三人なら、戦える
◇ ◇ ◇
「私がお相手いたしますわ。」
セレスティアの声が。
静かに。
コロシアムへ響いた。
「……。」
ヒルメ。
リナ。
ミア。
三人が。
杖を構える。
三対一。
数だけなら。
圧倒的に有利。
だが。
誰一人。
そうは思っていなかった。
「……来る。」
リナが呟く。
次の瞬間。
セレスティアの姿が。
消えた。
「え――」
「右!!」
リナの声。
ヒルメが。
反射的に杖を振る。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!!
光壁。
その直後。
ドォン!!
「っ!?」
衝撃。
結界が。
大きく揺れる。
「何!?」
ヒルメが。
結界の向こうを見る。
炎。
巨大な火球が。
光壁へ叩きつけられていた。
「《ファイア・ボール》……?」
ミアが。
目を見開く。
同じ魔法。
リナも使う。
だが。
大きさも。
威力も。
まるで違う。
「まだですわ。」
「!」
セレスティア。
杖。
次。
「《アイス・ランス》。」
ヒュン!!
氷。
「ミア!」
「うん!」
横へ飛ぶ。
ガキィィン!!
さっきまで。
ミアが立っていた場所。
巨大な氷槍が。
石床へ突き刺さる。
「ちょっと……。」
ミアの顔から。
笑みが消える。
「速すぎない?」
「来るわよ!」
リナが叫ぶ。
「《ファイア・ボール》!」
炎。
セレスティアへ。
「遅いですわ。」
杖を。
軽く振る。
「《アクア・ショット》。」
バシュッ!!
水弾。
炎へ。
ジュワァァァッ!!
一瞬で。
消える。
「……!」
「リナ!」
ヒルメが叫ぶ。
白い蒸気。
その中。
何かが光る。
「《ライトニング・ボルト》。」
バチィィィッ!!
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!!
雷。
光壁。
激突。
バチバチバチッ!!
「くっ……!」
ヒルメの身体が。
僅かに押される。
「ヒルメ!」
「大丈夫!」
だが。
その瞬間。
「上!」
「え?」
セレスティアの声。
上空。
氷。
五本。
十本。
「《アイス・レイン》。」
「っ!」
降る。
「ヒルメ!」
「分かってる!」
杖を。
上。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァァン!!
大きな光壁。
三人の頭上。
ガガガガガガッ!!
氷。
次々と。
叩きつけられる。
「……っ!」
一枚。
耐える。
「すごい!」
ミアが。
思わず言う。
「ヒルメ!」
リナ。
「そのまま!」
「え?」
「守って!」
「うん!」
リナとミアが。
同時に飛び出した。
◇ ◇ ◇
「ミア!」
「右から行く!」
「私は左!」
二人。
左右。
セレスティアを挟む。
「炎よ――!」
リナ。
「《ファイア・ボール》!」
「《ウィンド・ランス》!」
同時。
炎。
風。
左右から。
「……。」
セレスティアは。
動かない。
「当たる!」
ミアが叫ぶ。
その瞬間。
「《アクア・ウォール》。」
ザァァァン!!
水壁。
炎を。
呑み込む。
「!」
さらに。
「《エア・バースト》。」
ドンッ!!
「きゃっ!」
ミアの風槍が。
弾け飛ぶ。
「嘘!?」
「ミア!」
「平気!」
着地。
だが。
セレスティアは。
すでに。
次の魔法を放っている。
「《アース・バレット》。」
ドドドドドッ!!
「うわっ!」
「ミア!」
ガン!
ガン!
ガン!
ヒルメ。
遠距離から。
ミアの前へ。
小さな光壁を。
次々と出す。
岩弾。
全て。
弾く。
「ありがとう!」
「うん!」
「リナ!」
ヒルメが叫ぶ。
「今!」
「分かってる!」
背後。
リナ。
「《ファイア・ボール》!」
ボンッ!!
至近距離。
「もらった!」
だが。
セレスティアが。
振り返る。
「何をですの?」
「……!」
「《アクア・シールド》。」
バシャァン!!
炎。
消える。
「そんな――」
「近いですわね。」
「!」
杖先。
リナへ。
「《ライトニング・ボルト》。」
バチィィッ!!
「リナ!!」
ガァン!!
光壁。
ギリギリ。
雷を防ぐ。
「……っ!」
リナが。
後ろへ跳ぶ。
「ヒルメ!」
「大丈夫!?」
「私は平気!」
「違う!」
リナが叫ぶ。
「あなた!」
「え?」
ヒルメの額。
汗。
「……。」
ヒルメが。
自分の額を触る。
「あ。」
「魔力。」
リナが。
セレスティアから目を離さず言う。
「さっき全力で撃ったでしょ。」
「……うん。」
「結界も出しすぎ。」
「でも。」
「まだ大丈夫。」
「今はね。」
リナが。
杖を握り直す。
「このままじゃ。」
「先にヒルメが尽きる。」
「……。」
ミアも。
ヒルメを見る。
「確かに。」
「どうする?」
「……。」
リナが。
セレスティアを見る。
一方。
セレスティア。
呼吸。
乱れていない。
魔力も。
まだ。
余裕がある。
「……化け物。」
リナが呟く。
「聞こえていますわよ。」
「聞こえるように言ったの。」
「まあ。」
セレスティアが。
薄く笑う。
「ですが。」
「少し意外でしたわ。」
「……何が?」
「あなた方です。」
杖を。
ゆっくり下ろす。
「一か月前なら。」
「もう終わっていましたわ。」
「……。」
「特に。」
視線。
ヒルメへ。
「あなた。」
「その結界。」
「以前より。」
「随分と厄介になりましたわね。」
「ありがとう。」
「褒めていませんわ。」
「え?」
「ヒルメ。」
リナが。
ため息をつく。
「今のは分かりなさい。」
「……。」
セレスティアの眉が。
僅かに動く。
「本当に。」
「腹立たしい方ですこと。」
「ごめん?」
「謝らないでくださる!?」
「ええ!?」
「ヒルメ!」
「はい!」
「集中!」
「はい!」
◇ ◇ ◇
セレスティアが。
杖を構える。
「では。」
「少し。」
「速度を上げますわ。」
「……え?」
ミアが。
嫌な顔をする。
「今まで本気じゃなかったの?」
「来る!」
リナ。
瞬間。
「《ライトニング・ボルト》。」
雷。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガン!!
「《アイス・ランス》。」
左。
ガン!!
「《アース・バレット》。」
右。
ガガガン!!
「《ファイア・ボール》。」
正面。
ドォン!!
「っ……!」
ヒルメ。
四方向。
次々と。
結界。
一枚。
二枚。
三枚。
四枚。
小さく。
薄く。
必要な瞬間だけ。
展開。
消す。
展開。
消す。
一か月。
繰り返した。
魔力操作。
それがなければ。
とっくに。
崩れていた。
「ヒルメすごい……!」
ミアが呟く。
「見てないで動く!」
「はい!」
二人。
飛び出す。
だが。
「……。」
セレスティアが。
僅かに笑う。
「やはり。」
「?」
その目。
ヒルメではない。
ミアでもない。
リナ。
「……。」
セレスティアは。
見ていた。
先ほどから。
指示を出しているのは。
誰か。
ヒルメの結界。
ミアの風。
二人の力を。
最も効率よく。
動かしている者。
「なるほど。」
「何?」
リナが。
足を止める。
「あなたですのね。」
「……。」
「この三人を。」
セレスティアが。
杖を向ける。
「動かしているのは。」
「……!」
リナの表情が。
変わる。
「ヒルメ!」
「うん!」
ガァン!!
リナの前。
光壁。
直後。
ドォン!!
炎。
「っ!」
「リナ、下がって!」
「分かってる!」
横へ。
「《アイス・ランス》。」
「!」
ガン!!
また。
ヒルメ。
防ぐ。
「《アース・バレット》。」
ガガガン!!
「くっ……!」
三枚目。
「《ライトニング・ボルト》。」
バチィィッ!!
「ヒルメ!」
「大丈夫!」
四枚目。
「……。」
リナが。
気付く。
全部。
自分。
「……私?」
「そうですわ。」
セレスティアが。
微笑む。
「まずは。」
「あなたから。」
「……。」
「随分と。」
「楽しそうでしたわね。」
「この一か月。」
「……何?」
「お友達ができて。」
「……。」
リナの顔から。
表情が消える。
「よかったですわね。」
「ずっと。」
「一人だったあなたに。」
「ようやく。」
「一緒にいてくださる方ができて。」
「……黙って。」
「ですが。」
セレスティアが。
笑う。
「勘違いなさらない方が。」
「よろしいのではなくて?」
「……。」
「少し一緒に戦った程度で。」
「本当のお友達になれたなどと――」
「黙れ!!」
炎。
ボォッ!!
リナの周囲。
魔力が。
一気に膨れ上がる。
「リナ!」
ヒルメが。
驚いて振り返る。
「……。」
リナ自身も。
気付いていない。
その炎。
ほんの一瞬。
ほんの僅か。
赤い炎の奥。
黒。
混じった。
「……?」
ヒルメの目が。
僅かに見開かれる。
今。
何か。
「リナ!」
「何!?」
「今――」
「後!」
「!」
セレスティア。
「《ライトニング・ボルト》。」
バチィィィッ!!
「っ!」
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!!
間一髪。
防ぐ。
「ヒルメ!」
「ごめん!」
「戦ってる最中!」
「うん!」
「……。」
ヒルメは。
もう一度。
リナを見る。
炎。
普通。
赤い。
「……。」
見間違い?
いや。
前にも。
見た。
修行中。
リナの魔法。
一瞬だけ。
混じった。
黒。
「……。」
ヒルメの胸に。
小さな違和感が残る。
だが。
考えている暇はない。
◇ ◇ ◇
「ミア!」
リナが叫ぶ。
「左!」
「うん!」
「ヒルメ!」
「右!」
「分かった!」
三人。
動く。
セレスティア。
中央。
「《ファイア・ボール》!」
リナ。
正面。
「《ウィンド・ランス》!」
ミア。
左。
そして。
ヒルメ。
右。
「《セイクリッド・レイ》!」
三方向。
「……!」
セレスティアの目が。
初めて。
僅かに見開かれる。
「《アクア・ウォール》!」
炎。
防ぐ。
「《エア・バースト》!」
風。
弾く。
だが。
光。
「っ!」
ヒルメの《セイクリッド・レイ》。
さっきほどではない。
全力ではない。
それでも。
速い。
セレスティアが。
身体を捻る。
シュン!!
光が。
頬を掠めた。
「……。」
一筋。
髪。
落ちる。
静寂。
「……当たった。」
ミアが。
呟く。
「違う。」
リナ。
「掠っただけ。」
それでも。
初めて。
セレスティアの顔から。
余裕が消えた。
「……。」
自分の頬へ。
指を当てる。
傷はない。
保護術式。
だが。
当てられた。
「……私に。」
セレスティアが。
小さく呟く。
「……。」
ヒルメが。
杖を構える。
「三人なら。」
「……?」
「戦える。」
「……。」
「一人じゃ無理でも。」
ヒルメが。
リナを見る。
ミアを見る。
「三人なら。」
「ちゃんと。」
「セレスティアとも戦えるよ。」
「……。」
ミアが。
笑う。
「うん。」
リナも。
一瞬。
目を丸くして。
それから。
笑った。
「当たり前でしょ。」
三人。
並ぶ。
「……。」
セレスティアが。
それを見る。
その顔から。
笑みが。
完全に消えた。
◇ ◇ ◇
「……不愉快ですわ。」
セレスティアの声が。
低くなる。
「え?」
ヒルメが首を傾げる。
「何が?」
「すべてです。」
杖。
握る。
「あなた方が。」
「楽しそうにしていることも。」
「互いを信頼していることも。」
「そして。」
視線。
リナ。
「あなたが。」
「そんな顔をしていることも。」
「……。」
リナが。
セレスティアを見る。
「何よ。」
「私が笑っちゃ悪い?」
「……ええ。」
セレスティアの周囲。
魔力。
先ほどより。
明らかに。
濃くなる。
「気に入りませんわ。」
「……来る。」
リナが。
小さく呟く。
「ヒルメ。」
「うん。」
「ミア。」
「うん。」
「ここから。」
リナが。
杖を構える。
「もっと来る。」
セレスティア。
杖先。
光。
集まる。
「では。」
「どこまで。」
「そのお友達ごっこが。」
「続くのか。」
冷たい笑み。
「試して差し上げますわ。」
「……。」
リナの目が。
鋭くなる。
「友達ごっこじゃない。」
「そうですの?」
「ええ。」
一歩。
前へ。
その横へ。
ヒルメ。
反対側。
ミア。
三人。
肩を並べる。
「だったら。」
リナが。
杖を向けた。
「自分で確かめなさい。」
セレスティアの魔力が。
弾けた。
◇ ◇ ◇
観客席。
アリシアは。
静かに。
その戦いを見つめていた。
「……。」
その表情から。
先ほどまでの笑みが。
消えている。
セレスティア。
明らかに。
攻撃が強くなっている。
そして。
狙い。
「……リナさん。」
アリシアが呟く。
その時。
隣。
教師席。
エルドも。
僅かに眉を寄せていた。
「……。」
視線は。
セレスティアではない。
リナ。
先ほど。
一瞬だけ。
炎に混じった。
黒。
「……まさかな。」
小さな声。
誰にも。
聞こえない。
舞台。
再び。
魔法が。
激突する。
三人は。
まだ。
立っている。
だが。
誰も。
まだ知らない。
この戦いが。
ここから。
さらに。
激しくなることを。
そして。
セレスティアが。
次に狙うものが。
勝利だけでは。
なくなり始めていることを――。




