守るべきもの
◇ ◇ ◇
ミラーク王国。
王都。
昼下がり。
大通りを。
一台の馬車が。
進んでいた。
黒い車体。
側面に。
刻まれた。
紋章。
帝国。
「……帝国?」
「なんで帝国の馬車が?」
「使者か?」
道行く民が。
足を止める。
馬車は。
その視線を。
気にすることなく。
真っ直ぐ。
王城へ。
向かっていった。
◇ ◇ ◇
ミラーク王城。
謁見の間。
国王。
レオン。
アリシア。
エルド。
重臣達。
騎士達。
その中央。
帝国から。
訪れた。
使者。
「帝国皇帝陛下より。」
「ミラーク国王陛下へ。」
使者が。
一通の。
書状を。
差し出す。
騎士が。
受け取り。
国王へ。
渡す。
「……。」
封を切る。
国王が。
読み進める。
そして。
表情が。
変わった。
「……何だ。」
「これは。」
「父上?」
レオンが。
書状を。
受け取る。
「……。」
レオンの。
表情も。
険しくなる。
書かれているのは。
要求。
ミラーク王国にいる。
少女。
ヒルメを。
帝国へ。
引き渡せ。
期限は。
三日。
要求に。
応じなければ。
帝国への。
敵対行為とみなし。
軍事行動を。
開始する。
「……ふざけるな。」
レオンが。
書状を。
握り締める。
「これは。」
「交渉でも。」
「要求でもない。」
「ただの脅迫ではないか!」
使者は。
表情一つ。
変えない。
「皇帝陛下の。」
「ご意思です。」
「ヒルメ嬢を。」
「帝国へ。」
「お引き渡しください。」
「そうすれば。」
「無用な争いは。」
「避けられましょう。」
「……無用な争い?」
アリシア。
その声に。
使者が。
顔を向ける。
「これは。」
「アリシア王女殿下。」
「お初に――」
「質問に答えなさい。」
「……。」
アリシアが。
使者を。
真っ直ぐ。
見据える。
「ヒルメ様を。」
「渡さなければ。」
「帝国は。」
「我が国へ。」
「攻め込むと?」
「そのように。」
「お考えいただいて。」
「結構です。」
「……。」
空気が。
変わる。
アリシアの。
周囲。
魔力が。
僅かに。
揺らぐ。
「アリシア。」
国王。
「……。」
アリシアが。
止まる。
使者は。
小さく。
頭を下げる。
「返答は。」
「三日以内に。」
「賢明な。」
「ご判断を。」
踵を返す。
「待て。」
レオン。
使者が。
振り返る。
「何故。」
「帝国は。」
「ヒルメを求める。」
「理由を聞かせろ。」
「……。」
使者が。
僅かに。
笑う。
「皇帝陛下が。」
「必要とされております。」
「理由としては。」
「それで十分かと。」
「貴様……!」
騎士達が。
剣へ。
手を伸ばす。
「やめろ。」
国王。
「使者に。」
「手を出すな。」
「……はっ。」
「では。」
使者が。
一礼。
「良き返答を。」
巨大な扉が。
閉じる。
沈黙。
そして。
「……ふざけるな!!」
レオンの。
怒声が。
謁見の間に。
響いた。
◇ ◇ ◇
その直後。
緊急会議が。
開かれた。
国王。
レオン。
アリシア。
エルド。
軍の上層部。
重臣達。
机の上。
広げられた。
大陸地図。
そこへ。
騎士が。
駆け込んでくる。
「報告!」
「帝国軍に。」
「大規模な移動を確認!」
「国境方面へ。」
「進軍を開始しております!」
「何!?」
国王が。
立ち上がる。
「返答まで。」
「三日ではなかったのか!」
「宣戦布告は。」
「まだありません。」
「しかし。」
「進路から見て。」
「目的地は。」
「間違いなく。」
「我がミラークかと。」
「……最初からか。」
レオンが。
拳を握る。
「最初から。」
「返答など。」
「待つつもりはなかった。」
「さらに。」
別の騎士が。
報告書を。
広げる。
「帝国軍には。」
「人族だけではなく。」
「獣人族。」
「そして。」
「霊獣族と思われる。」
「部隊も確認されています。」
「……。」
エルドの。
目が。
細くなる。
国王が。
問う。
「数は。」
「現在。」
「確認出来ているだけでも。」
「我が国の常備兵を。」
「大きく上回ります。」
「……。」
部屋が。
静まり返る。
「勝算は。」
国王。
軍の責任者が。
答えに。
詰まる。
「正直に申せ。」
「……現状の。」
「戦力差では。」
「厳しいかと。」
「……。」
「帝国軍だけでも。」
「我々を上回る。」
「そこへ。」
「獣人族。」
「霊獣族。」
「さらに。」
「別の勢力が。」
「加わる可能性もあります。」
重臣の。
一人が。
口を開く。
「陛下。」
「このまま戦えば。」
「国境だけでは済みません。」
「王都まで。」
「戦火が及ぶ可能性も。」
「分かっている。」
国王が。
低く答える。
別の。
重臣。
「……帝国が。」
「求めているのは。」
「ヒルメ嬢一人です。」
「……。」
レオンが。
睨む。
「何が言いたい。」
「私は。」
「引き渡せと。」
「申し上げているのではありません。」
「しかし。」
「王として。」
「何万。」
「何十万という。」
「民の命を。」
「考えなければならない。」
「……。」
誰も。
何も。
言えない。
ヒルメを。
渡したくない。
そんなことは。
全員。
同じ。
だが。
王国を。
背負う者には。
感情だけで。
決められない。
「……。」
国王が。
額に。
手を当てる。
レオンも。
地図を。
見つめる。
「父上。」
「ああ。」
「戦えば。」
「多くの民が。」
「死ぬ。」
「……。」
「だが。」
「ヒルメを。」
「差し出すなど……。」
二人とも。
答えを。
出せない。
その姿を。
アリシアが。
黙って。
見ていた。
「……。」
長い。
沈黙。
そして。
「……いつまで。」
小さな。
声。
全員が。
アリシアを見る。
「いつまで。」
「そのような話を。」
「続けるおつもりです?」
「アリシア。」
国王。
「これは。」
「国の存亡に。」
「関わる話だ。」
「だからこそ。」
アリシアが。
父を見る。
「決断が。」
「必要なのでしょう?」
「……。」
「ヒルメ様を。」
「差し出せば。」
「帝国が。」
「本当に帰ると。」
「お思いですか?」
「それは……。」
「帝国軍は。」
「既に動いています。」
「獣人族も。」
「霊獣族も。」
「取り込んでいる。」
「これだけの。」
「戦力を揃えて。」
「ヒルメ様お一人を。」
「受け取れば。」
「大人しく帰る?」
アリシアが。
首を。
横へ振る。
「あり得ません。」
「……。」
「奴らは。」
「最初から。」
「我が国を。」
「狙っています。」
国王も。
レオンも。
それは。
分かっている。
だからこそ。
苦しい。
アリシアが。
立ち上がる。
「……もう。」
「結構です。」
「アリシア?」
「どこへ行く。」
「答えを。」
「出しに。」
「待て。」
「まだ。」
「国としての結論は――」
アリシアが。
振り返る。
「でしたら。」
「早く。」
「お決めになってください。」
「お父様。」
「お兄様。」
「私は。」
「もう決めました。」
扉が。
閉じる。
「アリシア!」
レオンが。
立ち上がる。
国王が。
顔を。
引きつらせる。
「あいつ。」
「何をする気だ……。」
「ほっほ。」
エルド。
「エルド。」
「何がおかしい。」
「いや。」
エルドが。
立ち上がる。
「少し。」
「面白くなってきただけじゃ。」
◇ ◇ ◇
王城前。
巨大な広場。
帝国軍進軍の。
噂は。
既に。
王都へ。
広がっていた。
兵士。
騎士。
魔術師。
商人。
職人。
そして。
多くの民。
「戦争になるのか?」
「帝国と?」
「勝てるのかよ……。」
「子供達はどうなる……。」
不安。
恐怖。
ざわめき。
その時。
王城の。
大扉が。
開く。
一人の。
少女が。
姿を現した。
「……アリシア様?」
「王女殿下だ。」
アリシア。
誰にも。
声を掛けず。
階段を。
降りる。
そして。
広場を。
見渡せる。
高台へ。
立つ。
その後ろ。
慌てて。
国王。
レオン。
重臣達も。
出てくる。
「アリシア!」
「待て!」
だが。
アリシアは。
止まらない。
広場を。
見渡す。
そして。
口を開いた。
「ミラークの民よ。」
ざわめきが。
消えていく。
「帝国より。」
「我が国へ。」
「要求がありました。」
「我が国で。」
「暮らす。」
「一人の少女を。」
「帝国へ。」
「差し出せと。」
ざわっ。
「その名は。」
「ヒルメ。」
「拒めば。」
「帝国は。」
「我が国へ。」
「兵を向けるそうです。」
不安。
恐怖。
広場へ。
広がる。
アリシアは。
その全てを。
見渡す。
「怖いですか?」
「……。」
「帝国が。」
「恐ろしいですか?」
誰も。
答えない。
「私は。」
「恐ろしくなどありません。」
アリシアが。
一歩。
前へ。
「何故なら。」
「私は。」
「知っているからです。」
「この国が。」
「強いことを。」
「そして。」
「この国に生きる。」
「貴方達が。」
「決して。」
「弱くなどないことを!!」
兵士達が。
顔を上げる。
「騎士達よ!!」
アリシアの。
声が。
響く。
「その手に。」
「握る剣は!!」
「何のために。」
「あるのです!!」
「腰に飾るためですか!」
「己の地位を。」
「示すためですか!」
「王に。」
「見せるためだけの。」
「飾りですか!!」
「――否!!」
ビリッ。
空気が。
震える。
「その剣は!!」
「ミラークを。」
「守るための剣!!」
「家族を!!」
「友を!!」
「隣に立つ。」
「仲間を!!」
「守るための。」
「力です!!」
騎士達の。
手に。
力が入る。
「魔術師達よ!!」
今度は。
杖を持つ。
者達へ。
「貴方達の。」
「使える魔法は!!」
「生活を。」
「便利にするだけの。」
「ものですか!!」
「己の才能を。」
「誇るためだけの。」
「ものですか!!」
「――否!!」
「炎も!!」
「水も!!」
「風も!!」
「大地も!!」
「人を癒す。」
「その力も!!」
「全て!!」
「ミラークを。」
「守る力!!」
「大切な仲間を。」
「守る力です!!」
一つ。
杖が。
上がる。
そして。
また一つ。
「ミラークの民よ!!」
アリシアが。
全ての。
民を見る。
「帝国は。」
「我々へ。」
「言いました。」
「ヒルメ様を。」
「差し出せと!!」
一拍。
「――ふざけるな。」
静寂。
国王が。
目を見開く。
レオンも。
妹を見る。
「ヒルメ様は。」
「物ではない!!」
「帝国が。」
「欲しいと言えば。」
「差し出すような。」
「物ではない!!」
「ヒルメ様は。」
「この国で笑い。」
「この国で学び。」
「この国で友を作り。」
「私達と。」
「共に生きている!!」
「ならば!!」
「ヒルメ様も!!」
「我らと同じ!!」
「ミラークの民です!!」
ざわっ!!
「帝国が。」
「我が国の民を。」
「一人。」
「差し出せと言うのなら!!」
「私は。」
「こう答えます!!」
アリシアが。
腕を。
振り上げる。
「――断る!!」
『ウォッ!!』
兵士達から。
声が上がる。
「ヒルメ様は。」
「渡しません!!」
「いいえ!!」
「ヒルメ様だけではありません!!」
「我が国の民は!!」
「ただの一人も!!」
「帝国になど。」
「渡しません!!」
『ウォォォォォォッ!!』
声が。
大きくなる。
「今日!!」
「ヒルメ様を。」
「差し出したなら!!」
「明日は誰です!!」
「十人なら!!」
「百人なら!!」
「貴方の友なら!!」
「貴方の家族なら!!」
「帝国に。」
「要求されるたび!!」
「我々は。」
「大切な仲間を。」
「差し出すのですか!!」
『違う!!』
誰かが。
叫ぶ。
「そうです!!」
「違う!!」
「そのようなものを!!」
「国とは呼びません!!」
アリシアの。
声が。
さらに。
強くなる。
「国とは!!」
「そこに生きる!!」
「民があってこそ!!」
「守るべきは。」
「土地ではない!!」
「城ではない!!」
「王冠でもない!!」
「ここに生きる!!」
「一人一人です!!」
国王が。
息を呑む。
レオンも。
何も。
言えない。
「立ち上がれ!!」
アリシアが。
腕を。
振り上げる。
「ミラークの民よ!!」
「剣を取れ!!」
ガシャァァァン!!
騎士達が。
一斉に。
剣を抜く。
「杖を取れ!!」
魔術師達が。
杖を掲げる。
「守るのです!!」
「国を!!」
「家族を!!」
「友を!!」
「仲間を!!」
「帝国が。」
「十万で来るのなら!!」
「十万を退ければよい!!」
「百万で来るのなら!!」
「百万を退ければよい!!」
「我らの。」
「大切なものを。」
「奪うために!!」
「この国へ。」
「一歩でも。」
「踏み込むというのなら!!」
ゴォォォォォォッ!!!
膨大な。
魔力。
アリシアから。
溢れ出す。
風が。
吹き荒れる。
大地が。
震える。
兵士達が。
息を呑む。
ミラーク王国。
最高戦力。
この国。
最強の魔術師。
第一王女。
アリシア。
「恐れるな!!」
「貴方達の。」
「先頭には!!」
一拍。
「――私がいる!!」
『……!!』
「帝国が。」
「どれほど強大であろうと!!」
「どれほど。」
「多くの兵を。」
「揃えようと!!」
「私が!!」
「道を切り開きます!!」
「ですから!!」
「顔を上げなさい!!」
「胸を張りなさい!!」
「我々は。」
「奪うのではない!!」
「侵略するのでもない!!」
「ただ!!」
「守るのです!!」
「我らの国を!!」
「我らの民を!!」
「我らの仲間を!!」
アリシアが。
帝国の。
方角を。
見据える。
「ミラークの民よ!!」
「私に!!」
「ついてきなさい!!」
一瞬。
静寂。
直後。
『ウォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』
地響き。
剣。
杖。
拳。
一斉に。
掲げられる。
『アリシア様!!』
『アリシア様!!』
『ミラークを守れ!!』
『仲間を守れ!!』
『ヒルメを渡すな!!』
巨大な。
歓声。
帝国の。
熱狂とは。
違う。
魔道具に。
植え付けられた。
感情ではない。
誰かに。
作られた。
憎しみでもない。
国を。
家族を。
友を。
仲間を。
守りたい。
その意思から。
生まれた。
声だった。
◇ ◇ ◇
「……。」
国王が。
娘を。
見ている。
レオンも。
同じ。
エルドが。
腕を組む。
そして。
小さく。
笑った。
「見事。」
「……。」
「あれが。」
「ミラークの。」
「第一王女じゃ。」
「器が。」
「違うのう。」
◇ ◇ ◇
アリシアが。
振り返る。
国王。
レオン。
二人を。
真っ直ぐ。
見る。
「お父様。」
「お兄様。」
「私は。」
「決断しました。」
「次は。」
「お二人です。」
一歩。
近付く。
「民を。」
「守るのですか。」
「それとも。」
「帝国に怯え。」
「大切な民を。」
「差し出すのですか。」
「……。」
「――決断を。」
「なさい。」
長い。
沈黙。
レオンが。
目を閉じる。
そして。
笑った。
「……参ったな。」
「レオン?」
「父上。」
レオンが。
妹を見る。
「どうやら。」
「我々は。」
「随分と。」
「情けない姿を。」
「見せてしまったらしい。」
「……。」
国王も。
アリシアを見る。
かつて。
病に伏せ。
人との関わりすら。
避けていた。
娘。
その娘が。
今。
何千もの。
民を。
奮い立たせた。
「……まったく。」
国王が。
苦笑する。
「誰に似たのだ。」
「少なくとも。」
レオンも。
笑う。
「今の我々では。」
「なさそうですね。」
「言ってくれる。」
国王が。
剣を抜く。
「全軍へ!!」
「通達せよ!!」
「帝国の要求を!!」
「拒否する!!」
「我がミラークは!!」
「我が国の民を!!」
「誰一人として!!」
「帝国へ。」
「差し出さない!!」
「全軍!!」
「迎撃準備に入れ!!」
『はっ!!』
レオンも。
前へ。
出る。
「国境の全部隊へ。」
「民の避難を最優先。」
「無理に敵を。」
「押し返す必要はない。」
「時間を稼げ。」
「王都より。」
「援軍を送る!!」
『はっ!!』
アリシアが。
二人を見る。
そして。
ようやく。
笑う。
「それでこそ。」
「お父様。」
「お兄様です。」
「お前が言うのか……。」
レオンが。
苦笑した。
◇ ◇ ◇
その日の。
夕方。
学院。
「すごいね……。」
ミアが。
窓の外を。
見ている。
王都では。
既に。
戦いへの。
準備が。
始まっていた。
武器を。
運ぶ兵士。
魔道具を。
点検する。
魔術師。
食料。
治療用品。
次々と。
運ばれていく。
「本当に。」
「戦争になるんだね。」
リナが。
呟く。
「うん……。」
ヒルメも。
窓の外を。
見ていた。
「……。」
ミアが。
そんな。
ヒルメを見る。
「ヒルメ。」
「ん?」
「変なこと。」
「考えてない?」
「変なこと?」
「自分のせいだとか。」
「そういうの。」
「……。」
ヒルメが。
目を逸らす。
「あ。」
ミアが。
指を差す。
「今。」
「目逸らした。」
「逸らしてないよ。」
「逸らした。」
「逸らしてないって。」
「絶対逸らした。」
リナが。
くすっと。
笑う。
「逸らしてたね。」
「リナまで!」
「二対一。」
ミアが。
笑う。
「私達の勝ち。」
「何の勝負なの。」
ヒルメも。
少し。
笑う。
「でも。」
ミアが。
ヒルメを見る。
「本当に。」
「ヒルメのせいじゃないからね。」
「帝国が。」
「勝手に。」
「ヒルメを欲しがって。」
「勝手に。」
「攻めてきてるだけ。」
リナも。
頷く。
「悪いのは。」
「帝国だよ。」
「……。」
ヒルメが。
二人を見る。
「うん。」
「分かってる。」
ミアが。
少し。
疑うように。
見る。
「本当に?」
「本当だって。」
「ならいいけど。」
「もう。」
「心配しすぎ。」
「するよ。」
ミアが。
即答。
「友達なんだから。」
リナも。
笑う。
「そうだよ。」
「一人で。」
「何かしようとしたら。」
「怒るからね。」
「二人とも。」
「怖いなぁ。」
「ワウ!」
シロが。
ヒルメの。
足元から。
鳴く。
「シロまで?」
「ワウ♪」
「もう。」
三人の。
笑い声。
いつもと。
同じ。
だけど。
ヒルメは。
窓の外へ。
もう一度。
目を向けた。
◇ ◇ ◇
夜。
王都。
戦争への。
準備は。
まだ。
続いていた。
ヒルメ。
シロ。
二人で。
歩いている。
「……。」
少し。
先。
一人の。
兵士。
その兵士へ。
小さな子供が。
抱きついていた。
「お父さん。」
「行っちゃうの?」
「……大丈夫だ。」
父親が。
しゃがみ。
子供の。
頭を撫でる。
「すぐ帰ってくる。」
「本当?」
「ああ。」
「約束する。」
隣では。
妻が。
泣くのを。
堪えている。
「……。」
ヒルメが。
足を止める。
シロも。
止まる。
「……シロ。」
「ワウ。」
「ミアとリナに。」
「怒られちゃったね。」
「ワウ。」
「私のせいじゃないって。」
ヒルメが。
少し。
笑う。
「アリシアも。」
「私もミラークの民だって。」
「言ってくれた。」
「王様も。」
「レオンも。」
「みんな。」
「私を守るって。」
「……。」
ヒルメが。
兵士の。
家族を見る。
「嬉しかった。」
「すごく。」
「嬉しかったよ。」
シロが。
ヒルメを。
見上げる。
「でも……。」
「私が。」
「帝国に行ったら。」
「この人達。」
「戦わなくて済むのかな。」
「ワウ……。」
「分かってるよ。」
ヒルメが。
しゃがむ。
シロの。
頭を撫でる。
「ミアに。」
「怒られるよね。」
「リナにも。」
「アリシアにも。」
「……。」
「でも。」
ヒルメが。
もう一度。
家族を見る。
「誰かが。」
「死ぬのは嫌だよ。」
「私のために。」
「誰かが死ぬのは。」
「もっと嫌。」
帝国は。
最初から。
ヒルメだけを。
求めているわけではない。
ミラークを。
落とすことも。
最初から。
決めている。
そして。
その先。
国境の。
向こう。
既に。
無数の。
帝国兵が。
ミラークへ。
向け。
進軍を。
続けていた。
◇ ◇ ◇




