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異世界送魂師ヒルメ 〜葬儀社勤務だった私の送魂は、誰にも救えなかった魂を救っていく〜  作者: ケンボー


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55/66

動き出す時間

◇ ◇ ◇



翌朝。



学院。



「……。」



一人の少年が。



正門の前で。



立ち尽くしていた。



アルベルト。



久しぶりに見る。



学院の校舎。



以前なら。



何の躊躇もなく。



この門を。



くぐっていた。



だが。



今は。



「……帰りたい。」



本音が。



漏れた。



昨夜。



王家から届いた。



一通の書状。



差出人。



アリシア・ミラーク。



内容だけなら。



特別クラスへの。



招待。



だが。



辞退すれば。



貴族としての今後について。



王家と。



父親が。



話し合う。



そして。



最後に。



『うふふ。』



「……。」



思い出しただけで。



胃が痛い。



「何なんだ……。」



アルベルトが。



額を押さえる。



「何で俺が……。」



行きたくない。



だが。



行かなければ。



もっと。



恐ろしいことになる。



「……くそ。」



覚悟を決め。



門を。



くぐった。



◇ ◇ ◇



廊下。



久しぶりに。



学院へ姿を見せた。



アルベルト。



当然。



目立つ。



「あれ……。」



「アルベルトじゃないか?」



「本当だ……。」



「復帰したのか?」



声が。



聞こえる。



だが。



アルベルトは。



無視した。



以前なら。



そんな視線など。



気にも留めなかった。



むしろ。



当然だと。



思っていた。



貴族。



そして。



学生の中でも。



最高峰の魔術師。



注目されることなど。



当たり前。



だが。



今は。



別の意味で。



見られている。



あの日。



ヒルメとの。



決闘。



学院中が。



知っている。



そして。



結果。



自分は。



負けた。



いや。



負けた。



などという。



生易しいものではない。



「……。」



途中から。



記憶がない。



気が付いた時には。



医務室。



全身。



痛む身体。



後から。



何があったのか。



聞いた。



聞かなければ。



よかった。



「……。」



足が。



止まりそうになる。



その度。



昨夜の。



書状が。



頭をよぎる。



『うふふ。』



「……行く。」



アルベルトは。



再び。



歩き出した。



◇ ◇ ◇



特別クラス。



その扉の前。



「……ここか。」



アルベルトが。



深く。



息を吐く。



大丈夫。



ただの教室だ。



中にいるのも。



同じ学院の生徒。



何も。



怖いことなどない。



ガラッ。



扉を。



開ける。



「……。」



最初に。



見えたのは。



窓際に座る。



セレスティア。



「……。」



視線が。



合う。



「アルベルト。」



「……セレスティア。」



それだけ。



二人とも。



それ以上。



何も言わない。



そして。



「アルベルトさん。」



「――っ!!」



身体が。



勝手に。



反応した。



ヒルメ。



いた。



当然。



いる。



分かっていた。



この特別クラスに。



ヒルメがいることくらい。



分かっていた。



それでも。



実際に。



目の前にすると。



身体が。



あの日を。



思い出す。



「おはよう。」



にこっ。



「……。」



アルベルトが。



一歩。



下がる。



「?」



ヒルメが。



首を傾げる。



その足元。



「ワン!」



「――っ!」



今度は。



別の意味で。



アルベルトの。



身体が止まった。



シロ。



いつものように。



ヒルメの隣。



白い尻尾を。



揺らしている。



「……。」



アルベルトが。



シロを見る。



シロも。



アルベルトを見る。



「ワウ?」



あの日。



自分は。



こいつを。



蹴った。



戦っていたのは。



ヒルメだった。



シロは。



何もしていなかった。



それなのに。



苛立ちのまま。



蹴り飛ばした。



「……。」



アルベルトが。



目を逸らす。



「アルベルトさん?」



「……何だ。」



「元気だった?」



「……。」



アルベルトが。



ヒルメを見る。



元気だったか。



自分を。



あそこまで。



叩きのめした。



張本人が。



何の悪意もなく。



聞いている。



「……お前。」



「うん?」



「本当に。」


「覚えていないのか?」



「何を?」



「……。」



やはり。



覚えていない。



「……もういい。」



「?」



ヒルメが。



不思議そうに。



首を傾げる。



「アルベルトさん。」



「何だ。」



「何でそんなに遠いの?」



「ここでいい。」



「でも話しにくいよ?」



「聞こえている。」



ヒルメが。



一歩。



近付く。



アルベルトが。



一歩。



下がる。



「……。」



また。



一歩。



一歩。



「何で逃げるの?」



「逃げてない!」



「逃げてるよ?」



「距離を取っているだけだ!」



「それ逃げてるんじゃない?」



「違う!」



「ワン!」



「お前も同意するな!」



「シロに怒らないでよ。」



「怒ってない!」



「……。」



窓際。



セレスティアが。



僅かに。



眉を寄せる。



以前の。



アルベルトとは。



別人だった。



◇ ◇ ◇



その時。



ガラッ。



「おはよう。」



リナ。



その後ろから。



ミア。



「おはよー。」



二人が。



教室へ。



入ってくる。



そして。



アルベルトを見る。



「……。」



「……。」



「……。」



妙な。



沈黙。



「何だ。」



アルベルトが。



睨む。



「いや。」



リナが。



目を逸らす。



「本当に来たんだと思って。」



「来たくて来たわけじゃない!」



「じゃあ何で来たの?」



ミアが。



素直に聞く。



「……。」



アルベルトが。



黙る。



「……脅された。」



「え?」



「誰に?」



その時。



「おはようございます。」



「――っ。」



アルベルトの。



肩が。



跳ねた。



アリシア。



にこやかな。



笑顔。



「アルベルトさん。」



「……。」



「学院への。」


「ご復帰。」



「心より。」


「お祝い申し上げます。」



「……おかげさまで。」



「まあ。」



アリシアが。



嬉しそうに。



笑う。



「私。」


「何もしておりませんのに。」



「……。」



「アリシア。」



リナが。



呆れた顔で。



見る。



「何をしたの?」



「何も。」



「…………。」



「間が長い。」



「正式に。」


「特別クラスへの。」


「ご招待をしただけです。」



アルベルトが。



ぼそり。



呟く。



「辞退したら。」


「貴族の資格について。」


「父上と話し合うと。」


「書いてあったがな。」



「ええ!?」



ミアが。



アリシアを見る。



「それ脅迫じゃない!?」



「まあ。」



アリシアが。



口元へ。



手を添える。



「人聞きの悪い。」



「脅迫だよ。」



ヒルメが。



真顔で。



言った。



「ヒルメ様!?」



「だって。」


「来なかったら貴族じゃなくするよって。」


「言ったんでしょ?」



「……。」



「脅迫じゃない?」



「…………。」



「間が長い。」



リナが。



即座に。



突っ込んだ。



◇ ◇ ◇



「全員。」



エルドが。



教室へ。



入ってきた。



「席につけ。」



六人が。



それぞれ。



席へ向かう。



ヒルメの。



足元には。



当然。



シロ。



「ワン。」



「シロも座る?」



「ワウ。」



ヒルメの。



椅子の横。



シロが。



伏せる。



「……。」



アルベルトが。



また。



その姿を見る。



そして。



すぐに。



目を逸らした。



「さて。」



エルドが。



六人を。



見渡す。



「何ともまあ。」



「面倒そうな連中を。」


「集めたものじゃ。」



「先生。」



アリシアが。



手を上げる。



「何じゃ。」



「人聞きが悪いです。」



「主にお主のことじゃ。」



「まあ。」



「心外です。」



「……。」



エルドが。



ため息をつく。



「既に。」


「聞いておると思うが。」



「今日から。」


「この六人は。」



「貴族クラス。」


「一般クラス。」



「どちらにも。」


「所属せん。」



「ここでは。」


「身分など。」


「関係ない。」



「お主らは。」


「それぞれ。」



「通常の授業では。」


「扱いきれんものを。」


「持っておる。」



「……扱いきれないって。」



ミアが。



小さく。



呟く。



「私も?」



「お主は。」


「周りが扱いきれん。」



「どういう意味!?」



「冗談じゃ。」



「絶対違う!」



「ふふ。」



ヒルメが。



笑う。



「ミア。」


「扱いきれないんだって。」



「ヒルメに言われたくない!」



「なんで!?」



「一番扱いきれないの。」


「ヒルメだから!」



「ええ!?」



「ワン!」



「シロまで!?」



教室に。



笑い声。



一人。



セレスティアだけは。



黙っていた。



◇ ◇ ◇



「話を戻すぞ。」



エルドが。



黒板へ。



向き直る。



「このクラスでは。」



「通常の座学だけではなく。」



「実戦。」



「魔力制御。」



「魔法研究。」



「そして。」


「互いの魔法について。」


「学んでもらう。」



「互いの?」



ヒルメが。



聞く。



「そうじゃ。」



「お主らは。」


「得意とするものが。」


「まるで違う。」



「ならば。」


「儂一人から。」


「教わるだけではなく。」



「互いから。」


「学べばよい。」



「特に。」



エルドの。



視線が。



アルベルトへ。



向く。



「アルベルト。」



「……何です。」



「お主には。」


「期待しておるぞ。」



「俺に?」



「そうじゃ。」



エルドが。



髭を。



撫でる。



「この中で。」


「純粋な魔法技術だけを。」


「見れば。」



「お主が。」


「最も完成されておる。」



「……。」



教室が。



静かになる。



「魔力を。」


「馬鹿みたいに持っている者。」



ヒルメ。



「?」



「突然。」


「闇魔法に目覚めた者。」



リナ。



「……私ね。」



「生まれながらに。」


「規格外の者。」



アリシア。



「ふふ。」



「力の扱い方を。」


「少々間違えた者。」



セレスティア。



「……どういう意味ですの?」



「そのままの意味じゃ。」



「……。」



「それぞれ。」


「強力な力を。」


「持っておる。」



「じゃが。」



「魔法を。」


「基礎から理解し。」



「適切な量の魔力を。」


「適切な場所へ流し。」



「状況に応じて。」


「最適な魔法を選ぶ。」



「そういった。」


「魔術師としての。」


「純粋な技術。」



「それに関しては。」



エルドが。



アルベルトを見る。



「お主が。」


「学生の中では。」


「一番じゃ。」



「……。」



アルベルトが。



僅かに。



目を見開く。



久しぶりに。



聞いた。



自分への。



純粋な評価。



「だから。」


「教えてやれ。」



「……誰にです。」



「全員じゃ。」



「は?」



「儂も楽ができる。」



「それが本音でしょう!」



「ほっほっほ。」



「笑って誤魔化すな!」



「アルベルトさん。」



「……。」



嫌な。



予感。



横を見る。



ヒルメ。



目が。



輝いている。



「教えてくれるの?」



「……。」



「私。」


「魔力を小さくするの。」


「まだ上手くできない時があるんだ。」



「……。」



「お願い。」



「……はぁ。」



アルベルトが。



立ち上がる。



「杖を出せ。」



「うん!」



ヒルメが。



杖を出す。



「まず。」


「いつも通り。」


「魔力を流してみろ。」



「分かった。」



魔力。



杖へ。



流れる。



「多い。」



即答。



「え?」



「多すぎる。」



アルベルトが。



ヒルメの杖を見る。



「お前は。」


「魔法を使う時。」



「最初から。」


「必要以上の魔力を。」


「杖へ流している。」



「それを。」


「後から抑えようとするから。」


「不安定になる。」



「……。」



ヒルメが。



自分の杖を見る。



「じゃあ。」


「最初から少なくするの?」



「そうだ。」



「どうやって?」



「……。」



アルベルトが。



少し考える。



「水を。」


「コップに注ぐところを。」


「想像しろ。」



「水?」



「いきなり。」


「桶ごとひっくり返して。」



「後から。」


「コップ一杯分だけ残そうとは。」


「しないだろう。」



「あ。」



ヒルメの。



表情が変わる。



「そっか。」



「最初から。」


「必要な分だけ。」



「そうだ。」



「やってみる。」



ヒルメが。



目を閉じる。



ほんの少し。



魔力を。



杖へ。



流す。



「……。」



アルベルトが。



目を細める。



「そこで止めろ。」



「うん。」



「その量を。」


「覚えろ。」



「……うん。」



ヒルメが。



目を開ける。



「分かりやすい。」



「……そうか。」



「アルベルトさん。」



にこっ。



「教えるの。」


「すごく上手だね。」



「……。」



アルベルトが。



固まる。



「何?」



「……何でもない。」



顔を。



逸らす。



「次をやれ。」



「うん!」



「ねえリナ。」



ミアが。



小さな声で。



呼ぶ。



「何?」



「あの二人。」



「普通に。」


「仲良くなれそうじゃない?」



「ヒルメは。」


「最初から何も気にしてないからね。」



「アルベルトの方が。」


「そのうち諦めるでしょ。」



「聞こえてるぞ!」



「聞こえるように言った。」



「お前まで。」


「ヒルメみたいなことを言うな!」



◇ ◇ ◇



しばらくして。



「休憩じゃ。」



エルドの。



声。



「疲れたぁ。」



ミアが。



机へ。



突っ伏す。



「まだ何もしてないでしょ。」



「新しい環境って。」


「疲れるの。」



「そうなの?」



「ヒルメには。」


「分からないと思う。」



「なんで!?」



「ワン!」



シロが。



立ち上がる。



「シロ。」



ヒルメが。



頭を撫でる。



「お水飲む?」



「ワン!」



ヒルメが。



鞄へ。



手を伸ばす。



その時。



「……ヒルメ。」



「ん?」



アルベルト。



「何?」



「……。」



アルベルトが。



シロを見る。



少し。



迷う。



そして。



席を立った。



「……シロ。」



「ワウ?」



アルベルトが。



名前を呼ぶ。



シロが。



振り返る。



「……。」



アルベルトが。



その前まで。



歩く。



しゃがむ。



「アルベルトさん?」



ヒルメが。



不思議そうに。



見る。



「……。」



アルベルトは。



ヒルメを見ない。



シロだけを。



見る。



「あの時は。」



「……。」



一瞬。



言葉が。



詰まる。



「悪かった。」



「……。」



リナ。



ミア。



アリシア。



全員が。



アルベルトを見る。



セレスティアも。



僅かに。



視線を向けた。



「俺は。」



「お前を。」


「蹴った。」



シロが。



じっと。



アルベルトを見る。



「戦っていたのは。」


「ヒルメだった。」



「お前は。」


「何もしていなかった。」



「それなのに。」



「苛立って。」


「お前に当たった。」



「……。」



アルベルトが。



拳を。



握る。



そして。



頭を下げた。



「俺が悪かった。」



「すまなかった。」



「……。」



静かになる。



ヒルメは。



何も言わない。



シロへの。



謝罪。



だから。



シロが。



決めること。



「……。」



シロが。



一歩。



アルベルトへ。



近付く。



アルベルトは。



動かない。



クンクン。



手の匂いを。



嗅ぐ。



「……。」



そして。



ぺろっ。



「……!」



アルベルトの。



手を。



舐めた。



「ワン!」



尻尾が。



揺れる。



「……。」



アルベルトが。



目を。



見開く。



ヒルメが。



笑った。



「シロ。」


「許してくれたみたい。」



「……そうか。」



アルベルトが。



小さく。



息を吐く。



その顔から。



ほんの少し。



力が抜けた。



「ワン!」



シロが。



さらに。



近付く。



「……何だ。」



頭を。



アルベルトの手へ。



押し付ける。



「……。」



「撫でてほしいんだよ。」



ヒルメが。



言う。



「俺が?」



「うん。」



「……。」



恐る恐る。



アルベルトが。



シロの頭へ。



手を置く。



撫でる。



「ワフ。」



尻尾。



ぱたぱた。



「……。」



アルベルトが。



もう一度。



撫でる。



「……柔らかいな。」



「でしょ?」



ヒルメが。



嬉しそうに。



笑う。



「シロ。」


「ふわふわなんだよ。」



「ワン!」



その瞬間。



シロが。



アルベルトへ。



飛びついた。



「うわっ!?」



ぺろぺろぺろ。



「待て!」



ぺろぺろ。



「顔はやめろ!」



「シロ。」


「アルベルトさんのこと。」


「好きになったみたい。」



「何故そうなる!」



「だって。」


「尻尾振ってるよ?」



「ワン!」



「お前も。」


「乗るな!」



ミアが。



吹き出す。



「ふふっ。」



リナも。



口元を。



押さえる。



「笑うな!」



「だって。」



「アルベルト。」


「シロに押し倒されてる。」



「こいつ意外と力が強いんだ!」



「ワン!」



「嬉しそう。」



「ヒルメ!」


「見てないでどかせ!」



「シロー。」



「ワン!」



「おいで。」



シロが。



すぐに。



ヒルメのところへ。



戻る。



「……。」



アルベルトが。



乱れた髪を。



直す。



「本当に。」


「何なんだ……。」



そう言いながら。



その表情は。



少しだけ。



笑っていた。



◇ ◇ ◇



その様子を。



セレスティアが。



黙って。



見ていた。



謝る。



自分の非を。



認める。



そして。



許される。



「……。」



セレスティアの。



視線が。



リナへ。



向く。



「……。」



対抗戦。



自分が。



何をしたのか。



忘れてなど。



いない。



ヒルメ。



ミア。



そして。



リナ。



だが。



「……。」



口を開くことは。



できなかった。



リナも。



視線に。



気付く。



「……何?」



「……何でもありませんわ。」



セレスティアが。



顔を逸らす。



「そう。」



リナも。



それ以上。



何も言わない。



まだ。



二人の間にあるものは。



簡単に。



消えない。



◇ ◇ ◇



「さて。」



休憩が。



終わる。



エルドが。



手を叩く。



「午後は。」


「訓練場へ移動するぞ。」



「実戦?」



ヒルメの。



目が。



輝く。



「違う。」



「えー。」



「何故残念そうなんじゃ。」



「今日は。」


「それぞれの。」


「得意魔法を。」


「見せてもらう。」



「そして。」


「今後。」


「誰に何を教えるのか。」



「儂が。」


「決める。」



「……。」



アルベルトが。



嫌そうな。



顔をする。



「アルベルト。」



「何です。」



「お主は。」


「忙しくなりそうじゃな。」



「何故です!?」



「ほっほっほ。」



「だから。」


「笑って誤魔化すな!」



「アルベルトさん。」



ヒルメが。



隣から。



顔を出す。



「午後も。」


「教えてね。」



「……。」



アルベルトが。



一瞬。



ヒルメを見る。



以前なら。



絶対に。



考えられなかった。



「……分かった。」



「本当?」



「ああ。」



「やった。」



「ワン!」



「……。」



アルベルトが。



シロを見る。



シロも。



見る。



尻尾。



ぱたぱた。



「……お前も。」


「来るのか。」



「ワン!」



「そうか。」



小さく。



笑う。



長い間。



閉じこもっていた。



アルベルトの。



時間が。



ようやく。



少しずつ。



動き始めていた。



◇ ◇ ◇



そして。



その日の。



放課後。



王城。



「……。」



アリシアが。



一人。



廊下を。



歩いている。



手には。



一通の。



報告書。



国境付近。



帝国軍。



部隊の移動。



兵站物資の増加。



そして。



所属不明の。



騎士たち。



「……。」



足が。



止まる。



窓の外。



夕日に染まる。



王都。



「やはり。」



小さく。



呟く。



「何か。」


「動いていますね……。」



報告書を。



閉じる。



その表情から。



いつもの。



笑顔が。



消えた。



◇ ◇ ◇



遥か遠く。



帝国。



地下。



巨大な。



訓練場。



「ぐああああああっ!!」



男の。



叫び声。



魔法陣が。



赤黒く。



輝く。



その中央。



一人の。



帝国騎士。



身体を。



激しく。



震わせている。



「耐えろ!」



「まだ終わっていない!」



周囲には。



何人もの。



帝国兵。



そして。



その奥。



黒い外套。



「……。」



男が。



静かに。



見ている。



やがて。



光が。



消えた。



「はぁ……。」


「はぁ……。」



騎士が。



立ち上がる。



その身体から。



以前とは。



比較にならない。



魔力。



「……成功です。」



黒い外套の男が。



笑う。



その様子を。



上階から。



見下ろす者。



帝国皇帝。



「これで。」



「何人目だ。」



「三十二名。」



「まだ足りんな。」



「ええ。」



黒い外套の男が。



皇帝を見る。



「ですが。」


「焦る必要は。」


「ございません。」



「王国は。」


「まだ。」



一拍。



「何も知りませんから。」



「……。」



皇帝が。



笑う。



「そうか。」



「ならば。」


「続けろ。」



「御意。」



◇ ◇ ◇



同じ頃。



帝国騎士団本部。



「……またか。」



エリスが。



一枚の。



任務表を。



見つめていた。



アテナ。



フレイヤ。



そして。



エリス隊の。



団員たち。



そこには。



誰一人。



名前がない。



「最近。」


「露骨っすね。」



フレイヤが。



腕を組む。



「国境任務。」


「帝都警備。」


「魔物討伐。」



アテナが。



一つずつ。



確認する。



「これまで。」


「我々が担当していた任務まで。」


「他隊へ回されています。」



「……ああ。」



エリスが。



答える。



「団長。」



「何だ。」



「上から。」


「何か言われているのですか?」



「いや。」



エリスが。



任務表を。



机へ置く。



「何もない。」



「それが。」


「おかしい。」



「……。」



誰も。



反論しない。



命令が。



ない。



任務も。



ない。



情報も。



降りてこない。



まるで。



エリス隊だけが。



意図的に。



何かから。



外されている。



「……。」



エリスが。



窓の外。



帝都を。



見る。



何かが。



起きている。



それだけは。



間違いない。



だが。



まだ。



その正体が。



分からない。



そして。



自分たちが。



何故。



外されているのかも。



「団長。」



アテナが。



静かに。



呼ぶ。



「どうします?」



「……今は。」


「待つ。」



「了解。」



「ただし。」



エリスの。



目が。



鋭くなる。



「何か分かったら。」


「どんな小さなことでも。」


「私に報告しろ。」



「はい。」



「了解っす。」



「……。」



エリスが。



もう一度。



任務表を見る。



その時。



何故か。



一人の少女の。



顔が。



頭に浮かんだ。



「……ヒルメ。」



小さく。



名前を。



呟く。



嫌な。



予感がした。



◇ ◇ ◇

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