特別クラス
◇ ◇ ◇
対抗戦から。
数日が過ぎた。
王城。
国王の執務室。
「――特別クラス?」
国王が。
手元の書類から顔を上げた。
「はい。」
その正面。
アリシアが。
にこやかに立っている。
隣には。
兄であるレオン。
そして。
「何故儂まで……。」
エルドもいた。
「今回の対抗戦で。」
「はっきりしたことがあります。」
アリシアが。
机の上へ。
一枚の書類を置く。
「現在の学院では。」
「貴族クラス。」
「一般クラス。」
「生徒は。」
「身分によって。」
「分けられています。」
「それがどうした。」
国王が聞く。
「無意味です。」
「……。」
あまりにも。
はっきりとした一言。
「ず、随分とはっきり言うな。」
「事実ですから。」
アリシアは。
気にする様子もない。
「生まれが。」
「その者の魔法の才能を。」
「決めるわけではありません。」
「今回。」
「一般クラスの生徒が。」
「貴族クラスの生徒を。」
「何度も破りました。」
「ヒルメ様。」
「リナ。」
「ミア。」
「三人が。」
「それを証明しています。」
「……。」
レオンが。
書類を手に取る。
「身分ではなく。」
「能力。」
「適性。」
「将来性。」
「それによって。」
「選抜した者だけを集める。」
ページをめくる。
「通常の授業とは。」
「別の教育を行う。」
「特別クラス……か。」
「はい。」
アリシアが。
頷く。
「通常の授業では。」
「対応できない者が。」
「増えてきました。」
「例えば。」
「リナ。」
「彼女は。」
「対抗戦で。」
「闇魔法に覚醒しました。」
「まだ。」
「自分の力を。」
「ほとんど理解していません。」
エルドが。
髭を撫でる。
「確かにな。」
「今まで。」
「闇魔法を扱う生徒など。」
「学院にもおらんかった。」
「普通の授業へ戻したところで。」
「教える側も困るじゃろう。」
「そして。」
「ヒルメ様。」
「……。」
アリシアの声が。
少しだけ。
嬉しそうになる。
レオンが。
妹を見る。
「……。」
「ヒルメ様の。」
「《ガーディアン・プリズン》。」
「《セイクリッド・レイ》。」
「《サンクチュアリ》。」
「その他。」
「既存の魔法体系では。」
「説明できない魔法が。」
「いくつもあります。」
「通常の教育課程に。」
「当てはめること自体。」
「無理があります。」
「……なるほどな。」
国王も。
そこまでは。
納得したようだった。
「アリシア。」
「はい。」
「お前。」
国王が。
じっと。
娘を見る。
「ヒルメ嬢と。」
「同じクラスにいたいだけでは。」
「ないだろうな?」
「………………。」
「……。」
「……。」
レオンが。
ため息をつく。
「間が長い。」
「違います。」
「その間の後に言われても。」
「説得力がないぞ。」
「必要な改革です。」
「こちらを見て言え。」
「見ております。」
「窓を見ているだろう。」
「気のせいです。」
「……。」
エルドが。
額を押さえる。
「お主。」
「まさかとは思うが。」
「特別クラスを作れば。」
「毎日ヒルメと一緒にいられるなどと。」
「考えておらんじゃろうな?」
「………………。」
「間が長いと言っておる!!」
「違います。」
「二回目じゃぞ!」
「必要な改革です。」
「答えまで同じじゃ!」
「……。」
国王が。
深く。
ため息をついた。
「とりあえず。」
「候補者を見せろ。」
「こちらです。」
アリシアが。
別の書類を差し出す。
国王が。
一人ずつ。
名前を読む。
「アリシア。」
「はい。」
「まあ。」
「お前は分かる。」
次。
「ヒルメ。」
「当然です。」
返事が。
異様に速い。
「……。」
国王が。
一瞬だけ。
娘を見る。
だが。
何も言わず。
次へ。
「リナ。」
「先ほど。」
「申し上げた通りです。」
「闇魔法の覚醒者。」
「外す理由がありません。」
「ミア。」
国王が。
少し。
首を傾げる。
「この娘もか?」
「はい。」
「対抗戦で。」
「ご覧になったでしょう。」
「現時点での。」
「単純な魔力や。」
「魔法の威力だけなら。」
「他の候補者には及びません。」
「ですが。」
アリシアが。
少しだけ。
笑う。
「彼女は。」
「戦いの中で。」
「成長します。」
「仲間を見る力。」
「状況に合わせる力。」
「そして。」
「自分が何をすべきかを。」
「判断する力。」
「十分に。」
「選ぶ価値があります。」
「儂も。」
「異論はない。」
エルドが。
頷いた。
「ミアは。」
「まだ伸びる。」
「……分かった。」
国王が。
次を見る。
「セレスティア。」
一瞬。
部屋の空気が。
変わった。
「……入れるのか?」
レオンが聞く。
「もちろんです。」
アリシアは。
迷わなかった。
「今回の件と。」
「彼女の実力は。」
「別の話です。」
「……。」
「性格には。」
「大いに。」
「問題がありますが。」
「お主が言うのか?」
エルドが。
小さく呟く。
「何か?」
「何でもない。」
「魔力量。」
「魔法の威力。」
「技術。」
「どれを取っても。」
「学生としては。」
「非常に高い水準にあります。」
「私情で。」
「優秀な者を。」
「排除するつもりはありません。」
「……。」
レオンが。
僅かに笑う。
「そこは。」
「ちゃんとしているんだな。」
「私を。」
「何だと思っているのです?」
「……。」
国王と。
レオンが。
顔を見合わせる。
「何ですか?」
「いや。」
「何でもない。」
そして。
最後。
「……アルベルト。」
国王が。
名前を読む。
エルドが。
眉を上げた。
「アルベルトもか。」
「はい。」
「しかし。」
「あやつは。」
「対抗戦どころか。」
「最近は学院にすら。」
「来ておらんぞ。」
「存じております。」
「ヒルメに負けて以来。」
「屋敷に引きこもっておると。」
「聞いておるが。」
「ですので。」
アリシアが。
にっこり。
笑う。
「復帰していただきます。」
「……本人が。」
「嫌だと言ったら?」
「その場合は。」
笑顔。
「貴族としての資格を。」
「剥奪いたしますね。」
「……。」
「……。」
「……。」
「うふふ。」
「待て!!」
国王が。
思わず。
机を叩いた。
「何を言っておる!?」
「ですから。」
「復帰していただきます。」
「そっちではない!」
レオンも。
頭を抱える。
「アリシア。」
「はい。」
「学院に来ないから。」
「貴族の資格を剥奪するなど。」
「聞いたことがないぞ。」
「では。」
「今回が。」
「初めてですね。」
「そういう問題ではない!」
「ですが。」
アリシアが。
不思議そうに。
首を傾げる。
「アルベルトさんほどの。」
「才能を持つ方が。」
「一度負けた程度で。」
「いつまでも。」
「お部屋に閉じこもっているのですよ?」
「勿体ないではありませんか。」
「それはそうじゃが……。」
エルドが。
唸る。
「アルベルトさんの。」
「魔法に対するセンスは。」
「学生の中では。」
「間違いなく一番です。」
「魔力操作。」
「魔法の選択。」
「戦況判断。」
「基礎魔法の完成度。」
「どれを取っても。」
「一級品。」
「特殊な力ではなく。」
「純粋な魔術師としての。」
「完成度で言えば。」
「他の生徒より。」
「頭一つ。」
「抜けています。」
「……。」
エルドも。
否定しない。
「まあ。」
「その通りじゃ。」
「ヒルメは。」
「規格外すぎて。」
「比較対象にならん。」
「リナは。」
「闇魔法へ覚醒したばかり。」
「セレスティアも。」
「強力な魔術師ではあるが。」
「魔法そのものへの。」
「理解とセンスなら。」
「アルベルトに。」
「分があるじゃろうな。」
「でしょう?」
アリシアが。
満足そうに。
微笑む。
「ですから。」
「復帰していただきます。」
「……だから。」
「何故そこから。」
「資格剥奪になるのだ。」
「確実ですから。」
「認めたぞこいつ!」
レオンが。
ついに。
声を上げた。
「父上。」
「何とかしてください。」
「儂に言うな!」
「父親でしょう!」
「お前は兄だろう!」
「無理ですよ!」
「儂だって無理だ!」
「……。」
エルドが。
二人を見る。
「王と。」
「第一王子が。」
「揃って何を言っておる……。」
「ならエルド。」
「お前が止めろ。」
「嫌じゃ。」
「即答するな!」
アリシアが。
三人を見ながら。
首を傾げる。
「何を。」
「そんなに。」
「騒いでいるのです?」
「お前のせいだ!!」
三人の声が。
重なった。
「まあ。」
アリシアが。
口元へ。
手を添える。
「皆様。」
「仲がよろしいのですね。」
「違う!!」
◇ ◇ ◇
結局。
話し合いは。
長引いた。
だが。
特別クラスそのものについては。
誰も。
強く反対できなかった。
対抗戦で。
実際に。
一般クラスの生徒たちが。
結果を残した。
そして。
これまでの教育では。
扱えない力を持つ者も。
現れ始めている。
「……分かった。」
国王が。
書類を置いた。
「学院長と。」
「正式に話を進めよう。」
「ありがとうございます。」
アリシアが。
優雅に。
頭を下げる。
「ただし。」
「はい?」
「王家の権力を。」
「勝手に使うな。」
「…………。」
「間が長い!!」
「善処いたします。」
「善処ではない!」
「可能な限り。」
「悪化しておるわ!!」
「……。」
レオンが。
妹を見る。
そして。
国王を見る。
「父上。」
「何だ。」
「あいつ。」
アリシアを。
指差す。
「あんな性格でしたか?」
「……。」
国王が。
娘を見る。
「いや……。」
首を傾げる。
「幼い頃は。」
「もっと大人しい娘だったと。」
「記憶しておるが……。」
「ですよね。」
「病に伏せてからは。」
「特にな。」
「元気になったことは。」
「嬉しいのだが……。」
国王が。
遠い目をする。
「最近。」
「貴族から。」
「儂への問い合わせが。」
「妙に増えておる。」
「私のところにもです。」
レオンも。
遠い目をする。
「先日は。」
「学院長から。」
「王女殿下からこのような要請が来ておりますが。」
「王家として正式なものなのでしょうか。」
「と聞かれました。」
「儂にも来た。」
「どうしたのです?」
アリシアが。
不思議そうに。
聞く。
「お前だ!!」
「まあ。」
「心外です。」
「こっちが心外だ!!」
エルドが。
堪えきれず。
笑い出す。
「くくっ……。」
「笑うなエルド!」
「いや。」
「すまん。」
「しかし。」
エルドが。
アリシアを見る。
「本当に。」
「変わったものじゃな。」
「……。」
アリシアが。
少しだけ。
目を細める。
その時。
「ですが。」
声が。
変わった。
「……?」
三人が。
アリシアを見る。
「今回。」
「特別クラスを。」
「提案した理由は。」
一拍。
「本当に。」
「それだけではありません。」
「……。」
レオンの。
笑みが消える。
「何かあるのか?」
「まだ。」
「確証はありません。」
アリシアが。
窓の外へ。
目を向ける。
王都。
その遥か先。
さらに。
遠く。
「ですが。」
僅かに。
目を細める。
「何やら。」
「きな臭い動きも。」
「あるようですし……。」
「……。」
国王の。
表情が変わった。
「帝国か。」
「…………。」
アリシアは。
答えない。
ただ。
静かに。
窓の外を。
見つめている。
「今後。」
「何が起きるかは。」
「分かりません。」
「ですが。」
振り返る。
「何かが起きてから。」
「力のある者を。」
「育て始めたのでは。」
「遅いでしょう?」
「……。」
誰も。
反論しなかった。
この国の。
王女。
そして。
実質的な。
王国最高戦力。
そのアリシアが。
何かを。
感じ取っている。
それだけで。
十分だった。
「分かった。」
国王が。
静かに。
頷く。
「好きにやれ。」
「ありがとうございます。」
「……いや。」
国王が。
すぐに。
言い直す。
「やはり。」
「好きにはやるな。」
「?」
「その顔をするな!」
「では。」
「節度を持って。」
「そうしろ。」
「アルベルトさんの件も。」
「節度を持って。」
「進めますね。」
「待て。」
「うふふ。」
「アリシア!」
部屋を出ていく。
アリシア。
残された。
三人。
「……。」
レオンが。
閉じた扉を。
見つめる。
「父上。」
「何だ。」
「本当に。」
「大丈夫なんでしょうね。」
「……。」
国王が。
しばらく。
黙る。
そして。
深く。
深く。
ため息をついた。
「儂が聞きたい。」
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
王都。
とある貴族の屋敷。
一通の。
王家の紋章が入った書状が。
届けられた。
宛名。
アルベルト。
その内容を。
読み終えた少年は。
「……。」
震える手で。
紙を。
机へ置いた。
『学院への復帰を。』
『心より。』
『お待ちしております。』
『アリシア・ミラーク』
「……。」
一見すれば。
丁寧な。
復学の誘い。
だが。
その下。
小さく。
もう一文。
『なお。』
『辞退なさる場合は。』
『貴族としての今後について。』
『お父上と王家で。』
『お話し合いをさせていただきますね。』
「……。」
アルベルトの。
顔が。
引きつる。
さらに。
最後。
『うふふ。』
「…………。」
何故。
書状で。
笑っているのか。
分からない。
だが。
一つだけ。
分かった。
「……行くしか。」
「ないじゃないか……。」
アルベルトの。
長い。
長い。
引きこもり生活が。
終わろうとしていた。
本人の意思とは。
あまり。
関係のないところで。
◇ ◇ ◇




