10初めて見る街とギルド
キルハンの繁華街を抜けると遂にギルドが見えて来た。とは言っても王都の賑やかな建物を知っているアリシアに取ったらごく平凡な何の変哲もない建物だったがここで祖父や父が働いていると思うと何だかすごいところに感じた。
向かいには大きな建物があり宿屋らしい。その奥には北辺境伯の屋敷と騎士団の建物があり冒険者ギルドもあるとグエンさんが教えてくれた。
どうりで冒険者らしい人がうろついている。
大きな扉を開けて中に入るとすでにエドガーさんやオリルさんコルノさんがいた。
中に入るとホールのような空間があり床はモザイクタイルが貼られているが所どころはひび割れていたり汚れがある。奥に目を向けると受付のカウンターや手続きをする窓口らしい所があった。
「ギルド長。今朝は魔石の搬入があり午後には王都に向けて配達の準備に取り掛かる予定です。出発は明日あの朝です」
「おお、わかった。お前らはそっちにかかってくれ。今日の受付はルナに任せる。ノートン今日はお前もこっちを手伝ってくれ」
「はい、了解です」
ノートンも慣れた様子で返事をするとすぐに受付に行って今日の予定を確認している。
「あの、私も何か手伝いを」
「アリシアお前そんな事気にしなくていいから。そうだな、もうすぐルナが来るから受付の後ろの方にでも座ってりゃいいぞ」
グエンさんは目を細めアリシアに微笑むとすぐに忙しそうにエドガーさんが渡した書類に目を通している。
アリシアも言われることは理解できた。まあ、何も分からない自分が出来ることもなさそうだと思い言われたらようにカウンターの後ろに座る。
すぐにルナさんと言う若い女性がやって来た。年はアリシアとあまり変わらないように見えた。髪も目も茶色で紺色の上着と膝下までのスカートを履いている。
「おはようございます。皆さん早いんですね」
「おはよう、ルナ。今日は魔石の搬入があって忙しいんだ。昨日言っただろう。だから今日の受付はお前一人で回してくれ。忙しいだろうがノートンが手伝いに入るから。そうだ、俺の孫娘のアリシアだ。ギルドを見たいって言うから来たんだが見学でもさせてやってくれ」
「分かりました。あなたがアリシアさん?」
「はい、初めましてアリシアと言います。グエンさんの所には昨日来たばかりなんです。今日は見学と言うことでお邪魔だとは思いますがよろしくお願いします」
「あっ、どうも。私はルナ。生まれも育ちもここで父は騎士をしていたんだけど怪我をして今は自宅で養生してて、だからここで働いてるの」
「まあ、そうなんですか。お父様がお怪我を、それは大変ですね。あの、私に出来る事があれば何でも言いつけて下さい」
「そんな、アリシアさんって貴族のお嬢様?言葉遣いがすごくきれい」
「いえ、生まれは平民です。でも、貴族の養女になってしばらく王都に住んでいたので」
「まあ、王都に?私、憧れてるのよね。王都には美味しいケーキ屋さんとかきれいなドレスショップなんかがあるんでしょう?一度でいいから行ってみたいんだ」
「まあ、買い物とかするには楽しい場所かも知れません。でも、ここに来て思いました。みんなが助け合って力を合わせて生きているなんていいなぁって」
「そんな、アリシアさんは物珍しいからそんな事思うのよ。実際は貧しい暮らしをみんなで何とか乗り切ってるだけの話」
「まあ、ルナさん、そんな事ありません」
「いいえ、魔物は出るし竜神殿のおかげで竜毒も発生して母さんだって竜呪熱で亡くなったしこの土地では長生きも出来ないんだから」
「そんな苦労が、もし私に出来る事があればいいんですけど」
「王都の人に何が出来るって言うのよ。騎士団を頼んでも薬を頼んでもほんの雀の涙程度の支援でこっちは王都に魔石をたくさん送っていると言うのに。今日だって王都に向けて送る魔石の事で忙しいんですよ。こっちも魔物被害で困ってると言うのに王都さえ守れればいいと考えてるんだから」
アリシアは何も言えなくなった。
確かに聖女として何年も仕事をして来たがそれは全て王都の為、結界を守るのも王都。病気の治療も貴族ばかり、アリシアは他の地域の事など知る事もなかった。
「私‥」
「ふっ、それに王都から来たなら言い伝えも知らないんでしょ」
「言い伝えってあの500年前の竜王の封印の事ですか?」
「ええ、そうよ。王都では攻めてくる竜人を聖女が倒したって事になってるけど、確かに竜人が国を支配しようとしてた。でもね、聖女は竜王の番だったの。王はそれを利用して聖女を囮にして竜王の力を削いだ。そして封印しておまけに聖女まで殺したのよ。聖女が犠牲になって竜王を封印したなんて大嘘。竜王は番を助ける為に犠牲になった。それなのに番だった聖女も殺したの。酷い話よ。だから余計グリアダ王国は怒って魔物を放ち魔毒も発生するようにしたのよ。おかげで北辺境は一番被害を被って、それでもノースライルの領主はここの人達を見捨てたりしなかった。今もそう。だからみんな一生懸命力を合わせてやってるの。あなたにそんな暮らしが羨ましいって?冗談じゃないわ!」
どうやらルナの機嫌を損ねたらしい。でも、王都の言い伝えって都合が良いように改竄されてるって事なのね。知らなかった。
「ごめんなさい。私そんな事知らなくて、でも、私も王都から追い出されたの。散々利用されてもう用はないってゴミみたいに罪人にまでされて、それでもノースライル北辺境伯は私を信じて下さった。自分のやれる事をして欲しいって言って下さったの。だから私、ここで一から頑張りたいって思ってって」
ルナは一瞬、バツが悪そうに唇を噛んだ。
「そ、そう。アリシアも色々あったんだ。じゃ、ここで頑張るしか無いわね。そう言う事なら今日は座って見てればいいから」
「はい、ルナさん、もし私に出来る事があれば何でも言って下さい!」
「まあ、出来るとしたら昼ご飯を買いに行ってもらうくらいじゃない?」
「昼ご飯ですか?」
「ええ、きっと忙しくて食堂に行く暇なさそうだから」
「だったら、何か適当に作って来ましょうか?そう言えば皆さんも忙しいんですよね。だったらついでにみんなの分も。でも、先に仕事の見学ですね」
「そんなの食堂から適当に買って来てくれるだけでいいから」
「食堂から買って来るんですか」
「そうよ。この辺りじゃみんなそうしてるから」
「そうなんですね。じゃあ、いつでも言いつけて下さい!」
アリシアは変に張り切った。
そして時間になりギルドが開き人々がやって来た。
ホールの壁に掲示板を見てカウンターに人がやって来る。
ルナさんはその人のギルドの証明書を見て経験を聞き仕事の内容を確認する。そして紹介状を書くとそれを求職者に渡し場所の確認をする。
地図を見せて相手がきちんと場所を理解すると「では、行ってらっしゃい。頑張って」そう言って送り出した。
父は別のカウンターで仕事を終えた人の報告を受ける係をしているらしかった。
中年の男はどうやら鉱山での急な仕事に入ったらしく終業証明書を渡して銀貨を受け取るとそのままギルドを出て行く。
ルナがここでお金を渡すのは鉱山に急遽入った鉱夫だけで他の仕事は職場で給金をもらうんだと教えてくれた。
男が向かいの宿に入って行くのが見えた。どうやらそこの一階が食堂になっているらしい。
ああ。なるほど。
「ルナさん。向かいにあるのが食堂なんですね。すごく近くて便利ですね」
「まあね。でも味は期待しない方がいいよ」
「そうなんですか」
「ああ、パンに干し肉と野菜を挟んだだけの簡単なもので腹に入れるだけだと思っていた方がいいよ」
「じゃ、今日は試しに買ってみます」
「ったく。これだから王都の人は。まあ、好きにして」
「はい、楽しみです」
「アリシアさん、いいから少し黙っててもらえる?」
「はい」
アリシアはそれからお昼まで時々ルナさんに言われて書類を取ったり来た依頼書を掲示板に貼ったりする手伝いをした。




