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9.真実の大どんでん返し

王宮の大広間に響き渡っていたリリー・キャベンディッシュの金切り声が、遠くの廊下へと消えていく。

同時に、神殿の地下に潜入していたアルジャーノンからも「聖騎士団が売国奴どもを連行した」との魔術通信が、僕の手元の指輪に微かな振動となって届いた。

これで、我が国を内側から蝕んでいたすべての膿が、一滴も残さず綺麗に吐き出された。


静まり返った大広間の中心。僕はゆっくりと歩みを進め、国王陛下の御前に跪いた。


「陛下。王太子ジョージの捕縛、ならびに国家転覆を企てていた神殿の汚職勢力の排除……すべて完了いたしました」


玉座に座る父上は、深く、長いため息のあとに、僕を見つめて頷いた。


「見事だ、エドワード。……よくぞ国を救ってくれた。これにより、お前を我が国の王太子に指名する」


「ありがき幸せに存じます」


僕は頭を下げながら、胸の内でそっと、かつての記憶を弔うように目を閉じた。

周囲の貴族たちは、僕のことを「国のために涙を呑んで無能な実兄を切り捨てた、健気な弟王子」として、同情と称賛の入り混じった熱い視線で見つめている。


(……兄上。僕は、本当にあなたを支えたかったのですよ)


僕がジョージ兄上の執務室へ何度も足を運び、悲痛な面持ちで「最後の警告」を繰り返していたのは、周囲への印象操作のためだけではない。半分は、本気だった。

僕とエレノアは、王位を望んでいたわけではない。むしろその逆だ。僕は外交と内政を死に物狂いで勉強し、社交界の女王であるエレノアが兄上の最高の妃となり、二人でジョージ兄上を立派な王に担ぎ上げて、この国をより良いものにしようと心から願っていた。

エレノアへの恋心を胸の奥底に封印してまで、僕は兄上を支える未来を選んだのだ。


なのに、兄上はその僕たちの忠誠を、あの辺境から来た邪悪な少女、リリーに籠絡されることで全て裏切った。リリーの本性を知り、このままでは本当に国が滅びると確信したあの夜、僕とエレノアは、血を吐くような思いで決意したのだ。綺麗ごとだけでは、この国は守れない、と。

エレノアが「悪戯」としてリリーに贅沢を教え込んだのも、ジョージ兄上の目を覚まさせるための最後の試練だった。だが兄上は最後まで気づかず、国防予算までリリーに貢ぎ、アグネスのような国を売る化け物まで王宮に引き入れた。だから、僕たちは引き金を引いたのだ。


貴族たちが退出し、静まり返った広間に、二人の人物が近づいてくる。


一人は、潜入捜査の任務を終えたアルジャーノン。


そしてもう一人は…僕の最愛の女性、エレノア・スペンサー。


「お疲れ様、アル。危険な潜入任務を、見事にやり遂げてくれたね」


「いやー、エドワード。君に頼まれたから引き受けたけど、大変だったよ。…あ、そうそう。地下牢の連中だけど、アグネスとアーサーは『国家反逆罪』で極刑、あるいは魔力抽出のうえ鉱山送りで確定だってさ。隣国への通信暗号も全部書き換えたから、神殿の膿はこれで綺麗に消えたよ」


アルジャーノンは肩をすくめて笑った。彼は最初から、僕の計画の最大の協力者であり、神殿の闇を暴くためのエージェントだったのだ。


「ジョージ元殿下とリリー嬢も、先ほど北の僻地へ出発いたしましたわ。一生、あの冷たい石造りの塔から出られない生活……自業自得とはいえ、哀れなものですわね」


エレノアがぽつりと告げる。贅沢に溺れ、前線の兵や国民を苦しめた二人に相応しい、二度と這い上がれない絶望の結末だった。


エレノアが僕の隣へと歩み寄り、その細く美しい指先を僕の手へと重ねた。僕は彼女の腰を優しく引き寄せ、その輝く額に、今度は誰に憚ることもなく、愛おしさを込めて口づけを落とした。


「お疲れ様、エドワード。……本当に、長い戦いだったわね」


「ああ、エレノア。僕の隣に立つ王妃は、やはり君でなければならなかったんだ」


国のために一度は諦めたはずの真実の愛が、回り回って、この国の未来を救うために結ばれる。


無能な王太子に愛想を尽かした父上も、僕たちのこの「救国計画」を最初から知った上で、エレノアへの委任状を書いて静かに見守ってくれていた。アルジャーノンもまた、遊び人を装いながら、国の平和のために独りで神殿の闇へ潜ってくれた本物の戦友だ。


「さあ、これからは僕たちの時代だ。誰も飢えず、誰も不当に傷つけられない、本当に良い国を作ろう」


僕が告げると、エレノアは未来の賢妃に相応しい、気高くもどこか救われたような、この上なく美しい微笑みを僕に返した。


数ヶ月後、美しく飾られた王宮で、僕とエレノアの盛大な婚約発表、ならびに王太子就任式が執り行われた。


民衆からは地響きのような歓声が上がり、貴族たちは僕たちを未来の「若き善王と、麗しき賢妃」として心からの忠誠を誓ってくれる。


僕たちの手により、国はかつてない黄金期を迎え、末永く栄華を誇っていくことだろう。

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