帝国の野望
◇ ◇ ◇
「我が。」
「偉大なる。」
「帝国の民よ――。」
皇帝の。
声が。
帝都へ。
響き渡る。
数万の。
民衆。
誰一人。
声を。
発さない。
ただ。
皇帝を。
見上げている。
「今日。」
「諸君らを。」
「ここへ。」
「集めたのは。」
「我ら帝国が。」
「新たなる。」
「時代へ。」
「進むことを。」
「告げるためだ。」
「……。」
静寂。
皇帝が。
ゆっくりと。
広場を。
見渡す。
「諸君。」
「この大陸で。」
「最も。」
「豊かな国は。」
「どこだ?」
一瞬。
間。
『帝国!!』
数万の。
声。
「最も。」
「強き国は?」
『帝国!!』
「最も。」
「優れた民は?」
『我ら帝国民!!』
皇帝の。
口元が。
吊り上がる。
「そうだ。」
「我らだ。」
「ならば。」
皇帝が。
両腕を。
広げる。
「何故。」
「我らより。」
「劣る者どもが。」
「国を。」
「名乗っている?」
「……。」
「何故。」
「我らより。」
「劣る者どもが。」
「土地を持ち。」
「富を持ち。」
「王を名乗ることを。」
「我々が。」
「認めねばならぬ?」
ざわっ。
民衆の。
空気が。
変わる。
『そうだ……。』
『おかしい……。』
『なぜ俺たちが……。』
皇帝が。
笑う。
「ミラーク。」
その名に。
民衆が。
反応する。
「豊かな。」
「土地。」
「優れた。」
「魔術師。」
「大量の。」
「資源。」
「それらを。」
「奴らは。」
「我が物顔で。」
「独占している。」
『許せない!』
一人が。
叫ぶ。
すると。
『そうだ!!』
『帝国のものだ!!』
『ミラークに渡すな!!』
声。
増えていく。
皇帝は。
それを。
満足そうに。
眺める。
「そして。」
「ミラークには。」
「もう一つ。」
「我ら帝国が。」
「手に入れねばならぬものが。」
「ある。」
皇帝の。
目。
細くなる。
「ヒルメ。」
◇ ◇ ◇
その名を。
知る者は。
少ない。
民衆が。
ざわつく。
「一人の。」
「少女だ。」
「だが。」
「その少女は。」
「我が帝国の。」
「未来を。」
「大きく。」
「変える力を。」
「持っている。」
「その力を。」
「ミラークは。」
「独占している。」
『……。』
「本来ならば。」
「大陸全土のために。」
「使われるべき。」
「その力をだ。」
皇帝が。
拳を。
握る。
「我々は。」
「求めた。」
「その少女を。」
「帝国へ。」
「引き渡すように。」
「だが。」
「ミラークは。」
「それを。」
「拒もうとしている。」
まだ。
要求すら。
正式には。
届いていない。
それでも。
皇帝は。
断言した。
「何故だ?」
「何故。」
「ミラークは。」
「拒む?」
「答えは。」
「一つだ。」
「奴らは。」
「恐れているのだ。」
「帝国が。」
「さらに。」
「豊かに。」
「さらに。」
「強くなることを!」
『卑怯者!!』
『ミラークを許すな!!』
『ヒルメを帝国へ!!』
歓声。
怒号。
罵声。
それらが。
入り混じる。
誰一人。
ヒルメを。
知らない。
誰一人。
ミラークへ。
行ったことすら。
ない。
それでも。
憎む。
当然のように。
◇ ◇ ◇
城。
最上部。
赤黒い。
宝玉。
ドクン。
脈打つ。
魔力。
帝都全体へ。
広がる。
見えない。
触れない。
感じない。
ただ。
少しずつ。
心へ。
入り込む。
疑問を。
薄れさせる。
忠誠を。
強める。
優越感を。
膨らませる。
そして。
敵意を。
増幅する。
だが。
民衆は。
知らない。
自分たちは。
自分の意思で。
皇帝を。
支持している。
自分の意思で。
他国を。
憎んでいる。
そう。
信じている。
皇帝自身も。
それを。
疑わない。
「我が民よ!」
皇帝が。
叫ぶ。
「我々は。」
「奪うのではない!」
「取り戻すのだ!」
「本来。」
「我々のもので。」
「あるべきものを!」
ウォォォォォォォォォッ!!!
「帝国万歳!!」
「皇帝陛下万歳!!」
「ミラークを潰せ!!」
「ヒルメを帝国へ!!」
「帝国万歳!!」
子供まで。
拳を。
上げる。
『帝国万歳!!』
皇帝が。
笑う。
満足そうに。
笑う。
◇ ◇ ◇
演説。
終了。
皇帝が。
城内へ。
戻る。
扉が。
閉じる。
それでも。
外から。
歓声が。
聞こえる。
「素晴らしい。」
黒い。
ローブの。
人影。
「民は。」
「完全に。」
「陛下を。」
「支持しております。」
「当然だ。」
皇帝が。
玉座へ。
座る。
「帝国の民ならば。」
「誰が。」
「正しいのか。」
「理解できて。」
「当然だ。」
「……。」
人影が。
僅かに。
笑う。
「それで。」
皇帝。
「各地からの。」
「返答は?」
側近が。
前へ。
出る。
「はっ。」
「まず。」
「霊獣王より。」
「正式な。」
「返答が。」
「帝国との。」
「協力を。」
「受け入れるとのことです。」
「ほう。」
「ただし。」
「条件として。」
「王妃。」
「そして。」
「娘である。」
「フェネクス様の。」
「捜索への協力を。」
「求めております。」
「……。」
皇帝が。
鼻で。
笑う。
「くだらんな。」
「妻と。」
「娘か。」
「王を。」
「名乗る者が。」
「その程度のことで。」
「我らへ。」
「頭を下げたか。」
「いかが。」
「いたしましょう。」
「好きにさせろ。」
「探すだけならば。」
「勝手に。」
「探させればよい。」
「兵が。」
「必要だと言うなら。」
「少しくらい。」
「貸してやれ。」
「はっ。」
「霊獣どもには。」
「前線で。」
「存分に。」
「働いてもらう。」
「……。」
「死ぬならば。」
「それも。」
「構わん。」
「兵を。」
「減らさずに。」
「済むからな。」
◇ ◇ ◇
「獣人側は?」
「一部の。」
「有力部族が。」
「協力を。」
「表明しております。」
「人族国家への。」
「長年の。」
「不満を。」
「持っていた者が。」
「多かったようで。」
「ふっ。」
皇帝が。
笑う。
「獣とは。」
「扱いやすい。」
「少し。」
「餌を。」
「見せてやれば。」
「勝手に。」
「尻尾を振る。」
「彼らには。」
「戦後。」
「領地と。」
「自治権を。」
「認めると。」
「約束しております。」
「……約束?」
皇帝が。
側近を見る。
「はっ。」
「……。」
「それが。」
「どうした?」
「……いえ。」
皇帝が。
肘掛けへ。
頬杖を。
つく。
「ミラークが。」
「落ちた後まで。」
「獣どもとの。」
「約束を。」
「守る必要が。」
「あるのか?」
「……。」
側近が。
黙る。
「使える間は。」
「使う。」
「役目を。」
「終えれば。」
「処分すればよい。」
あまりにも。
当然のように。
皇帝は。
言った。
◇ ◇ ◇
「ドワーフは。」
「武具。」
「魔道具。」
「その他。」
「軍需物資の。」
「供給には。」
「応じるとの。」
「返答です。」
「ただし。」
「職人の。」
「帝国への。」
「移住については。」
「拒否しております。」
「構わん。」
皇帝。
即答。
「……よろしいので?」
「今はな。」
「……。」
「国を。」
「手に入れれば。」
「職人も。」
「工房も。」
「技術も。」
「全て。」
「我々のものだ。」
「わざわざ。」
「今。」
「揉める必要はない。」
「……御意。」
「そして。」
側近が。
少し。
言いにくそうに。
口を。
開く。
「魔国ですが……。」
皇帝の。
目が。
側近へ。
向く。
「我が帝国との。」
「同盟を。」
「正式に。」
「拒絶しました。」
「……。」
「我らは。」
「人族同士の。」
「争いへ。」
「介入するつもりはない。」
「帝国の。」
「大陸統一にも。」
「興味はない。」
「……とのことです。」
「そうか。」
皇帝は。
怒らない。
ただ。
笑った。
「では。」
「ミラークの。」
「次だ。」
「……!」
側近が。
顔を。
上げる。
「魔国へも。」
「侵攻を?」
「何を。」
「驚いている。」
皇帝が。
不思議そうに。
見る。
「我に。」
「従わぬのだろう?」
「ならば。」
「敵ではないか。」
「……。」
「ミラークを。」
「落とす。」
「魔国を。」
「落とす。」
「ドワーフの。」
「土地を。」
「接収する。」
「そして。」
「役目を終えた。」
「獣どもを。」
「始末する。」
皇帝が。
立ち上がる。
壁。
巨大な。
大陸地図。
その前へ。
歩く。
「国が。」
「多すぎるのだ。」
「王が。」
「多すぎる。」
「種族が。」
「勝手に。」
「己の領地などと。」
「主張する。」
「実に。」
「煩わしい。」
地図へ。
手を。
触れる。
「一つで。」
「よい。」
「国は。」
「帝国だけで。」
「よいのだ。」
◇ ◇ ◇
黒い。
ローブの。
人影が。
その背中を。
見ている。
「素晴らしい。」
「まさしく。」
「陛下こそ。」
「大陸を。」
「統べるに。」
「相応しいお方。」
「ふっ。」
皇帝が。
笑う。
「分かっているではないか。」
「もちろんです。」
人影が。
深く。
頭を。
下げる。
皇帝からは。
見えない。
その。
口元。
ゆっくりと。
歪む。
「……。」
皇帝は。
知らない。
自分が。
利用していると。
思っている。
霊獣も。
獣人も。
ドワーフも。
そして。
自国の。
民すらも。
全て。
自分の。
駒。
そう。
信じている。
だが。
その。
玉座の。
すぐ後ろ。
皇帝自身を。
盤上の。
駒として。
見ている存在が。
いることを。
皇帝だけが。
知らない。
◇ ◇ ◇
「では。」
皇帝が。
玉座へ。
戻る。
「始めると。」
「しよう。」
「まずは。」
「ミラークへ。」
「使者を。」
「はっ。」
「要求は。」
「一つ。」
皇帝の。
口元が。
吊り上がる。
「ヒルメを。」
「帝国へ。」
「引き渡せ。」
「期限は?」
「三日。」
「短すぎるのでは?」
「構わん。」
「どうせ。」
「答えは。」
「決まっている。」
「……。」
側近が。
僅かに。
顔を。
上げる。
「もし。」
「ミラークが。」
「要求を。」
「受け入れた場合は?」
「……?」
皇帝が。
首を。
傾げる。
まるで。
意味の。
分からない。
質問を。
されたように。
「ヒルメを。」
「手に入れる。」
「そして。」
「ミラークも。」
「潰す。」
「……!」
「何故。」
「どちらかを。」
「選ばねばならん?」
皇帝が。
笑う。
「全て。」
「手に入れれば。」
「よいではないか。」
◇ ◇ ◇
その日の。
夕刻。
一頭の。
軍馬が。
帝都を。
出た。
向かう先。
ミラーク王国。
携える。
書状。
それは。
交渉などでは。
ない。
最初から。
答えを。
求めてすら。
いない。
帝国が。
戦争を。
始めるための。
ただの。
口実。
そして。
その頃。
ミラークでは。
「ヒルメ!」
「こっち。」
「こっち!」
「待ってください。」
「ミアさん。」
「早くしないと。」
「お店。」
「閉まっちゃうよ!」
「ヒルメ様。」
「お手を。」
「普通に。」
「歩けますよ?」
「念のためです。」
「何の。」
「念のためですか。」
「……。」
「また。」
「その間ですか。」
笑い声。
ヒルメ。
ミア。
リナ。
アリシア。
セレスティア。
アルベルト。
そして。
シロ。
誰も。
まだ。
知らない。
自分たちの。
穏やかな。
日々を。
壊そうとする。
一通の。
書状が。
こちらへ。
向かっていることを。
◇ ◇ ◇




