動き出す時間
◇ ◇ ◇
翌朝。
学院。
「……。」
一人の少年が。
正門の前で。
立ち尽くしていた。
アルベルト。
久しぶりに見る。
学院の校舎。
以前なら。
何の躊躇もなく。
この門を。
くぐっていた。
だが。
今は。
「……帰りたい。」
本音が。
漏れた。
昨夜。
王家から届いた。
一通の書状。
差出人。
アリシア・ミラーク。
内容だけなら。
特別クラスへの。
招待。
だが。
辞退すれば。
貴族としての今後について。
王家と。
父親が。
話し合う。
そして。
最後に。
『うふふ。』
「……。」
思い出しただけで。
胃が痛い。
「何なんだ……。」
アルベルトが。
額を押さえる。
「何で俺が……。」
行きたくない。
だが。
行かなければ。
もっと。
恐ろしいことになる。
「……くそ。」
覚悟を決め。
門を。
くぐった。
◇ ◇ ◇
廊下。
久しぶりに。
学院へ姿を見せた。
アルベルト。
当然。
目立つ。
「あれ……。」
「アルベルトじゃないか?」
「本当だ……。」
「復帰したのか?」
声が。
聞こえる。
だが。
アルベルトは。
無視した。
以前なら。
そんな視線など。
気にも留めなかった。
むしろ。
当然だと。
思っていた。
貴族。
そして。
学生の中でも。
最高峰の魔術師。
注目されることなど。
当たり前。
だが。
今は。
別の意味で。
見られている。
あの日。
ヒルメとの。
決闘。
学院中が。
知っている。
そして。
結果。
自分は。
負けた。
いや。
負けた。
などという。
生易しいものではない。
「……。」
途中から。
記憶がない。
気が付いた時には。
医務室。
全身。
痛む身体。
後から。
何があったのか。
聞いた。
聞かなければ。
よかった。
「……。」
足が。
止まりそうになる。
その度。
昨夜の。
書状が。
頭をよぎる。
『うふふ。』
「……行く。」
アルベルトは。
再び。
歩き出した。
◇ ◇ ◇
特別クラス。
その扉の前。
「……ここか。」
アルベルトが。
深く。
息を吐く。
大丈夫。
ただの教室だ。
中にいるのも。
同じ学院の生徒。
何も。
怖いことなどない。
ガラッ。
扉を。
開ける。
「……。」
最初に。
見えたのは。
窓際に座る。
セレスティア。
「……。」
視線が。
合う。
「アルベルト。」
「……セレスティア。」
それだけ。
二人とも。
それ以上。
何も言わない。
そして。
「アルベルトさん。」
「――っ!!」
身体が。
勝手に。
反応した。
ヒルメ。
いた。
当然。
いる。
分かっていた。
この特別クラスに。
ヒルメがいることくらい。
分かっていた。
それでも。
実際に。
目の前にすると。
身体が。
あの日を。
思い出す。
「おはよう。」
にこっ。
「……。」
アルベルトが。
一歩。
下がる。
「?」
ヒルメが。
首を傾げる。
その足元。
「ワン!」
「――っ!」
今度は。
別の意味で。
アルベルトの。
身体が止まった。
シロ。
いつものように。
ヒルメの隣。
白い尻尾を。
揺らしている。
「……。」
アルベルトが。
シロを見る。
シロも。
アルベルトを見る。
「ワウ?」
あの日。
自分は。
こいつを。
蹴った。
戦っていたのは。
ヒルメだった。
シロは。
何もしていなかった。
それなのに。
苛立ちのまま。
蹴り飛ばした。
「……。」
アルベルトが。
目を逸らす。
「アルベルトさん?」
「……何だ。」
「元気だった?」
「……。」
アルベルトが。
ヒルメを見る。
元気だったか。
自分を。
あそこまで。
叩きのめした。
張本人が。
何の悪意もなく。
聞いている。
「……お前。」
「うん?」
「本当に。」
「覚えていないのか?」
「何を?」
「……。」
やはり。
覚えていない。
「……もういい。」
「?」
ヒルメが。
不思議そうに。
首を傾げる。
「アルベルトさん。」
「何だ。」
「何でそんなに遠いの?」
「ここでいい。」
「でも話しにくいよ?」
「聞こえている。」
ヒルメが。
一歩。
近付く。
アルベルトが。
一歩。
下がる。
「……。」
また。
一歩。
一歩。
「何で逃げるの?」
「逃げてない!」
「逃げてるよ?」
「距離を取っているだけだ!」
「それ逃げてるんじゃない?」
「違う!」
「ワン!」
「お前も同意するな!」
「シロに怒らないでよ。」
「怒ってない!」
「……。」
窓際。
セレスティアが。
僅かに。
眉を寄せる。
以前の。
アルベルトとは。
別人だった。
◇ ◇ ◇
その時。
ガラッ。
「おはよう。」
リナ。
その後ろから。
ミア。
「おはよー。」
二人が。
教室へ。
入ってくる。
そして。
アルベルトを見る。
「……。」
「……。」
「……。」
妙な。
沈黙。
「何だ。」
アルベルトが。
睨む。
「いや。」
リナが。
目を逸らす。
「本当に来たんだと思って。」
「来たくて来たわけじゃない!」
「じゃあ何で来たの?」
ミアが。
素直に聞く。
「……。」
アルベルトが。
黙る。
「……脅された。」
「え?」
「誰に?」
その時。
「おはようございます。」
「――っ。」
アルベルトの。
肩が。
跳ねた。
アリシア。
にこやかな。
笑顔。
「アルベルトさん。」
「……。」
「学院への。」
「ご復帰。」
「心より。」
「お祝い申し上げます。」
「……おかげさまで。」
「まあ。」
アリシアが。
嬉しそうに。
笑う。
「私。」
「何もしておりませんのに。」
「……。」
「アリシア。」
リナが。
呆れた顔で。
見る。
「何をしたの?」
「何も。」
「…………。」
「間が長い。」
「正式に。」
「特別クラスへの。」
「ご招待をしただけです。」
アルベルトが。
ぼそり。
呟く。
「辞退したら。」
「貴族の資格について。」
「父上と話し合うと。」
「書いてあったがな。」
「ええ!?」
ミアが。
アリシアを見る。
「それ脅迫じゃない!?」
「まあ。」
アリシアが。
口元へ。
手を添える。
「人聞きの悪い。」
「脅迫だよ。」
ヒルメが。
真顔で。
言った。
「ヒルメ様!?」
「だって。」
「来なかったら貴族じゃなくするよって。」
「言ったんでしょ?」
「……。」
「脅迫じゃない?」
「…………。」
「間が長い。」
リナが。
即座に。
突っ込んだ。
◇ ◇ ◇
「全員。」
エルドが。
教室へ。
入ってきた。
「席につけ。」
六人が。
それぞれ。
席へ向かう。
ヒルメの。
足元には。
当然。
シロ。
「ワン。」
「シロも座る?」
「ワウ。」
ヒルメの。
椅子の横。
シロが。
伏せる。
「……。」
アルベルトが。
また。
その姿を見る。
そして。
すぐに。
目を逸らした。
「さて。」
エルドが。
六人を。
見渡す。
「何ともまあ。」
「面倒そうな連中を。」
「集めたものじゃ。」
「先生。」
アリシアが。
手を上げる。
「何じゃ。」
「人聞きが悪いです。」
「主にお主のことじゃ。」
「まあ。」
「心外です。」
「……。」
エルドが。
ため息をつく。
「既に。」
「聞いておると思うが。」
「今日から。」
「この六人は。」
「貴族クラス。」
「一般クラス。」
「どちらにも。」
「所属せん。」
「ここでは。」
「身分など。」
「関係ない。」
「お主らは。」
「それぞれ。」
「通常の授業では。」
「扱いきれんものを。」
「持っておる。」
「……扱いきれないって。」
ミアが。
小さく。
呟く。
「私も?」
「お主は。」
「周りが扱いきれん。」
「どういう意味!?」
「冗談じゃ。」
「絶対違う!」
「ふふ。」
ヒルメが。
笑う。
「ミア。」
「扱いきれないんだって。」
「ヒルメに言われたくない!」
「なんで!?」
「一番扱いきれないの。」
「ヒルメだから!」
「ええ!?」
「ワン!」
「シロまで!?」
教室に。
笑い声。
一人。
セレスティアだけは。
黙っていた。
◇ ◇ ◇
「話を戻すぞ。」
エルドが。
黒板へ。
向き直る。
「このクラスでは。」
「通常の座学だけではなく。」
「実戦。」
「魔力制御。」
「魔法研究。」
「そして。」
「互いの魔法について。」
「学んでもらう。」
「互いの?」
ヒルメが。
聞く。
「そうじゃ。」
「お主らは。」
「得意とするものが。」
「まるで違う。」
「ならば。」
「儂一人から。」
「教わるだけではなく。」
「互いから。」
「学べばよい。」
「特に。」
エルドの。
視線が。
アルベルトへ。
向く。
「アルベルト。」
「……何です。」
「お主には。」
「期待しておるぞ。」
「俺に?」
「そうじゃ。」
エルドが。
髭を。
撫でる。
「この中で。」
「純粋な魔法技術だけを。」
「見れば。」
「お主が。」
「最も完成されておる。」
「……。」
教室が。
静かになる。
「魔力を。」
「馬鹿みたいに持っている者。」
ヒルメ。
「?」
「突然。」
「闇魔法に目覚めた者。」
リナ。
「……私ね。」
「生まれながらに。」
「規格外の者。」
アリシア。
「ふふ。」
「力の扱い方を。」
「少々間違えた者。」
セレスティア。
「……どういう意味ですの?」
「そのままの意味じゃ。」
「……。」
「それぞれ。」
「強力な力を。」
「持っておる。」
「じゃが。」
「魔法を。」
「基礎から理解し。」
「適切な量の魔力を。」
「適切な場所へ流し。」
「状況に応じて。」
「最適な魔法を選ぶ。」
「そういった。」
「魔術師としての。」
「純粋な技術。」
「それに関しては。」
エルドが。
アルベルトを見る。
「お主が。」
「学生の中では。」
「一番じゃ。」
「……。」
アルベルトが。
僅かに。
目を見開く。
久しぶりに。
聞いた。
自分への。
純粋な評価。
「だから。」
「教えてやれ。」
「……誰にです。」
「全員じゃ。」
「は?」
「儂も楽ができる。」
「それが本音でしょう!」
「ほっほっほ。」
「笑って誤魔化すな!」
「アルベルトさん。」
「……。」
嫌な。
予感。
横を見る。
ヒルメ。
目が。
輝いている。
「教えてくれるの?」
「……。」
「私。」
「魔力を小さくするの。」
「まだ上手くできない時があるんだ。」
「……。」
「お願い。」
「……はぁ。」
アルベルトが。
立ち上がる。
「杖を出せ。」
「うん!」
ヒルメが。
杖を出す。
「まず。」
「いつも通り。」
「魔力を流してみろ。」
「分かった。」
魔力。
杖へ。
流れる。
「多い。」
即答。
「え?」
「多すぎる。」
アルベルトが。
ヒルメの杖を見る。
「お前は。」
「魔法を使う時。」
「最初から。」
「必要以上の魔力を。」
「杖へ流している。」
「それを。」
「後から抑えようとするから。」
「不安定になる。」
「……。」
ヒルメが。
自分の杖を見る。
「じゃあ。」
「最初から少なくするの?」
「そうだ。」
「どうやって?」
「……。」
アルベルトが。
少し考える。
「水を。」
「コップに注ぐところを。」
「想像しろ。」
「水?」
「いきなり。」
「桶ごとひっくり返して。」
「後から。」
「コップ一杯分だけ残そうとは。」
「しないだろう。」
「あ。」
ヒルメの。
表情が変わる。
「そっか。」
「最初から。」
「必要な分だけ。」
「そうだ。」
「やってみる。」
ヒルメが。
目を閉じる。
ほんの少し。
魔力を。
杖へ。
流す。
「……。」
アルベルトが。
目を細める。
「そこで止めろ。」
「うん。」
「その量を。」
「覚えろ。」
「……うん。」
ヒルメが。
目を開ける。
「分かりやすい。」
「……そうか。」
「アルベルトさん。」
にこっ。
「教えるの。」
「すごく上手だね。」
「……。」
アルベルトが。
固まる。
「何?」
「……何でもない。」
顔を。
逸らす。
「次をやれ。」
「うん!」
「ねえリナ。」
ミアが。
小さな声で。
呼ぶ。
「何?」
「あの二人。」
「普通に。」
「仲良くなれそうじゃない?」
「ヒルメは。」
「最初から何も気にしてないからね。」
「アルベルトの方が。」
「そのうち諦めるでしょ。」
「聞こえてるぞ!」
「聞こえるように言った。」
「お前まで。」
「ヒルメみたいなことを言うな!」
◇ ◇ ◇
しばらくして。
「休憩じゃ。」
エルドの。
声。
「疲れたぁ。」
ミアが。
机へ。
突っ伏す。
「まだ何もしてないでしょ。」
「新しい環境って。」
「疲れるの。」
「そうなの?」
「ヒルメには。」
「分からないと思う。」
「なんで!?」
「ワン!」
シロが。
立ち上がる。
「シロ。」
ヒルメが。
頭を撫でる。
「お水飲む?」
「ワン!」
ヒルメが。
鞄へ。
手を伸ばす。
その時。
「……ヒルメ。」
「ん?」
アルベルト。
「何?」
「……。」
アルベルトが。
シロを見る。
少し。
迷う。
そして。
席を立った。
「……シロ。」
「ワウ?」
アルベルトが。
名前を呼ぶ。
シロが。
振り返る。
「……。」
アルベルトが。
その前まで。
歩く。
しゃがむ。
「アルベルトさん?」
ヒルメが。
不思議そうに。
見る。
「……。」
アルベルトは。
ヒルメを見ない。
シロだけを。
見る。
「あの時は。」
「……。」
一瞬。
言葉が。
詰まる。
「悪かった。」
「……。」
リナ。
ミア。
アリシア。
全員が。
アルベルトを見る。
セレスティアも。
僅かに。
視線を向けた。
「俺は。」
「お前を。」
「蹴った。」
シロが。
じっと。
アルベルトを見る。
「戦っていたのは。」
「ヒルメだった。」
「お前は。」
「何もしていなかった。」
「それなのに。」
「苛立って。」
「お前に当たった。」
「……。」
アルベルトが。
拳を。
握る。
そして。
頭を下げた。
「俺が悪かった。」
「すまなかった。」
「……。」
静かになる。
ヒルメは。
何も言わない。
シロへの。
謝罪。
だから。
シロが。
決めること。
「……。」
シロが。
一歩。
アルベルトへ。
近付く。
アルベルトは。
動かない。
クンクン。
手の匂いを。
嗅ぐ。
「……。」
そして。
ぺろっ。
「……!」
アルベルトの。
手を。
舐めた。
「ワン!」
尻尾が。
揺れる。
「……。」
アルベルトが。
目を。
見開く。
ヒルメが。
笑った。
「シロ。」
「許してくれたみたい。」
「……そうか。」
アルベルトが。
小さく。
息を吐く。
その顔から。
ほんの少し。
力が抜けた。
「ワン!」
シロが。
さらに。
近付く。
「……何だ。」
頭を。
アルベルトの手へ。
押し付ける。
「……。」
「撫でてほしいんだよ。」
ヒルメが。
言う。
「俺が?」
「うん。」
「……。」
恐る恐る。
アルベルトが。
シロの頭へ。
手を置く。
撫でる。
「ワフ。」
尻尾。
ぱたぱた。
「……。」
アルベルトが。
もう一度。
撫でる。
「……柔らかいな。」
「でしょ?」
ヒルメが。
嬉しそうに。
笑う。
「シロ。」
「ふわふわなんだよ。」
「ワン!」
その瞬間。
シロが。
アルベルトへ。
飛びついた。
「うわっ!?」
ぺろぺろぺろ。
「待て!」
ぺろぺろ。
「顔はやめろ!」
「シロ。」
「アルベルトさんのこと。」
「好きになったみたい。」
「何故そうなる!」
「だって。」
「尻尾振ってるよ?」
「ワン!」
「お前も。」
「乗るな!」
ミアが。
吹き出す。
「ふふっ。」
リナも。
口元を。
押さえる。
「笑うな!」
「だって。」
「アルベルト。」
「シロに押し倒されてる。」
「こいつ意外と力が強いんだ!」
「ワン!」
「嬉しそう。」
「ヒルメ!」
「見てないでどかせ!」
「シロー。」
「ワン!」
「おいで。」
シロが。
すぐに。
ヒルメのところへ。
戻る。
「……。」
アルベルトが。
乱れた髪を。
直す。
「本当に。」
「何なんだ……。」
そう言いながら。
その表情は。
少しだけ。
笑っていた。
◇ ◇ ◇
その様子を。
セレスティアが。
黙って。
見ていた。
謝る。
自分の非を。
認める。
そして。
許される。
「……。」
セレスティアの。
視線が。
リナへ。
向く。
「……。」
対抗戦。
自分が。
何をしたのか。
忘れてなど。
いない。
ヒルメ。
ミア。
そして。
リナ。
だが。
「……。」
口を開くことは。
できなかった。
リナも。
視線に。
気付く。
「……何?」
「……何でもありませんわ。」
セレスティアが。
顔を逸らす。
「そう。」
リナも。
それ以上。
何も言わない。
まだ。
二人の間にあるものは。
簡単に。
消えない。
◇ ◇ ◇
「さて。」
休憩が。
終わる。
エルドが。
手を叩く。
「午後は。」
「訓練場へ移動するぞ。」
「実戦?」
ヒルメの。
目が。
輝く。
「違う。」
「えー。」
「何故残念そうなんじゃ。」
「今日は。」
「それぞれの。」
「得意魔法を。」
「見せてもらう。」
「そして。」
「今後。」
「誰に何を教えるのか。」
「儂が。」
「決める。」
「……。」
アルベルトが。
嫌そうな。
顔をする。
「アルベルト。」
「何です。」
「お主は。」
「忙しくなりそうじゃな。」
「何故です!?」
「ほっほっほ。」
「だから。」
「笑って誤魔化すな!」
「アルベルトさん。」
ヒルメが。
隣から。
顔を出す。
「午後も。」
「教えてね。」
「……。」
アルベルトが。
一瞬。
ヒルメを見る。
以前なら。
絶対に。
考えられなかった。
「……分かった。」
「本当?」
「ああ。」
「やった。」
「ワン!」
「……。」
アルベルトが。
シロを見る。
シロも。
見る。
尻尾。
ぱたぱた。
「……お前も。」
「来るのか。」
「ワン!」
「そうか。」
小さく。
笑う。
長い間。
閉じこもっていた。
アルベルトの。
時間が。
ようやく。
少しずつ。
動き始めていた。
◇ ◇ ◇
そして。
その日の。
放課後。
王城。
「……。」
アリシアが。
一人。
廊下を。
歩いている。
手には。
一通の。
報告書。
国境付近。
帝国軍。
部隊の移動。
兵站物資の増加。
そして。
所属不明の。
騎士たち。
「……。」
足が。
止まる。
窓の外。
夕日に染まる。
王都。
「やはり。」
小さく。
呟く。
「何か。」
「動いていますね……。」
報告書を。
閉じる。
その表情から。
いつもの。
笑顔が。
消えた。
◇ ◇ ◇
遥か遠く。
帝国。
地下。
巨大な。
訓練場。
「ぐああああああっ!!」
男の。
叫び声。
魔法陣が。
赤黒く。
輝く。
その中央。
一人の。
帝国騎士。
身体を。
激しく。
震わせている。
「耐えろ!」
「まだ終わっていない!」
周囲には。
何人もの。
帝国兵。
そして。
その奥。
黒い外套。
「……。」
男が。
静かに。
見ている。
やがて。
光が。
消えた。
「はぁ……。」
「はぁ……。」
騎士が。
立ち上がる。
その身体から。
以前とは。
比較にならない。
魔力。
「……成功です。」
黒い外套の男が。
笑う。
その様子を。
上階から。
見下ろす者。
帝国皇帝。
「これで。」
「何人目だ。」
「三十二名。」
「まだ足りんな。」
「ええ。」
黒い外套の男が。
皇帝を見る。
「ですが。」
「焦る必要は。」
「ございません。」
「王国は。」
「まだ。」
一拍。
「何も知りませんから。」
「……。」
皇帝が。
笑う。
「そうか。」
「ならば。」
「続けろ。」
「御意。」
◇ ◇ ◇
同じ頃。
帝国騎士団本部。
「……またか。」
エリスが。
一枚の。
任務表を。
見つめていた。
アテナ。
フレイヤ。
そして。
エリス隊の。
団員たち。
そこには。
誰一人。
名前がない。
「最近。」
「露骨っすね。」
フレイヤが。
腕を組む。
「国境任務。」
「帝都警備。」
「魔物討伐。」
アテナが。
一つずつ。
確認する。
「これまで。」
「我々が担当していた任務まで。」
「他隊へ回されています。」
「……ああ。」
エリスが。
答える。
「団長。」
「何だ。」
「上から。」
「何か言われているのですか?」
「いや。」
エリスが。
任務表を。
机へ置く。
「何もない。」
「それが。」
「おかしい。」
「……。」
誰も。
反論しない。
命令が。
ない。
任務も。
ない。
情報も。
降りてこない。
まるで。
エリス隊だけが。
意図的に。
何かから。
外されている。
「……。」
エリスが。
窓の外。
帝都を。
見る。
何かが。
起きている。
それだけは。
間違いない。
だが。
まだ。
その正体が。
分からない。
そして。
自分たちが。
何故。
外されているのかも。
「団長。」
アテナが。
静かに。
呼ぶ。
「どうします?」
「……今は。」
「待つ。」
「了解。」
「ただし。」
エリスの。
目が。
鋭くなる。
「何か分かったら。」
「どんな小さなことでも。」
「私に報告しろ。」
「はい。」
「了解っす。」
「……。」
エリスが。
もう一度。
任務表を見る。
その時。
何故か。
一人の少女の。
顔が。
頭に浮かんだ。
「……ヒルメ。」
小さく。
名前を。
呟く。
嫌な。
予感がした。
◇ ◇ ◇




