光の牢獄
◇ ◇ ◇
『次の試合!』
教師の声が。
コロシアムへ響き渡った。
『ヒルメ、リナ、ミア組!』
『対するは――貴族クラス、エリオット、ヴァン、クラリス組!』
「呼ばれた。」
ヒルメが立ち上がる。
「行くわよ。」
リナも杖を手に取る。
「うん。」
ミアも続いた。
三人が舞台へ向かおうとした、その時。
「ワン!」
「あ。」
ヒルメが振り返る。
シロが。
自分も行くと言わんばかりに立ち上がっている。
「駄目。」
「ワウ。」
「応援係。」
「……。」
「そんな顔しても駄目。」
「クゥン……。」
「終わったらいっぱい撫でてあげるから。」
「ワン!」
「分かったのかな。」
ミアが笑う。
「撫でるところだけ分かったんじゃない?」
「シロは賢いよ。」
「はいはい。」
「リナ!」
「置いてくわよ。」
「待って!」
三人は。
並んで舞台へと向かった。
◇ ◇ ◇
階段を上がる。
歓声が。
徐々に大きくなっていく。
そして。
三人が舞台へ姿を現した瞬間。
「……。」
向かい側。
すでに三人の貴族生徒が待っていた。
男子二人。
女子一人。
三人とも。
これまで戦ってきた相手とは。
少し雰囲気が違う。
「……。」
リナの表情が。
僅かに硬くなった。
「どうしたの?」
ヒルメが聞く。
「別に。」
「緊張?」
「違う。」
「じゃあ――」
「ヒルメ。」
ミアが。
小さな声で止める。
「前。」
「え?」
向かい側。
三人のうち。
中央に立つ男子生徒が。
こちらを見ていた。
いや。
正確には。
ヒルメではない。
リナを。
「……。」
その口元に。
薄い笑みが浮かんでいる。
「まさか。」
男子生徒――エリオットが口を開いた。
「ここまで残っているとはな。」
「……。」
リナは答えない。
「運が良かったようだ。」
その隣。
ヴァンが笑う。
「一般クラスにしては頑張ったんじゃないか?」
「そうね。」
クラリスも。
リナたちを見ながら。
小さく笑った。
「十分でしょう。」
「ここまで来られたのですから。」
「……。」
ヒルメが。
三人を見る。
そして。
リナを見る。
「知り合い?」
「知らない。」
即答。
「え。」
「顔くらいは見たことあるけど。」
リナは。
それだけ言った。
「そうなんだ。」
ヒルメが。
再び三人を見る。
「じゃあ何であんなに偉そうなの?」
「ヒルメ。」
「何?」
「聞こえる。」
「聞こえるように言った。」
「……。」
ミアが。
思わず口元を押さえた。
「ちょっと。」
「何よ。」
「笑ってない。」
「笑ってるよ。」
「笑ってないって。」
向かい側。
エリオットの眉が。
僅かに動いた。
「……随分と余裕だな。」
「うん。」
ヒルメが答える。
「楽しいから。」
「……。」
「三人で戦うの。」
ヒルメは。
本当に。
それだけの意味で言った。
だが。
エリオットたちには。
そう聞こえなかった。
「……そうか。」
笑みが消える。
「なら。」
「その余裕がいつまで続くか。」
「見せてもらおう。」
「双方。」
審判の教師が。
間へ入る。
「位置につけ。」
六人が。
それぞれ距離を取った。
ヒルメ。
中央。
ミア。
右。
リナ。
左。
向かい側も。
三人が横へ広がる。
「リナ。」
ヒルメが小さく呼ぶ。
「何?」
「いつも通り?」
「……ええ。」
リナが。
相手を見ながら答える。
「まずは様子を見る。」
「分かった。」
「ミア。」
「うん。」
「無理に前へ出ないで。」
「了解。」
三人が。
杖を構える。
審判が。
片手を上げた。
「始め!」
◇ ◇ ◇
最初に動いたのは。
貴族側だった。
「《ライトニング・ボルト》!」
バチィッ!!
雷。
速い。
「ヒルメ!」
「うん!」
杖を振る。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!
光の壁。
バチバチバチッ!!
雷が。
結界へ激突する。
「……っ。」
ヒルメの腕に。
僅かな衝撃。
「強い。」
これまでとは違う。
だが。
防げる。
「右!」
リナが叫ぶ。
「《ストーン・ランス》!」
ヴァン。
地面から。
岩の槍が突き出す。
「ミア!」
「分かってる!」
ミアが横へ跳ぶ。
そのまま。
「大気を巡る風よ――!」
杖を構える。
だが。
「遅い。」
クラリス。
「《アクア・ショット》!」
バシュッ!
「!」
水弾。
ミアが。
咄嗟に身体を捻る。
バン!
「きゃっ!」
肩。
直撃。
「ミア!」
「大丈夫!」
転送されない。
まだ戦える。
「くっ……。」
ミアが。
肩を押さえながら立ち上がる。
「結構痛い……。」
「言っただろう。」
エリオットが笑う。
「ここまでだ。」
「……。」
リナが。
三人を見る。
連携。
速い。
一人が攻撃。
避けた先へ。
次の攻撃。
そして。
三人目。
「ヒルメ。」
「うん?」
「少し下がる。」
「分かった。」
「ミア。」
「大丈夫。」
ミアが立つ。
「まだいける。」
三人が。
少し距離を取る。
◇ ◇ ◇
「逃がすか!」
ヴァンが。
杖を地面へ向ける。
「《ストーン・スパイク》!」
ゴゴゴゴッ!
石床から。
無数の岩が突き出す。
「ヒルメ!」
「任せて!」
杖へ。
魔力。
流す。
大きすぎない。
必要な場所。
必要な量。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!
足元。
斜め。
光の壁。
岩の槍が。
その表面で弾かれる。
「……何?」
ヴァンの顔が変わる。
「壁を足元に?」
「今!」
リナが叫ぶ。
ミアが。
光の壁を蹴った。
「え!?」
結界を。
足場に。
跳ぶ。
「大気を巡る風よ――我が意志に従い、敵を貫く一条の槍となれ――」
空中。
「《ウィンド・ランス》!」
バシュッ!!
「くっ!」
ヴァンが。
横へ飛ぶ。
風の槍が。
肩を掠める。
「外した!」
「違う!」
リナ。
すでに。
その先へ回り込んでいる。
「炎よ――我が手に集いて、小さき火球となり敵を撃て――」
「《ファイア・ボール》!」
ボンッ!!
「なっ――!」
直撃。
ヴァンの身体が。
吹き飛ぶ。
だが。
「《アクア・シールド》!」
クラリス。
水の盾。
ギリギリ。
ヴァンを受け止める。
「助かった!」
「油断しないで!」
「……。」
リナが舌打ちする。
「今のを助けるのね。」
「向こうも連携してる。」
ミアが。
ヒルメの横へ戻る。
「どうする?」
「……。」
リナが。
考える。
そして。
「ヒルメ。」
「何?」
「結界。」
「うん。」
「今みたいに。」
「壁じゃなくて使える?」
「……?」
ヒルメが首を傾げる。
「どういうこと?」
「相手の動きを。」
リナが。
三人を見る。
「邪魔するの。」
「……。」
ヒルメが。
少し考える。
「あ。」
「できそう?」
「やってみる。」
「本番で試すの!?」
ミアが突っ込む。
「ヒルメだもの。」
リナが答える。
「リナまで!?」
「来る!」
エリオット。
再び。
雷。
「《ライトニング・ボルト》!」
「ヒルメ!」
「うん!」
ガァン!
正面。
防ぐ。
その瞬間。
「今!」
リナとミアが。
左右へ走る。
「同じ手を!」
ヴァンが。
ミアへ杖を向ける。
「《ストーン――》」
ガンッ!
「なっ!?」
目の前。
突然。
小さな光の壁。
「邪魔!」
横へ。
避ける。
ガンッ!
「!」
また。
光の壁。
「何だこれ!?」
右。
左。
前。
ヴァンが。
動こうとする先へ。
次々と。
《ガーディアン・プリズン》が現れる。
「……。」
ヒルメが。
杖を動かす。
一枚。
二枚。
三枚。
小さく。
薄く。
長く維持する必要はない。
一瞬。
邪魔できればいい。
「こっち!」
ヴァンが。
左へ飛ぶ。
「はい。」
ガンッ!
「うわっ!」
壁。
「何なんだよ!」
「牢獄だから。」
ヒルメが答える。
「閉じ込めるのが正しい使い方かなって。」
「……。」
リナが。
走りながら。
一瞬だけヒルメを見る。
(この子……。)
一か月。
魔力を細かく扱う練習。
それが。
《セイクリッド・レイ》だけではなく。
固有魔法そのものを。
変え始めている。
◇ ◇ ◇
「ふざけるな!」
ヴァンが。
強引に杖を振る。
「《ストーン・クラッシュ》!」
ドォン!
光の壁を。
岩が破壊する。
「やった!」
だが。
その先。
「こんにちは。」
ミア。
「!」
「《ウィンド・ランス》!」
バシュッ!!
直撃。
「ぐっ!」
ヴァンが。
吹き飛ぶ。
ブゥン!!
魔法陣。
パァン!
光。
転送。
『戦闘不能!』
「一人!」
ミアが叫ぶ。
「くっ……!」
クラリスが。
ヴァンの消えた場所を見る。
「よくも――」
「クラリス!」
エリオットが叫ぶ。
「冷静になれ!」
「でも!」
「二対三だ。」
「守りに――」
その時。
「リナ!」
ヒルメの声。
「え?」
「今!」
「……!」
目の前。
クラリス。
リナは。
考えず。
杖を向けた。
「《ファイア・ボール》!」
ボンッ!
「《アクア・シールド》!」
ジュワァァッ!!
炎。
水。
蒸気。
視界が。
白く染まる。
「見えない!」
クラリスが叫ぶ。
その瞬間。
「《ウィンド・ショット》!」
バン!
「きゃっ!」
ミア。
横から。
クラリスが。
体勢を崩す。
「ヒルメ!」
「うん!」
「《セイクリッド・レイ》!」
シュン!
光。
直撃。
ブゥン!
パァン!
クラリス。
転送。
『戦闘不能!』
「あと一人!」
ミアが。
笑う。
「……。」
エリオットの表情から。
完全に余裕が消えていた。
◇ ◇ ◇
「……一般クラス風情が。」
小さな声。
ヒルメには。
聞こえなかった。
だが。
リナには。
聞こえた。
「……。」
リナの表情が変わる。
エリオットが。
杖を握り締める。
「俺たちが。」
「お前たちなんかに――」
魔力。
膨れ上がる。
「《ライトニング・ボルト》!」
バチィィッ!!
ヒルメへ。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!
防ぐ。
だが。
「まだだ!」
もう一発。
「《ライトニング・ボルト》!」
バチィッ!
別方向。
「ヒルメ!」
「大丈夫!」
二枚目。
ガン!
防ぐ。
「まだ!」
三発目。
「……っ!」
ヒルメが。
杖を動かす。
三枚目。
バチィィッ!!
「ヒルメ!」
ミアが。
前へ出ようとする。
「来なくていい!」
「え?」
ヒルメが。
結界越しに。
エリオットを見る。
「私。」
「大丈夫だから。」
「……。」
リナが。
ヒルメを見る。
その顔。
余裕がある。
「……ミア。」
「何?」
「左右。」
「分かった。」
二人が。
動く。
「来るな!」
エリオットが。
杖を向ける。
「《ライトニング――》」
ガンッ!
「なっ!?」
目の前。
小さな光の壁。
視界が。
塞がれる。
「邪魔だ!」
横へ。
「はい。」
ガンッ!
「また!?」
反対。
ガンッ!
「くそっ!」
前。
右。
左。
光。
光。
光。
完全に。
動きを封じられる。
「……これ。」
ヒルメが。
少し嬉しそうに言う。
「本当に牢獄みたい。」
「今気付いたの!?」
ミアが叫ぶ。
「名前にプリズンって入ってるでしょ!」
「あ。」
「遅い!」
「でも。」
ヒルメが。
杖を握る。
「これなら。」
「三人で戦いやすいね。」
「……。」
リナが。
一瞬。
笑う。
「そうね。」
そして。
杖を構えた。
「終わらせるわよ。」
「うん!」
「了解!」
三方向。
ヒルメ。
リナ。
ミア。
中央。
光の壁に囲まれた。
エリオット。
「ふざけるな!」
「俺は貴族だぞ!」
「だから?」
ヒルメが。
首を傾げる。
「……っ!」
「ここ。」
ヒルメが言う。
「対抗戦でしょ?」
「だったら。」
杖を構える。
「どっちが強いか。」
「それだけじゃないの?」
「……。」
観客席。
一瞬。
静かになる。
「ヒルメ。」
リナが呼ぶ。
「何?」
「今だけ。」
「ちょっと格好良かった。」
「今だけ!?」
「集中!」
「はい!」
三人。
杖を向ける。
「《ファイア・ボール》!」
「《ウィンド・ランス》!」
そして。
ヒルメ。
「《セイクリッド・レイ》!」
炎。
風。
光。
三つ。
同時。
ドォォォォン!!
ブゥン!!
保護術式が。
強く輝く。
パァン!
エリオットの身体が。
光に包まれた。
転送。
静寂。
そして――
『勝者!』
教師が。
大きく手を上げる。
『ヒルメ、リナ、ミア組!』
ワァァァァァァァ!!
大歓声。
「やった!」
ミアが。
飛び跳ねる。
「勝った!」
「うん!」
ヒルメも笑う。
「リナ!」
「分かってる。」
リナが。
二人のところへ歩いてくる。
三人。
手を重ねる。
「あと何回?」
ヒルメが聞く。
「知らない。」
「え。」
「今は。」
リナが笑う。
「勝ったこと喜べばいいでしょ。」
「うん!」
三人が。
笑った。
◇ ◇ ◇
その様子を。
貴族席。
アリシアが。
静かに見つめていた。
「……。」
特に。
ヒルメ。
《ガーディアン・プリズン》。
以前とは。
まるで違う。
ただ守るだけではない。
足場。
妨害。
分断。
そして。
拘束。
「ようやく。」
アリシアが。
小さく笑う。
「その魔法らしくなってきましたね。」
だが。
次の瞬間。
アリシアの視線が。
別の場所へ向いた。
セレスティア。
「……。」
セレスティアは。
笑っていなかった。
先ほどまで。
余裕の表情で。
ヒルメたちを見ていた。
それが。
今は。
冷たい目で。
舞台を見つめている。
「……。」
そして。
アリシアは気付く。
舞台から戻ってきた。
エリオット。
そのエリオットへ。
セレスティアが。
一瞬だけ。
視線を向けたことに。
「……。」
アリシアの目が。
僅かに細くなった。
◇ ◇ ◇
試合は。
さらに進んだ。
勝ち残るチームは。
もう。
僅か。
ヒルメたち。
アリシアたち。
そして。
セレスティアたち。
トーナメント表。
三本の線が。
少しずつ。
中央へ近付いていく。
◇ ◇ ◇
休憩時間。
「疲れたぁ。」
ミアが。
椅子へ倒れ込む。
「肩大丈夫?」
ヒルメが聞く。
「うん。」
ミアが。
最初に受けた場所を回す。
「もう平気。」
「よかった。」
「ヒルメは?」
「元気。」
「知ってた。」
「なんで?」
「ずっと元気だから。」
リナが。
水を飲みながら言う。
「でも。」
「さすがに魔力は減ってるでしょ?」
「うーん。」
ヒルメが。
自分の手を見る。
「少し?」
「……。」
「何?」
「何でもない。」
「リナは?」
「私は結構使ってる。」
「じゃあ次。」
ヒルメが言う。
「私がもっと守る。」
「……。」
リナが。
ヒルメを見る。
「何?」
「別に。」
「でも。」
少しだけ。
笑う。
「頼りにしてる。」
「うん!」
「私も!」
ミアが手を上げる。
「任せて!」
「あなたは休みなさい。」
「はい。」
「リナお母さん。」
「ヒルメ。」
「はい。」
その時。
コロシアムに。
教師の声が響いた。
『次の組み合わせを発表する!』
三人が。
トーナメント表を見る。
光が。
動いていく。
「……。」
一本。
ヒルメたちの名前。
そして。
その先。
次の対戦相手が。
表示された。
「……。」
ミアが。
息を呑む。
リナの表情が。
固まった。
ヒルメも。
その名前を見る。
貴族クラス。
三人。
その中央。
セレスティア。
「……来た。」
ミアが呟く。
「うん。」
ヒルメが。
ゆっくり立ち上がる。
リナも。
杖を握る。
少し離れた場所。
セレスティアも。
立ち上がっていた。
視線が。
ぶつかる。
「……。」
セレスティアが。
薄く笑う。
そして。
その口が。
小さく動いた。
――ようやくですわね。
ヒルメには。
聞こえなかった。
けれど。
なぜか。
そう言われたような気がした。
三人が。
並ぶ。
ヒルメ。
リナ。
ミア。
一か月。
共に修行してきた。
笑って。
失敗して。
助け合って。
ようやく。
ここまで来た。
そして。
次の相手は。
三人が。
この大会で。
最も戦いたくて。
最も戦わなければならない相手。
セレスティア。
その時。
ヒルメはまだ知らなかった。
この試合で。
リナの中に眠るものが。
ついに。
目を覚ますことを――。




