それぞれの正義
◇ ◇ ◇
帝国。
第三騎士団本部。
早朝。
普段とは。
明らかに違う。
慌ただしさ。
騎士達が。
廊下を。
行き交っている。
武器。
防具。
兵糧。
軍馬。
次々と。
運び出されていく。
「第二陣!」
「正午に出るぞ!」
「物資を西門へ回せ!」
「魔術部隊への通達は!」
「既に完了しています!」
その様子を。
窓から。
黙って。
見つめる。
一人の。
女性。
エリス。
机の上。
一枚の。
命令書。
ミラーク王国。
そして。
そこに。
記されている。
少女の名。
ヒルメ。
「……。」
エリスの。
手が。
命令書を。
強く握る。
ドラゴンの墓場。
黒い外套。
黒い杭。
帝国の記録から。
消された。
情報。
そして。
ヒルメ。
調べれば。
調べるほど。
何かが。
おかしかった。
以前。
エリスは。
動こうとした。
ヒルメへ。
危険を。
知らせるために。
だが。
ガロンに。
止められた。
敵が。
誰なのか。
分からない。
目的すら。
分からない。
そんな状態で。
下手に動けば。
逆に。
ヒルメを。
危険へ。
晒しかねない。
その言葉を。
否定出来なかった。
だから。
待った。
だが。
今は。
違う。
帝国自身が。
動いた。
ヒルメのいる。
ミラークへ。
軍を。
向けた。
その上。
ヒルメを。
引き渡せと。
要求した。
「……。」
エリスが。
命令書を。
机へ。
置く。
そして。
振り返る。
「第三騎士団を。」
「全員。」
「集めろ。」
側にいた。
騎士が。
顔を。
上げる。
「全員ですか?」
「ああ。」
「訓練場へ。」
「すぐにだ。」
「はっ!」
◇ ◇ ◇
第三騎士団。
訓練場。
騎士達が。
ずらりと。
並んでいる。
アテナ。
フレイヤ。
そして。
第三騎士団。
全隊員。
その前。
エリス。
「全員。」
ざわめきが。
止まる。
「これから。」
「私は。」
「陛下のもとへ行く。」
隊員達が。
僅かに。
反応する。
フレイヤが。
首を。
傾げる。
「ミラークの件っすか?」
「ああ。」
「直接。」
「陛下に問う。」
アテナの。
表情が。
僅かに。
変わる。
「その前に。」
エリスが。
全員を。
見渡す。
「お前達へ。」
「命令しておく。」
空気が。
張り詰める。
「私が戻るまで。」
「第三騎士団は。」
「ここを動くな。」
「……。」
「何があってもだ。」
ざわっ。
隊員達が。
顔を。
見合わせる。
一人の。
騎士が。
口を開く。
「隊長。」
「何があっても。」
「ですか?」
「ああ。」
「他の騎士団から。」
「応援を求められても。」
「軍務局から。」
「出撃命令が来ても。」
「動くな。」
フレイヤが。
一歩。
前へ。
「待ってくださいっす。」
「それ。」
「陛下から。」
「直接命令が来ても?」
一拍。
「ああ。」
ざわっ。
明らかな。
動揺。
アテナが。
エリスを。
見つめる。
「隊長。」
「何をするつもりです。」
「話を。」
「しに行くだけだ。」
「それだけで。」
「この命令を?」
「アテナ。」
「はい。」
「お前なら。」
「分かるだろう。」
「……。」
アテナが。
黙る。
エリスは。
続ける。
「もう一つ。」
「私に。」
「何があっても。」
「追うな。」
「……!」
「助けにも。」
「来るな。」
「ミラークへも。」
「向かうな。」
フレイヤの。
顔が。
険しくなる。
「それは。」
「無理っすよ。」
「隊長に。」
「何かあったら――」
「フレイヤ。」
低い。
声。
「……。」
「命令だ。」
フレイヤが。
拳を。
握る。
「……了解っす。」
エリスが。
アテナを見る。
「私が。」
「いない間。」
「第三騎士団を。」
「頼む。」
「……承知しました。」
だが。
アテナの。
視線は。
エリスから。
離れない。
エリスが。
もう一度。
第三騎士団を。
見渡す。
長く。
共に。
戦ってきた。
部下達。
命を。
預け。
命を。
預けられた。
仲間達。
「……。」
ほんの。
僅かに。
表情が。
緩む。
「今まで。」
「よく。」
「ついてきてくれた。」
「……?」
フレイヤが。
眉を。
寄せる。
「隊長?」
アテナも。
僅かに。
目を。
見開く。
だが。
エリスは。
それ以上。
何も。
言わない。
「以上だ。」
踵を。
返す。
「待機していろ。」
『はっ!!』
第三騎士団。
全員が。
敬礼する。
エリスは。
振り返らない。
そのまま。
訓練場を。
後にした。
◇ ◇ ◇
第三騎士団本部。
廊下。
一人。
歩く。
エリス。
その先。
壁へ。
背を預け。
腕を組んでいる。
ガロン。
「話は。」
「終わったか。」
「ああ。」
「で。」
「どこへ行く。」
「陛下のところだ。」
「やめておけ。」
「退け。」
「嫌だ。」
「……ガロン。」
「何だ。」
「退け。」
「だから嫌だ。」
「……。」
二人が。
見つめ合う。
ガロンが。
先に。
口を開く。
「前に。」
「言ったはずだ。」
「下手に動けば。」
「ヒルメを。」
「危険に晒す。」
「分かっている。」
「なら。」
「大人しくしてろ。」
「前とは。」
「状況が違う。」
エリスが。
ガロンを。
真っ直ぐ。
見る。
「帝国が。」
「ヒルメのいる。」
「ミラークへ。」
「軍を向けた。」
「しかも。」
「ヒルメを。」
「引き渡せと。」
「要求した上でだ。」
「……。」
「もう。」
「黙って見ている。」
「つもりはない。」
「陛下に。」
「直接問う。」
「何故。」
「ヒルメを求める。」
「何故。」
「ミラークへ。」
「軍を向ける。」
ガロンが。
ため息を。
つく。
「答えが。」
「気に入らなかったら?」
「その時に。」
「考える。」
「嘘つけ。」
「……。」
「もう。」
「決めてる顔だ。」
エリスは。
答えない。
ガロンが。
頭を。
掻く。
「止めても。」
「行くんだな。」
「ああ。」
「命令しても?」
「行く。」
即答。
「……やれやれ。」
ガロンが。
道を。
開ける。
「好きにしろ。」
エリスが。
その横を。
通る。
数歩。
進む。
「エリス。」
足が。
止まる。
「死ぬなよ。」
「……。」
エリスが。
僅かに。
振り返る。
「ああ。」
そのまま。
歩いていく。
ガロンは。
その背中が。
見えなくなるまで。
黙って。
見送る。
「……ったく。」
頭を。
掻く。
「世話の。」
「焼ける奴だ。」
ガロンが。
踵を返す。
「さて。」
「こっちは。」
「こっちで。」
「動くか。」
◇ ◇ ◇
帝国王城。
謁見の間。
巨大な。
扉が。
開く。
「帝国第三騎士団隊長。」
「エリス・フォン・アルセリア。」
玉座。
皇帝。
その傍ら。
重臣達。
そして。
少し離れた場所。
黒い衣を。
纏った。
男。
「……。」
エリスの。
視線が。
一瞬。
その男へ。
向く。
嫌な。
気配。
どこか。
ドラゴンの墓場で。
感じたものを。
思わせる。
だが。
今は。
それよりも。
聞かなければ。
ならないことがある。
エリスが。
皇帝へ。
向き直る。
「何用だ。」
「陛下。」
片膝を。
つく。
「問いたいことがある。」
「申せ。」
「何故。」
「ミラークへ。」
「軍を向けた。」
謁見の間が。
静まる。
皇帝が。
僅かに。
眉を。
上げる。
「そのようなことか。」
「……そのようなこと?」
エリスが。
顔を。
上げる。
「既に。」
「多くの兵が。」
「国境へ。」
「向かっている。」
「戦になれば。」
「帝国の兵も。」
「ミラークの兵も。」
「多くが死ぬ。」
「民も。」
「巻き込まれる。」
「それを。」
「そのようなことと?」
皇帝が。
鼻で。
笑う。
「戦で。」
「兵が死ぬ。」
「当然だ。」
「兵とは。」
「国のために。」
「命を使うもの。」
「……。」
エリスの。
目が。
細くなる。
「では。」
「何故。」
「ヒルメを。」
「要求した。」
「何故。」
「あの少女を。」
「帝国へ。」
「引き渡せと?」
「必要だからだ。」
「何に。」
「貴様が。」
「知る必要はない。」
「ある。」
エリスが。
立ち上がる。
「私は。」
「第三騎士団隊長だ。」
「部下を。」
「戦場へ送る。」
「その命令が。」
「何のためなのか。」
「知る責任がある。」
「責任?」
皇帝が。
笑う。
「貴様の責任は。」
「余の命令に。」
「従うことだ。」
「騎士に。」
「考える必要などない。」
「余が。」
「進めと言えば。」
「進め。」
「殺せと言えば。」
「殺せ。」
「死ねと言えば。」
「死ねばよい。」
「それが。」
「帝国騎士だ。」
「……。」
エリスの。
拳が。
握られる。
「獣人族。」
「霊獣族まで。」
「巻き込んだのは。」
「何故だ。」
「戦力になる。」
「それだけだ。」
「彼らにも。」
「国がある。」
「民がいる。」
「それがどうした。」
皇帝が。
エリスを。
見下ろす。
「弱き国は。」
「強き国に。」
「従えばよい。」
「弱き種族は。」
「強き者のために。」
「使われればよい。」
「それが。」
「世界の道理だ。」
「……。」
「ミラークも。」
「同じ。」
「余に従えば。」
「生かす。」
「逆らえば。」
「滅ぼす。」
「ただ。」
「それだけだ。」
エリスが。
皇帝を。
見据える。
「では。」
「ミラークが。」
「ヒルメを。」
「差し出せば。」
「軍を退くのか。」
皇帝が。
笑った。
「何を言う。」
「既に。」
「あれだけの軍を。」
「動かしたのだぞ。」
「ミラークほどの。」
「豊かな国を。」
「目の前にして。」
「帰る理由が。」
「どこにある。」
「……。」
エリスの。
表情が。
消える。
「そうか。」
「ああ。」
「ミラークを落とす。」
「ヒルメも。」
「手に入れる。」
「そして。」
「次は。」
「魔国だ。」
「……。」
「魔族共は。」
「余の誘いを。」
「断った。」
「ならば。」
「力で。」
「従わせればよい。」
「その後は。」
「ドワーフも。」
「獣人も。」
「霊獣も。」
「全て。」
「帝国の下へ。」
「置く。」
皇帝が。
両腕を。
広げる。
「この大陸に。」
「国など。」
「一つでよい。」
「帝国だけで。」
「よいのだ。」
「……。」
長い。
沈黙。
皇帝が。
続ける。
「エリス。」
「第三騎士団を。」
「率いろ。」
「ミラークへ。」
「向かえ。」
「余に。」
「逆らう者を。」
「皆殺しにせよ。」
「ヒルメだけは。」
「生かして。」
「連れてこい。」
「皇帝命令だ。」
「……。」
エリスは。
動かない。
「どうした。」
「返事をせぬか。」
「……違う。」
「何?」
エリスが。
皇帝を。
真っ直ぐ。
見る。
「私は。」
「そのために。」
「騎士になったのではない。」
「民を守るため。」
「仲間を守るため。」
「弱き者の。」
「盾となるため。」
「私は。」
「剣を握った。」
「くだらん。」
皇帝が。
吐き捨てる。
「正義など。」
「勝者が。」
「決めるものだ。」
「……。」
エリスが。
静かに。
首を。
横へ振る。
「ならば。」
「私は。」
「貴方には。」
「従えない。」
一拍。
「私の中の。」
「正義が。」
「それを。」
「許さない。」
静寂。
皇帝の。
表情が。
変わる。
エリスが。
胸元へ。
手を。
伸ばす。
第三騎士団。
隊長の。
徽章。
それを。
外す。
コトン。
床へ。
置く。
そして。
腰へ。
手を。
伸ばす。
一振りの。
剣。
第三騎士団隊長へ。
任命された。
あの日。
皇帝より。
下賜された。
剣。
幾度もの。
戦場で。
振るってきた。
帝国騎士。
そして。
第三騎士団隊長としての。
証。
エリスが。
鞘ごと。
腰から。
外す。
一歩。
前へ。
カチャ。
徽章の。
隣へ。
置く。
「……何の真似だ。」
皇帝の。
声が。
低くなる。
エリスが。
床の。
剣を見る。
「この剣は。」
「帝国を。」
「民を守るために。」
「賜ったものだ。」
「侵略のために。」
「振るう剣ではない。」
「貴様……。」
エリスが。
皇帝を見る。
「第三騎士団隊長の。」
「任を返す。」
「この剣も。」
「返す。」
「……。」
「本日をもって。」
「帝国騎士団を。」
「抜ける。」
皇帝が。
ゆっくりと。
立ち上がる。
「余が。」
「許すと思うか?」
「許可を。」
「求めてはいない。」
「……!」
「私は。」
「もう。」
「貴方には従わない。」
「それだけだ。」
「エリス!!」
皇帝の。
怒声。
「反逆だぞ!!」
「好きに呼べ。」
エリスが。
背を。
向ける。
「捕らえろ!!」
騎士達が。
一斉に。
エリスを。
囲む。
剣。
槍。
その全てが。
向けられる。
エリスは。
丸腰。
「抵抗するな!」
一人の。
騎士が。
腕を。
伸ばす。
その瞬間。
グッ。
「なっ――」
エリスが。
腕を取り。
体勢を。
崩す。
ドンッ!!
「ぐあっ!」
床へ。
叩きつける。
別の。
騎士が。
剣を。
振る。
エリスが。
半歩。
横へ。
躱す。
手首を。
掴む。
捻る。
カランッ。
剣が。
床へ。
落ちる。
エリスが。
拾う。
「借りるぞ。」
「囲め!!」
ガギィィィン!!
「ぐあっ!」
一人。
ドンッ!!
「がっ!」
二人。
ガンッ!!
「ぐはっ!」
三人。
斬らない。
殺さない。
だが。
誰一人。
エリスを。
止められない。
「西回廊を封鎖しろ!」
「魔術師部隊を呼べ!」
「それが!」
「何だ!」
「魔術師部隊は。」
「北区画へ。」
「移動しています!」
「何!?」
「誰の命令だ!」
「軍務局です!」
◇ ◇ ◇
軍務局。
ガロン。
机の前。
「第三警備隊。」
「東門への移動。」
「完了しました。」
「ああ。」
「西回廊の。」
「魔術師部隊も。」
「北区画へ。」
「向かわせています。」
「そうか。」
ガロンが。
書類へ。
判を。
押す。
部下が。
首を。
傾げる。
「ですが。」
「何だ。」
「この配置変更。」
「今でなければ。」
「ならないのですか?」
ガロンが。
顔を。
上げる。
「何か。」
「問題でもあるか。」
「い、いえ。」
「なら。」
「さっさと行け。」
「はっ!」
部下が。
出ていく。
扉が。
閉じる。
「……。」
ガロンが。
配置図へ。
目を。
落とす。
「俺は。」
「何も知らん。」
一枚。
書類を。
手に取る。
「偶然。」
「東門に。」
「兵が集まった。」
判。
「偶然。」
「西門の。」
「警備が薄い。」
判。
「偶然。」
「伝令が。」
「少し。」
「遅れただけだ。」
ガロンが。
鼻で。
笑う。
「だから。」
「さっさと行け。」
「エリス。」
◇ ◇ ◇
帝都。
西門。
「いたぞ!!」
「エリスだ!!」
「門を閉じろ!!」
一頭の。
軍馬。
その背。
エリス。
腰には。
王城で。
奪った。
剣。
「はっ!」
ドドドドドドッ!!
巨大な。
門が。
閉じ始める。
「急げ!」
「反逆者を逃がすな!!」
エリスが。
馬を。
加速させる。
ズズズズズズッ!!
残り。
僅か。
「閉じろ!!」
ドドドドドドドドッ!!
一気に。
門を。
駆け抜ける。
ドォォォン!!
直後。
巨大な。
門が。
閉じた。
「……。」
エリスが。
一度だけ。
振り返る。
帝都。
生まれ。
育ち。
騎士となり。
守ってきた。
国。
胸には。
もう。
第三騎士団の。
徽章はない。
「……さらばだ。」
エリスが。
前を。
向く。
「ヒルメ。」
馬が。
走り出す。
「今度は。」
「私が。」
「助ける番だ。」
◇ ◇ ◇
帝国領。
街道。
ドドドドドドドドッ!!
エリス。
その後方。
複数の。
騎馬。
さらに。
魔術師達。
「いたぞ!」
「エリス確認!」
「逃がすな!」
「陛下より。」
「反逆者を。」
「捕らえよとの。」
「命令だ!」
エリスが。
振り返る。
杖が。
一斉に。
向けられる。
「放て!!」
ゴォォォォォッ!!
炎。
雷。
風。
無数の。
魔法。
エリスへ。
迫る。
エリスが。
馬から。
飛び降りる。
剣を。
抜く。
「風よ。」
横薙ぎ。
ズバァァァァァン!!
魔法が。
まとめて。
切り裂かれる。
ドドドドドドォォォン!!
爆発。
煙。
「やったか!?」
「馬鹿!」
「相手はエリスだぞ!」
煙の中。
一人。
立つ。
エリス。
「最後に。」
「一度だけ。」
剣を。
下げたまま。
追手を見る。
「退け。」
「出来ない!」
「我々も。」
「皇帝陛下の。」
「命を受けている!」
「……そうか。」
エリスが。
剣を。
構える。
「なら。」
「来い。」
ドンッ!!
姿が。
消える。
「なっ――」
ドガァァァン!!
「ぐあっ!」
ガンッ!!
「がっ!」
「囲め!」
「後衛!」
「距離を取れ!」
「遅い。」
ズバァァァァン!!
爆風。
騎士達が。
まとめて。
吹き飛ぶ。
一人。
また。
一人。
倒れていく。
やがて。
立っている者は。
エリスだけ。
「……。」
剣を。
鞘へ。
収める。
「死者は。」
「いない。」
倒れた。
騎士達を見る。
「これ以上。」
「追うな。」
「次も。」
「手加減出来るとは。」
「限らん。」
馬へ。
乗る。
誰も。
動けない。
エリスが。
再び。
走り出す。
向かう先。
ミラーク王国。
◇ ◇ ◇
第三騎士団本部。
「……は?」
フレイヤが。
固まっていた。
アテナも。
無言。
第三騎士団。
全員。
その前。
一人の。
伝令。
「もう一回。」
フレイヤが。
伝令を見る。
「言ってくださいっす。」
伝令が。
息を。
飲む。
「エリス隊長は。」
「皇帝陛下へ。」
「第三騎士団隊長の。」
「徽章と。」
「下賜された剣を。」
「返上。」
「帝国騎士団を。」
「脱退されました。」
「……。」
「現在。」
「反逆者として。」
「追跡命令が。」
「出ています。」
「……。」
数秒。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
フレイヤの。
叫び。
「何すかそれ!!」
「隊長が!?」
「一人で!?」
「反逆者ぁ!?」
ドンッ!!
机を。
叩く。
「ふざけんなっす!!」
「追うっす!」
「今すぐ。」
「隊長を――」
「駄目です。」
アテナ。
「は!?」
アテナが。
拳を。
強く。
握る。
「隊長命令です。」
「何があっても。」
「動くな。」
「隊長を。」
「追うな。」
「助けにも。」
「行くな。」
「ミラークへも。」
「向かうな。」
「……。」
フレイヤが。
言葉を。
失う。
脳裏。
浮かぶ。
出ていく。
直前。
エリスが。
言った。
言葉。
『今まで。』
『よく。』
『ついてきてくれた。』
「……。」
フレイヤが。
俯く。
「何すか。」
「あれ……。」
「別れのつもりだったんすか……。」
アテナは。
何も。
答えない。
ただ。
空になった。
隊長席を。
見つめている。
◇ ◇ ◇
遥か西。
世界樹。
その麓。
エルフの里。
一人の。
エルフが。
帰還していた。
◇ ◇ ◇
長の館。
「……戻ったか。」
長。
その前。
アリアナ。
腰には。
一振りの。
剣。
世界樹の迷宮。
最奥。
その試練を。
乗り越えた者に。
授けられた。
神器。
「ああ。」
「迷宮は。」
「どうだった。」
「最奥まで。」
「辿り着いた。」
長の。
目が。
僅かに。
見開かれる。
「最奥まで?」
「ああ。」
「試練も。」
「越えた。」
アリアナが。
腰の。
神器を。
外す。
「そして。」
「これを。」
「授かった。」
「……!」
長の。
表情が。
変わる。
立ち上がる。
一歩。
また。
一歩。
神器へ。
近付く。
「これは……。」
「知っているのか?」
「ああ。」
長が。
神器を。
見つめる。
「実物を。」
「見るのは。」
「私も初めてだ。」
「だが。」
「間違いない。」
「遥か昔より。」
「エルフに。」
「伝わる武器だ。」
「世界樹の。」
「試練を越えた者が。」
「手にするとされる。」
「古の神器。」
「……。」
アリアナが。
自分の。
剣を見る。
「何のための。」
「武器なんだ。」
長が。
答える。
「エルフを。」
「守る力だ。」
「……。」
「里を守り。」
「同胞を守り。」
「我らエルフを。」
「災厄から。」
「救うための。」
「力。」
「そのために。」
「古くから。」
「伝えられてきた。」
長が。
アリアナを見る。
「世界樹は。」
「お前を。」
「選んだ。」
「その力を。」
「エルフのために。」
「使え。」
「……。」
アリアナが。
神器を。
見つめる。
迷宮で。
受けた。
試練。
エリス。
アテナ。
フレイヤ。
そして。
ヒルメ。
フェネクス。
シロ。
記憶の中から。
現れた。
仲間達。
彼らとの。
戦い。
そして。
最後に。
ヒルメ達と。
戦ったことで。
改めて。
分かった。
自分が。
何を。
守りたいのか。
「……違う。」
「何?」
アリアナが。
神器を。
握る。
「これは。」
「エルフだけを。」
「守るための。」
「力じゃない。」
長の。
眉が。
動く。
「何を。」
「言っている。」
「私には。」
「守りたい奴がいる。」
「仲間がいる。」
「友がいる。」
「大事な人がいる。」
「……。」
アリアナが。
神器を見る。
「これは。」
「そいつらを。」
「守るための。」
「力だ。」
長が。
黙る。
やがて。
静かに。
口を開く。
「仲間。」
「友。」
「大事な者。」
「ああ。」
「それは。」
「エルフか?」
「エルフもいる。」
「……。」
長の。
目が。
細くなる。
「他種族も。」
「いるのか。」
「ああ。」
一拍。
「人間も?」
アリアナは。
迷わない。
「ああ。」
「いる。」
「……。」
「人間を。」
「仲間と。」
「呼ぶのか。」
「呼ぶ。」
即答。
「友とも。」
「呼ぶ。」
長が。
じっと。
アリアナを見る。
「人間だろうが。」
「エルフだろうが。」
「関係ない。」
「私を。」
「助けてくれた。」
「共に。」
「戦った。」
「笑った。」
「飯も食った。」
「命を。」
「預けた。」
アリアナが。
真っ直ぐ。
長を見る。
「種族が。」
「違うだけだ。」
「私にとっては。」
「大事な。」
「仲間だ。」
「……。」
長が。
しばらく。
何も。
言わない。
「随分と。」
「変わったな。」
「そうか?」
「以前のお前なら。」
「人間を。」
「仲間と呼ぶことなど。」
「なかった。」
アリアナが。
僅かに。
笑う。
「色々。」
「あったからな。」
「……。」
長が。
再び。
神器を見る。
「だが。」
「忘れるな。」
「その武器は。」
「エルフに。」
「古くから。」
「伝わるもの。」
「お前が。」
「誰のために。」
「振るうとしても。」
「まずは。」
「我らエルフを――」
ピクッ。
アリアナの。
長い耳が。
動く。
「……。」
「どうした。」
「待て。」
アリアナが。
懐へ。
手を。
伸ばす。
一枚の。
木札。
エルフ文字が。
刻まれた。
木札。
淡く。
光る。
一度。
消える。
再び。
光る。
「……。」
アリアナの。
表情が。
変わる。
「その木札は。」
長。
「以前。」
「一人に。」
「渡した。」
「誰に。」
また。
光る。
アリアナの。
目が。
見開かれる。
「……ヒルメ。」
「人間か?」
「ああ。」
木札が。
再び。
反応する。
先ほどより。
強く。
「……。」
アリアナが。
神器を。
腰へ。
戻す。
「どこへ行く。」
「ミラークだ。」
即答。
「待て。」
長が。
立ち上がる。
「まだ。」
「話は。」
「終わっていない。」
「悪い。」
アリアナは。
もう。
扉へ。
向かっている。
「続きは。」
「帰ってからだ。」
「アリアナ。」
「そのヒルメという者に。」
「何かあったのか。」
「分からない。」
アリアナが。
木札を。
見る。
「だが。」
「こいつが。」
「反応している。」
「いつもと。」
「違う。」
一拍。
「なら。」
「行く。」
「待て!」
アリアナが。
扉を。
開く。
「一人で。」
「人間の国へ。」
「向かうつもりか!」
足が。
止まる。
アリアナが。
僅かに。
振り返る。
「一人じゃない。」
「……何?」
「ヒルメには。」
「仲間が。」
「たくさんいる。」
そして。
少し。
笑う。
「私も。」
「その一人だ。」
そのまま。
館を。
飛び出した。
◇ ◇ ◇
エルフの里。
「アリアナ?」
「どうした!」
「今戻ったばかりだろ!」
里の。
エルフ達が。
振り返る。
だが。
アリアナは。
止まらない。
腰には。
世界樹から。
授かった。
神器。
手には。
エルフ文字が。
刻まれた。
木札。
「悪い!」
「急いでる!」
そのまま。
里を。
駆け抜ける。
木々の間。
風を。
切る。
枝を。
蹴り。
さらに。
前へ。
「……ヒルメ。」
木札が。
また。
淡く。
光る。
アリアナが。
握り締める。
「分かってる。」
「今。」
「行くからな。」
森の。
出口。
視界が。
開ける。
遥か。
その先。
ミラーク王国。
アリアナが。
神器の。
柄へ。
手を。
置く。
長の。
言葉が。
頭を。
過る。
『エルフを。』
『守る力だ。』
「……。」
アリアナが。
前を。
見る。
「仲間を。」
「守る力だ。」
地を。
蹴る。
アリアナが。
森を。
飛び出す。
「待ってろ。」
「ヒルメ。」
向かう先。
ミラーク王国。
◇ ◇ ◇




