世界樹の試練
◇ ◇ ◇
深い森。
人族の領域から。
遠く離れた場所。
空を覆うほどの。
巨大な樹木。
そのさらに奥。
エルフの里。
「……。」
一人の少女が。
巨大な扉の前に。
立っていた。
アリアナ。
腰には。
一本の剣。
旅をしていた頃と。
変わらない。
だが。
その雰囲気は。
以前とは。
少し違っていた。
「……よし。」
アリアナが。
大きく。
息を吐く。
目の前。
絡み合う。
巨大な根。
その中心に。
古びた扉。
その上には。
エルフの古い文字で。
名が。
刻まれている。
――世界樹の迷宮。
「今度こそ。」
アリアナが。
剣の柄を。
握る。
「最深部まで。」
「辿り着いてみせる。」
◇ ◇ ◇
エルフの里へ。
戻ってから。
アリアナは。
何度も。
この迷宮へ。
挑んでいた。
世界樹。
遥か昔から。
エルフの里と。
共に存在する。
巨大な大樹。
そして。
その根の下には。
世界樹自身が作り出したとも。
古代のエルフが作ったとも言われる。
巨大な迷宮が。
広がっている。
誰でも。
入れるわけではない。
世界樹に。
認められた者だけが。
入口を。
見つけることができる。
そして。
その最深部に。
何があるのか。
知る者は。
ほとんどいない。
何百年もの間。
踏破した者が。
現れていないからだ。
「……。」
アリアナが。
扉へ。
手を触れる。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な根が。
動く。
暗闇。
その先から。
冷たい風が。
吹き抜ける。
「何度来ても。」
アリアナが。
苦笑する。
「気味のいい場所ではないな。」
一歩。
踏み込む。
扉が。
閉じた。
◇ ◇ ◇
迷宮。
内部。
だが。
そこは。
洞窟ではない。
巨大な。
樹木の内部。
壁。
天井。
床。
全てが。
世界樹の根によって。
作られている。
所々。
淡い光を放つ。
植物。
その光だけが。
迷宮を。
照らしていた。
「……来る。」
アリアナが。
剣へ。
手を掛ける。
ガサッ。
正面。
巨大な。
植物の魔物。
さらに。
左右。
三体。
「前は。」
剣を。
抜く。
「ここで。」
「随分と。」
「苦労したんだがな。」
魔物が。
一斉に。
飛びかかる。
アリアナは。
動かない。
「風を司る精霊よ。」
剣身へ。
翠色の風が。
集まっていく。
「我が剣へ集いて。」
魔物が。
迫る。
「全てを断つ疾風となれ。」
一閃。
「《シルフィード》!」
ズバァァァン!!
翠色の風が。
迷宮を。
駆け抜けた。
「――!」
四体。
同時。
真っ二つ。
ドサッ。
ドサドサッ。
「……。」
アリアナが。
剣を。
軽く振る。
「私も。」
「少しは。」
「強くなったらしい。」
◇ ◇ ◇
さらに。
奥へ。
魔物。
罠。
迷路。
行き止まり。
何度も。
何度も。
挑んだ。
だから。
分かる。
「右。」
迷わない。
「次を左。」
その先。
床。
「ここは踏まない。」
飛び越える。
直後。
背後の床から。
巨大な棘。
ドドドドッ!!
「知っている。」
着地。
走る。
前方。
巨大な。
甲殻を持つ魔物。
「こいつも。」
以前。
敗れた相手。
硬い。
剣が。
通らなかった。
「……。」
アリアナが。
速度を落とさない。
魔物が。
巨大な腕を。
振り上げる。
「同じ私だと。」
身体へ。
風。
「思うなよ。」
踏み込む。
消える。
「――!」
魔物が。
アリアナを。
見失う。
次の瞬間。
背後。
「そこだ。」
甲殻。
僅かな。
継ぎ目。
以前は。
見えなかった。
今は。
見える。
「《シルフィード》!」
ザンッ!!
風を纏った剣が。
継ぎ目へ。
突き刺さる。
「――!」
そのまま。
振り抜く。
ドォン!!
巨体が。
倒れる。
「ふぅ……。」
アリアナが。
息を吐く。
魔力。
体力。
まだ。
余裕がある。
以前なら。
ここへ来るだけで。
ほとんど。
使い果たしていた。
「……ヒルメ。」
ふと。
名前が。
漏れる。
あの旅。
自分より。
遥かに。
常識外れな。
少女。
何度。
驚かされたか。
分からない。
「今なら。」
少し。
笑う。
「前よりは。」
「まともに隣で戦えるかな。」
◇ ◇ ◇
どれほど。
進んだだろう。
これまで。
到達できなかった。
階層。
そこから先は。
アリアナにも。
未知。
「……。」
巨大な。
空間。
その中心。
一体の。
魔物。
四本の腕。
樹木のような。
巨大な身体。
手には。
それぞれ。
異なる武器。
「……なるほど。」
アリアナが。
剣を構える。
「ここからは。」
「初見というわけか。」
魔物の。
目が。
開く。
ドォン!!
床が。
揺れる。
「いいだろう。」
アリアナの。
口元が。
僅かに。
上がる。
「やってやる。」
◇ ◇ ◇
剣。
振り下ろされる。
「っ!」
アリアナが。
横へ。
飛ぶ。
ドォォン!!
床が。
砕ける。
直後。
横。
槍。
「遅い!」
身体を。
沈める。
頭上。
槍が。
通過。
そのまま。
懐。
「《シルフィード》!」
ガキィン!!
「……硬い!」
弾かれる。
別の腕。
斧。
「くっ!」
剣で。
受ける。
ドン!!
「っあ!」
アリアナの身体が。
吹き飛ぶ。
壁。
激突。
「……っ。」
立つ。
強い。
これまでの。
魔物とは。
違う。
「だが。」
剣を。
構え直す。
「それでいい。」
再び。
走る。
剣。
槍。
斧。
棍。
四つの武器。
次々と。
襲ってくる。
避ける。
受ける。
流す。
反撃。
ガキィン!
弾かれる。
「まだだ!」
何度も。
何度も。
攻撃する。
そして。
気付く。
「……。」
右。
剣。
左。
槍。
その次。
必ず。
斧。
「そういうことか。」
アリアナが。
笑う。
次。
剣。
避ける。
槍。
潜る。
「次は。」
斧。
振り下ろされる。
「知っている!」
直前。
横へ。
魔物の。
体勢が。
大きく。
崩れる。
「そこだ!」
アリアナが。
踏み込む。
全身の。
魔力。
剣へ。
流す。
翠色。
激しい風。
「風を司る精霊よ。」
「我が剣へ集いて。」
「全てを断つ。」
「疾風となれ――!」
「《シルフィード》!!」
ズバァァァァン!!
巨大な。
風の刃。
魔物の。
胴体を。
切り裂く。
「――!!」
巨体が。
揺れる。
そして。
ドォォォン!!
倒れた。
「はぁ……。」
「はぁ……。」
アリアナが。
膝へ。
手をつく。
「……強かった。」
だが。
勝った。
そして。
魔物が。
光へ。
変わっていく。
その光が。
アリアナの身体へ。
吸い込まれる。
「……!」
魔力。
身体。
何かが。
変わる。
これまで。
迷宮で。
魔物を倒すたび。
僅かに。
感じていたもの。
だが。
今回は。
明らかに。
違う。
「……これが。」
アリアナが。
自分の手を見る。
迷宮へ。
挑み続け。
戦い。
越えるたび。
身体が。
強くなる。
魔力が。
増える。
剣が。
速くなる。
「世界樹は。」
「挑戦する者を。」
「育てているのか……?」
答えは。
ない。
代わりに。
ゴゴゴゴゴ……。
正面。
今まで。
存在しなかった。
道。
巨大な根が。
左右へ。
開いていく。
「……。」
その先。
階段。
下へ。
さらに。
深く。
「まだ。」
アリアナが。
剣を。
握る。
「先があるのか。」
◇ ◇ ◇
長い。
階段。
降りる。
降りる。
さらに。
降りる。
そして。
「……。」
アリアナが。
足を止めた。
光。
眩しいほどの。
緑色の光。
階段の先。
巨大な。
空間。
天井は。
見えない。
中央。
一本の。
巨大な樹。
いや。
違う。
根。
世界樹の。
中心。
その一部。
「……ここが。」
アリアナが。
ゆっくり。
近付く。
「最深部……?」
その時。
『――否。』
「!」
アリアナが。
剣を抜く。
「誰だ!」
声。
男でも。
女でもない。
老人でも。
子供でもない。
空間。
そのものから。
響いている。
『汝。』
『幾多の障害を越え。』
『我が根へ。』
『辿り着きし者。』
「……世界樹?」
返事は。
ない。
だが。
アリアナには。
分かった。
『汝の力。』
『確かに。』
『見届けた。』
「なら。」
アリアナが。
周囲を見る。
「これで。」
「終わりなのか?」
『否。』
「……やはりな。」
アリアナが。
ため息をつく。
『力のみをもって。』
『我が試練を。』
『越えたとは。』
『認めぬ。』
「では。」
剣を。
構える。
「何をすればいい。」
一瞬。
静寂。
そして。
『汝の記憶。』
「……?」
『汝が。』
『その目で見た者。』
『その耳で。』
『声を聞いた者。』
『その剣と共に。』
『戦場へ立った者。』
『汝の記憶より。』
『我が。』
『呼び出そう。』
「……。」
アリアナの。
表情が。
変わる。
『越えてみせよ。』
『かつて。』
『汝が認めた。』
『強者たちを。』
ゴゴゴゴゴ……。
空間が。
揺れる。
アリアナの。
正面。
世界樹の根から。
三つの。
光。
「……三人?」
光が。
人の形へ。
変わっていく。
一人。
長い髪。
剣。
「……。」
アリアナの。
目が。
僅かに。
見開かれる。
「嘘だろ。」
光が。
消える。
そこに。
立っていた。
女性。
「……エリス。」
そして。
その隣。
二人。
「アテナ……。」
最後。
巨大な。
戦斧。
「フレイヤまで……。」
「……。」
三人。
あの時と。
同じ姿。
同じ装備。
エリスが。
静かに。
剣を抜く。
アテナが。
構える。
フレイヤが。
《イグニート・アクス》を。
肩へ。
担ぐ。
『第一の試練。』
『汝の記憶に刻まれし。』
『三人の戦士。』
「……。」
アリアナが。
額へ。
手を当てる。
「よりによって。」
顔を上げる。
三人を見る。
「この三人か……。」
だが。
次の瞬間。
アリアナの。
表情から。
苦笑が。
消える。
剣を。
構える。
「いいだろう。」
翠色の風が。
アリアナの。
周囲へ。
集まり始める。
「昔の私なら。」
「勝てなかった。」
エリスが。
一歩。
前へ。
アテナ。
フレイヤ。
左右へ。
広がる。
「だが。」
アリアナも。
一歩。
踏み出す。
「今の私が。」
「どこまでやれるのか。」
口元。
僅かな。
笑み。
「試すには。」
「丁度いい。」
『――始めよ。』
ドン!!
三人が。
同時に。
地面を蹴った。
「来い!」
アリアナも。
正面から。
駆け出した。
世界樹の。
第一の試練が。
始まった。
◇ ◇ ◇




