この国最強の魔術師
◇ ◇ ◇
黒い炎が。
コロシアムを照らしていた。
ゴォォォォォォ……。
「……。」
誰も。
声を出せない。
赤でもない。
青でもない。
漆黒。
リナの周囲で。
今まで誰も見たことのない炎が。
静かに。
燃えている。
「……何ですの。」
セレスティアが。
僅かに眉を寄せた。
「その魔法は。」
「……。」
リナは。
答えなかった。
答えられなかった。
自分にも。
分からない。
ただ。
怒り。
悲しみ。
悔しさ。
全部が。
胸の奥で。
混ざっている。
「……。」
頬を。
涙が伝う。
その後ろ。
ヒルメ。
ミア。
二人は。
倒れたまま。
動かない。
自分を。
守って。
自分なんかのために。
「……。」
リナが。
杖を握り締める。
「絶対に……。」
黒炎が。
揺れた。
「許さない。」
「……そうですの。」
セレスティアが。
杖を構える。
「ならば。」
「その力で。」
「私を倒してみなさい。」
「……。」
リナが。
顔を上げた。
その瞬間。
「……え?」
頭の中に。
何かが。
流れ込んできた。
言葉。
知らない言葉。
詠唱。
聞いたことがない。
習ったこともない。
なのに。
分かる。
どう魔力を動かすのか。
どこへ集めるのか。
どう放つのか。
最初から。
知っていたかのように。
「……何よ。」
リナが。
小さく呟く。
杖先。
黒炎が。
集まっていく。
そして。
自然と。
口が動いた。
「黒き炎よ――」
「……!」
セレスティアの目が。
細くなる。
「我が怒りを喰らい――」
「眼前の敵を焼き尽くせ――」
黒炎が。
一気に。
膨れ上がる。
「《ブラック・フレア》!!」
ゴォォォォォォッ!!
巨大な黒炎。
一直線。
セレスティアへ。
「《アクア・ウォール》!」
ザァァァン!!
巨大な水壁。
激突。
ジュワァァァァァァ!!
「……っ!?」
水壁が。
黒炎に触れた場所から。
次々と。
蒸発していく。
一枚。
突破。
「《アクア・ウォール》!!」
二枚目。
ザァァァン!!
黒炎。
激突。
ジュワァァァァァ!!
ようやく。
消える。
「……。」
セレスティアが。
僅かに。
後ろへ下がる。
「……。」
リナも。
自分の杖を見ていた。
今の魔法。
知らない。
それなのに。
使えた。
「……何なのよ。」
「これ……。」
「よそ見をする余裕が。」
セレスティア。
杖。
「ありまして?」
「!」
「《ライトニング・ボルト》!」
バチィィィッ!!
「っ!」
リナが。
横へ飛ぶ。
ドォン!!
雷。
石床を撃つ。
着地。
その瞬間。
「《アイス・ランス》!」
氷槍。
五本。
「っ!」
リナ。
一本。
避ける。
二本。
避ける。
三本目。
肩を掠める。
ブゥン!!
保護術式。
「くっ……!」
四本目。
五本目。
迫る。
その瞬間。
また。
頭の中へ。
言葉。
流れ込む。
――闇よ。
――我が意志に従い。
――敵を穿つ槍となれ。
「……!」
知らない。
でも。
分かる。
「闇よ――」
「我が意志に従い――」
「敵を穿つ槍となれ――」
杖先。
黒い魔力。
一本。
二本。
三本。
四本。
五本。
鋭い槍へ。
「《ダーク・ランス》!!」
シュババババッ!!
黒槍。
氷槍。
真正面。
ガガガガガン!!
氷が。
砕け散る。
「……!」
セレスティアの目が。
見開かれた。
「……。」
リナも。
驚いている。
「また……。」
頭の中。
まだ。
何かがある。
知らない言葉。
知らない魔法。
必要になるたび。
自然と。
浮かんでくる。
「……。」
リナが。
杖を握り直した。
「何だか知らないけど……。」
黒炎。
揺れる。
「使えるなら。」
セレスティアを。
睨む。
「全部使ってやる。」
◇ ◇ ◇
「随分と。」
「調子に乗っていますのね。」
セレスティアの声が。
低くなる。
「《アース・バレット》!」
ドドドドドッ!!
岩弾。
速い。
「っ!」
リナ。
走る。
一発。
避ける。
二発。
身体を捻る。
三発目。
「くっ!」
脇腹。
直撃。
ブゥン!!
保護術式。
身体が。
横へ飛ぶ。
ドン!!
「……っ。」
転がる。
だが。
すぐに。
杖をつく。
立つ。
「……。」
セレスティアが。
その姿を見る。
「力が変わったところで。」
「あなた自身まで。」
「強くなったわけではありませんわ。」
「……分かってる。」
リナが。
息を吐く。
「あなたが。」
「私より強いことくらい。」
「なら――」
「でも。」
リナが。
遮る。
「関係ない。」
「……。」
「今は。」
杖。
構える。
「あなたを。」
「ぶっ飛ばしたいだけ。」
「……。」
セレスティアの眉が。
ぴくりと動く。
「《ライトニング・ボルト》!」
雷。
「っ!」
リナ。
避ける。
その先。
「《アース・スパイク》!」
地面。
ゴゴゴゴッ!!
「!」
岩槍。
足元から。
避けられない。
その瞬間。
また。
頭へ。
言葉。
――影よ。
――我が身を覆い。
――災いを拒め。
「影よ――!」
リナが。
咄嗟に。
杖を。
地面へ。
「我が身を覆い――」
「災いを拒め――」
黒い魔力。
広がる。
「《シャドウ・ヴェール》!!」
ブワッ!!
リナの前。
黒い幕。
岩槍。
激突。
ドドドドン!!
「くっ……!」
全部は。
防げない。
一部。
突破。
「っ!」
肩。
脚。
保護術式。
光る。
それでも。
致命的な一撃は。
防いだ。
「防御まで……。」
セレスティアが。
呟く。
「……。」
リナが。
黒い幕を見る。
「こんなのまで……。」
だが。
その瞬間。
視界が。
ぐらりと揺れた。
「……っ。」
一歩。
ふらつく。
身体が。
重い。
魔法を使うたび。
身体の奥から。
何かを。
ごっそり。
持っていかれる。
「……。」
それでも。
リナは。
杖を構えた。
◇ ◇ ◇
「《ライトニング・ボルト》!」
「《シャドウ・ヴェール》!」
バチィィィッ!!
黒幕。
雷。
「《アイス・ランス》!」
「《ダーク・ランス》!!」
ガガガガガン!!
氷。
闇。
砕ける。
「《アクア・ショット》!」
「っ!」
水弾。
リナの肩。
直撃。
「ぐっ!」
ブゥン!!
「《アース・バレット》!」
「……っ!」
避ける。
避ける。
一発。
腹。
「がっ……!」
身体が。
折れる。
「……。」
それでも。
リナは。
倒れない。
「しつこいですわね。」
「そっちこそ……。」
リナが。
笑う。
「さっきまでより。」
「余裕ないんじゃない?」
「……。」
セレスティアの表情が。
消える。
「《ライトニング・ジャベリン》!」
バチィィィィッ!!
巨大な雷槍。
「……!」
リナ。
避けられない。
その瞬間。
頭。
また。
言葉。
――深淵より這い出る影よ。
――その身を縛り。
――我が敵の自由を奪え。
「……。」
リナの目が。
変わる。
「深淵より這い出る影よ――」
「?」
セレスティアが。
僅かに。
眉を寄せる。
「その身を縛り――」
「我が敵の自由を奪え――」
リナが。
杖を。
振り下ろす。
「《シャドウ・バインド》!!」
ズズズッ!!
「なっ!?」
セレスティアの。
足元。
影。
そこから。
黒い帯。
一気に。
伸びる。
脚。
腕。
「くっ!」
ほんの。
一瞬。
動きが。
止まる。
雷槍。
軌道。
逸れる。
バチィィィッ!!
リナの横。
通過。
「今!!」
杖。
向ける。
「《ブラック・フレア》!!」
ゴォォォォォォッ!!
「っ!」
セレスティア。
拘束。
引き千切る。
「《アクア・ウォール》!」
水壁。
ジュワァァァァ!!
突破。
「《アース・ウォール》!!」
岩壁。
ドォン!!
砕ける。
黒炎。
まだ。
残る。
「くっ――!」
セレスティアが。
身体を。
横へ。
ゴォッ!!
黒炎。
頬を。
掠める。
ブゥン!!
保護術式。
光る。
「……。」
静寂。
セレスティアが。
自分の頬へ。
触れる。
傷は。
ない。
だが。
保護術式が。
発動した。
リナの魔法が。
自分へ。
届いた。
「……。」
リナが。
肩で。
息をする。
「やっと……。」
笑う。
「当たった。」
「……。」
セレスティアの。
目が。
冷たくなる。
◇ ◇ ◇
教師席。
エルドは。
笑っていなかった。
「……。」
黒炎。
黒槍。
防御。
拘束。
次々と。
発現する。
固有魔法。
それ自体は。
問題ではない。
「……まずい。」
エルドが。
立ち上がる。
「先生?」
隣の教師が。
振り向く。
「リナを見ろ。」
「え?」
「魔法じゃない。」
「本人を見ろ。」
舞台。
リナ。
呼吸。
異常に速い。
手。
震えている。
足も。
僅かに。
ふらついている。
「覚醒したばかりの魔力を。」
「無理矢理使っている。」
「……。」
「身体が。」
「追いついていない。」
「それは……。」
「止めろ。」
エルドが。
審判を見る。
「試合を止めろ!」
「え?」
「今すぐだ!」
審判が。
舞台を見る。
「しかし。」
「両者ともまだ――」
「だから言ってるんだ!」
エルドの声が。
響く。
「リナの身体がもたない!」
「……!」
「試合を止めろ!!」
審判が。
杖を上げる。
「両者――!」
だが。
「《ライトニング・ボルト》!!」
「《ダーク・ランス》!!」
ドォォォン!!
魔法。
激突。
声が。
掻き消される。
「くそっ……!」
エルドが。
舞台を。
睨む。
二人は。
止まらない。
◇ ◇ ◇
「はぁ……。」
「はぁ……。」
リナの。
視界。
揺れる。
身体。
もう。
限界に近い。
対して。
セレスティア。
息は。
僅かに乱れているだけ。
やはり。
強い。
圧倒的に。
魔法の種類。
魔力量。
技術。
判断。
全部。
上。
覚醒しただけで。
埋まる差ではない。
「《アース・バレット》!」
ドドドドドッ!!
「っ!」
リナ。
避ける。
一発。
脚。
「くっ!」
体勢。
崩れる。
そこへ。
「《ライトニング・ボルト》!」
バチィィィッ!!
「がっ!!」
直撃。
ブゥン!!
身体。
吹き飛ぶ。
ドン!!
転がる。
止まる。
「……。」
数秒。
リナの指が。
動く。
「……まだ。」
杖。
握る。
「まだ……。」
立とうとする。
一度。
膝。
落ちる。
「……っ。」
もう一度。
立つ。
「何故ですの。」
セレスティアが。
リナを見る。
「もう。」
「立っていることすら。」
「できないでしょう?」
「……。」
「諦めなさい。」
「嫌。」
即答。
「……。」
リナが。
顔を上げる。
「二人は……。」
視線。
僅かに。
後ろ。
倒れた。
ヒルメ。
ミア。
「私のために。」
「最後まで立ってた。」
「……。」
「だったら。」
杖を。
構える。
「私だけ。」
「諦められるわけないでしょ。」
黒炎。
燃える。
「……。」
セレスティアの。
表情が。
歪む。
「なら。」
杖。
両手。
魔力。
一気に。
膨れ上がる。
「終わらせて差し上げますわ。」
◇ ◇ ◇
雷。
集まる。
バチ。
バチバチ。
バチバチバチッ!!
これまでとは。
違う。
巨大な。
魔力。
「……。」
リナが。
それを見る。
そして。
また。
頭の中。
言葉。
今までより。
長い。
重い。
聞くだけで。
身体の奥が。
震える。
――深き闇よ。
――我が怒り。
――我が悲しみ。
――我が願いを喰らい。
――全てを灼く業火となれ。
「……。」
分かる。
これ。
撃ったら。
もう。
立っていられない。
それでも。
「……いい。」
リナが。
杖を。
両手で握る。
セレスティア。
「天を駆ける雷よ――」
雷。
巨大化。
リナ。
「深き闇よ――」
黒炎。
渦。
「我が怒り――」
「我が意志に従い――」
「我が悲しみ――」
「全てを貫く神槍となれ――」
「我が願いを喰らい――」
二人。
同時。
杖を。
向ける。
「《ライトニング・ジャベリン》!!」
「全てを灼く業火となれ――」
黒炎。
爆発的に。
膨れ上がる。
「《アビス・フレア》!!」
ゴォォォォォォォォッ!!
バチィィィィィィィィッ!!
黒炎。
雷槍。
激突。
ドォォォォォォォォォォン!!!!
「ぐっ……!!」
リナの身体が。
押される。
一歩。
「……っ!」
二歩。
「この程度ですの!?」
セレスティア。
さらに。
魔力。
注ぐ。
雷。
膨れ上がる。
「くっ……!」
黒炎。
押される。
「リナ!!」
エルドの声。
「もうやめろ!!」
聞こえない。
「止めろ!!」
「試合を止めろ!!」
審判。
動こうとする。
だが。
凄まじい。
魔力の奔流。
近付けない。
「……っ。」
リナの。
膝。
落ちそうになる。
腕。
震える。
「まだ……。」
黒炎。
揺らぐ。
「まだ……!」
でも。
押される。
少しずつ。
雷が。
近付いてくる。
「……。」
リナの目から。
涙。
落ちる。
駄目なの?
ここまで。
なの?
二人が。
あんなになってまで。
守ってくれたのに。
「……っ。」
その時。
「……リナ。」
「……!」
後ろ。
小さな。
声。
ヒルメ。
倒れたまま。
動けない。
それでも。
「……いっけぇ……。」
「……。」
リナの。
目が。
見開かれる。
そして。
「……いけ……。」
もう一つ。
ミア。
同じ。
倒れたまま。
「……リナ……。」
掠れた。
声。
「……いっけぇ……。」
「……。」
リナの。
顔が。
歪む。
また。
涙。
「……ほんと。」
笑う。
泣きながら。
「馬鹿……。」
杖。
握る。
「二人とも……。」
一歩。
前。
「そんな状態で……。」
黒炎。
膨れ上がる。
「応援してんじゃ……。」
ゴォォォォォォォォォッ!!!
「なっ!?」
セレスティアの。
目が。
見開かれる。
雷。
止まる。
「……!」
そして。
僅かに。
押し返される。
「馬鹿な……!」
「私だって……。」
リナ。
一歩。
「二人に……。」
さらに。
一歩。
「格好悪いところ……。」
黒炎。
さらに。
巨大化。
「見せられないでしょぉぉぉぉ!!」
ゴォォォォォォォォォォッ!!!
「くっ……!」
セレスティアの。
足。
滑る。
「この……!」
魔力。
さらに。
注ぐ。
雷。
膨れ上がる。
だが。
止まらない。
黒炎。
少しずつ。
少しずつ。
雷を。
呑み込んでいく。
「そんな……。」
セレスティアの顔から。
余裕が。
完全に。
消える。
「私が……。」
一歩。
後ろ。
「この私が……!」
リナ。
涙。
飛ぶ。
「いっ――」
杖を。
振り抜く。
「けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
ドォォォォォォォォォォォン!!!!
黒炎が。
雷を。
完全に。
呑み込んだ。
「――っ!?」
セレスティアへ。
迫る。
「《アクア・ウォール》!!」
ザァァァン!!
一瞬。
蒸発。
「《アース・ウォール》!!」
ゴゴゴッ!!
ドォン!!
粉砕。
「なっ――」
黒炎。
直撃。
ドォォォォォォン!!!!
「きゃああああああっ!!」
セレスティアの身体が。
大きく。
吹き飛んだ。
ブゥゥゥゥン!!
保護術式。
激しく。
輝く。
ドン!!
石床。
転がる。
「……。」
静寂。
「はぁ……。」
「はぁ……。」
リナ。
杖に。
身体を預ける。
視界。
揺れる。
それでも。
倒れた。
セレスティアを。
見つめる。
「……。」
ほんの少し。
口元が。
緩む。
「や……。」
息。
続かない。
もう一度。
「や、やった……。」
そのまま。
力が。
抜けた。
「……っ。」
杖が。
手から。
滑り落ちる。
カラン――
リナの身体も。
その場へ。
崩れ落ちた。
ドサッ。
「……。」
ヒルメ。
ミア。
そして。
リナ。
三人とも。
舞台に。
倒れている。
◇ ◇ ◇
「……許さない。」
「……?」
低い声。
倒れていた。
セレスティア。
その指が。
動く。
「私が……。」
石床を。
掴む。
ゆっくり。
身体を。
起こす。
髪。
乱れ。
制服。
焦げ。
その顔から。
理性が。
消えかけている。
「私が……!」
杖を。
拾う。
「この私が……!!」
ドォン!!
魔力。
爆発。
「……!」
エルドの表情が。
変わった。
「セレスティア!」
聞かない。
セレスティアの目。
倒れた。
リナ。
ただ一人。
「許しませんわ……。」
杖先。
魔力。
集まる。
「絶対に……!」
「やめろ!!」
エルドが。
叫ぶ。
「もう試合は終わりだ!」
だが。
止まらない。
倒れている。
リナへ。
杖。
向ける。
「この私に……。」
魔力。
さらに。
膨れ上がる。
「傷を……。」
「――おやめなさい。」
静かな声。
「……!」
セレスティアの動きが。
止まる。
観客席。
アリシア。
立っている。
「……アリシア。」
「そこまでです。」
アリシアが。
微笑んでいる。
いつもの。
穏やかな笑顔。
「杖を。」
一拍。
「下ろしなさい。」
「……。」
セレスティアの。
口元が。
歪む。
「……嫌ですわ。」
「……。」
「これは。」
「私とこの女の問題です!」
再び。
杖。
リナへ。
「邪魔をなさらないでくださいませ!」
「……。」
アリシアは。
笑顔のまま。
黙っている。
「聞こえませんでしたか!?」
「関係ありませんわ!」
セレスティアが。
声を荒らげる。
「この女が!」
「私を――」
「よろしい。」
「……え?」
静かな声。
セレスティアが。
止まる。
アリシアが。
階段を。
一段。
下りる。
「そこまで。」
「仰るのでしたら。」
もう一段。
「私が。」
微笑む。
「お相手いたしましょう。」
「……何を。」
アリシアが。
舞台へ。
降りる。
「ちょうど。」
コツ。
靴音。
「私も。」
コツ。
「非常に。」
杖を。
取り出す。
「腹が立っておりますので。」
「……。」
セレスティアが。
アリシアを見る。
「殿下だからといって――」
次の瞬間。
ドン。
「――っ!?」
セレスティアの。
声が。
止まった。
ただ。
魔力。
アリシアが。
魔力を。
解放した。
それだけ。
なのに。
舞台が。
軋む。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
空気。
重い。
観客席。
誰一人。
声を出せない。
「……何。」
セレスティアの。
顔から。
怒りが。
消える。
「何ですの……。」
アリシアの髪が。
膨大な魔力に。
揺れている。
「アリシア!」
エルドが。
思わず。
声を上げる。
「魔力を抑えろ!」
「……。」
アリシアは。
聞いていない。
ただ。
笑っている。
セレスティアへ。
向かって。
「さあ。」
一歩。
「杖を構えなさい。」
「……。」
セレスティアの。
手が。
僅かに。
震える。
「何を……。」
「先ほどまで。」
アリシアが。
微笑む。
「ヒルメさんを。」
一歩。
「ミアさんを。」
さらに。
一歩。
「そして。」
視線。
倒れた。
リナ。
「リナさんを。」
魔力。
さらに。
強くなる。
「随分と。」
笑顔。
崩れない。
「いたぶっておられたではありませんか。」
「……っ。」
「ですから。」
アリシアが。
杖を。
構える。
「今度は。」
静かに。
「私が。」
セレスティアへ。
杖先を。
向ける。
「貴女に。」
「同じことを。」
笑う。
「して差し上げます。」
「……。」
「貴女が。」
魔力。
さらに。
膨れ上がる。
「三人にしていたように。」
「ゆっくりと。」
「丁寧に。」
「いたぶって差し上げましょう。」
「……!」
セレスティアが。
一歩。
後ろへ。
下がった。
「さあ。」
アリシアが。
笑顔のまま。
首を。
僅かに。
傾ける。
「早くなさい。」
「……。」
「先ほどまでの。」
美しい。
笑顔。
「威勢は。」
魔力。
コロシアム全体を。
震わせる。
「どうなさったのです?」
「……。」
誰も。
動けない。
誰もが。
知っている。
王女。
アリシア。
だが。
王族だから。
恐れられているのではない。
「……。」
セレスティアが。
唇を。
噛む。
アリシアは。
笑ったまま。
静かに。
告げた。
「私の友人を。」
一拍。
「いたぶった罪は。」
杖先。
眩い魔力。
集まる。
「万死に値します。」
「……!」
静寂。
この国の王女。
そして。
――この国最強の魔術師。
アリシア。
「さあ。」
笑顔。
そのまま。
「始めましょうか。」
セレスティアは。
杖を構えることすら。
躊躇していた。




