その名はアリシア
◇ ◇ ◇
「……舐めないでくださいませ!!」
セレスティアが。
杖を振り上げた。
「《ライトニング・ジャベリン》!!」
バチィィィィィッ!!
巨大な雷槍。
一直線。
アリシアへ。
「……。」
アリシアは。
避けない。
杖を。
ほんの僅かに。
持ち上げる。
「消えなさい。」
パァン。
「……え?」
消えた。
雷槍が。
跡形もなく。
「な……。」
セレスティアの顔が。
固まる。
「何を……。」
「遅いですね。」
「――っ!?」
足元。
光。
「いつの間に――」
次の瞬間。
ドォン!!
「きゃあっ!!」
セレスティアの身体が。
地面へ。
叩きつけられる。
「ぐっ……!」
動こうとする。
動けない。
「な……。」
「何ですの、これは……!」
「拘束魔法です。」
アリシアが。
ゆっくりと。
歩いてくる。
笑顔。
「それくらいは。」
「お分かりになるでしょう?」
「くっ……!」
セレスティアが。
魔力を込める。
「《フレイム――》」
「遅い。」
パァン!!
「っ!?」
魔法が。
発動する前に。
消える。
「……。」
セレスティアの顔から。
血の気が引く。
詠唱すら。
させてもらえない。
「どうしました?」
アリシアが。
首を傾げる。
「先ほどまで。」
「あれほど楽しそうに。」
「戦っておられたではありませんか。」
「……っ。」
「さあ。」
アリシアが。
杖を向ける。
「立ちなさい。」
拘束。
消える。
「……!」
セレスティアが。
咄嗟に。
後ろへ下がる。
「私はまだ。」
アリシアが。
微笑む。
「何もしていませんよ?」
「……。」
セレスティアの手が。
震える。
それでも。
「わ……私は……!」
杖を。
構える。
「負けませんわ!!」
魔力。
集める。
だが。
「そうですか。」
アリシアが。
一度だけ。
杖を振った。
「では。」
魔法陣。
一つ。
セレスティアの頭上。
「終わりにしましょう。」
「――え?」
光。
落ちる。
ドォォォォォン!!!
「きゃああああっ!!」
ブゥゥゥン!!
保護術式。
激しく輝く。
セレスティアの身体が。
吹き飛ぶ。
ドン!!
「……。」
静寂。
誰も。
声を出せない。
アリシアは。
倒れたセレスティアを。
静かに見下ろす。
「覚えておきなさい。」
笑顔は。
もうない。
「次はありません。」
「……。」
「私の友人に。」
一拍。
「二度と。」
「同じことをしないように。」
「……。」
返事はない。
アリシアが。
杖を下ろす。
膨大だった魔力が。
消えていく。
静寂。
誰もが。
アリシアを見ていた。
この国の王女。
そして。
この国最強の魔術師。
その力を。
ほんの僅かに。
目の当たりにして――
「……。」
アリシアが。
振り返る。
倒れている。
三人。
リナ。
ミア。
そして。
ヒルメ。
「……。」
ヒルメを。
見る。
「…………。」
数秒。
「ヒルメ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「!?」
空気が。
全部。
吹き飛んだ。
アリシアが。
走る。
「ヒルメ様!!」
「ヒルメ様ぁ!!」
「……アリ……シア……?」
「喋ってはいけません!!」
ヒルメの横へ。
膝をつく。
「誰か!!」
「医務室へ!!」
教師たちが。
我に返る。
「担架を!」
「早くなさい!!」
「は、はい!」
「丁重に!!」
「……え?」
「ヒルメ様のお身体ですよ!?」
「は、はい!!」
「揺らしてはいけません!」
「絶対にです!」
「細心の注意を払って!」
「丁重にお運びなさい!!」
「アリシア……。」
「はい!!」
「……うるさい。」
「申し訳ございません!!」
即答。
「……。」
少し離れた場所。
ミアが。
倒れたまま。
「……私も。」
「いるんだけど……。」
「もちろんです!」
アリシアが。
振り向く。
「ミアさんも!」
「リナさんも!」
「すぐに医務室へ!!」
そして。
また。
ヒルメを見る。
「ですがヒルメ様は特に丁重に!!」
「やっぱり……。」
「扱い違うじゃん……。」
ミアの。
弱々しい突っ込み。
その横。
リナは。
完全に。
気を失っている。
「急いでください!」
「ですが走ってはいけません!」
「ヒルメ様が揺れます!」
「殿下。」
教師が。
困った顔をする。
「急ぐのと揺らさないのを両方は――」
「両立なさい!!」
「はい!!」
つい先ほど。
この国最強の魔術師として。
コロシアム全体を。
震え上がらせた王女は。
もう。
どこにもいなかった。
そこにいるのは。
いつもの。
ヒルメ様第一。
アリシアだった。
◇ ◇ ◇
クラス対抗戦は。
思わぬ形で。
幕を閉じることとなった。
ヒルメ。
リナ。
ミア。
三人は。
全員が戦闘不能。
そして。
セレスティアも。
アリシアとの戦闘によって。
試合続行不可能。
結果。
両チームとも。
次の試合を。
棄権することとなった。
『両チーム棄権により――』
教師の声が。
コロシアムへ響く。
『決勝戦は不戦勝!』
『今年度クラス対抗戦――優勝!』
『アリシア組!!』
ワァァァァァァァァ!!
大歓声。
拍手。
祝福。
アリシアたちの。
優勝。
こうして。
波乱続きとなった。
今年のクラス対抗戦は。
幕を閉じた。
もっとも。
その優勝者本人は。
表彰を終えるなり。
ずっと。
ある場所を。
気にしていたのだが。
◇ ◇ ◇
学院。
特別医務室。
そこは。
普段。
生徒たちが利用する医務室とは。
まるで違っていた。
大きな窓。
高そうな家具。
柔らかな絨毯。
そして。
広い部屋に。
並べられた。
三つの大きなベッド。
王族や。
学院を訪れた要人が。
万が一。
体調を崩した際に使用する。
特別な医務室。
そのベッドに。
ヒルメ。
リナ。
ミア。
三人が。
並んで寝かされていた。
「……。」
ミアが。
天井を見る。
「ここ……。」
「本当に医務室?」
「……知らないわよ。」
隣。
リナも。
布団に入ったまま。
部屋を見回す。
「私の部屋より。」
「ずっと豪華なんだけど……。」
「ベッド。」
「すごくふかふか。」
「……。」
ミアが。
ヒルメを見る。
「そこ?」
「うん。」
「ヒルメは。」
「いつでもヒルメね……。」
「?」
少し離れた場所。
椅子に座っていた。
エルドが。
ため息をつく。
「それだけ喋れれば。」
「三人とも。」
「ひとまず問題なさそうだな。」
「エルド先生。」
「まったく。」
エルドが。
リナを見る。
「特にお前だ。」
「……。」
リナが。
視線を逸らす。
「何よ。」
「何よではない。」
「覚醒したばかりの固有魔法を。」
「あれだけ立て続けに使う奴があるか。」
「……仕方ないじゃない。」
「身体が追いついておらんのだ。」
「分かってる。」
「分かっておらんから。」
「ああなったのだろうが。」
「……。」
リナが。
布団へ。
少し潜る。
「でも……。」
小さな声。
「勝ったし。」
「それで倒れていれば。」
「世話はないわ。」
「うるさい。」
「先生にうるさいって言った。」
ミアが。
笑う。
「ミアも怒られたいか?」
「ごめんなさい。」
即答。
ヒルメが。
くすくす笑う。
「……。」
そんな三人を。
エルドが。
少しだけ。
穏やかな顔で見ていた。
その時。
ミアが。
何かを思い出したように。
口を開く。
「ねえ。」
「何だ?」
「アリシアって。」
「……。」
一拍。
「何者なの?」
「……王女だが?」
「それは知ってるよ!」
ミアが。
身体を起こそうとして。
「痛っ。」
「寝ておれ。」
「はい……。」
再び。
横になる。
「そうじゃなくて。」
ミアが。
天井を見ながら。
続ける。
「強すぎない?」
「……。」
リナも。
黙って。
エルドを見る。
ヒルメも。
思い出す。
あの時。
アリシアが。
魔力を解放しただけで。
コロシアム全体が。
震えた。
セレスティアの魔法を。
簡単に消し。
何もさせず。
圧倒した。
「すごかった。」
ヒルメが。
呟く。
「セレスティア。」
「何もできなかった。」
「……そうだな。」
エルドが。
小さく笑う。
「あれが。」
「アリシアだ。」
「……?」
「この国で。」
「最も優れた魔術師。」
「アリシアは。」
エルドが。
椅子へ。
深く腰掛ける。
「幼い頃から。」
「魔法の天才だった。」
◇ ◇ ◇
「儂は。」
エルドが。
少し。
懐かしそうに。
目を細める。
「あの子が。」
「赤ん坊の頃から。」
「知っておる。」
「赤ちゃんの頃から?」
ヒルメが。
聞く。
「ああ。」
「王家との付き合いが。」
「長くてな。」
そして。
アリシアが。
魔法を学び始めた頃から。
エルドも。
その成長を。
ずっと。
見てきた。
「一つ教えれば。」
「十を理解する。」
「一度見せた魔法を。」
「次には。」
「自分のものにしておる。」
「……。」
「新しい術式を教えれば。」
「その術式を。」
「自分で改良して持ってくる。」
ミアが。
瞬きをする。
「それ。」
「先生いらなくない?」
「……。」
エルドが。
少し。
遠い目をする。
「そうなのだ。」
「え。」
「最初のうちは。」
「儂も師として。」
「色々と教えておった。」
「だが。」
ため息。
「すぐに。」
「教えることがなくなった。」
「……。」
「気付いた時には。」
「儂すら。」
「追い抜かれておったよ。」
「エルド先生より!?」
ミアが。
驚く。
「ああ。」
エルドは。
あっさり。
認める。
「悔しくないの?」
ヒルメが。
聞く。
「少しはな。」
「少しなんだ。」
「相手が悪い。」
エルドが。
苦笑する。
「アリシアは。」
「天才だ。」
「それも。」
「儂が知る限り。」
「最も魔法に愛された天才だ。」
「……。」
「だからこそ。」
エルドの表情が。
少し。
曇る。
「あの子は。」
「孤独だった。」
「……え?」
ヒルメが。
エルドを見る。
「王女という立場。」
「そして。」
「誰もが認める。」
「圧倒的な魔法の才能。」
幼いアリシアの周りには。
いつも。
人がいた。
王族。
貴族。
家臣。
教師。
使用人。
同年代の子供。
それでも。
「友人と呼べる者は。」
「一人もおらんかった。」
「……。」
ミアの。
表情が変わる。
「近付いてくる者は。」
「皆。」
「王女殿下に近付いていた。」
「アリシアではない。」
「……。」
「同年代の子供でさえ。」
「親から。」
「王女殿下に失礼のないようにと。」
「言い聞かされてから。」
「あの子の前へ来る。」
「……それ。」
「友達じゃないね。」
ミアが。
小さく言う。
「ああ。」
「アリシアも。」
「それくらい。」
「分かっておった。」
「……。」
「だが。」
「それでも昔は。」
「今より明るい子だった。」
魔法が。
大好きだった。
新しい魔法を。
覚えるたび。
嬉しそうに。
エルドへ。
見せに来た。
自分の才能を。
誇りに思っていた。
そして。
いつしか。
誰もが。
彼女を。
この国で最も優れた魔術師と。
呼ぶようになった。
「だが。」
エルドの声が。
低くなる。
「病にかかった。」
「……。」
ヒルメが。
僅かに。
目を見開く。
「あの病気?」
「ああ。」
エルドが。
頷く。
「お前が。」
「治した。」
「あの病だ。」
「……。」
アリシアは。
自分で。
治そうとした。
当然だった。
この国で。
誰よりも。
魔法に精通している。
治癒魔法も。
数え切れないほど。
知っている。
何度も。
何度も。
自分へ。
魔法を使った。
それでも。
治らない。
王宮の魔術師。
医師。
そして。
エルド。
誰にも。
治せなかった。
「……。」
エルドが。
目を伏せる。
「ある時。」
「あの子が。」
「儂に言った。」
『何が。』
『この国で一番の魔術師ですか。』
『自分の病すら。』
『治せないではありませんか。』
「……。」
ヒルメが。
布団を。
握る。
「それからだ。」
「アリシアが。」
「変わっていったのは。」
次第に。
笑わなくなった。
人と。
話さなくなった。
元々。
心から。
友人と呼べる者もいない。
そこへ。
自分の魔法への。
自信まで。
失った。
「見ておってな。」
エルドが。
静かに。
言う。
「不憫でならなかった。」
「……。」
「赤ん坊の頃から。」
「見てきた子だ。」
「魔法を覚えて。」
「嬉しそうに笑っていた子が。」
「自分の魔法を。」
「否定するようになっていく。」
「だが。」
拳。
僅かに。
握る。
「儂には。」
「どうしてやることも。」
「できんかった。」
「……。」
しばらく。
誰も。
何も言わなかった。
そして。
エルドが。
ヒルメを見る。
「そこへ。」
一拍。
「お前が現れた。」
「……私?」
「ああ。」
エルドが。
頷く。
「アリシアにも。」
「王宮の魔術師にも。」
「儂にも。」
「治せなかった病を。」
「お前は。」
ヒルメを。
真っ直ぐ見る。
「《サンクチュアリ》で。」
「治してしまった。」
「……。」
ヒルメが。
瞬きをする。
「アリシアにとって。」
「あれは。」
「ただ命を救われた。」
「というだけではない。」
「……?」
「自分が。」
「どれだけ魔法を学んでも。」
「辿り着けなかった魔法。」
「この国で。」
「最も優れた魔術師と呼ばれる。」
「自分ですら。」
「知らなかった魔法。」
「それを。」
「お前が使った。」
「……。」
「だから。」
「アリシアは。」
「お前に感謝している。」
「命を。」
「救ってくれたことを。」
「そして。」
エルドが。
少し。
笑う。
「尊敬しておる。」
「自分の知らない魔法を。」
「見せてくれた。」
「一人の魔術師としてな。」
「……。」
ヒルメが。
少し。
照れたように。
布団へ。
顔を隠す。
「でも。」
「私。」
「そんな大したこと……。」
「それだけではない。」
「え?」
「お前は。」
「何も求めなかった。」
「……?」
ヒルメが。
また。
顔を出す。
「何か。」
「欲しかったの?」
「逆だ。」
エルドが。
呆れたように。
笑う。
「王女の命を。」
「救ったのだぞ。」
「普通なら。」
「褒美を求める。」
「金。」
「地位。」
「土地。」
「望めば。」
「王家は。」
「相応の褒美を。」
「与えただろう。」
「……。」
ヒルメが。
少し。
考える。
そして。
「いらない。」
「だろうな。」
リナが。
横から。
呟く。
「ヒルメだし。」
「うん。」
ミアも。
頷く。
「ヒルメだもん。」
「何それ。」
「褒めてる。」
「そう?」
「たぶん。」
「たぶん?」
エルドが。
笑う。
「アリシアも。」
「同じようなことを。」
「聞いたのだろう。」
「何が欲しいのか。」
「何を望むのか。」
「……。」
「だが。」
「ヒルメは。」
「何も望まなかった。」
ヒルメが。
不思議そうに。
首を傾げる。
「だって。」
「苦しそうだったから。」
「助けただけだよ?」
「……。」
エルドが。
しばらく。
ヒルメを見る。
「そういうところだろうな。」
「?」
「アリシアが。」
「お前を。」
「あれほど慕うのは。」
「……。」
ミアが。
にやり。
「ヒルメ様ぁ。」
「やめて。」
「ヒルメ様ぁぁ。」
「ミア。」
「はい。」
リナが。
少しだけ。
笑う。
「でも。」
ミアが。
今度は。
自分を指差す。
「私たちは?」
「ん?」
「アリシア。」
「私とリナのことも。」
「友人って言ってたよね。」
「……ああ。」
エルドが。
ミア。
そして。
リナを見る。
「お前たちは。」
一拍。
「アリシアを。」
「王女として扱わんからな。」
「……。」
ミア。
考える。
「うん。」
リナも。
「扱ってないわね。」
「少しは扱え。」
「嫌。」
「即答するな。」
「だって。」
「アリシアはアリシアでしょ?」
ミアが。
当たり前のように。
言う。
「王女だからって。」
「急に話し方変えるのも。」
「変じゃない?」
「私も無理。」
リナが。
続ける。
「今さら。」
「殿下とか言えって言われても。」
「気持ち悪い。」
「お前たちな……。」
エルドが。
呆れる。
だが。
すぐに。
笑った。
「それで。」
「いいのだろう。」
「……。」
「アリシアにとっては。」
「それこそが。」
「何より嬉しいはずだ。」
王女としてではない。
この国最強の魔術師としてでもない。
ただ。
アリシアとして。
笑う。
話す。
時には。
からかう。
遠慮もしない。
「お前たちは。」
エルドが。
三人を見る。
「アリシアにとって。」
「ようやくできた。」
「大切な。」
一拍。
「本当に。」
「大事な友人なのだろう。」
「……。」
三人が。
静かになる。
「儂も。」
エルドが。
続ける。
「あそこまで。」
「怒ったアリシアを。」
「初めて見た。」
「……そんなに?」
ミアが。
聞く。
「ああ。」
「赤ん坊の頃から。」
「見てきた儂が。」
「初めてだ。」
「……。」
「お前たちが。」
「傷付けられたことが。」
「余程。」
「許せなかったのだろう。」
エルドが。
ヒルメ。
ミア。
リナ。
一人ずつ。
見る。
そして。
少し。
優しい声で。
言った。
「だから。」
「これからも。」
「仲良くしてやってくれ。」
「……。」
「王女殿下と。」
「仲良くしろと言っているのではない。」
「アリシアと。」
「友人でいてやってくれ。」
「……うん。」
ヒルメが。
笑う。
「もちろん。」
「私も。」
ミアも。
笑う。
「今さら。」
「友達やめる理由ないし。」
「……私も。」
リナが。
少しだけ。
恥ずかしそうに。
顔を逸らす。
「別に。」
「王女だから友達になったわけじゃないし。」
「……そうか。」
エルドが。
目を細める。
「それを聞けば。」
「あの子も――」
バァァァン!!
「!?」
突然。
扉が。
勢いよく。
開いた。
「ヒルメ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「……。」
全員。
固まる。
入口。
アリシア。
豪華な。
ドレス。
髪も。
綺麗に。
整えられている。
優勝者として。
祝賀会へ出席していた。
その姿。
なのだが。
「はぁ……!」
「はぁ……!」
息。
切れている。
どう見ても。
走ってきた。
「アリシア?」
「ヒルメ様!!」
一直線。
走る。
「ヒルメ様ぁ!!」
「わっ。」
ベッドの横へ。
膝をつく。
「お身体は!?」
「痛むところは!?」
「気分は悪くありませんか!?」
「眩暈は!?」
「吐き気は!?」
「お水は!?」
「寒くありませんか!?」
「暑くありませんか!?」
「アリシア。」
「はい!!」
「一回。」
「落ち着いて。」
「無理です!!」
「え。」
「ヒルメ様が!」
「このようなお姿なのですよ!?」
「……元気だよ?」
「元気な方は!」
「ベッドで寝ておりません!!」
「それはそうかも。」
「でしょう!?」
「……。」
エルドが。
その様子を。
ぽかんと。
見ている。
そして。
ふと。
アリシアの服装を見る。
「……待て。」
「何です?」
「お主。」
「今は。」
一拍。
「優勝の祝賀会の最中では!?」
「……。」
アリシアが。
エルドを見る。
きょとん。
そして。
「は?」
「……。」
エルドの眉が。
動く。
「は?」
「何を仰っているのです?」
「いや。」
「だから!」
「祝賀会だ!」
「お主が主役だろうが!」
「それが何か?」
「それが何かではない!」
「途中で抜け出してきたのか!?」
「はい。」
「はいではない!!」
「戻れ!」
「嫌です。」
「即答するな!」
「そもそも。」
アリシアが。
少し。
眉を寄せる。
「あのような。」
「意味のないパーティーなどより。」
「意味がない!?」
「ヒルメ様のお身体の方が。」
ヒルメの手を。
そっと。
両手で包む。
「遥かに。」
「大事に決まっているではありませんか。」
「……。」
エルドが。
固まる。
「いや。」
「お主の優勝を祝うために。」
「王族や貴族まで――」
「知りません。」
「知りません!?」
「優勝したことなど。」
「もう皆様。」
「ご存じでしょう?」
「そういう問題ではない!」
「では。」
「どういう問題です?」
「お主が主役なのだ!」
「主役だから何です?」
「祝ってもらえ!」
「もう祝われました。」
「まだ始まったばかりだろうが!」
「十分です。」
「十分ではない!」
「十分です。」
「戻れ!」
「嫌です。」
「アリシア!!」
「エルド。」
アリシアが。
真顔になる。
「はい。」
「……。」
エルドが。
反射的に。
返事をしてしまう。
「私は。」
アリシアが。
ヒルメを見る。
「今。」
「ヒルメ様のお側に。」
「いたいのです。」
「……。」
「それに。」
視線。
ミア。
リナ。
「ミアさんも。」
「リナさんも。」
少し。
表情が。
柔らかくなる。
「大切な。」
「私の友人です。」
「……。」
三人が。
アリシアを見る。
「三人が。」
「こんな状態なのに。」
「私だけ。」
「笑ってパーティーなど。」
「できるわけがないでしょう。」
「……。」
静かになる。
先ほどまで。
エルドから。
聞いていた。
アリシアの。
過去。
友人と呼べる者が。
いなかった少女。
その少女が。
今。
当たり前のように。
自分たちを。
友人と。
呼んでいる。
「……。」
ミアが。
少し。
笑う。
リナも。
口元を。
僅かに。
緩める。
ヒルメも。
アリシアの手を。
握り返す。
「アリシア。」
「はい!」
「ありがとう。」
「……。」
アリシアが。
一瞬。
固まる。
そして。
「ヒルメ様ぁ……。」
目。
潤む。
「わっ。」
「本当に!」
「ご無事でよかったです!!」
「ちょっ。」
「アリシア。」
「痛い痛い。」
「はっ!!」
即座に。
離れる。
「申し訳ございません!!」
「大丈夫。」
「医師を呼びます!!」
「いるから。」
エルドが。
言う。
「では治癒術師を!!」
「もう診てもらった。」
「ではもっと優秀な治癒術師を!!」
「落ち着け!」
「ヒルメ様のことですよ!?」
「落ち着いてなどいられません!!」
「さっきまで。」
「国一番の魔術師として。」
「あれだけ格好良く決めておった奴が……。」
エルドが。
頭を抱える。
「……。」
ミアが。
リナを見る。
「ねえ。」
「何?」
「さっきの話。」
「本当に同じ人?」
「……。」
リナが。
アリシアを見る。
「たぶん。」
「たぶんなんだ。」
その時。
アリシアが。
突然。
立ち上がる。
「そうです!」
「何?」
「お食事!」
「え?」
「三人とも。」
「お腹が空いているのでは!?」
「まあ……。」
「すぐに用意させます!」
「普通のでいいよ?」
ヒルメが。
言う。
「もちろんです!」
アリシアが。
満面の笑顔。
「王宮から最高の料理人を呼びます!」
「普通って言ったよ!?」
「ヒルメ様に普通などあり得ません!!」
「何で!?」
「アリシア!」
「何ですかエルド!」
「祝賀会へ戻れ!!」
「嫌です!!」
「戻れぇぇぇ!!」
「絶対に嫌です!!」
豪華な。
特別医務室。
その中に。
二人の声が。
いつまでも。
響いていた。
「……。」
ミアが。
笑う。
「いつものアリシアだ。」
「そうね。」
リナも。
笑う。
ヒルメも。
嬉しそうに。
頷いた。
「うん。」
「いつものアリシア。」




