表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/9

2.社交界の女王の怒りと、悪友の密談

王太子ジョージによる突然の婚約破棄宣言によって、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった夜会。

それが閉会した直後、社交界の女王エレノア・スペンサーは、激しい怒りに全身の血を沸き立たせながら自らの控室の扉を閉めた。


「アル!見たでしょうあの不躾な男!あんな芋臭い女のために、この私を侮辱するなんて絶対に許さないわ!」


パチン!激しい音を立てて扇子がテーブルに叩きつけられる。

人目を忍んで部屋に入ってきたのは、彼女の幼馴染であり悪友のアルジャーノン・ペラムだった。彼はいつもどおり正装を洒脱に着崩し、気まずそうな顔をするどころか、面白そうに肩をすくめてソファに腰掛けた。


「まあまあ、落ち着けよエレノア。気位の高い君がそんなに顔を真っ赤にしたら、誰もが羨むせっかくの美貌が台なしだ。しかしジョージ殿下も思い切ったことをするね。国王陛下が遠征で不在の夜を狙うなんてさ」


「ふん、どうせあの小娘にいいところを見せたかったのでしょう。いわゆる純粋で素朴で清らかな、田舎くさいリリー・キャベンディッシュに!」


エレノアは室内の絨毯を踏みしめながら、悔しげに唇を噛む。

彼女が何より許せないのは、自分という完璧な婚約者がいながら、あんな垢抜けない、素朴さだけが取り柄の田舎娘に乗り換えられたという屈辱だった。


「ねえアル、あなた得意でしょう? あの生意気な小娘に、ちょっとした悪戯を仕掛けてちょうだい」


「悪戯、ねえ? 例えば?」


アルジャーノンがニヤリと口の端を上げる。エレノアは彼の前に立ち、黒い微笑みを浮かべた。


「都会の贅沢をたっぷり教えてやって、あいつの唯一の取り柄である『素朴さ』ってやつを消し去るのよ。湯水のようにお金を使わせ、ちやほやして、お姫様気分にさせてやるの。そうすれば、あの地味な素朴さに惹かれていた殿下は、夢から覚めて勝手に落胆するわ」


「なるほど。甘やかして、内側から駄目にしていくわけだ。エレノア、君もなかなかに性格が悪いね」


「殿下に恥をかかされたお返しよ。少し困らせてやるくらいが丁度いいわ」


エレノアはプライドを取り戻したように優雅に微笑んだ。彼女にとっては、生意気な泥棒猫への、ちょっとしたお仕置きのつもりなのだろう。


だが、ソファに深く腰掛けたアルジャーノンの胸の内は、まったく別の目的で動いていた。

彼が欲しいのは、遊ぶ金。それも、実家の伯爵家に頼らずに手に入る、とびきりの大金だ。


(リリーちゃんは、既に未来の王族気取りで、神殿に頻繁に出入りしているという噂だ。しかも、あの真面目くさった筆頭聖女アグネスの友人ときた……)


アルジャーノンは、手元で弄んでいた銀のコインをパチンと弾いた。


神殿が医療用に販売している「聖魔力を込めた魔石」は、闇の市場で信じられないほどの高値で取引されている。


(エレノアの悪戯に乗っかるフリをして、まずはリリーちゃんを口説く。次に彼女に神殿へ案内させて、筆頭聖女アグネスに近づく。そして、僕の得意な魅了魔法をアグネスにかけて愛を囁けば、聖魔力をタダで手に入れ放題、無限の金づるが手に入る)


「いいよ、乗った。リリーちゃんをおだてて贅沢に溺れさせる役、僕が喜んで引き受けよう」


アルジャーノンは立ち上がり、エレノアに向けて恭しく一礼した。

こうして、社交界の女王の怒りを利用した、悪友の不穏な計画が静かに幕を開けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ