嵐の前
◇ ◇ ◇
ミラーク王立魔法学院。
その一角。
本来。
この学院には。
存在しなかった。
教室。
貴族。
平民。
身分。
家柄。
その全てを。
問わない。
必要なのは。
ただ。
実力。
そして。
才能。
それだけ。
――特別クラス。
もっとも。
その設立に。
誰よりも。
熱心だった人物には。
別の目的も。
あったのだが。
「ヒルメ様!」
「今日も。」
「私のお隣です!」
「え?」
ヒルメが。
席へ。
着こうとした。
その瞬間。
アリシアが。
当然のように。
隣の椅子を。
引いた。
「こちらへ!」
「は、はい……。」
ヒルメが。
座る。
満足そうに。
アリシアも。
その隣へ。
座る。
「……。」
その様子を。
ミアが。
じっと。
見ていた。
「……アリシア様。」
「はい?」
「前から。」
「聞こうと。」
「思ってたんですけど。」
「何でしょう?」
「この。」
「特別クラスって。」
「本当に。」
「身分に関係なく。」
「優秀な生徒を。」
「集めるために。」
「作ったんですよね?」
「もちろんです。」
即答。
「……。」
ミアが。
アリシアを見る。
アリシアも。
笑顔で。
ミアを見る。
「……。」
「……。」
「じゃあ。」
ミアが。
ヒルメを見る。
そして。
もう一度。
アリシアを見る。
「ヒルメと。」
「一緒のクラスに。」
「なりたかっただけじゃ。」
「ないですよね?」
「………………。」
長い。
間。
「……。」
ミアの。
眉が。
上がる。
「その間は。」
「何ですか。」
「うふふ。」
「否定してくださいよ!」
「もちろん。」
「それだけでは。」
「ありませんよ?」
「それだけでは!?」
リナが。
吹き出す。
「やっぱり。」
「入ってるじゃないですか!」
「当然です。」
アリシアが。
胸を。
張る。
「ヒルメ様と。」
「同じ教室で。」
「共に学べる。」
「これ以上の。」
「利点が。」
「ありますか?」
「目的と利点が。」
「逆なんですよ!」
「?」
「なんで。」
「不思議そうな顔。」
「するんですか!」
「ふふっ……。」
ヒルメが。
小さく。
笑う。
「ヒルメ様!?」
「ご、ごめんなさい。」
「でも。」
「なんだか。」
「楽しくて……。」
「……!」
アリシアが。
固まる。
そして。
ゆっくり。
ミアを見る。
「ミアさん。」
「はい?」
「今の。」
「聞きました?」
「聞きましたけど。」
「ヒルメ様が。」
「楽しいと。」
「言ってくださいました。」
「はい。」
「つまり。」
「この特別クラスを。」
「作った私の判断は。」
「完全に。」
「正しかったということです。」
「そういう。」
「話でしたっけ?」
◇ ◇ ◇
「……。」
少し。
離れた席。
アルベルトが。
その光景を。
眺めていた。
「……本当に。」
「戻ってきて。」
「よかったのだろうか。」
ぽつり。
呟く。
その足元。
「……。」
シロが。
アルベルトを。
見ていた。
「っ!?」
ビクッ!
アルベルトの。
身体が。
跳ねる。
「シ、シロ……。」
「……。」
じー。
「……。」
じー。
「その……。」
アルベルトが。
視線を。
逸らす。
そして。
また。
シロを見る。
「先日の件は。」
「本当に。」
「申し訳なかった。」
「……。」
「私が。」
「どうかしていた。」
「何の罪もない。」
「お前を。」
「蹴るなど……。」
アルベルトが。
頭を。
下げる。
「許してくれとは。」
「言わない。」
「だが。」
「謝らせてほしい。」
「本当に。」
「すまなかった。」
「……。」
シロが。
アルベルトへ。
近付く。
「……っ。」
アルベルトが。
身構える。
シロ。
目の前。
「……。」
くん。
くん。
匂いを。
嗅ぐ。
そして。
ぷいっ。
顔を。
背ける。
ヒルメの。
ところへ。
歩いていく。
「……。」
アルベルトが。
その背中を。
見送る。
「これは……。」
「許されたのか?」
「たぶん。」
セレスティア。
「たぶん!?」
「噛まれなかったし。」
「基準が。」
「恐ろしすぎないか!?」
「アルベルトさん。」
リナが。
笑う。
「大丈夫ですよ。」
「シロちゃん。」
「本当に嫌だったら。」
「もっと。」
「分かりやすいですから。」
「……そうなのか。」
「はい。」
アルベルトが。
少しだけ。
安心する。
その瞬間。
シロが。
振り返る。
「っ!」
また。
固まる。
「……。」
シロ。
じー。
「……。」
アルベルト。
じー。
「……やはり。」
「まだ。」
「怖いのだが。」
「自業自得。」
セレスティアが。
即答した。
「ぐっ……。」
「反論できん。」
◇ ◇ ◇
授業。
今日の。
課題は。
魔力操作。
標的へ。
魔法を。
当てる。
ただし。
威力ではなく。
指定された。
場所へ。
正確に。
魔力を。
集中させる。
訓練。
「難しい……。」
リナが。
杖を。
睨む。
標的。
中心から。
少し。
右。
「また。」
「ずれた。」
「力を。」
「入れすぎだ。」
「え?」
声。
アルベルト。
「魔力を。」
「押し出そうと。」
「しすぎている。」
「でも。」
「弱くしたら。」
「届かなくないですか?」
「弱くするのではない。」
アルベルトが。
自分の。
杖を。
構える。
「流れを。」
「細くする。」
「流れ?」
「ああ。」
「大量の水を。」
「一気に。」
「流すのではなく。」
「細い管へ。」
「通すように。」
「意識する。」
「……。」
アルベルトの。
杖先。
魔力。
集まる。
派手さは。
ない。
「見ていろ。」
シュン!
魔力。
一直線。
標的。
中心。
小さな。
穴。
「おお……。」
リナが。
目を。
丸くする。
「すごい。」
「やってみろ。」
「はい!」
リナが。
杖を。
構える。
「細い管……。」
「そうだ。」
「無理に。」
「威力を。」
「出そうとするな。」
「魔力そのものは。」
「十分にある。」
「……。」
集中。
シュッ!
標的。
中心から。
僅かに。
左。
「……!」
リナが。
目を。
輝かせる。
「さっきより。」
「全然。」
「近い!」
「ああ。」
「今の感覚を。」
「忘れるな。」
「はい!」
「……。」
ミアが。
それを。
見ている。
「アルベルトさん。」
「なんだ。」
「教えるの。」
「上手いですね。」
「……そうか?」
「はい。」
「もっと。」
「俺を見て覚えろ。」
「みたいな人かと。」
「思ってました。」
「お前は。」
「私を。」
「何だと思っているんだ。」
「アルベルトさん。」
「そのままじゃないか!」
「ふふっ。」
ヒルメが。
笑う。
「……。」
アルベルトが。
ヒルメを見る。
「……っ。」
目が。
合う。
即座に。
背筋。
伸びる。
「ど、どうした。」
「いえ。」
ヒルメが。
微笑む。
「アルベルトさんって。」
「本当に。」
「魔法が。」
「お上手なんですね。」
「……。」
アルベルト。
固まる。
「ヒルメ様?」
アリシアの。
声。
「はい?」
「アルベルトさんを。」
「そんなに。」
「褒める必要は。」
「ありませんよ?」
「なぜだ!?」
「調子に。」
「乗るかもしれませんので。」
「乗らん!」
「本当ですか?」
「……。」
アルベルトが。
少し。
考える。
「……多少は。」
「嬉しいが。」
「ほら。」
「嬉しいくらい。」
「いいだろう!」
◇ ◇ ◇
その日の。
放課後。
ヒルメ達は。
教室に。
残っていた。
「それで。」
ミアが。
机へ。
頬杖を。
つく。
「明日は。」
「何する?」
「授業が。」
「ありますよ?」
リナ。
「そうじゃなくて。」
「終わったあと。」
「町へ。」
「行きませんか?」
「いいですね。」
リナが。
頷く。
「ヒルメは?」
「私も。」
「行きたいです。」
「じゃあ決まり。」
「ヒルメ様が。」
「行かれるのであれば。」
「私も。」
アリシア。
「聞く前から。」
「分かってました。」
「まあ。」
「ミアさんも。」
「私のことを。」
「随分と。」
「理解してきましたね。」
「嫌でも。」
「分かりますよ。」
「うふふ。」
「褒めてません。」
シロが。
ヒルメの。
膝へ。
顎を。
乗せる。
「シロちゃんも。」
「行きますか?」
「わん!」
「ふふっ。」
ヒルメが。
頭を。
撫でる。
アルベルトが。
それを。
遠くから。
見る。
「……。」
「アルベルトさんも。」
ヒルメ。
「え?」
「一緒に。」
「行きませんか?」
「わ、私もか?」
「はい。」
「同じ。」
「クラスですから。」
「……。」
アルベルトが。
少し。
戸惑う。
以前なら。
こんな誘いを。
素直に。
受けることなど。
なかった。
「……分かった。」
「では。」
「同行させてもらおう。」
「はい!」
シロ。
「……。」
じー。
「……。」
アルベルトが。
シロを見る。
「お前も。」
「一緒なのだな。」
「わん。」
「……。」
少し。
間。
「仲良くしよう。」
シロ。
ぷいっ。
「まだ。」
「駄目なのか……。」
ミアと。
リナが。
笑った。
◇ ◇ ◇
同じ頃。
ミラーク王城。
先ほどまでの。
穏やかな。
空気とは。
まるで。
違う。
国王。
レオン。
そして。
数人の。
重臣。
机の上。
広げられた。
大陸の。
地図。
「……帝国が?」
国王の。
表情が。
険しくなる。
「はい。」
報告に。
訪れた。
騎士が。
頭を。
下げる。
「ここ数週間。」
「帝国内の。」
「兵の移動が。」
「急激に。」
「増えております。」
レオンが。
地図を見る。
「規模は?」
「正確には。」
「掴めておりません。」
「ですが。」
「通常の。」
「国境警備とは。」
「到底。」
「思えません。」
「……。」
国王が。
黙る。
「それだけでは。」
「ありません。」
騎士が。
続ける。
「帝国から。」
「複数の勢力へ。」
「使者が。」
「送られております。」
「どこだ。」
「霊獣族。」
「獣人族。」
「ドワーフの。」
「山岳都市。」
一拍。
「そして。」
「魔国です。」
「……魔国まで。」
レオンが。
眉を。
ひそめる。
「何を。」
「企んでいる……。」
「内容は?」
国王。
「そこまでは。」
「ですが。」
「帝国が。」
「何らかの。」
「大規模な行動を。」
「起こそうとしていることは。」
「間違いないかと。」
「……。」
国王が。
椅子へ。
深く。
座る。
その時。
レオンが。
何かを。
思い出す。
「……アリシア。」
「ん?」
「以前。」
「あいつが。」
「言っていたな。」
「きな臭い動きが。」
「あると。」
「……。」
国王が。
目を。
細める。
「あの娘。」
「どこまで。」
「掴んでいる。」
「分からん。」
レオンが。
ため息。
「最近は。」
「特別クラスを。」
「作ることに。」
「全力だったからな。」
「……。」
国王。
「……あいつ。」
「本当に。」
「ヒルメ嬢と。」
「同じクラスに。」
「なりたかっただけでは。」
「ないだろうな。」
「…………。」
レオン。
長い。
間。
国王が。
見る。
「その間は。」
「何だ。」
「父上。」
「世の中には。」
「知らない方が。」
「幸せなことも。」
「あります。」
「お前まで。」
「何を言っている。」
だが。
すぐに。
二人の。
表情が。
戻る。
国王が。
地図を見る。
帝国。
その。
広大な。
領土。
「警戒を。」
「強めろ。」
「国境だけではない。」
「各地の。」
「情報を。」
「集めるのだ。」
「はっ!」
騎士が。
部屋を。
出る。
「……。」
レオンが。
窓の外を見る。
「何も。」
「起きなければ。」
「よいのですが。」
「……ああ。」
だが。
二人とも。
分かっていた。
これは。
何も。
起きない者の。
動きではない。
◇ ◇ ◇
――帝国。
巨大な。
帝都。
その中心。
帝国城。
そして。
城を。
見上げる。
大広場。
そこには。
人。
人。
人。
見渡す限り。
帝国の。
民。
数万。
いや。
それ以上。
「陛下!」
「皇帝陛下!」
「帝国万歳!」
まだ。
姿すら。
現していない。
それなのに。
歓声が。
止まらない。
老人。
男。
女。
若者。
そして。
子供。
誰もが。
同じように。
城を。
見上げている。
熱に。
浮かされたような。
笑顔。
その。
遥か上。
城の。
最上部。
巨大な。
魔道具。
黒い。
柱。
幾重にも。
刻まれた。
魔法陣。
その中心。
赤黒い。
宝玉。
ドクン。
一度。
脈打つ。
淡い。
魔力が。
帝都へ。
広がる。
だが。
誰一人。
気付かない。
広場の。
人々も。
兵士も。
貴族も。
誰も。
それを。
不自然とは。
思わない。
そして。
城内。
「……。」
一人の。
男が。
ゆっくりと。
歩いている。
豪華な。
衣装。
頭には。
帝国を。
象徴する。
冠。
皇帝。
その。
少し。
後ろ。
黒い。
ローブ。
男とも。
女とも。
判別できない。
人影。
「陛下。」
低い。
声。
「時は。」
「満ちました。」
皇帝が。
笑う。
「ああ。」
「随分と。」
「待たされた。」
「ですが。」
「これで。」
「大陸は。」
「陛下のものに。」
「……違う。」
人影が。
僅かに。
顔を。
上げる。
皇帝が。
振り返る。
「大陸が。」
「我のものに。」
「なるのではない。」
「元より。」
「我のものなのだ。」
「愚か者どもが。」
「それを。」
「理解していないだけだ。」
「……。」
人影の。
口元が。
僅かに。
歪む。
「仰る通りで。」
皇帝が。
巨大な。
扉の前へ。
立つ。
その向こう。
民衆の。
歓声。
「皇帝陛下!」
「帝国万歳!」
「陛下!」
皇帝が。
両腕を。
広げる。
「聞こえるか。」
「我を。」
「求める。」
「民の声が。」
「ええ。」
「素晴らしい。」
「民です。」
「当然だ。」
扉が。
開く。
眩しい。
光。
皇帝が。
バルコニーへ。
姿を。
現す。
瞬間。
ウォォォォォォォォォォォッ!!!
帝都が。
揺れた。
皇帝。
両手を。
広げる。
歓声が。
さらに。
大きくなる。
やがて。
皇帝が。
片手を。
上げる。
それだけ。
数万の。
人間が。
一斉に。
口を。
閉じる。
異様な。
静寂。
皇帝が。
見下ろす。
自らの。
民を。
そして。
笑う。
「我が。」
「偉大なる。」
「帝国の民よ――。」
◇ ◇ ◇




