下さい。私には実際結界の補修で騎士団に同行した経験もあります。治癒魔法も充分使えるとドクさんの治療で確信を得ました。だから」
「隊長急ぎませんと」
副隊長であるレオンが声を掛けた。
「分かった、皆支度は問題ないか?第一部隊が先に出発する。続いてレオンの第二部隊は結界を守ることを優先しろ!魔物は我ら第一部隊が引きつける。その間に結界の修復をやれ、いいな!」
「心得ました!」
「アリシア行けるか?」
「はい!」
「では、第二部隊で結界の修復を手伝ってくれ。くれぐれも命令に従えよ。約束出来るか?」
「出来ます!」
「よし!レオン頼んだぞ!」
「分かりました。ご武運を」
「ああ、行くぞ!」
ノースライル様率いる第一部隊は先に出発した。その数30ほど皆馬に乗り精鋭と思われる騎士ばかりだ。
騎士達は皆、無言で門を出るとすぐに馬の嘶きと鎧の擦れる音が遠ざかって行った。
すぐにレオン副隊長がドクとアリシアに声を掛けた。
「ドク、お前は第二部隊だ。いいな、それからアリシア、お前はドクのそばを離れるな。これは命令だ。いいな?」
「「分かりました」」
アリシアは急いで騎士団の服に着替えると第二部隊に合流した。
第二部隊は結界の補修を言う事で魔石や土嚢袋やスコップなども持参するらしい。
南門を出て西の樹海のある方角に向かって進むとすぐに遠くに樹海が見えた。
「あれが樹海」
「ああ、元はもっと向こう側だった。でも、どんどん竜毒に汚染されて樹海は広がっているんだ」
ドクさんが教えてくれる。
「そういえば、竜神殿も樹海の中に?」
「ああ、元々は樹海の外側にあったらしいが、今じゃ樹海に呑み込まれて近づく事も出来やしない」
ある程度進むと隊員が杭を打ち込んで魔石を杭の上置いて行く。魔石と杭の間には聖教会が配布している魔除けの護符が入れられる。そうする事で結界を強くする事ができる。
ここにも使っているんだ。アリシアはこの護符に祈りを込める仕事も何度もやって来た。もしかしたらあの護符もアリシアが祈りを捧げたものかも知れないと思うと自分のやって来た事が無駄では無かったと胸の奥が暖かくなった。
アリシアは騎士団について結界の補修に行くと必ずこうやって杭を打ち込んだ後に祈りを捧げていた。もしかしたら今回もそうする事で役に立てるのではと「あの、レオン副隊長、王都ではこの後私が祈りを捧げていたのですが」
「そうなのか?いつもは魔石と護符を使う事でしか結界を維持しないから、良ければ頼む」
「はい」
アリシアは手を合わせいつものように祈りを捧げる。どうかこの街を魔物や竜毒からお守り下さい。
重ねた手のひらが温かくなって光が湧き起こる。その光を注ぎ込むように魔石に当てる。
淡い光が魔石を包み込むとその光は地面に広がり吸い込まれて行く。
「「「おおぉぉぉ!」」」
騎士隊員から歓声が上がる。
「彼女が来て良かったな。これならきっと魔物から街を守れるんじゃないか」
「こんな光が人の手から出るなんて。なぁ、すごい」
「やっぱり彼女は聖女じゃないのか?王都の奴ら何考えてんだ。ったく!」
色々はな声が湧き上がるがアリシアはそんな事に構っている余裕はなかった。ただ、結界を何とかすることに必死だった。
そうやって次々に城壁に周りの結界を修復してほぼ一周し終わる頃だった。
『助けて‥やっと現れたのね。聖女、私の声が聞こえたら。この声の聞こえる方へ来て欲しい』
女の人の声が聞こえた。
アリシアは驚いて、あたりをキョロキョロ見回したが、女の人はどこにもいない。
気のせいとだと思った途端、また声がした。
『どうかお願い。私を、彼を助けて』
「あなたは誰?どこにいるの?」
『私は竜神殿のそばにいるわ。このまま真っ直ぐ樹海に向かって歩いてそうすれば私はいる』
アリシアは驚いた。竜神殿の近くにいる?葬られた聖女様じゃあるまいし‥
きっと力を使いすぎてこんな声が聞こえるのよ。そんな500年も前に死んだ人の声がするなんて、もう、きっとストレスか何かで頭がおかしくなってるのよ。
アリシアはきっと疲れだと言い聞かした。
「副隊長、これですべての結界の補修が終わります」
隊員の声が聞こえた。
「おお、みんなよくやった。引き上げるぞ。きっと隊長もそろそろ帰って来る頃だろう。だが、油断はするな。いいか気をつけろ!」
そんなレオン副隊長の声もはっきり聞き取れた。
『お願い。あなたしかいないの。あなたの力が必要なの。あの人を助けて。あの人は私を守ろうとして今も水晶球の中で苦しんでいるの。お願い‥』
最後は殆ど聞き取れないほど小さな声。
ルナが言っていた言い伝えを思い出す。竜王の番だった聖女。国に為とはいえ竜王を騙して、それでも竜王は番である聖女を助けるため自ら封印された。
悲痛な叫びに胸が掻き毟られ気付くと我を失ったようにアリシアは樹海の中に入っていた。




