泣き声の村
三人と一匹は森を抜け、一つの村にたどり着いた。
「わー!
初めて他の村に来たー」
「どうだ。
自分のいた村とは違うか?」
「んー……。
なんかもやもやする」
ヒルメは村の奥を見つめた。
「どうした?」
「誰か泣いてる……」
「泣いてる?」
「うん……。
聞こえる」
(聞こえる?
本当になにか聞こえるというのか)
「そうですね。
皆さん元気が無いように見えますね……」
「ワウ」
「ふむ。
宿を取るがてら、ちょっと聞いてみよう」
◇ ◇ ◇
「すまない。
宿を取りたいのだが」
「あら、いらっしゃい。
この村は初めてかしら?
何人かしら?」
「三人と一匹だ」
「あら、可愛らしい子ばかりね。
大丈夫よ。
泊まっていって」
「ありがとう。
ちょっと聞きたいのだが……。
村に人が少ないというか、みな体調が優れないのか?
女将さんも顔色が悪いぞ」
「最近ね、原因が不明でみな体調を崩して寝込む者や、亡くなった者までいるの」
「ふむ……。
謎の奇病か。
私たちは特に何も感じないが……」
「おばちゃん!
ちょっと良い?」
「どうしたんだい?」
ヒルメは宿屋の女将の肩にそっと手を置いた。
「うん……。
やっぱり」
「誰かがずっとしがみついてる」
(これはやっぱりフェネクスちゃんの時と同じだ)
「涙は地に還り……想いは空へ還る……」
「我が祈りを導とし……魂のあるべき場所へ導かん……」
《ソウル・アセンション》
「これからは永久にお休みなさい……」
「気づいてくれてありがとう」
「うん。
ゆっくり休んでね」
「はっ……。
あっ……。
体のだるさが一切無くなった!
お嬢ちゃんがやってくれたのかい!?」
「ありがとう!
ありがとうよ!
さぁ今日は腕によりをかけてご飯作るよ!
いっぱい食べなさいよ!」
「良かった。
元気になって」
「おいヒルメ。
これはどういう事だ」
「ご飯食べてから説明するよ~」
「ご飯ご飯♪」
「ワウ♪」
「うふふ。
ヒルメさんらしいですね」
「ふぅ……全く」
(やはりヒルメの力は異常だ)
(病を治したのではない)
(何かを"送った"のだ)
◇ ◇ ◇
「あーお腹いっぱいだー」
「おいしかったですね」
「ワウ」
「なぁヒルメ。
他の村人は治してやれないのか?」
「出来ると思うよ」
「すぐ出来ないのか?」
「できるけど人数が多いもん。
ちゃんと送るなら準備しないとダメだよ」
「なぁヒルメ。
前に魔獣を浄化した時があったと思うのだが、あの時確かに魔獣がヒルメに礼を言っていたのが私に聞こえたんだが……」
「アリアナさんとフェネクスちゃんになら話して良いかな。
ね、シロ」
「ワウ」
「私はね、死者の声が聞こえるんだよ」
「死者の声だと……?」
アリアナは思わず息を呑んだ。
「うん。
この村には成仏できない人が沢山いるの」
「その人達が生きてる人にしがみついてる」
「前に魔獣の時に聞こえたでしょ?」
「本当は普通の人には聞こえないんだけどね」
「アリアナさんが聞こえた理由は私の魔法の範囲内にいたからだよ」
「私の魔法は瘴気や呪いを浄化できるの」
「アリアナさんもフェネクスちゃんも、ずっと私の近くにいたでしょ?」
「だから普通の瘴気くらいなら影響を受けなくなってるんだよ」
「なるほど……。
あの時、ポカポカと優しさに包まれているような感覚だったのはそのためか」
「あっ、私も助けていただいた時に同じ感覚でした」
「つまり私達は、すでに浄化されているということか」
「うん、そうだよ」
「たぶんね、この世界には死者を弔う文化が無いんだと思う」
「だから死んだ人の魂が残っちゃうの」
「行き場を失った魂は、生きている人にしがみついて少しずつ力を奪っていく」
「この村の人達もそれで苦しんでるんだと思う」
「そんな事が本当に……」
「だがヒルメの力で宿の女将は回復した。
信じるしかないか」
「だから皆さん元気が無かったんですね……」
「で、明日だが具体的にどうするんだ?」
「村のみんなを集めて祭壇を作りたいかな」
「一人じゃ準備が大変だからアリアナさんとフェネクスちゃん、手伝ってよぉ」
「当たり前だ」
「はい、お手伝いします」
「凄い力です!
私も魔法は沢山見てきましたが、こんな魔法初めてです!」
「そうだな……。
私も聞いたことがないな」
「えへへ。
気が付いたら出来るようになってたから私自身もわからないんだ」
「ワウ」
「シロもよろしくね」
「ワウ♪」
「よし。
明日に備えて寝るか」
「はーい」
「はい。
お休みなさい」
◇ ◇ ◇
――その夜。
村は静まり返っていた。
アリアナもフェネクスも寝息を立てている。
だがヒルメだけは目を閉じることができなかった。
『苦しい……』
『助けて……』
『誰か……』
どこからともなく聞こえてくる泣き声。
ヒルメは窓の外へ視線を向けた。
「大丈夫だよ。
明日、みんな送ってあげるからね」
そう呟くと、泣き声は少しだけ静かになった。
だが村の奥からは、まだ消えない悲しみが聞こえてくる。
ヒルメは静かに目を閉じた。




