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             異世界送魂師ヒルメ  ~涙は地に還り、想いは空へ還る~  作者: ケンボー


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8/13

絶望

翌朝――。


柔らかな朝日が宿の窓から差し込む。


「……ん」


ヒルメはゆっくりと目を開けた。


「あっ!」


フェネクスが嬉しそうに立ち上がる。


「ヒルメさん!」


「良かったぁ……!」


「ワウ!」


シロも勢いよく飛び乗り、顔をペロペロと舐め始める。


「わっ、くすぐったいよシロ〜」


「ワウ♪」


「まったく……心配させるな」


アリアナは腕を組んだまま、小さく息を吐いた。


「三日も眠っていたんだぞ」


「えぇ!? 三日も!?」


ヒルメは勢いよく飛び起きる。


「ご、ごめんなさい!」


「謝る相手は私達じゃない」


「外を見てみろ」


ヒルメは窓を開けた。


そこには元気に畑仕事をする村人達。


笑いながら走り回る子供達。


昨日までの重苦しい空気は、跡形もなく消えていた。


「あっ……」


「みんな元気になってる……」


コンコン――。


「失礼するよ」


宿屋の女将が部屋へ入ってくる。


「お嬢ちゃん!」


「目が覚めたのかい!」


「おばちゃん!」


女将は涙を浮かべながらヒルメの手を握った。


「本当にありがとう……」


「あの日から誰一人寝込まなくなったんだよ」


「村中みんな元気になっちまってね」


「今じゃ笑い声が戻ってきたんだ」


「えへへ……良かったぁ」


「村長がお礼を言いたいって待ってるんだ」


「来てくれるかい?」


「うん!」


◇ ◇ ◇


村の広場――。


ヒルメ達が姿を見せると、村人達が一斉に集まってきた。


「ヒルメちゃん!」


「ありがとう!」


「命の恩人だ!」


「本当に助かった!」


子供達まで駆け寄ってくる。


「お姉ちゃん!」


「もう苦しくないよ!」


「ありがとう!」


ヒルメは照れくさそうに笑った。


「えへへ」


その時――。


杖をついた老人が前へ出る。


村長だった。


「旅のお嬢さん」


「改めて礼を言わせてくれ」


「この村は救われた」


深々と頭を下げる。


それに続くように、村人達も一斉に頭を下げた。


「ありがとうございました!」


ヒルメは慌てて両手を振る。


「そんなそんな!」


「頭を上げてください!」


「私はやりたかったからやっただけです!」


村長は優しく微笑んだ。


「そう言ってくれると思っておった」


「だからこそ、一つだけ頼みがある」


アリアナが表情を引き締める。


「頼み?」


村長はゆっくりと頷いた。


「ここ数か月……」


「ドラゴンの墓場へ向かった者達が、誰一人帰って来ないのじゃ」


その場の空気が変わる。


「冒険者も」


「商人も」


「旅人もじゃ」


「近隣の村から様子を見に向かった者もおる」


「だが、誰も戻ってこん」


フェネクスの耳がぴくりと動いた。


「……嫌な魔力を感じます」


アリアナも静かに頷く。


「やはりか」


「私も以前から気になっていた場所だ」


村長は続ける。


「最近では夜になると、あちらの方角から泣き声が聞こえると言う者までおる」


その瞬間――。


ヒルメがゆっくりと顔を上げた。


「……聞こえる」


「え?」


「泣いてる」


「すごく苦しそう」


「助けてって言ってる」


ヒルメはドラゴンの墓場がある方角をじっと見つめた。


「まだ……たくさん残ってる」


アリアナはヒルメの横顔を見る。


(やはり、この子には聞こえているのか)


ヒルメは優しく微笑んだ。


「行こう」


「みんな、お家に帰れなくて待ってる」


アリアナは小さく息を吐く。


「……仕方ない」


「どうせ帝国へ向かう道中だ」


「放ってはおけないな」


フェネクスも力強く頷いた。


「私も行きます」


「助けられる命があるなら」


「ワウ!」


シロも元気よく吠えた。


村長は再び深く頭を下げる。


「どうか……お願いいたします」


ヒルメはにっこり笑う。


「任せて!」


「みんなで助けに行こう!」

その日のうちに出発の準備は整った。


宿屋の女将は、大きな包みを抱えてやって来る。


「大した物じゃないけど、道中で食べな」


「サンドイッチだよ」


「わぁ!」


ヒルメは目を輝かせた。


「ありがとうございます!」


「ワウ♪」


シロも嬉しそうに尻尾を振る。


村人達も次々と集まってきた。


「干し肉を持っていきな」


「こっちは保存の利く果物だ」


「薬草も持っていけ」


「あっ、そんなにいっぱい!」


「持ちきれないよぉ」


ヒルメは困ったように笑う。


「全部、お前さん達のおかげで助かった命だ」


「遠慮するんじゃない」


アリアナは深く頭を下げた。


「感謝する」


「必ず原因を突き止めて戻って来よう」


村長は静かに頷く。


「どうか無理だけはしないでくだされ」


「ドラゴンの墓場は昔から誰も近づかぬ場所」


「何が起こるかわかりませぬ」


「はい!」


ヒルメは元気よく返事をする。


「困ってる人がいるなら助けないと!」


「ワウ!」


フェネクスも胸の前で両手を握る。


「私も頑張ります」


村人達は笑顔で三人を見送った。


「気を付けてな!」


「また遊びに来ておくれ!」


「ありがとう!」


「行ってきまーす!」


◇ ◇ ◇


村を出て数時間――。


森の中を歩き続ける三人。


「ねぇアリアナさん」


「なんだ?」


「ドラゴンの墓場って、ドラゴンさんのお墓なの?」


「そのままの意味だ」


「昔、この辺りはドラゴン達の縄張りだったらしい」


「寿命を迎えたドラゴン達は、決まって一つの場所へ集まり最期を迎えた」


「それがドラゴンの墓場だ」


「へぇー」


ヒルメは感心したように頷く。


「じゃあドラゴンさんのお墓参りなんだね」


「いや……そういう訳ではない」


アリアナは苦笑する。


「今では魔物の巣窟になっている」


「冒険者でも滅多に近づかない危険地帯だ」


「そうなんですね」


フェネクスも少し不安そうに呟く。


「私……少し怖いです」


ヒルメはフェネクスの手を優しく握った。


「大丈夫」


「一人じゃないよ」


「私もシロもアリアナさんもいるもん」


「はい……!」


フェネクスは少しだけ笑顔を取り戻した。


「ワウ!」


シロも励ますように一声鳴く。


アリアナはそんな三人を見て、小さく笑った。


(本当に不思議な連中だ)


(こんな状況でも自然と笑顔になってしまう)


その時だった。


ヒルメの足が止まる。


「……聞こえる」


アリアナの表情が変わる。


「またか」


ヒルメは遠くを見つめる。


「泣いてる」


「さっきより近い」


「苦しい……助けてって……」


フェネクスも耳をぴくりと動かした。


「嫌な魔力も強くなっています」


「もう近いですね」


アリアナは静かに剣へ手を添える。


「気を引き締めろ」


「ここから先は何が出てもおかしくない」


三人と一匹は、静かに歩みを進めた。


ドラゴンの墓場は、もう目の前まで迫っていた。

◇ ◇ ◇


ドラゴンの墓場まであと半日――。


第三騎士団は静かな森の中を進んでいた。


「隊長」


アテナが周囲を見回す。


「静かすぎます」


エリスも足を止めた。


「……ああ」


「鳥の鳴き声すら聞こえない」


フレイヤは辺りを見渡しながら肩をすくめる。


「やだなぁ」


「こういう時って絶対なんかいるじゃん」


「フレイヤ」


アテナが睨む。


「わ、分かってるって」


その時だった。


エリスの視線が地面で止まる。


「……血だ」


地面には点々と続く血痕。


「全員、警戒」


「抜刀」


カチャッ――。


一斉に剣が鞘から抜かれる。


第三騎士団は周囲を警戒しながら血痕を追った。


やがて視界が開ける。


そこには横転した荷馬車。


散乱した荷物。


そして数人の商人が倒れていた。


「……遅かったか」


エリスは静かに近寄る。


アテナがしゃがみ込み、遺体を確認した。


「亡くなって間もないですね」


「傷口も新しいです」


フレイヤが周囲を見回す。


「魔物かな?」


エリスは首を横へ振る。


「いや……分からん」


「荷馬車だけを壊すなら魔物でもおかしくない」


「だが、この傷は妙だ」


アテナも頷く。


「まるで何かから逃げながら戦ったような跡ですね」


その時――。


隊員の一人が叫んだ。


「隊長!」


「こちらへ!」


エリス達が駆け寄る。


地面には巨大な足跡が残されていた。


隊員が息を呑む。


「これは……」


アテナが静かに呟く。


「ドラゴン……」


誰もが言葉を失う。


エリスは巨大な足跡を見つめたまま口を開く。


「ドラゴンの墓場は近い」


「ここから先は何が起きても不思議ではない」


その時――。


森の奥から悲鳴が響いた。


「ギャアアアアア!!」


全員が一斉に顔を上げる。


「隊長!」


エリスは剣を構えた。


「急ぐぞ!」


「「はっ!!」」


第三騎士団は悲鳴の聞こえた方角へ、一斉に駆け出した。

◇ ◇ ◇


「ギャアアアアア!!」


森の奥から悲鳴が響く。


全員が一斉に顔を上げた。


「隊長!」


エリスは鋭く前を見据える。


「全員、警戒!」


「抜刀!」


カチャッ――。


一斉に剣が抜かれる。


「悲鳴の方角へ急ぐ!」


「「はっ!!」」


第三騎士団は森を駆け抜けた。


木々を抜けた先には、一台の荷馬車。


荷物は散乱し、商人達が必死に剣を振るっていた。


その周囲を取り囲むのは、十数匹もの魔物。


全身から黒い瘴気を纏い、赤黒い瞳で獲物を見据えている。


「た、助けてくれぇ!!」


「隊長!」


「数が多いです!」


エリスは剣を構えた。


「第三騎士団!」


「突撃!!」


「「おおっ!!」」


騎士達が一斉に飛び出す。


「風を司る精霊よ


我が願いに応え


風刃となり敵を切り裂け


《ウインドカッター》」


数人の騎士が放った風刃が魔物へ直撃する。


しかし――。


「なっ!?」


「効きが浅い!」


肩口を裂かれただけで、魔物は止まらない。


「普通の魔物じゃありません!」


アテナが前へ出る。


「氷雪を司る精霊よ


我が願いに応え


氷槍となり敵を貫け


《アイスランス》」


無数の氷槍が魔物を貫く。


だが、一匹は胸を貫かれながらも咆哮を上げて立ち上がった。


「隊長!」


「低位魔法では倒し切れません!」


エリスは眉をひそめる。


「瘴気で強化されているのか……!」


「フレイヤ!」


「りょーかい!」


フレイヤは巨大な戦斧を肩へ担ぐ。


「炎を司る精霊よ


我が武器に宿り


灼熱の刃となれ


《フレイム・エンチャント》」


ボォォォォッ!!


巨大戦斧イグニート・アクスが紅蓮の炎を纏う。


「燃えてきたぁぁぁ!!」


ドゴォォォォン!!


炎を纏った一撃が魔物をまとめて吹き飛ばす。


「硬っ!」


「普通なら真っ二つなのに!」


それでも一匹は地面を這いながら立ち上がろうとしていた。


「しぶといじゃん!」


追撃の一撃。


ズドォォォン!!


ようやく魔物は動かなくなった。


「隊長!」


「左から四匹!」


騎士が叫ぶ。


「ぐぁっ!!」


一人の騎士が吹き飛ばされる。


「大丈夫か!」


「腕をやられました!」


「下がれ!」


エリスが飛び込む。


「はぁぁっ!!」


鋭い斬撃が魔物の首を捉える。


しかし首は半分しか切れない。


「……浅い!」


「くそっ!」


二撃目。


三撃目。


ようやく首が落ちた。


「馬鹿な……」


若い騎士が息を呑む。


「隊長の剣でも一撃じゃない……」


エリスは叫ぶ。


「油断するな!」


「頭部を狙え!」


「確実に仕留めろ!」


「「はっ!!」」


アテナは前へ出る。


「氷雪を司る精霊よ


凍てつく檻となり


我が敵を閉ざせ


《アイスプリズン》」


巨大な氷壁が魔物達を閉じ込める。


「今です!」


「了解!」


フレイヤが大きく跳躍する。


「どっせぇぇぇぇい!!」


《イグニート・アクス》が振り下ろされる。


ドガァァァァン!!


氷ごと魔物を粉砕した。


「隊長!」


「まだ六匹います!」


隊員の声が飛ぶ。


エリスは空を見上げた。


「仕方ない……」


剣を天へ掲げる。


「星々を巡る天の輝きよ


我が願いに応え


無数の光となりて敵を撃て


《ステラレイン》」


無数の光が空から降り注ぐ。


ズドドドドドドドッ!!


大地が揺れ、森が震えた。


光が消える。


魔物達は倒れていた。


しかし――。


なお二匹が瘴気を纏いながら立ち上がる。


「まだか!」


エリスは地を蹴った。


「はぁぁぁっ!!」


一閃。


二閃。


魔物の首が宙を舞う。


静寂が森を包んだ。


アテナは静かに息を整える。


「……討伐完了です」


フレイヤは戦斧を肩へ担ぎ直す。


「なんなのあいつら」


「疲れるんだけど」


若い騎士が苦笑する。


「普通の魔物なら三回は全滅してますよ……」


別の騎士も頷く。


「ドラゴンの墓場……噂以上ですね」


エリスは魔物の亡骸から立ち昇る黒い瘴気を見つめた。


「……原因は間違いなくこの先だ」


「第三騎士団」


「隊形を立て直せ」


「ドラゴンの墓場へ向かう」


「「はっ!!」」

◇ ◇ ◇


第三騎士団は瘴気の立ち込める森を進み続けていた。


木々は黒く枯れ果て、草花は一輪も咲いていない。


地面には巨大な骨が幾重にも転がっている。


隊員の一人が息を呑んだ。


「隊長……あれは……」


エリスは静かに視線を向ける。


そこには山のように積み重なった竜の亡骸。


朽ち果てた巨大な翼。


折れた角。


砕けた牙。


数え切れないほどのドラゴンが眠っていた。


「ここが……ドラゴンの墓場か……」


誰も言葉を発しない。


その時――。


「それ以上、近付くな。」


澄んだ女性の声が響いた。


全員が一斉に身構える。


岩山の上。


一人の女性が静かに立っていた。


白銀の長い髪。


黄金に輝く竜の瞳。


頭には二本の黒い角。


腰からは竜の尾が揺れている。


その手には巨大な黒い大鎌。


風が吹くたび、長い髪が静かに揺れた。


その背後には数十体ものドラゴン。


地竜。


飛竜。


老竜。


様々な竜がこちらを見下ろしている。


隊員達が息を呑む。


「ド、ドラゴンだ……」


「こんな数……」


ドラゴニュートは静かに大鎌を肩へ担いだ。


「ここは竜の眠る聖域。」


「生者が踏み入ってよい場所ではない。」


「今すぐ引き返せ。」


エリスは一歩前へ出る。


「私は帝国第三騎士団隊長、エリス。」


「我々は調査任務でここへ来た。」


「貴方達と争う意思はない。」


ドラゴニュートは表情一つ変えない。


「知るか。」


短く吐き捨てる。


「任務など私には関係ない。」


「ここへ来た理由が何であれ、この先へは通さない。」


エリスは真っ直ぐ見据えた。


「近頃、この周辺では消息不明者が相次いでいる。」


「原因を調査する義務がある。」


ドラゴニュートは静かに目を閉じる。


「人間はいつもそうだ。」


「理由を並べ。」


「正義を語り。」


「そして墓を荒らす。」


大鎌の切っ先がゆっくりとエリスへ向けられた。


「何百年も同じだった。」


「だから、もう信用しない。」


瘴気が辺りへ立ち込め始める。


隊員達の表情が曇る。


「ぐっ……」


「なんだ、この重さは……」


「体が……」


アテナが息を整える。


「隊長……瘴気です。」


「身体能力も魔力も低下しています。」


フレイヤが戦斧を握り直した。


「マジかぁ……。」


「なんか体が鉛みたい。」


ドラゴニュートは静かに告げる。


「それが墓場だ。」


「生者を拒む。」


「これが最後の警告。」


「引き返せ。」


エリスは剣の柄へ手を添える。


「任務を放棄することはできない。」


ドラゴニュートは小さくため息を吐いた。


「……残念だ。」


「ならば。」


巨大な大鎌を構える。


後方のドラゴン達も一斉に翼を広げ、咆哮を上げた。


グォォォォォォォォ!!


エリスは静かに口を開く。


「第三騎士団。」


「――抜刀。」


カチャッ。


一斉に剣が抜かれる。


ドラゴニュートも大鎌をゆっくりと構えた。


「竜の眠りを乱す者。」


「ここから先へは、一歩たりとも通さない。」

エリスは静かに剣の柄へ手を添えた。


「第三騎士団。」


「抜刀。」


カチャッ――。


一斉に剣が鞘から抜かれる。


ドラゴニュートも静かに黒き大鎌を構えた。


「愚かな。」


「ならば、この墓場で眠るがいい。」


「各員、戦闘開始。」


「「はっ!!」」


騎士達が一斉に駆け出す。


その瞬間――。


「ぐっ……!」


一人の騎士が膝をついた。


「なんだ……。」


「体が重い……!」


「息が……苦しい……。」


瘴気は墓場全体を覆い、生者から力を奪っていく。


それでも騎士達は剣を握り締めた。


「うおおおおっ!!」


数人の騎士が地竜へ斬り掛かる。


ガギィィィィン!!


竜鱗に火花が散る。


刃は弾かれた。


次の瞬間。


地竜の巨大な前脚が薙ぎ払う。


ドゴォォォォン!!


「ぐぁぁぁぁ!!」


三人の騎士がまとめて吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」


「立て!」


「まだ終わるな!」


エリスが叫ぶ。


その横をフレイヤが駆け抜けた。


ニヤリと笑う。


「よーし!」


「燃えてきたぁぁぁぁ!!」


巨大な戦斧を掲げる。


「炎を司る精霊よ


我が武器に宿り


灼熱の刃となれ


《フレイム・エンチャント》」


ボォォォォォッ!!


《イグニート・アクス》が紅蓮の炎を纏う。


「ぶっ飛べぇぇぇぇ!!」


ドガァァァァァン!!


炎を纏った戦斧が地竜の肩へ炸裂する。


爆炎が舞い上がる。


「どうだぁ!!」


煙が晴れる。


地竜は静かにこちらを見ていた。


焦げ跡が付いただけ。


「…………え?」


地竜はゆっくり尾を振る。


ドォォォォォン!!


「きゃああああっ!!」


フレイヤは弾き飛ばされ、何本もの木をへし折りながら地面を転がった。


「フレイヤ!」


アテナが両手を掲げる。


「氷雪を司る精霊よ


凍てつく檻となり


我が敵を閉ざせ


《アイスプリズン》」


巨大な氷塊が飛竜を包み込む。


しかし。


バキィィィン!!


飛竜は翼を広げただけで氷を砕き散らした。


そのまま大きく羽ばたく。


轟ッ!!


暴風が騎士達を襲う。


「ぐぁぁぁ!」


「うわぁぁ!!」


数人の騎士が岩へ叩き付けられた。


別の地竜が突進する。


「しまっ――」


ドゴォォォォン!!


「ぐっ!!」


盾ごと騎士が吹き飛び、地面へ転がる。


「隊長!」


「右翼が持ちません!」


「左も押されています!」


エリスはドラゴニュートへ斬り掛かる。


ガギィィィン!!


剣と大鎌が激しくぶつかる。


「速い。」


ドラゴニュートは静かに呟く。


「だが。」


「遅い。」


大鎌が閃く。


ドォォォォォン!!


「ぐっ!!」


エリスは数メートル吹き飛ばされ、地面を滑る。


剣を支えに立ち上がる。


(体が……重い。)


(これが瘴気……。)


ドラゴニュートはゆっくり歩み寄る。


「まだ立つか。」


その背後ではドラゴン達が騎士団を蹂躙していた。


「ぐぁぁぁ!!」


「た、隊長!!」


「助け――!!」


悲鳴が森へ響く。


フレイヤは斧を支えに立ち上がる。


腕は震え、息も荒い。


目の前には傷一つない地竜。


「……うそ。」


「全然……効いてない……。」


いつもの笑顔は消えていた。


アテナも肩で息をしながら呆然とドラゴン達を見る。


「そんな……。」


「こんな事……。」


「あり得ません……。」


エリスは静かに剣を掲げた。


「星々を巡る天の輝きよ


我が願いに応え


無数の光となりて敵を撃て


《ステラレイン》」


無数の光が墓場へ降り注ぐ。


ズドドドドドドドドォォォン!!


轟音が響き渡る。


土煙が舞い上がる。


誰もが息を呑んだ。


やがて煙が晴れる。


ドラゴニュートはそこに立っていた。


ドラゴン達もなお翼を広げている。


ドラゴニュートは静かに大鎌を持ち上げた。


「終わりか。」


その一言で第三騎士団は凍り付く。


フレイヤは膝をついた。


「……勝てない。」


アテナは唇を噛み締める。


「隊長……。」


「申し訳……ありません……。」


隊員達も次々と地面へ倒れていく。


エリスは剣を握り締めた。


(まずい……。)


(誰一人……守れない。)


目の前には無傷のドラゴニュート。


その背後には数十体ものドラゴン。


エリスは奥歯を噛み締める。


(このままでは――。)


(第三騎士団は……全滅する。)

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