友のために、剣を取る
◇ ◇ ◇
ミラーク王国。
王立学院。
普段なら。
授業が行われている時間。
だが。
今日。
教室に。
授業を受ける生徒の姿はない。
王都へ。
帝国軍侵攻の報せが届き。
学院にも。
避難命令が出されていた。
廊下では。
教師達が。
生徒を誘導している。
そんな中。
特別クラス。
そこに残っていたのは。
ミア。
リナ。
セレスティア。
アルベルト。
四人。
「……。」
誰も。
避難するための。
荷物など。
持っていない。
ミアが。
窓の外を見る。
王都では。
兵士達が。
慌ただしく。
走り回っている。
「ヒルメ。」
小さく。
名前を呟く。
帝国が。
要求したのは。
ヒルメの引き渡し。
ミラークは。
それを拒否した。
そして。
帝国軍が。
動いた。
それだけは。
四人にも。
伝わっていた。
「私、行くよ。」
ミアが。
振り返る。
リナが。
すぐに頷く。
「私も。」
「……。」
セレスティアも。
二人を見る。
「私も行きます。」
三人の視線が。
最後に。
アルベルトへ。
向く。
「何だ。」
「アルベルトは?」
ミアが。
聞く。
「行くに決まっている。」
「だよね。」
「聞く必要があったか?」
「一応。」
「そうか。」
その時。
教室の扉が。
勢いよく。
開いた。
教師。
「お前達!」
四人が。
振り返る。
「何をしている!」
「避難命令が出ている!」
「他の生徒と一緒に――」
「先生。」
ミアが。
遮る。
「私達も戦うよ。」
「……何?」
「戦う。」
リナも。
続く。
教師の。
表情が。
変わる。
「馬鹿を言うな!」
「相手は帝国軍だぞ!」
「学院の訓練とは違う!」
「分かってるよ。」
「分かっていない!」
教師が。
声を荒らげる。
「人と人が殺し合う戦争だ!」
「お前達はまだ学生だぞ!」
「だから何?」
ミア。
「……。」
「ヒルメも学生だよ。」
教師が。
言葉を失う。
「私達と同じ。」
「この学院に通ってる。」
「私達の友達。」
「なのに。」
「ヒルメを守るために。」
「兵士さん達だけに戦ってもらって。」
「私達は逃げるの?」
「それは……。」
「嫌だよ。」
ミアが。
真っ直ぐ。
教師を見る。
「私は戦う。」
リナも。
頷く。
「私も。」
「ヒルメは。」
「私達の友達だから。」
「……。」
教師が。
セレスティアを見る。
「セレスティア。」
「申し訳ありません。」
セレスティアが。
静かに。
頭を下げる。
「ですが。」
「今回は。」
「先生の言うことを。」
「聞けません。」
そして。
アルベルト。
「アルベルト。」
「戦力は。」
「多い方がいい。」
「……。」
「それだけだ。」
ミアが。
横を見る。
「素直じゃないなぁ。」
「何がだ。」
「別に。」
「……。」
教師が。
四人を見る。
大きく。
息を吐く。
「……勝手に。」
「前線へ行くことは。」
「絶対に許さん。」
四人が。
顔を上げる。
「王国軍に。」
「話を通す。」
「戦うなら。」
「必ず軍の指揮に従え。」
「本当に危険だと判断されたら。」
「すぐに退け。」
「いいな。」
ミアの。
表情が。
明るくなる。
「うん!」
リナ。
「分かった。」
セレスティア。
「ありがとうございます。」
アルベルト。
「ああ。」
「それから。」
教師が。
四人を見る。
「必ず。」
「四人で戻ってこい。」
「……。」
一瞬。
静かになる。
ミアが。
笑う。
「もちろん。」
◇ ◇ ◇
王城。
地下へと続く。
階段。
ヒルメ。
その隣。
シロ。
そして。
エルド。
「ずいぶん。」
「下まで行くんだね。」
ヒルメが。
階段の先を。
覗き込む。
「仕方あるまい。」
エルドが。
杖をつきながら。
ゆっくり。
階段を下りる。
「お主を。」
「帝国に。」
「渡すわけにはいかんのでな。」
「……。」
ヒルメが。
少し。
俯く。
「私のせいで。」
「戦争になるんだよね。」
エルドの。
足が止まる。
「ヒルメ。」
「うん?」
「それは違うぞ。」
「……。」
「帝国が。」
「無理難題を押し付け。」
「それを拒んだミラークへ。」
「攻め込んでくる。」
「それだけの話じゃ。」
「でも……。」
「お主は。」
「何も悪いことを。」
「しておらん。」
エルドが。
ヒルメを見る。
「ならば。」
「堂々としておればよい。」
「……。」
ヒルメが。
しばらく。
エルドを見る。
「うん。」
シロ。
「ワウッ。」
ヒルメが。
シロを見る。
「シロも。」
「そう思う?」
「ワウ!」
「そっか。」
少しだけ。
ヒルメが。
笑う。
やがて。
三人は。
地下最深部へ。
辿り着く。
広い。
石造りの部屋。
周囲には。
幾重もの。
魔法陣。
エルドが。
杖を。
床へ。
軽く打ち付ける。
コン。
魔法陣が。
一斉に。
光を放つ。
「おお。」
ヒルメが。
目を丸くする。
「すごい。」
「ほっほ。」
「王城で。」
「最も堅牢な場所じゃ。」
「外から。」
「破るのは。」
「容易ではない。」
「じゃあ。」
「ここにいればいいんだね。」
「うむ。」
エルドが。
頷く。
「儂が。」
「迎えに来るまでな。」
「エルドは?」
「儂か?」
「うん。」
「もちろん。」
エルドが。
髭を撫でる。
「上へ戻る。」
「……戦うの?」
「さての。」
「爺には。」
「爺なりの仕事がある。」
「……。」
ヒルメが。
エルドを見る。
「気をつけてね。」
「ほっほ。」
「お主に。」
「心配されるほど。」
「耄碌したつもりはないわい。」
「そういう意味じゃないよ。」
「分かっておる。」
エルドが。
笑う。
そして。
シロを見る。
「シロ。」
「ワウ?」
「ヒルメを。」
「頼んだぞ。」
「ワウッ!」
「うむ。」
エルドが。
部屋を。
出ていく。
扉が。
ゆっくり。
閉じる。
ヒルメ。
シロ。
二人だけになる。
「……。」
ヒルメが。
シロを見る。
「待ってようか。」
「ワウ。」
「みんなが。」
「迎えに来てくれるまで。」
「ワウッ。」
◇ ◇ ◇
王都。
防衛本陣。
「学生を?」
レオンが。
眉をひそめる。
目の前。
ミア。
リナ。
セレスティア。
アルベルト。
そして。
学院の教師。
「はい。」
「本人達の意志です。」
「……。」
レオンが。
四人を見る。
「帰れ。」
即答。
ミアが。
一歩。
前へ出る。
「嫌だよ。」
「これは。」
「遊びではない。」
「分かってる。」
「なら帰れ。」
「だから。」
ミアが。
レオンを見る。
「分かってるから。」
「来たんだよ。」
「……。」
「ヒルメを。」
「守るんでしょ?」
「ああ。」
「じゃあ。」
「私達も手伝う。」
「必要ない。」
「必要あるよ。」
「……。」
「だって。」
「私達だって。」
「ミラークの人間だよ。」
レオンが。
黙る。
リナも。
一歩。
前へ。
「私も戦える。」
セレスティア。
「私もです。」
アルベルト。
「魔術師が。」
「足りているとは。」
「思えないが。」
「……。」
レオンが。
アルベルトを見る。
アルベルトも。
視線を逸らさない。
そこへ。
「ほっほ。」
声。
エルド。
「よいではないか。」
「エルド。」
「若い者が。」
「自分で決めて。」
「ここまで来たのじゃ。」
「門前払いも。」
「可哀想というものじゃろ。」
「学生だぞ。」
「知っておる。」
エルドが。
四人を見る。
「じゃが。」
「ただの学生でもあるまい。」
レオンが。
黙る。
確かに。
この四人は。
特別クラス。
通常の生徒とは。
違う。
特に。
アルベルト。
その魔法技術は。
既に。
学生という枠では。
収まりきらない。
「……分かった。」
レオンが。
折れる。
「ただし。」
「俺の指示には。」
「必ず従え。」
「勝手に前へ出るな。」
「危険だと判断したら。」
「退却させる。」
「その時は。」
「文句を言わず退け。」
ミア。
「分かった。」
リナ。
「うん。」
セレスティア。
「はい。」
アルベルト。
「ああ。」
レオンが。
地図を。
広げる。
「アルベルト。」
「魔術部隊へ入れ。」
「後方から。」
「前線を援護してもらう。」
「ああ。」
「セレスティア。」
「第二防衛線へ。」
「はい。」
「ミア。」
「リナ。」
「お前達は。」
「中央後方。」
「負傷者の救援と。」
「突破してきた敵への。」
「対応を頼む。」
二人が。
頷く。
「分かった。」
「うん。」
エルドが。
地図を。
覗き込む。
「儂は。」
「予定通り。」
「魔術部隊の。」
「後ろでよいかの。」
「ああ。」
「全体の魔法防御を頼む。」
「任せておけ。」
レオンが。
全員を見る。
「配置につけ。」
「帝国軍は。」
「もう近い。」
◇ ◇ ◇
主街道。
ミラーク軍。
第一防衛線。
兵士達が。
並ぶ。
その最前列。
アリシア。
静かに。
剣を構えている。
後方。
レオン。
さらに。
魔術部隊。
そこには。
アルベルト。
そして。
エルド。
左右。
各部隊長。
中央後方。
ミア。
リナ。
第二防衛線。
セレスティア。
誰も。
喋らない。
風だけが。
吹く。
やがて。
遠く。
地平線。
黒い影。
「……来た。」
兵士の。
誰かが。
呟く。
帝国軍。
その数。
地平線を。
埋め尽くす。
ミアが。
息を呑む。
「……多いね。」
リナ。
「うん。」
ミアが。
剣を。
強く握る。
「怖い?」
「ちょっと。」
「私も。」
二人が。
顔を見合わせる。
そして。
小さく。
笑う。
「でも。」
ミアが。
前を見る。
「逃げないよ。」
リナも。
前を見る。
「うん。」
その先。
アリシア。
たった一人。
誰よりも。
前に立っている。
帝国軍が。
迫る。
百。
千。
数え切れない。
足音。
地響き。
レオンが。
剣を抜く。
「全軍!!」
兵達が。
一斉に。
武器を構える。
「戦闘態勢!!」
ガガガガガガッ!!
盾。
槍。
剣。
弓。
杖。
アルベルトが。
杖を構える。
「……。」
隣の。
王国魔術師が。
その手を。
震わせている。
アルベルトが。
前を見る。
「震えているぞ。」
「す、すまない。」
「謝る必要はない。」
「……え?」
「僕も。」
アルベルトが。
小さく。
息を吐く。
「怖くないわけじゃない。」
魔術師が。
アルベルトを見る。
「だが。」
「やることは。」
「いつもと同じだ。」
杖の先へ。
魔力が。
集まる。
「狙って。」
「撃つ。」
「それだけだ。」
「……ああ。」
震えが。
少し。
止まる。
エルドが。
横目で。
アルベルトを見る。
「ほっほ。」
「何だ。」
「いや。」
「なかなか。」
「先生が板についておると思っての。」
「……うるさい。」
帝国軍。
さらに。
迫る。
「距離五百!!」
レオン。
「まだだ!!」
四百。
三百。
二百。
アリシアが。
剣を。
ゆっくり。
持ち上げる。
百五十。
帝国側。
号令。
『進めぇぇぇぇぇ!!』
大地が。
震える。
レオン。
「弓兵!!」
無数の。
弓。
空へ。
「放てぇぇぇ!!」
ヒュンッ!!
空が。
矢で。
埋まる。
帝国軍。
魔法障壁。
展開。
ドドドドドドドッ!!
「魔術部隊!!」
アルベルトの。
目が。
鋭くなる。
杖。
前へ。
「撃てぇぇぇ!!」
炎。
雷。
氷。
風。
無数の。
魔法。
帝国軍へ。
降り注ぐ。
ドォォォォォォォン!!
爆炎。
だが。
帝国軍は。
止まらない。
煙を。
突き破り。
兵達が。
走る。
アリシア。
「……。」
剣を。
握る。
帝国兵が。
目前まで。
迫る。
その瞬間。
アリシアが。
地を蹴った。
ドンッ!!
姿が。
消える。
ズバァァァァァァン!!
帝国軍。
最前列が。
まとめて。
吹き飛ぶ。
「なっ――!」
「囲め!!」
「女一人だ!!」
アリシア。
剣を。
振り抜く。
「一人?」
その瞳が。
帝国軍を。
睨む。
「後ろを。」
「よく見なさい。」
帝国兵が。
顔を上げる。
アリシアの。
後ろ。
ミラーク兵。
騎士。
魔術師。
そして。
学生達。
皆。
武器を。
構えている。
「私は。」
「一人ではありません。」
レオンが。
剣を。
振り上げる。
「全軍!!」
『おおおおおおおおお!!』
「迎え撃てぇぇぇぇ!!」
ミラーク軍。
突撃。
帝国軍。
突撃。
二つの軍が。
正面から。
激突する。
ガァァァァァァァァン!!
剣。
槍。
盾。
魔法。
怒号。
爆発。
ついに。
戦いが。
始まった。
◇ ◇ ◇
王城。
地下。
ドン……。
「……?」
ヒルメが。
顔を上げる。
シロも。
耳を立てる。
「ワウ……。」
ヒルメが。
天井を見る。
ドォン……。
僅かに。
床が。
揺れる。
「……始まったんだ。」
「クゥン……。」
ヒルメが。
シロの。
頭を撫でる。
「大丈夫。」
「待ってよう。」
「みんなが。」
「迎えに来るまで。」
「ワウ。」
ヒルメが。
座り直す。
だが。
その手は。
膝の上で。
強く。
握られている。
ドォォォン……。
また。
遠くから。
戦いの音。
「……。」
ヒルメが。
目を閉じる。
アリシア。
ミア。
リナ。
セレスティア。
アルベルト。
レオン。
エルド。
みんなの。
顔が。
浮かぶ。
「……みんな。」
その時。
ヒルメは。
まだ。
知らなかった。
自分の友達まで。
戦場に。
立っていることを。
◇ ◇ ◇




